ロバート・K・フィッツ著「大戦前夜のベーブ・ルース」を読み終わりました。
アメリカ人がアメリカ側の資料に基づいて昭和9年の日米野球を検証するという画期的な試みです。定価(消費税込み)の2,940円は「安い!」と言えます。
著者はアメリカ野球学会東京支部の会合で構想を練ったとのことです。「謝辞」をおくる方々の中には知った名前も何人かいました。アメリカサイドの新聞記事等に基づく記述にはこれまで日本では知られていなかった事実が数多く明かされています。
筆者も玉砕戦法の場では「天皇陛下万歳!」と叫びながら突っ込んでいったとばかり思っていましたが、「地獄に落ちろ、ベーブ・ルース!」と叫びながら玉砕していったとは初めて聞きました。知る人は知っていたのでしょうが。昭和9年11月2日の来日時に大歓声で迎えられたベーブ・ルースを憎しみの対象として教育していった過程が想像されます。
モー・バーグについての記述に関しては、想像によって作り上げられてきた虚像を想像によって突き崩す構図となっています。やはり真相は藪の中というところでしょうか。筆者も「モー・バーグが聖路加病院から撮影した映像がドーリットル空襲に活用された」という話は疑問に思っていました。現在筆者が住んでいるのは東京大空襲の被害が最も大きかった江東区です。筆者のマンションから東京湾を挟んで聖路加病院が見えますが、現在のようにタワーマンションが林立していなかった時代であったとしても、聖路加病院からの撮影で上空からの空襲に参考となる映像が撮れるとは考えられません。この辺の地理を知る方には簡単に分かる話だと思います。
初めて知って感心させられる場面もあれば、日本側の資料で詳しく解明されている箇所の記述があっさりし過ぎている印象も否めません。明らかに間違っていると考えられる箇所も発見しています。ともあれ、近年の著作としては最高傑作であると断言できますので、読書感想文をシリーズでお届けしていきます。と言う訳で、第一回の本日のタイトルは「大戦前夜のベーブ・ルース (序)」とさせていただきました。
私も読み終えました。帯紙のロバート・ホワイティング絶賛という一文に「ん?」と思いましたが、日本プロ野球前史をアメリカ人視点で書いた本は今までにないものですので、初めて知る部分も多く良かったですね。ただ、第一戦の東京倶楽部戦で先頭の桝嘉一が安打で出塁、A.ホワイトヒルに牽制死された場面について、新たな事実が記されていないのは、個人的にちょっぴり残念でした。
返信削除随分前の事なのでサイト名は忘れましたが、旧日本軍兵士だった人の戦時体験を綴った記録に、塹壕に潜むアメリカ兵にルーズベルトの悪口を言っても攻撃してこないのに、ルースの悪口を言うと雨霰と弾丸が飛んできた、というような文があったのを覚えています。
ただ、本書にあるような「地獄に落ちろ、ベーブ・ルース!」などとルースを罵った兵士たちの中には、ルースがどういう人でどういう職に就いている事すらもわからなかったかもしれませんね。昭和9年の日米野球以前の話ですが、毎日新聞社特派員の高田市太郎記者が苦労してやっとの事でルースからサインボールを貰い、毎日本社に送ったのですが、本社の人間たちはそのサインボールにどういう人が書いてどれくらいの価値があるのかサッパリわからず、いつの間にか紛失してしまったそうです。
http://eiji1917.blog62.fc2.com/
続いて「日米野球の架け橋 鈴木惣太郎の人生と正力松太郎」を読んでいます。「天才野球人 田部武雄」も買ってきました。
削除ところで227ページの写真ですが、「明大の井野川利春」ではなく「慶大の井川喜代一」ではないかと思いますがいかがでしょうか。
その2冊も欲しいのですが、懐が寒くてとてもとても・・・(苦笑)。田部武雄については最近彼の一人息子が東急でバットボーイをしている頃の写真を見つけました。
削除>227ページの写真ですが、「明大の井野川利春」ではなく「慶大の井川喜代一」ではないかと思いますがいかがでしょうか。
仰る通り井野川利春ではなく井川喜代一ですね。ユニフォームも"Meiji"ではなく"Keio"ですし。
どうでもいい話ですが、私と同じ名字"イノカワ"は初対面の人に"イガワ"と間違われる事が稀にあるのですよ。
「野球界」昭和5年11月号の表紙には慶大の山下実、宮武、井川、楠見、水原の5人の写真が掲載されています。この「井川喜代一」の写真と227ページの写真がそっくりです。
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