2011年12月31日土曜日

14年 名古屋vsセネタース 7回戦


8月9日 (水) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11  計
2 0 0 0 0 0 0 1 0  0   1   4 名古屋      18勝32敗3分 0.360 松尾幸造 西沢道夫
0 3 0 0 0 0 0 0 0  0   0   3 セネタース 27勝24敗3分 0.529 野口二郎


勝利投手 西沢道夫    3勝6敗
敗戦投手 野口二郎 17勝13敗


二塁打 (名)野口

西沢道夫、快投


 名古屋は初回、先頭の桝嘉一が左翼線にヒットで出塁、石田政良は一塁に内野安打、大沢清が右前に先制タイムリーを放ち1-0としてなお無死一三塁、加藤正二は遊飛に倒れるが三浦敏一が右前にタイムリーを放って2-0とする。

 セネタースは2回、佐藤武夫、柳鶴震が連続四球、家村相太郎は左飛に倒れるが金子裕が左前打を放って一死満塁、織辺由三が右前にタイムリーを放って1-2、トップに返り苅田久徳の遊ゴロは「6-4-3」と渡って併殺かと思われたがセカンド中村三郎からの一塁転送が悪送球となる間に三走柳に続いて二走金子もホームに還り3-2と逆転に成功する。

 名古屋ベンチは3回から先発の松尾幸造に代えて西沢道夫をマウンドに送ったが西沢が素晴らしい投球を見せた。代わりばなの3回こそ先頭の尾茂田叶に中前打、野口二郎に左中間二塁打を許し佐藤の捕前の当りもキャッチャー三浦の処理がまずく無死満塁のピンチを迎えるが柳の二ゴロで本塁封殺、家村を遊ゴロ併殺で切り抜けると4回以降はセネタース打線を2安打に抑え込んだ。

 名古屋は8回、中村に代わる代打服部受弘が四球を選んで出塁すると代走に鈴木秀雄を起用、芳賀直一の右翼線ヒットで無死一二塁、セネタースはここで先発の金子裕を下げてファーストに浅岡三郎を入れてファーストの野口二郎をマウンドに送る。しかし西沢が左前に同点タイムリーを放って3-3に追い付く。

 名古屋は延長11回、一死後石田の遊ゴロをショート柳が一塁に悪送球、大沢が右前打を放って一死一二塁、加藤の二ゴロは「4-6-3」と転送されるがまたしても柳の一塁送球が悪送球となる間に二走石田が三塁ベースを蹴ってホームに還り4-3と勝ち越しセネタースに競り勝つ。

 苅田監督としては一昨日完投した野口二郎で短いイニングを逃げ切ろうとしたが延長にもつれ込んだのは誤算だったのではないか。


 3回からリリーフした西沢道夫は9回を投げて4安打6四球1三振無失点の好投で3勝目をあげる。8回以降は無安打ピッチングであった。当ブログでは西沢道夫を「カットボールの元祖」との仮説を立てています(2011年3月4日付けブログ「西沢道夫のピッチング」参照)。本日も3回のピンチを併殺で切り抜け5回の一死一塁も「6-4-3」、7回の無死一塁も「5-4-3」の併殺に仕留めている。翌日の読売新聞には「急所々々をドロップできめつけ最後まで投げ進んだ」と書かれている。西沢の低めの変化球は独特の落ち方をしているようで、カットボールの可能性があります。前回登板の5日の金鯱戦で復調の兆しが見られたが、このピッチングが続くようだと名古屋も低迷から抜け出す可能性がある。

 三浦敏一が6打数4安打の活躍を見せた。シーズン当初はルーキーの服部受弘にレギュラーキャッチャーの座を奪われかけたがバッキー・ハリス不在の現在では当代随一のキャッチャーと言っても過言ではない。三浦はリーグ戦の合間に行われた7月25日の「花形選手選抜対抗戦」(出身地別に東西に分けた対抗戦。三浦は長野県出身なので東軍のキャッチャーとして出場した。因みに西軍のキャッチャーは門前真佐人(広島県出身)と吉原正喜(熊本県出身)が出場しているので現時点においてはこの三人がプロを代表するキャッチャーと言う評価です。三浦は諏訪蚕糸なので中村三郎の後輩となります。)では満塁ホームランを放っている。

 三浦敏一の評価についてもう一つ。ベースボールマガジン昭和33年12月号に千葉茂の連載「栄光は巨人と共に」第7回が掲載されていますが、ここに「特にぼくは左腕の松尾がきらいで、あの荒れ気味の球がどうも打ちにくくてならなかった。・・・ぼくらは軽くあしらわれてしまうのだった。その功労は捕手の三浦にあったらしい。これは非常にうまい捕手で、打つ方も案外によかった。彼のもっとも特徴とするのは、やはりインサイド・ワークで、松尾が好投できたのも、三浦がリードしていたからである。」と書かれています。







           *三浦敏一が6打数4安打を記録する。








          *3回からリリーフした西沢道夫が快投を見せる。



14年 阪急vsセネタース 7回戦


8月7日 (月) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 1 2 0 0 0 0 3 阪急         36勝17敗       0.679 高橋敏
1 0 0 0 0 2 1 2 X 6 セネタース 27勝23敗3分 0.540 野口二郎


勝利投手 野口二郎 17勝12敗
敗戦投手 高橋敏     11勝5敗


二塁打 (阪)上田、山田、黒田
三塁打 (セ)野口

セネタース守り勝ち


 セネタースは初回、先頭の苅田久徳がピッチャー強襲ヒット、これを拾ったサード黒田健吾が一塁に大暴投する間に苅田は一気に三塁に進む。横沢七郎は浅い中飛に終るが尾茂田叶が左前にタイムリーを放って1点を先制する。

 阪急は4回、先頭の山下好一が四球を選んで出塁、山下実の中前打で無死一三塁、上田藤夫の右翼線二塁打で1-1の同点に追い付く。なお無死二三塁のチャンスが続くが、翌日の読売新聞によると「日比野も遊撃左よりに痛烈なライナーを放ったが柳挺身の美技に併殺を喫し」とのことで、日比野武のショート左を襲う当りをショート柳鶴震が横っ飛びに好捕して二走上田が戻れずゲッツーとなった。

 阪急は5回、二死後フランク山田伝が右中間に二塁打、黒田が左越えに二塁打を放って2-1と勝ち越し、山下好一の中前タイムリーで3-1とリードする。

 セネタースは6回、先頭の森口次郎が四球を選ぶと二盗に成功、苅田が二ゴロで森口を三塁に進め、横沢の右前タイムリーで2-3、尾茂田の二ゴロを急造セカンド林信一郎がエラーして一死一三塁、尾茂田二盗後野口二郎の遊ゴロの間に三走横沢が還って3-3の同点に追い付く。

 セネタースは7回、先頭の佐藤武夫が左前打、柳が中前打で続いて無死一二塁、織辺由三の一ゴロで佐藤は三封、森口四球で一死満塁、苅田の投ゴロの間に三走柳が還って4-3と勝ち越す。

 セネタースは8回、一死後野口が左中間に三塁打、浅岡が四球から盗塁、佐藤も四球を選んで一死満塁、柳の二ゴロをセカンド林がホームに悪送球して5-3、織辺に代わる代打家村相太郎の遊ゴロをショート上田がエラーする間に浅岡が還って6-3とする。

 野口二郎は8安打3四球3三振の完投で17勝目をあげる。高橋敏は8回を完投して7安打4四球5三振、6失点ながら自責点は2であった。


 阪急は伊東甚吉、田中幸雄の滝川中学コンビに加え下村豊も怪我で欠場となり、セカンドには昨日から本来一塁手の林信一郎を起用しているが本日は手痛いエラーが2個あった。サード黒田とショート上田のエラーも得点に直結した。一方、セネタースは4回の柳鶴震のファインプレーや苅田久徳の美技が続出、阪急は8安打で3得点であったがセネタースは7安打で6得点と守備の差が勝敗を分けた一戦であった。


 各チーム怪我人続出で苦しんでいるが、史上初の一シーズン制となった今季は過去の経験を生かして梅雨の時期は試合数を減らし、6月は46試合、7月にいたっては27試合しか行っていない。このため8月は71試合が行われることとなり、炎天下において連日激闘が繰り広げられている。まさにサバイバル戦の真っ最中である。





          *野口二郎は完投で17勝目をマークする。





14年 ライオンvsジャイアンツ 7回戦


8月7日 (月) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 1 0 1 2 ライオン        19勝30敗4分 0.388 岡本利之 近藤久
2 0 0 2 0 0 1 2 X 7 ジャイアンツ 38勝15敗1分 0.717 中尾輝三


勝利投手 中尾輝三 5勝3敗
敗戦投手 岡本利之 0勝2敗


二塁打 (ラ)坪内 (ジ)千葉、平山
三塁打 (ジ)永澤

生涯打率10割


 ジャイアンツの先発マスクはファーストミットをキャッチャーミットに持ち替えて永澤富士雄が被ることとなった。前日の試合で吉原正喜が途中退場して永澤がマスクを被った際、吉原に「何かアクシデントがあったのであろう。シチュエーション的に考えられるのは突き指ではないでしょうか。」と書かせていただきましたが、翌日の読売新聞によると「前日の対金鯱戦で突指のため捕手吉原を失って永澤に本塁を守らせたが」と書かれていますので予想はドンピシャでした。もちろん先に読んでいて書いたのではありませんので念のため。

 ジャイアンツは初回、一死後水原茂が四球で出塁、千葉茂が右中間に二塁打を放って一死二三塁、中島治康は遊ゴロに倒れ川上四球で二死満塁、ここで平山菊二が左中間に二塁打を放って2点を先制する。

 ジャイアンツは4回、先頭の井上康弘が一塁に内野安打、永澤が中越えに三塁打を放ち3-0、中尾輝三の三飛をサード井筒研一が落球して無死一三塁、トップに返り白石敏男は浅い中飛に倒れて一死一三塁、水原の遊ゴロ併殺崩れの間に永澤が還って4-0とする。

 ライオンは5回から先発の岡本利之をファーストに回し近藤久がマウンドに上がる。

 ライオンは7回、一死後セカンドに起用されてスタメン八番の伊藤吉男が本日2安打目となる左前打を放って出塁、松岡甲二が右前打を放って一死一二塁、続く坪内道則の打席でキャッチャー永澤がパスボールを犯して一死二三塁、更に永澤が連続パスボールを犯して伊藤が還り1-4とする。ファーストミットを持つ一塁守備では名手として知られる永澤富士雄であるが、キャッチャーミットでは勝手が違うようです。

 ジャイアンツは7回裏、先頭の水原が右前打を放ちライト水谷則一が逸らす間に二塁に進む。千葉が二ゴロで水原を三塁に進め、6回から中島に代わってライトに入っている三田政夫の内野安打で水原が還って5-1とする。藤本定義監督は千葉はこれをやってくれるので重宝しているのであろう。恐らく川上よりも高く評価しているのではないでしょうか。

 ジャイアンツは8回、近藤が突如として乱れて永澤、中尾、白石、水原と4連続四球を出して押出しで1点追加、千葉の遊ゴロの間に中尾も還って7-1とする。

 ライオンは9回、先頭の伊藤が3安打目となるヒットをレフト線に放ち、松岡の二ゴロでランナーが入れ替わり坪内の中越え二塁打で1点返すがここまで。

 中尾輝三は10安打を許したが3四球8三振の完投で5勝目をあげる。藤本監督もノーコン病さえ出さなかったら中尾を続投させるようで、ようやく一本立ちの目途がたってきたというところか。


 ジャイアンツも吉原正喜の怪我でキャッチャーの起用に苦しんでいるが、怪我人続出のライオンはもっと苦しく、本日はレフトの鬼頭数雄も1回の守備で傷ついて途中退場したため、2回からファーストの玉腰年男がレフトに回り、高田勝生監督がファーストミットを手にして一塁の守備についた。そして4回の攻撃で先頭打者として打席に入った高田勝生はセンター前にゴロで抜けるヒットを放った。5回から先発ピッチャーの岡本利之がファーストに回り近藤久をマウンドに送ったため高田勝生はここで退場して本日の打撃成績は1打数1安打であった。高田勝生監督の選手としての出場は昭和14年は本日の一試合のみ、昭和15年にも一試合出場するがこの時は打席には立っていないようで通算成績は1打数1安打、生涯打率10割という記録を残している。


 享栄商業出身のルーキー伊藤吉男は8月3日のタイガース戦で初めてスタメンに起用されたが3打数無安打であった。二度目のチャンスを貰った本日は4打数3安打1得点の活躍を見せた。但し伊藤はプロ在籍は2年間で、通算成績は30打数6安打2得点に終わるので、本日は生涯安打数の半分を打ったこととなる。なお、当ブログではスタメンのデータは「日本プロ野球私的統計研究会」様の「スタメンアーカイブ」を活用させていただいております。この場をお借りして御礼申し上げます。






*高田勝生監督は2回の守備から鬼頭数雄に代わってファーストに入り、4回に回ってきた打席でセンター前にゴロで抜けるヒットを放ち生涯打率10割を残す。







*突指で欠場の吉原正喜に代わって永澤富士雄が八番キャッチャーで出場する。








     *伊藤吉男は4打数3安打を記録し、生涯安打数の半分を放つ。








               *中尾輝三は完投で5勝目をあげる。


14年 南海vs名古屋 7回戦


8月7日 (月) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 0 2 0 2 南海     21勝29敗3分 0.420 政野岩夫 宮口美吉
0 0 1 0 2 0 3 0 X 6 名古屋 17勝32敗3分 0.347 繁里栄


勝利投手 繁里栄     6勝11敗
敗戦投手 政野岩夫 9勝8敗


二塁打 (南)宮口 (名)芳賀、村瀬、石田


芳賀直一ラッキーボーイ


 名古屋は3回、先頭の芳賀直一が左中間に二塁打、繁里栄が捕前に送りバントを決めて一死三塁、村瀬一三のショート後方の飛球を小林悟楼が向こう向きで捕球、三走芳賀はタッチアップからホームを狙う。小林からの送球はピッチャー政野岩夫を経由してキャッチャー中田道信に送られタイミングはアウトであったが中田がこれを落球して芳賀がホームイン、1点を先制する。

 名古屋は5回、又も先頭の芳賀が左前打で出塁、繁里の送りバントがファースト中村金次のエラーを誘って無死一二塁、村瀬のお送りバントを政野が間に合わない三塁に大暴投する間に芳賀に続いて繁里もホームに還り2点を追加、3-0とする。記録は政野の野選とエラー。

 名古屋は7回、一死後繁里が右前打で出塁、村瀬が左中間にタイムリー二塁打を放って4-0、二死後石田政良の左中間二塁打で5-0、大沢清が右前にタイムリーで続き6-0とリードを広げる。

 南海は8回、先頭の中村が中前打で出塁、中田は三振に倒れるが政野に代わる代打宮口美吉の左中間二塁打で一死二三塁、二死後平井猪三郎が中前に2点タイムリーを放って2-6とするが時すでに遅し。

 繁里栄は7回まで南海打線を1安打に抑える快投を見せる。8回に捕まったが9回も三者凡退に抑えて結局、4安打4四球6三振の完投で6勝目をあげる。


 名古屋は3回と5回は七番芳賀直一が攻撃の起点となって相手のミスを誘いラッキーボーイとなった。7回は八番繁里栄と九番村瀬一三の連打から追加点を奪って試合を決めるなど、下位打線の活躍で勝利を得た。

 名古屋は7月14日以降3勝5敗となったが、負けた5試合は全て完封負けで、点さえ取れば全勝している。





*繁里栄は7回まで1安打ピッチング。8回に3安打で2点を許したが4安打完投で6勝目をあげる。

2011年12月30日金曜日

14年 第14節 週間MVP


 今節はタイガースが4勝0敗、ジャイアンツが3勝1敗、金鯱が2勝2敗、名古屋が2勝2敗、セネタースが1勝1敗1分、阪急が2勝3敗、ライオンが1勝2敗、南海が1勝3敗1分、イーグルスが1勝3敗であった。

 ジャイアンツが勝率7割1分2厘で首位に立ち、タイガースが7割で二位に浮上、阪急が6割9分2厘で三位に転落と、大きな順位の変動があった。



週間MVP

投手部門

 金鯱 中山正嘉 3

 今節は南海戦と名古屋戦で二試合連続完封勝利。現在三試合連続完封勝利を継続中。


 タイガース 若林忠志 1

 七色の変化球が冴えわたりタイガース二位浮上の原動力となる。




打撃部門

 タイガース 本堂保次 1

 8月2日のセネタース戦では抑え込まれていた野口二郎から起死回生の同点三塁打、6日の阪急戦では重松通雄から決勝本塁打。今節15打数7安打2得点4打点、三塁打1本、本塁打1本。


 ジャイアンツ 白石敏男 1

 今節20打席13打数7安打7四球5得点4盗塁、二塁打2本、三塁打1本。出塁率は7割であった。



殊勲賞

 名古屋 松尾幸造 1

 8月1日のジャイアンツ戦で5安打1失点の完投勝利を飾る。ようやく故障から復活してきた。


 ライオン 坪内道則 1

 6日の南海戦では三度の先頭打者の機会に3安打していずれもホームに還りライオンの全得点をあげる。今節13打数4安打2四球5得点。


 タイガース 富松信彦 2

 1日の阪急戦で三塁打2本、2得点。2対1の勝利に貢献する。



敢闘賞

 イーグルス 亀田忠 2

 3日の金鯱戦でノーヒットワンランを記録する。


 名古屋 石田政良 1

 1日のジャイアンツを2対1で破ったゲームでは4打数2安打2得点、2日の重松通雄に2安打完封された阪急戦ではその2安打を放ってノーヒットノーランを免れる。4日のイーグルスを破ったゲームでも無安打ながら効果的な2四球を選んで勝利に貢献。


 阪急 重松通雄 1

 2日の名古屋戦では2安打完封、6日のタイガース戦では若林忠志と歴史的な投手戦を繰りひろげる。





技能賞

 南海 平井猪三郎 1

 4日の延長11回引き分けたセネタース戦、2補殺でチームを救う。


 ライオン 岡本利之 1

 現在ピッチャー兼キャッチャーとして奮闘中。





14年 阪急vsタイガース 7回戦

 
8月6日 (日) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 阪急       36勝16敗       0.692 重松通雄
0 0 0 1 0 0 0 0 X 1 タイガース 35勝15敗2分 0.700 若林忠志


勝利投手 若林忠志 8勝2敗
敗戦投手 重松通雄 8勝7敗


二塁打 (タ)堀尾
本塁打 (タ)本堂 4号

本堂保次、値千金の一撃


 ジャイアンツに0.5ゲーム抜かれた阪急を1ゲーム差で追うタイガースとの一戦。今季のペナントレースを左右する大一番となった。翌日の読売新聞は「タ軍若林と阪急重松が演じた近来稀な投手戦は・・・最後の一瞬まで形成は予断を許さず、終始息詰まる緊張と興奮に万余の観衆に手に汗を握らせた。」と伝えている。

 阪急は初回、先頭の西村正夫が左前打で出塁、フランク山田伝が三前に送りバントを決めて一死二塁、黒田健吾の中前打で西村は三塁ベースを蹴ってホームを狙うがセンタージミー堀尾文人からのバックホームにタッチアウト、初回からビッグプレーが飛び出した。山下好一は三振に倒れてスリーアウトチェンジ。

 タイガースは1回裏、先頭の富松信彦が四球を選んで出塁、本堂保次が投前に送りバントを決めて一死二塁、しかし門前真佐人は右飛、松木謙治郎は一飛に倒れてスリーアウトチェンジ。

 2回、3回は両軍三者凡退に終わり序盤戦は互角のスタートとなった。

 阪急は4回、二死後山下好一が右前打を放つが山下実は二ゴロに倒れる。

 タイガースは4回、先頭の本堂保次が左翼スタンドにホームランを叩き込んで1点を先制する。イーグルス・寺内一隆、南海・鶴岡一人に並ぶ第4号によってもたらされた1点が決勝点となり、値千金の一撃となった。

 阪急は5回、二死後林信一郎が左前打を放つが重松通雄は三振。6回、先頭の西村が三前にセーフティバントを決め、山田が送って一死二塁と同点のチャンスを迎えるが黒田は遊ゴロ、山下好一は三振に倒れる。7回は一死後上田藤夫が二失に生きるが日比野武の投ゴロが「1-6-3」と渡ってダブルプレー。

 タイガースは5回、一死後若林忠志が四球に歩くが伊賀上良平は一邪飛、富松は一ゴロに倒れる。6回、先頭の本堂が中前打で出塁、門前が一塁線に送りバントを決めて一死二塁と追加点のチャンスを迎えるが松木、景浦将は連続三振に倒れる。7回、先頭の堀尾が中越えに二塁打、しかし後続無く無得点。

 阪急は8回、二死後西村が左前打を放つが山田は中飛に終る。タイガースの8回は三者凡退。

 阪急は9回、二死後山下実が右前打で出塁、代走に浅野勝三郎を送り勝負を賭けた盗塁を試みるも門前の強肩の前にタッチアウトとなり試合終了を告げるサイレンが高々と鳴り響く。

 重松通雄は8回を完投して3安打4四球4三振の力投を見せるが本堂の一発に泣いた。


 若林忠志は7安打無四球4三振、今季二度目の完封で8勝目をあげてタイガースはゲーム差無しながら勝率で阪急を上回り二位に浮上した。

 実況しいて心地よい疲れを感じさせてくれる好ゲームであった。





            *本堂保次が第二打席で放った第4号ホームランで試合を決める。








          *息詰まるような投手戦を若林忠志が完封で制して8勝目をあげる。


14年 ジャイアンツvs金鯱 7回戦


8月6日 (日) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 3 5 0 0 0 1 5 1 15 ジャイアンツ 37勝15敗1分 0.712 川上哲治
0 2 0 0 0 0 0 0 0  2 金鯱             20勝34敗1分 0.370 古谷倉之助 大宮清 磯部健雄


勝利投手 川上哲治 6勝3敗
敗戦投手 大宮清    1勝6敗


二塁打 (ジ)吉原、永澤、川上、リベラ、中島、井上 (金)佐々木
三塁打 (ジ)楠 (金)長島

ジャイアンツ、11人が全員安打


 ジャイアンツは川上哲治が先発ピッチャーとして五番に入り、九番ファーストに永澤富士雄を起用する。金鯱は中山正嘉を勝てる試合に使うので本日は古谷倉之助が先発。

 ジャイアンツは初回、先頭の白石敏男が四球から二盗に成功、水原茂四球、千葉茂が投前に送りバントを決めて一死二三塁、しかし中島治康は遊飛に倒れ、川上四球で満塁とするが平山菊二が中飛に倒れて先制機を逸す。

 ジャイアンツは2回、一死後吉原正喜が左翼線に二塁打、永澤が右翼線に先制のタイムリー二塁打を放って1-0、トップに返り白石の二ゴロをセカンド五味芳夫がエラー、白石が2個目の盗塁を決めて一死二三塁、水原は捕邪飛に倒れるが千葉の内野安打で二者還り3-0として古谷をKO、二番手としてマウンドに上がった大宮清が中島を投ゴロに打ち取る。

 金鯱は2回裏、先頭の小林利蔵が四球で出塁、小林茂太は左飛に倒れて一死一塁、ジャイアンツはここでキャッチャーを吉原から楠安夫に交代する。吉原はこの後3試合に欠場してキャッチャーは永澤富士雄が務めることとなるので何かアクシデントがあったのであろう。シチュエーション的に考えられるのは突き指ではないでしょうか。一走小林利蔵はすかさず二盗に成功、大宮三振後ワイルドピッチで一死三塁、瀬井清の三塁内野安打で1-3、長島進が右翼線に三塁打を放って2-3と詰め寄るが試合になったのはここまでであった。

 ジャイアンツは3回、川上四球、平山左前打、井上康弘四球で無死満塁、楠が右中間に走者一掃の三塁打を放って6-2、永澤の右犠飛で7-2、白石が四球から3個目の盗塁に成功、水原の中前タイムリーで7-2とする。金鯱は三番手として磯部健雄がマウンドに上がり千葉は右邪飛に倒れる。

 7回にも川上と平山に代わる代打アチラノ・リベラ(アデラーノ・リベラ)の連続二塁打で1点を追加したジャイアンツは8回、千葉の中前打、中島の三ゴロをサード瀬井がエラー、川上がセンター左にタイムリー、リベラの中前打で無死満塁、井上が右前にタイムリー、楠の遊ゴロの間に川上が還り、永澤が本日2本目の右犠飛、白石が左前打でつなぎ水原の中前タイムリーで5点を追加、9回にも中島の左翼線二塁打と井上の右翼線二塁打で1点を追加して15対2で快勝する。

 川上は大量点に守られて7安打7四球7三振の完投で6勝目をあげる。川上はピッチャーとしては今季は6勝で終わるのでこれが今季最後の勝星となる。


 ジャイアンツは11人が出場して全員安打を記録する。水原を除く10人が得点を記録し、楠の4打点を筆頭に7人が打点を記録し、水原、千葉、中島、川上、リベラ、井上、永澤が2安打を放ち7人がマルチヒットを記録して阪急を抜いて首位に躍り出る。





            *川上哲治は完投で今季最後の勝星となる6勝目をあげる。


2011年12月29日木曜日

14年 ライオンvs南海 7回戦


8月6日 (日) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
1 0 0 0 0 0 1 0 1 3 ライオン 19勝29敗4分 0.396 福士勇
1 0 0 1 0 0 0 0 0 2 南海      21勝28敗3分 0.429 劉瀬章


勝利投手 福士勇 8勝8敗
敗戦投手 劉瀬章 5勝7敗


二塁打 (ラ)鬼頭 (南)岡村
本塁打 (南)鶴岡 4号

坪内道則、5打数3安打3得点


 ライオンは初回、先頭の坪内道則が左前打で出塁、一死後水谷則一の右前打で坪内は三塁に進み、鬼頭数雄が中越えに二塁打を放って1点を先制する。更に岡本利之の遊ゴロをショート小林悟楼が弾いて一死満塁、山本尚敏の中飛に三走水谷はタッチアップからホームを突くがセンター岡村俊昭からのバックホームにタッチアウト。

 南海は1回裏、先頭の平井猪三郎が中前打で出塁、一死後岡村が右翼線にタイムリー二塁打を放って1-1の同点に追い付く。更に鶴岡一人四球で一死一二塁とするが国久松一の三ゴロは「5-4-3」と渡ってダブルプレー。

 南海は4回、鶴岡がホームランダービートップのイーグルス・寺内一隆に並ぶ第4号をレフトスタンドに叩き込んで2-1とする。翌日の読売新聞によると「鶴岡が膝下に入る緩曲球を引っかけて左翼スタンドへ本塁打」とのこと。

 ライオンは7回、先頭の坪内が中前打で出塁、玉腰年男が投前に送りバントを決めて一死二塁、水谷は投ゴロに倒れるが鬼頭の二ゴロをセカンド国久がエラーする間に坪内が還って2-2の同点に追い付く。

 ライオンは9回、先頭の坪内が三塁に内野安打、玉腰が三前に送りバントを決めて一死二塁、水谷が右前に決勝タイムリーを放って3-2と勝ち越す。

 翌日の読売新聞によると「ライオン・福士、南海・劉の剛緩球投手の対戦は何れ劣らぬコントロールを示して・・急所々々を引き締めた。併し福士の比較的バラエティに富む投球に対して劉はやや単調で計11安打を奪われこれが試合全般を支配した。」とのこと。劉瀬章は9回を完投して11安打2四球1三振で競り負けた。

 福士勇は5安打6四球1三振の完投で、6月27日以来の勝星となる8勝目をあげる。


 ライオンのトップバッター・坪内道則が5打数3安打3得点。先頭打者として迎えた3打席全てにヒットを放ち、二番玉腰年男が二度の送りバントを決めて三番水谷則一、四番鬼頭数雄が還すという教科書通りの得点経過であった。

 逆に言うと劉瀬章は六番から始まった6回と8回を三者凡退に抑えることが出来なかったことが7回と9回に坪内をトップバッターとして迎える原因となり、これが敗因につながった訳である。ピッチャーは六番から始まるイニングは必ず三者凡退に抑えなければならない。七番から始まる場合は一人歩かせるという手もある。ヤクルトの梶間は七番から始まる場合、二死から九番のピッチャーを歩かせては露骨すぎるので七番バッターを打ち取ると八番を歩かせて一番で切るというピッチングを見せていた。恐らく安田もやっていて梶間は安田に教わったのではないかと想像できますが、私が明確に覚えているのは梶間がやっていたシーンです。DHのパ・リーグではこういうシーンを見ることはできないでしょう。最近はテレビを見ないのでやっているピッチャーがいるかどうかは分かりませんが、かつてはこう言う味のあるシーンをよく見ることができました。





               *福士勇は完投で8勝目をあげる。


14年 阪急vsジャイアンツ 7回戦


8月5日 (土) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 1 0 0 0 0 0 0 0 1 阪急             36勝15敗       0.706 森弘太郎 石田光彦
0 0 0 6 0 0 0 1 X 7 ジャイアンツ 36勝15敗1分 0.706 スタルヒン


勝利投手 スタルヒン 24勝8敗
敗戦投手 森弘太郎    1勝1敗


二塁打 (阪)黒田 (ジ)白石、吉原
三塁打 (ジ)白石

ジャイアンツ、阪急に7連勝で首位に並ぶ


 阪急は2回、先頭の山下実が左前打で出塁、山下好一が中前打で続き、上田藤夫の一ゴロで山下実が三封されて一死一二塁、日比野武が左前にタイムリーを放って1点を先制する。

 ジャイアンツは4回、一死後川上哲治が右前打で出塁すると二盗に成功、平山菊二四球、井上康弘の三ゴロをサード黒田健吾がエラーして一死満塁、吉原正喜が左越えに二塁打を放って2-1と逆転する。スタルヒンが左前にタイムリーを放って3-1としてなお一死一三塁、ここでスタルヒンが二盗に成功する。トップに返り白石敏男の打席でキャッチャー日比野が二塁に牽制悪送球する間に三走吉原が還って4-1、白石が四球を選んで一死一三塁、水原茂の三ゴロは「5-4-3」と転送されるが二塁はセーフで二死二三塁、千葉茂が右前に2点タイムリーを放って6-1とする。

 ジャイアンツは8回、一死後白石が中越えに三塁打、水原が四球を選び、千葉の右犠飛で7-1とする。

 ジャイアンツは今季阪急に7戦全勝、勝利投手は全てスタルヒンである。スタルヒンは6安打3四球7三振の完投で24勝目をあげる。


 一番白石敏男が5打席3打数3安打2四球2得点、二塁打1本、三塁打1本。八番吉原正喜が4打数2安打1得点2打点、二塁打1本の活躍を見せる。


 この試合では4回に川上哲治とスタルヒンが盗塁を記録している。川上は一リーグ時代には66個の盗塁を記録するが、スタルヒンの一リーグ時代の盗塁は通算5個で今季2個のうちの一つが本日の二盗となる。なお、川上は二リーグ分裂後突如として快足ランナーに変身し、分裂初年度の昭和25年には34盗塁を記録し、一リーグ時代の5年間の半数以上を1年で記録するなど通算盗塁数を220個に伸ばすこととなる。因みに川上の昭和25年の本塁打数は29本で惜しくも「30-30」を逃す。三振は僅か29個で、ラビットボールでも29本しかホームランが無いので基本的には中距離ヒッターでしょう。スタルヒンは20年に及ぶキャリアの中でも盗塁は通算7個ですから本日の観客は貴重なシーンを目撃したことになります。増してや同イニングに川上とスタルヒンが盗塁を記録するのは空前にして絶後の貴重なシーンでしょう。

 ジャイアンツは首位阪急を捉えて首位に並んだ。







               *スタルヒンは完投で24勝目をあげる。







*ジャイアンツ4回の攻撃で川上哲治とスタルヒンが盗塁を記録する。川上の第二打席の「O’」が平山の打席で二盗に成功したことを表します。スタルヒンの二打席目の「O’’」が写真にはありませんが一番白石敏男の打席で二盗に成功したことを表します。



14年 イーグルスvsセネタース 7回戦


8月5日 (土) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 1 0 0 0 0 0 1 イーグルス 16勝34敗1分 0.320 亀田忠
0 2 1 1 1 0 1 0 X 6 セネタース 26勝23敗3分 0.531 浅岡三郎 野口二郎


勝利投手 浅岡三郎 4勝3敗
敗戦投手 亀田忠    7勝13敗
セーブ   野口二郎 2


二塁打 (イ)亀田 (セ)佐藤
三塁打 (セ)柳
 
セネタース、試合巧者ぶりを発揮


 セネタースは2回、一死後浅岡三郎が左前打で出塁、柳鶴震が右翼線に三塁打を放ち1点を先制、中継に入ったセカンド筒井良武からの送球が悪送球となる間に打者走者の柳も一気にホームに還り2-0とする。

 セネタースは3回、一番に戻った苅田久徳が左前打で出塁、横沢七郎が投前に送りバントを決めて二死後野口二郎が左前にタイムリーを放って3-0とする。

 イーグルスは4回、先頭の中河美芳が左前打で出塁、亀田忠が左中間にタイムリー二塁打を放って1-3、一死後漆原進が左前打から二盗、筒井が四球を選んで一死満塁、しかし山田潔の遊ゴロは「6-4-3」と転送されてダブルプレー、絶好の反撃機を逸す。

 セネタースは4回裏、先頭の柳が四球で出塁、織辺由三の捕邪飛は送りバント失敗か、森口次郎も四球を選んで一死一二塁、トップに返り苅田の投ゴロをピッチャー亀田は三塁に送球するが悪送球となって一死満塁、横沢の遊ゴロ併殺崩れの間に三走柳が還ってノーヒットで1点を追加して4-1とする。

 セネタースは5回から先発の浅岡三郎をファーストに回てしファーストの野口二郎をマウンドに送る。

 セネタースは5回、先頭の野口二郎が左前打で出塁、佐藤武夫の捕前送りバントをキャッチャー木下政文が一塁に悪送球、白球(一試合6球の使用制限があるので薄黒くなっていたかもしれない)がライト線を転々とする間に野口は三塁を蹴ってホームに向かう。バックアップのライト太田健一からのバックホームはタイミングはアウトであったが木下が落球、手痛いダブルエラーで野口が生還して5-1とする。

 セネタースは7回、先頭の尾茂田叶が中前打で出塁、野口二郎は三飛に倒れるが佐藤が左中間に二塁打を放って一死二三塁、浅岡の左犠飛で6-1とする。


 セネタースは7安打で6得点と試合巧者ぶりを遺憾なく発揮して快勝する。一方イーグルスは8安打で1得点、4回のチャンスを活かせなかったのが流れを引き寄せられなかった原因でしょう。両チームの地力の違いが出た試合であった。

 なお、セネタース先発の浅岡三郎は4回で降板しているため現行ルールでは勝利投手の権利は無いが公式記録では浅岡に勝利投手が記録されている。野口二郎には当ブログルールによりセーブが記録された。




14年 金鯱vs名古屋 7回戦


8月5日 (土) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 7 0 0 0 0 0 0 1 8 金鯱     20勝33敗1分 0.377 中山正嘉
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 名古屋 16勝32敗3分 0.333 松尾幸造 西沢道夫


勝利投手 中山正嘉 14勝10敗
敗戦投手 松尾幸造   3勝7敗


二塁打 (金)武笠 (名)三浦

中山正嘉、三試合連続完封で8連勝


 金鯱は2回、先頭の小林茂太が四球を選んで出塁、中山正嘉の投前送りバントをピッチャー松尾幸造がエラー、瀬井清の三ゴロで中山は二封されて一死一三塁、続く長島進はスコアブックの記録では一塁への内野安打であるが翌日の読売新聞によると「長島が突如敢行した奇襲のスクイズは完全に名軍松尾と背後守備を動揺せしめその・・心理的効果は大きかった」とのことである。と言うことで1点を先制、佐々木常助が四球を選んで一死満塁、トップに返り五味芳夫の左前タイムリーで2-0、濃人渉が押出し四球を選んで3-0、野村高義の二ゴロをセカンド中村三郎がファンブル、更にホームに悪送球するダブルエラーを犯して三走佐々木に続いて二走五味も還って5-0としてなお一死二三塁、戦地から戻って来て以降神懸り的な勝負強さを見せている小林利蔵が中前に2点タイムリーを放って7-0とする。

 こうなると金鯱先発の中山正嘉は二試合連続完封と絶好調なだけに試合は決まったも同然。金鯱は9回に小林利蔵四球、武笠茂男が左中間二塁打、瀬井清の左犠飛で1点追加してダメのダメを押す。

 名古屋は7月14日以降の7試合のうち負けた5試合が全て完封負けと極度の打撃不振に陥っている。松尾幸造の乱調はさしおいて二番手の西沢道夫が7回を6安打4四球2三振1失点と使える目途が立ってきたのは収穫か。

 中山正嘉は2回に三浦敏一に中越えの二塁打、9回に加藤正二に右前打を許したのみ、2安打3四球1三振で三試合連続完封、8連勝で14勝目をあげ、ハーラー二位の野口二郎に2勝差まで迫る。中山はこれで29回3分の2連続無失点を継続中、自責点ゼロは36イニングス継続中である。


 中山正嘉は昭和10年第21回全国中等学校優勝野球大会(夏の甲子園)に優勝した松山商業のエースですが、甲子園優勝投手はピッチャーとしてはプロでは大成しないケースが圧倒的に多い中で例外的な成功事例です。

 これまで当ブログに登場した甲子園優勝投手は宮武三郎(高松商業、大正14年、第11回夏の甲子園)、水原茂(高松商業、昭和2年第13回夏)、中島治康(松本商業、昭和3年第14回夏)、岸本正治(第一神港商業、昭和5年第7回選抜中等学校野球大会(センバツ))、藤村富美男(呉港中学、昭和9年第20回夏)、中山正嘉、野口二郎(中京商業、昭和12年第23回夏、及び、昭和13年第15回センバツ)、天川清三郎(平安中学、昭和13年第24回夏)の8人です。宮武は慶應義塾大学では投手として通算38勝(現在においても慶應義塾大学野球部史上通算最多勝記録)をあげ、打者としても通算本塁打7本(長嶋茂雄に抜かれるまでの新記録)を記録し、阪急入団後は投手としてプレートも踏みましたが主に打者として活躍したことはお伝えしてきたとおりです。水原もマウンドに立ちましたがサードに定着しています。中島は早稲田大学時代から外野手に転向しています。岸本も慶應義塾大学時代に野手に転向、藤村はマウンドにも立ちましたが野手として成功しています。野口二郎は投手として大成功しますが野手との掛け持ちです。したがって純粋に投手としてプロでやって行くのは中山正嘉と天川清三郎だけで、天川は昨日のセネタース戦では延長11回を完投して2対2の引分けに持ち込んでいますが成功したと言える成績は残していません。





            *2安打完封の中山正嘉は三試合連続完封で8連勝を飾る。



2011年12月28日水曜日

14年 阪急vsライオン 7回戦


8月4日 (金) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 1 0 4 0 4 0 0 0 9 阪急      36勝14敗       0.720 荒木政公
2 0 0 0 2 0 0 0 0 4 ライオン 18勝29敗4分 0.383 近藤久 福士勇


勝利投手 荒木政公 5勝1敗
敗戦投手 近藤久    0勝8敗


二塁打 (阪)黒田 (ラ)岡本、近藤

阪急、全員安打


 ライオンは初回、先頭の坪内道則の遊ゴロをファースト山下実が落球、玉腰年男は右邪飛に倒れるが水谷則一の中前打で一死一二塁、鬼頭数雄は左飛に倒れて二死一二塁、ここで前日のタイガース戦では先発完投して敗戦投手となり本日は先発マスクの五番キャッチャー岡本利之が左中間を破る二塁打を放ち二者を迎え入れて2点を先制する。

 阪急は2回、先頭の山下好一が四球を選ぶと二盗に成功、一死後上田藤夫の遊ゴロの間に山下好は三塁に進み日比野武の中前タイムリーで1-2とする。

 阪急は4回、先頭の山下実が中前打で出塁、山下好一は右飛に倒れるが黒田健吾四球、上田も四球を選んで一死満塁、日比野が二打席連続となるタイムリーを左翼線に放ち二者を迎え入れて3-2と逆転に成功、下村豊の右前タイムリーで4-2としてなお一死一三塁、荒木政公が右犠飛を打ち上げて5-2とする。

 ライオンは5回、先頭の近藤久が左中間に二塁打、トップに返りに坪内四球、玉腰が送って一死二三塁、水谷が右前にタイムリーを放って3-5、鬼頭の二ゴロの間に三走坪内が生還して4-5と1点差に詰め寄る。

 阪急は6回、先頭の上田がショートへの内野安打、日比野の二ゴロの間に上田は二進、下村は三振に倒れて二死二塁、荒木のピッチャー強襲ヒットで日比野が還って6-4、トップに返り西村正夫が中前打、フランク山田伝が三前にセーフティバントを決めて二死満塁、山下実の押出し四球で7-4、山下好一の中前2点タイムリーで9-4としてライオン先発の近藤久をKOする。リリーフの福士勇も黒田に四球を与えるがキャッチャー岡本が一塁牽制で黒田を刺してスリーアウトチェンジ。

 点の取り合いとなった試合も7回以降は両軍無得点で阪急が快勝する。

 荒木政公は6安打6四球1三振の完投で5勝目をあげる。


 阪急は交代なしの9人で戦い全員安打を記録する。下村豊を除く8人が得点を記録しているように上位下位ムラなく打ちまくった。とりわけ、七番日比野武がタイムリー2本で2打点、八番下村豊がタイムリー1本で1打点、九番荒木政公が犠飛とタイムリーで2打点と下位打線の活躍が目立った。






                *荒木政公は完投で5勝目をあげる。




14年 南海vsセネタース 7回戦


8月4日 (金) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 計
0 0 0 0 0 0 1 0 1  0   0   2 南海          21勝27敗3分 0.438 天川清三郎
0 0 0 0 1 1 0 0 0  0   0   2 セネタース 25勝23敗3分 0.521 金子裕 野口二郎


二塁打 (南)国久
三塁打 (セ)森口

平井猪三郎の2補殺、南海を救う


 南海打線はセネタース先発の金子裕に抑えられて4回までノーヒット。5回、先頭の国久松一が右中間に初ヒットとなる二塁打を放ち岡村俊昭がセカンド前にバントを転がすが苅田が巧く捌いて結果は送りバントとなって一死三塁、しかし栗生信夫は二ゴロ、中田道信は遊ゴロに倒れて得点無し。

 セネタースは初回、先頭の横沢七郎が左前打を放ちすかさず二盗に成功、しかし家村相太郎は三ゴロ、尾茂田叶も三ゴロに倒れてランナーを進めることもできず野口二郎も一ゴロに倒れ、この後は4回までノーヒットに終わる。

 セネタースは5回、先頭の五番苅田久徳が四球を選んで出塁、一死後柳鶴震の右前打で苅田が三塁に進み一死一三塁、金子の一ゴロ併殺崩れの間に苅田が還って1点を先制する。

 セネタースは6回、一死後家村に代わる代打森口次郎が右越えに三塁打、尾茂田の左犠飛で2-0とする。

 南海は7回、先頭の小林悟楼が左前打で出塁、二盗に成功して鶴岡一人の右飛で小林は三塁に進み、四番国久の左翼線タイムリーで1-2とする。

 南海は9回、先頭の平井が四球を選んで出塁、セネタースベンチはここで金子裕をベンチに下げてファーストの野口二郎をマウンドに送り込む。小林が送って一死二塁、次の場面を翌日の読売新聞は「鶴岡は(カウント=筆者注)ツースリー後小さく落ちるドロップを鮮やかに中堅へ叩いて平井を迎え・・・」と伝えている。と言うことで2-2の同点。

 セネタースは9回裏、一死後尾茂田が中前ヒットで出塁、野口二郎の遊ゴロをショート小林が併殺を焦って二塁に悪送球して一死一二塁、ここで苅田が左前にヒットを放ち二走尾茂田はサヨナラを狙い三塁ベースを蹴ってホームに突進するがレフト平井からのバックホームにタッチアウト。続く佐藤武夫は三ゴロに倒れて延長戦に突入する。

 南海は10回表、二死後中田が右前打、天川清三郎が左前打を放って二死一二塁とするが岩出清に代わる代打伊藤経盛が二飛に倒れて得点はならず。

 セネタースは10回裏、先頭の柳が四球を選んで出塁、浅岡三郎は中飛に倒れ、織辺由三の三ゴロをサード鶴岡が珍しくエラーして一死一二塁、トップに返り横沢は捕邪飛に倒れ、森口が四球を選んで二死満塁、しかし尾茂田は中飛に倒れて得点はならず。南海の11回表は1四球のみで無得点。

 セネタースは11回裏、二死後佐藤が左翼にヒットを放ち二塁に向かうがレフト平井からの送球にタッチアウトとなってゲームセットを告げるサイレンが高々と鳴り響き引き分く。


 試合はセネタースが押し気味に進めていたが平井猪三郎の2つの補殺がチームを救った。

 天川清三郎は延長11回を完投して6安打4四球1死球2三振と好投を見せた。翌日の読売新聞によるとシュートのコントロールが良かったとのことである。天川は平安中学時代は昭和13年夏の甲子園の優勝投手である。決勝では大島信雄の岐阜商業を破って平安に初優勝をもたらした。因みにその2年前の昭和11年も決勝は平安中学vs岐阜商業であったが岐阜商業が松井栄造、加藤三郎のバッテリーで優勝している。松井は昭和18年に中国戦線にて、加藤は昭和20年に神風特別攻撃隊として共に戦死しているが、生きていれば戦後の日本球界を背負うこととなる逸材であったことを多くの方が語り継いでいる。この年の岐阜商業優勝ナインのうち5人が戦死している。






                 *天川清三郎は延長11回を完投する。







        *平井猪三郎の二つの補殺の場面。9回の「7-2」と11回の「7-4」


2011年12月27日火曜日

14年 イーグルスvs名古屋 7回戦


8月4日 (金) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 0 1 0 1 イーグルス 16勝33敗1分 0.327 望月潤一
0 0 1 0 1 0 0 1 X 3 名古屋     16勝31敗3分 0.340 繁里栄


勝利投手 繁里栄     5勝11敗
敗戦投手 望月潤一 4勝12敗


三塁打 (イ)寺内


繁里栄、完投で5勝目をあげる


 名古屋は現在15勝31敗3分で勝率3割2分6厘、イーグルスは16勝32敗1分で勝率3割3分3厘、ゲーム差は無いが勝率で7厘上回るイーグルスが八位、名古屋は最下位。イーグルス先発は望月潤一、名古屋先発は繁里栄。両者は6回戦でもぶつかっておりこの時は望月が完封勝利をおさめている。共に現在4勝11敗で、チームも両先発も当面のライバル関係にある。

 名古屋は3回、先頭の繁里栄が右前打で出塁、二死後パスボールで繁里が二進して石田政良は四球を選んで二死一二塁、大沢清が珍しく引っ張って左前に先制タイムリーを放ち1-0とする。

 名古屋は5回、一死後村瀬一三が四球を選んで出塁、桝嘉一の右前打で村瀬は三塁を陥れて一死一三塁、ここでキャッチャー木下政文がこの日二個目のパスボールを犯して村瀬が生還し2-0とする。

 イーグルスは8回、一死後望月潤一が一塁への内野安打で出塁、トップに返り岩垣二郎の遊ゴロをショート村瀬がエラーして一死一二塁、続く漆原進のカウントワンワンのところで代打亀田忠が送られるが亀田は中飛に倒れて二死一二塁、寺内一隆が中前にタイムリーを放って1-2と追い上げる。

 名古屋は8回裏、一死後石田が四球を選んで出塁、大沢は三振に倒れるが石田が二盗に成功して二死二塁、ここで四番加藤正二が中前にタイムリーを放って3-1と突き放す。


 繁里栄は9回のイーグルスの攻撃を三者凡退に抑えて、7安打1四球4三振1失点、自責点ゼロの完投で6回戦の雪辱を遂げて5勝目をあげる。翌日の読売新聞によると「繁里は重い球質を利して一球毎に角度とコースを変化させる慎重な投法を試み就中外角を鋭く切るカーブはイ軍打者の手を焼かせた・・・」と伝えている。繁里もスライダーを習得していたのかもしれない。

 望月潤一も8回を完投して6安打3四球8三振の力投を見せるが12敗目を喫す。

 名古屋は三番大沢清が4打数2安打1打点、四番加藤正二も4打数2安打1打点と貫録を見せたが、無安打ながら二番石田政良の2四球1盗塁が効いた。石田は1日のジャイアンツを破ったゲームでも2安打2得点で全得点をあげ、2日の阪急戦ではノーヒットノーランを免れる2安打を放つなど、このところ活躍が際立っている。







繁里栄は完投で今季5勝目をあげる。






2011年12月26日月曜日

14年 ライオンvsタイガース 7回戦


8月3日 (木) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 ライオン   18勝28敗4分 0.391 岡本利之
0 0 0 0 2 1 1 0 X 4 タイガース 34勝15敗2分 0.694 西村幸生


勝利投手 西村幸生 10勝5敗
敗戦投手 岡本利之   0勝1敗


二塁打 (タ)皆川、伊賀上
三塁打 (タ)松木


ピッチャー兼キャッチャー


 このところ四連敗と気勢の上がらないライオンは4月11日の金鯱戦でリリーフ登板して2イニングを1安打無失点に抑えて以来のプロ入り二度目の登板となる岡本利之を先発に起用してタイガースにぶつけてきた。なお、翌日の読売新聞には「公式試合に初めてライオンの投手板を守った岡本(利)が一球々々慎重にスピードを抑えて意表を衝く投法をもってタ軍の打棒を凌いだ」と書かれているが、初登板は4月21日の金鯱戦8回途中からのリリーフです。

 初顔合わせとなる岡本利之に4回まで毎回1安打ずつを放ちながら無得点に抑えられてきたタイガースは5回、一死後富松信彦が四球を選んで出塁、本堂保次の三ゴロの間に富松は二進、松木謙治郎が右中間に三塁打を放って1点を先制、景浦将が左前にタイムリーで続いて2-0とする。三巡目にしてようやく岡本を捉えた。

 タイガースは6回、先頭の広田修三が四球を選んで出塁、西村幸生の三前バントが内野安打となり伊賀上良平が投前に送りバントを決めて一死二三塁、トップに返り富松が中犠飛を打ち上げて3-0とする。

 タイガースは7回、先頭の松木が右前打、景浦は中飛に倒れジミー堀尾文人の三ゴロでランナーが入れ替わり皆川定之が左翼線に二塁打を放って二死二三塁、広田の遊ゴロをショート松岡甲二が失する間に三走堀尾が還って4-0とする。

 ライオンは9回、一死後岡本利之が本日3本目のヒットを左前に放って出塁、山本尚敏が四球を選んで一死一二塁、井筒研一に代わる代打近藤久が左翼線にタイムリーを放って一矢を報いるが後続無くゲームセットを告げるサイレンが高々と鳴り響く。


 キャッチャー登録ながら二度目の登板にして初先発となった岡本利之は8回を完投して12安打を許したが3四球4三振4失点、自責点3と及第点の投球であった。打っても4打数3安打とライオンの6安打中3安打を記録して孤軍奮闘であった。

 西村幸生は6安打5四球3三振といつもながらのランナーを出しながらのピッチング、完投で10勝目をあげる。

 皆川定之が3打数3安打二塁打1本の活躍を見せる。皆川は7月28日のライオン6回戦でも3打数3安打を記録しておりライオン戦では6打数連続安打を継続中。


 キャッチャー登録ながら二度目の登板にして初先発となった岡本利之は8回を完投して12安打を許したが3四球4三振4失点、自責点3と及第点の投球であった。打っても4打数3安打とライオンの6安打中3安打を記録して孤軍奮闘であった。岡本利之は戦後母校・米子東高校の監督として山陰球界史上唯一の甲子園準優勝に導くこととなるのは既報のとおりです。プロでピッチャーとキャッチャーをやった経験が活かされたのでしょう。

 キャッチャーからピッチャーと言えば近年では阪神の久保田智之が有名であり滑川高校時代は甲子園でもマスクとプロテクターをかなぐり捨ててマウンドに上がりましたが、日本野球史では早稲田のキャッチャーだった伊達正男が早慶戦でマウンドに上がり三連投したのが有名です。小川正太郎が胸の病のため投げられなくなったことが原因です。伊達は昭和6年と昭和9年の全日本チームのエースであり、昭和9年にはベーブ・ルースやルー・ゲーリッグ達は無名の澤村栄治ではなく伊達正男をマークしていました。この時は草薙球場での澤村栄治の快投が有名ですが草薙球場は夕刻には外野に太陽が沈む方向に造られていたことから全米チームが打てなかったと言われており、むしろ伊達が好投した二日後の鳴海球場で全日本が6対5で敗れた試合の方が惜しかったと言われています。




*早稲田でキャッチャーをやっていた頃の伊達正男。この逸品は数年前に目白の高級ホテルで有名な一族の先祖のプライベートコレクションがサザビーズに出品された時のものです。英字のサインは伊達の直筆です。昭和初期の東京六大学から全日本vs全米の試合等の極めて貴重な品が大量に出品されて今では世界中に散逸してしまいました。



14年 南海vsジャイアンツ 7回戦


8月3日 (木) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8  9   計
0 0 0 1 0 0 0 0  0   1 南海             21勝27敗2分 0.438 政野岩夫
0 0 1 0 0 0 0 0 1X  2 ジャイアンツ 35勝15敗1分 0.700 中尾輝三 スタルヒン


勝利投手 スタルヒン 23勝8敗
敗戦投手 政野岩夫    9勝7敗


二塁打 (ジ)白石
三塁打 (ジ)中島

ジャイアンツ、苦手政野岩夫をバントで攻略


 南海先発の政野岩夫は4月19日時点では2勝6敗の成績であったが5月5日のセネタース戦に完投勝ちして以来負け無しの7連勝を続けている。5月14日のジャイアンツ戦に完投勝ち、5月27日のジャイアンツ戦ではスタルヒン相手に投げ勝ち1対0で完封勝利を飾るなど、隠れジャイアンツキラーと呼べる存在である。

 ジャイアンツは3回、先頭の白石敏男が四球を選んで出塁、水原茂の遊ゴロでランナーが入れ替わり、水原が二盗を試みるがキャッチャー中田道信からの送球にタッチアウト。中田は昨日の金鯱戦でも3個盗塁を刺している。チャンスは潰えたかに見えたが千葉茂が粘って四球で出塁、調子を上げてきた中島治康がセンター右奥に三塁打を放って苦手とする政野から1点を先制する。

 南海は4回、先頭の国久松一が四球で出塁、中尾輝三のワイルドピッチで無死二塁、栗生信夫の一ゴロで国久は三進、中田の右犠飛で1-1の同点に追い付く。南海伝統のがめつい野球でノーヒットで得点をあげる。

 ジャイアンツ先発の中尾輝三は相変わらずのノーコンを見せて2回には国久、栗生、中田に三連続四球を与えるがキャッチャー吉原正喜が牽制で国久を刺し、政野の三ゴロ併殺で切り抜ける。4回も上記のとおり四球と暴投で1点を失うが5回以降は無四球に抑え、8回からスタルヒンのリリーフを仰ぐ。そろそろ一本立ちしないとスタルヒンが壊れてしまう。

 政野は相変わらずのジャイアンツキラーぶりを見せて4回~8回まで無失点で切り抜ける。5回は先頭の中尾に左前打を許すが白石の送りバントが小フライになって中尾が戻れずダブルプレー。6回は先頭の千葉を遊失で生かすが中島を三ゴロ併殺に打ち取る。7回も先頭のアチラノ・リベラ(アデラーノ・リベラ)に左前打を許すが代走に出た呉波が吉原の送りバントに三塁を欲張りファースト栗生からの送球に刺される。これも併殺が記録されて3イニング連続併殺となる。8回は先頭の白石が中前打、水原が三前に送りバントを決めて千葉三振、中島四球で川上哲治を迎えるが川上を一邪飛に打ち取る。調子をあげてきている中島を敬遠して調子を落としてきている川上と勝負したのであれば、南海は既にがめつくデータ野球を取り入れていることとなる。

 スタルヒンが8回、9回の南海の攻撃を無得点に抑えて迎えた9回裏ジャイアンツの攻撃は先頭の平山菊二が二ゴロに倒れるが、リベラの代走に出てそのままセンターに入っている呉が三塁前にセーフティバントを決めて一死一塁、吉原が投前に送りバントを決めて二死二塁、スタルヒンが左前にサヨナラタイムリーを放ってジャイアンツが辛勝する。


 翌日の読売新聞には「スタルヒンはツーワン後、外角からプレート真中に切れ込むカーブを叩いて左翼にサヨナラ安打を見舞い・・・」と書かれている。政野は右のアンダーハンドなので記述通りだとするとスクリューボールかシンカーが甘く入ってしまったのかもしれない。読売の記述には右投手の中山正嘉の投球でも外から入ってくるカーブと書かれていることがあり、スリークウォーターからの外角球がシュート回転して中に入ってくるのかシンカーのことを言っているのか、或は単に外角というのは左打者の外角のことなのか定かではない。


 藤本定義監督は苦手政野岩夫に対して嫌いなバント攻撃で何とか一矢を報いた。5回の白石の投飛併殺はスコアブックの記載だけでは送りバント失敗かどうかは分かりませんが本日の藤本監督の作戦からすると送りバント失敗と判断させていただきました。7回の吉原と8回の水原は記録も犠打で送りバントで間違いありません。9回一死の呉波はスコアブックの記載からでは三塁内野安打としか分かりませんが翌日の読売新聞に「セーフティバント」と書かれています。一死一塁での吉原の送りバントは記録は犠打で読売の記述は「バント」だけですがセーフティバントを試みた可能性があると考えられます。






       *ジャイアンツは中尾輝三、スタルヒンの継投で苦手政野岩夫を破る。








*藤本定義監督は政野攻略に後半バント戦法を用いる。5回の一番白石敏男の投飛併殺は送りバント失敗でしょう。7回と9回の八番吉原正喜及び8回の二番水原茂には犠打が記録されています(四角で囲っているのが犠打を表します)。9回の七番呉波はラインが二重になっているので内野安打を表します。



14年 金鯱vsイーグルス 7回戦


8月3日 (木) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8  9  計
1 0 0 0 0 0 0 0  0  1 金鯱           19勝33敗1分 0.365 古谷倉之助
0 0 0 0 0 1 0 0 1X 2 イーグルス 16勝32敗1分 0.333 亀田忠


勝利投手 亀田忠        7勝12敗
敗戦投手 古谷倉之助 4勝11敗


二塁打 (イ)木下、太田、寺内


亀田忠、無安打ピッチング


 金鯱は初回、先頭の五味芳夫が四球を選んで出塁、濃人渉が三前に送りバントを決めて更にこの送球をファースト中河美芳がエラーする間に五味は三塁に進む。名手中河は1日の南海戦に続き二試合連続で失策を記録した。野村高義が四球を選んで無死満塁、期待の小林利蔵は三振に倒れ、小林茂太も浅い右飛に倒れて二死満塁、古谷倉之助が押出し四球を選んでノーヒットで1点を先制する。

 ランナーを出しながらも変化球でのらりくらりとかわしていく古谷倉之助は5回までイーグルス打線を無得点に抑える。

 イーグルスは6回、一死後太田健一が右中間に二塁打、寺内一隆も右中間を抜いて太田が還り1-1の同点に追い付く。

 亀田忠は2回以降5回まで1四球のみで無安打ピッチングを続ける。6回は先頭の小林利蔵に四球を出して盗塁を決められ古谷、瀬井清も四球で歩かせるが無失点に切り抜ける。7回も五味を歩かせて盗塁を決められ濃人にも四球を与えるが無失点と、四球で走者を出し金鯱の走塁に悩まされながらも無安打ピッチングを続け、9回まで10四球を出しながらヒットを許さない。

 1対1の同点のまま迎えた9回裏のイーグルスの攻撃は先頭の高須清が四球を選んで出塁、中河が投前に送りバントを決めて一死二塁、亀田忠は敬遠で歩かされて一死一二塁、漆原進に代わる代打菅利雄は三振に倒れて二死一二塁、木下政文の一塁後方の飛球をファースト小林利蔵がファンブルする間に二走高須は三塁ベースを蹴ってホームに突進、ホームインとなってイーグルスがサヨナラ勝ちをおさめる。

 古谷倉之助は6安打3四球1三振で完投するが11敗目を喫す。


 亀田忠は無安打10四球4三振1失点、自責点はゼロであった。亀田忠は1940年と41年にノーヒットノーランを達成して通算2回とされているが、アメリカでは無安打に抑えて失点があってもノーヒッターとして記録される。実際、ボブ・フェラーは1940年の開幕戦でノーヒットノーランを達成し、軍隊生活後の1946年に二度目のノーヒットノーランを達成した。この時は軍隊生活で覚えたスライダーを駆使したと言われている。更に1951年にもノーヒッターを達成して生涯3回のノーヒッターを記録したが、この3度目は1失点であった。アメリカ人の亀田忠としてはこの日のノーヒットワンランもノーヒッターとしてカウントしてくれと言っているのではないでしょうか。そうすると通算3回となって澤村栄治、外木場義郎と並ぶこととなる。





               *亀田忠は10四球4三振で無安打ピッチング。








             *亀田忠にノーヒットに抑えられた金鯱打線





2011年12月25日日曜日

14年 セネタースvsタイガース 7回戦


8月2日 (水) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
2 0 0 0 0 0 0 0 0 2 セネタース 25勝23敗2分 0.521 野口二郎
0 0 0 0 0 0 0 4 X 4 タイガース 33勝15敗2分 0.688 若林忠志


勝利投手 若林忠志   7勝2敗
敗戦投手 野口二郎 16勝12敗


二塁打 (タ)富松
三塁打 (セ)尾茂田 (タ)本堂

タイガース、終盤の大逆転


 セネタースの先発は野口二郎、御園生崇男を応召で欠くタイガースは若林忠志が先発。一時は7つあった貯金が3つに減ってきたセネタースは打線を組み換えて一番に森口次郎を入れて苅田久徳は五番に入る。

 セネタースは初回、先頭の森口が四球を選んで出塁、横沢七郎が投前に送りバントを決めて一死二塁、尾茂田叶の右飛をライト景浦将が逸らす間に森口が還って1点を先制、尾茂田も二塁に進み四番野口二郎の中前タイムリーで2-0とする。

 野口の速球は冴えて初回に本堂保次に左前打、2回に広田修三に右前打、3回に本堂に左前打を許した以降は4回~7回を無安打に抑える。

 一方、若林忠志の軟投も2回以降セネタース打線を4安打無失点に抑える。

 タイガースは8回、先頭の広田が四球を選んで出塁、皆川定之は左飛に倒れるがトップに返り富松信彦が左中間に二塁打を放って一死二三塁、ここで当っている本堂が右中間に三塁打を放ち2-2の同点に追い付く。更に松木謙治郎は死球、景浦四球で一死満塁、ジミー堀尾文人が前進守備のショートの横を抜ける2点タイムリーを放って4-2と逆転に成功する。


 若林忠志は9回のセネタースの攻撃を三者凡退に退け、5安打3四球3三振の完投で7勝目をあげる。七色の魔球が冴えたようであるが、山本茂著「七色の魔球  回想の若林忠志」によると、法政大学を卒業後、川崎コロムビア時代に都市対抗野球で満州倶楽部を破った翌日の東京日日新聞(現・毎日新聞)の見出しに「魔球」と掲載されてから若林のピッチングが「魔球」と呼ばれるようになったようです。







               *若林忠志は粘りのピッチングで野口二郎に投げ勝つ。




14年 金鯱vs南海 7回戦


8月2日 (水) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 3 1 0 0 4 金鯱 19勝32敗1分 0.373 中山正嘉
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 南海 21勝26敗2分 0.447 劉瀬章


勝利投手 中山正嘉 13勝10敗
敗戦投手 劉瀬章       5勝6敗


二塁打 (金)野村、小林利

中山正嘉、二試合連続完封で7連勝


 金鯱打線は5回まで南海先発の劉瀬章から5安打を奪うが無得点、一方、金鯱先発の中山正嘉は5回まで南海打線を2安打無失点に抑える。

 金鯱は6回、一死後野村高義が右越えに二塁打、小林利蔵の四球は敬遠の可能性がある。ここで五番に入っている中山が右前に先制タイムリーを放って1-0、瀬井清の左前打で一死満塁、武笠茂男の投ゴロは「1-2-3」と渡ってゲッツーと思われた瞬間ファースト栗生信夫が落球して二死満塁、岡田源三郎監督はここで長島進に代えて古谷倉之助主将を代打に起用、古谷は期待に応えて左前に2点タイムリーを放ち3-0とする。

 金鯱は7回、先頭の五味芳夫が四球を選んで二盗に成功、濃人渉は左飛に倒れるが野村の遊ゴロをショート小林悟楼が弾く間に五味は三塁に進み、小林がこのボールを拾って一塁に送球するがこれが悪送球となるダブルエラーを犯して五味が生還して4-0とする。小林にはこのプレーで2失策が記録されている。

 中山正嘉は6回と9回にヒットを許すが南海打線を寄せ付けず、4安打2四球5三振で30日のライオン戦に続いて二試合連続完封、13勝目を飾る。


 中山はこれで6月13日の阪急戦以降7連勝となった。7月12日のジャイアンツ戦では中山が延長11回を完投して3対3の引分けに持ち込んでいるが、岡田源三郎監督は勝てる試合を中山で取りにいくローテーションを組んでおり、6月13日の阪急戦以降上位三球団には主に古谷倉之助をぶつけている。前節と前々節では金鯱は阪急、タイガース、ライオンとぶつかったが中山はライオンとの二試合に登板して阪急、タイガース戦は古谷に任せている。そのしわ寄せが古谷倉之助の4勝10敗という成績に表れている訳であるが古谷主将はそんなことで文句をいうような人間ではない。

 本日の試合は古谷倉之助が2打点、中山正嘉が1打点と古谷、中山コンビでものにした訳であるが、野口二郎の自伝「私の昭和激動の日々」に古谷が中山と肩を組んでいる写真が掲載されている。





       *中山正嘉は南海打線を4安打に抑えて二試合連続完封で13勝目をあげる。










*古谷倉之助は6回、長島進の代打に起用されて2点タイムリーを放つ。長島の後には中村輝夫がマスクを被っている。中村輝夫の再入団により長島を交代させることができるようになり、古谷の代打起用に結びついた訳である。


14年 名古屋vs阪急 6回戦

8月2日 (水) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 名古屋 15勝31敗3分 0.326 西沢道夫
0 0 2 1 0 0 0 0 X 3 阪急   35勝14敗       0.714 重松通雄


勝利投手 重松通雄 8勝6敗
敗戦投手 西沢道夫 2勝6敗


二塁打 (阪)山田2、山下好

名古屋、今季10回目のシャットアウト負け


 阪急は3回、一死後西村正夫が三塁に内野安打、フランク山田伝がライトに二塁打を放って一死二三塁、黒田健吾が四球を選んで一死満塁、山下好一の遊ゴロ併殺崩れの間に西村が還って1点を先制、山下実が右前にタイムリーを放って2-0とする。

 阪急は4回、先頭の上田藤夫が左翼線にヒット、日比野武の三ゴロは「5-4-3」と渡るがセカンドはセーフで一死二塁とランナーを残す。下村豊は三振に倒れるが重松通雄が中前にタイムリーを放って3-0とする。

 重松通雄は1回三者凡退、2回は先頭の加藤正二を四球で歩かせるが三浦敏一、中村三郎を連続三振に打ち取る。3回は先頭の西沢道夫の投飛をエラーするが村瀬一三を投ゴロ併殺に打ち取る。続く桝嘉一に四球から盗塁を許すが石田政良は一邪飛に抑える。4回は二死後三浦に四球を与えるが中村を投ゴロに打ち取り、5回は三者凡退。

 名古屋は6回、一死後石田がライトに初ヒットを放つが大沢清は二飛、加藤は三振に倒れて、7回は三者凡退。

 名古屋は8回、二死後桝嘉一が四球を選び石田が中前打を放って二死一二塁とするが大沢は二ゴロに倒れて無得点。

 重松通雄は9回も三者凡退に抑えて2安打4四球5三振で今季二度目の完封、8勝目をあげる。翌日の読売新聞によると下手投げの重松は「インシュートとアウトカーブを有効に使い分け・・・投球数少なく且つ味方の好守に伴われて試合を楽に運んで行った。」とのこと。リズムの良いピッチングで守備陣も守りやすかったのであろう。


 今シーズンはこの試合で51回の完封試合が記録されたが、名古屋は石田政良の2安打のみで今季10回目の完封負けとなった。昨日の松尾幸造に続いて西沢道夫も故障から復活してきたので、あとは打線の奮起を待つしかない。






*重松通雄は名古屋打線を2安打に抑える完封で8勝目をあげる。




14年 タイガースvs阪急 6回戦


8月1日 (火) 西宮


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
1 0 1 0 0 0 0 0 0 2 タイガース 32勝15敗2分 0.681 御園生崇男
0 0 0 0 0 1 0 0 0 1 阪急      34勝14敗       0.708 高橋敏


勝利投手 御園生崇男 14勝3敗
敗戦投手 高橋敏        11勝4敗


二塁打 (阪)山下実、高橋
三塁打 (タ)富松2


応召の御園生、首途を飾る快投


 タイガースは初回、先頭の富松信彦が左中間を破る三塁打、本堂保次は浅い右飛に終わるが松木謙治郎の二ゴロの間に富松が還り1点を先制する。

 タイガースは3回、先頭の富松が今度は右中間に三塁打、本堂の右飛は今度は犠牲フライとなって2-0とする。

 阪急は6回、二死後黒田健吾が左前打で出塁、山下好一が中前打で続いて二死一二塁、山下実が右前にタイムリーを放ち1点返して1-2とする。

 第二試合でジャイアンツが敗れ、タイガースとしては首位をうかがうチャンスが到来、負けられない一戦となった。翌日の読売新聞によると初回の西村正夫のセンター後方の当りをジミー堀尾文人がダイビングキャッチしたとのこと。2回には一死後山下実が左中間に二塁打、3回にも高橋敏が右翼線に二塁打を放つなど序盤の御園生崇男は崩れそうになりながら何とか持ちこたえてきた。

 阪急は7回、先頭の下村豊が中前打で出塁、高橋が三前に送りバントを決めて一死二塁、しかし西村正夫は遊飛、フランク山田伝は右飛に倒れてスリーアウトチェンジ。8回は一死後山下好一が四球を選ぶが山下実の二ゴロは「4-6-3」と渡ってダブルプレー。

 御園生は最終回、先頭の上田藤夫を三振、石井武夫を遊ゴロ、最後は下村を三振に打ち取る渾身のピッチングで応召前の最後の投球を締め括った。


 御園生崇男は7安打2四球5三振の完投で14勝目をあげる。翌日の読売新聞は「この大決戦を最後として勇躍名誉の軍務に赴く御園生の力投は阪急後半の肉薄を抑え切って鮮やかな勝名乗りをあげ全観衆の万歳の爆発を浴びた。」と伝えている。タイトルの「応召の御園生、首途を飾る快投」は翌日の読売新聞の見出しを使わせていただきました。






          *御園生崇男はいつも通りの安定味を見せて完投で14勝目をあげる。









               *富松信彦が2本の三塁打を放った場面。