2010年12月31日金曜日

13年春 名古屋vs阪急 2回戦

5月28日 (土) 甲子園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 2 0 0 0 0 0 0 2 名古屋 4勝8敗 0.333 繁里栄 西沢道夫
0 0 4 1 1 0 0 1 X 7 阪急   8勝4敗 0.667 浅野勝三郎 石田光彦


勝利投手 石田光彦 3勝2敗
敗戦投手 繁里栄   1勝1敗


石田光彦、快心のリリーフ


 名古屋は3回、この回先頭の繁里栄が四球で出塁、続く村瀬一三の投前送りバントをピッチャー浅野勝三郎が一塁に大暴投して無死二三塁、トップに返り先週規程打席に達して4割2分4厘で首位打者に立った石田政良が二遊間を破るタイムリーを放ち1点を先制、浅野のワイルドピッチで村瀬も還り2-0とする。

 阪急は3回裏、この回先頭の浅野が右前打で出塁、トップに返り西村正夫右前打、上田藤夫の二塁前プッシュバントが内野安打となって無死満塁、黒田健吾が押出し四球を選んで1-2と追い上げ、山下好一の二ゴロをセカンド石丸藤吉が失して2-2の同点、宮武三郎の遊ゴロが6-4-3のゲッツーとなる間に三走上田が還って3-2と逆転、ジミー堀尾文人の遊ゴロをショート村瀬が一塁に悪送球する間に三走黒田が生還して4-2とリードを広げる。

 阪急は4回、大原敏夫四球、浅野の投前送りバントはセカンドアウトのタイミングであったがピッチャー繁里が二塁に悪送球して無死一三塁、西村が右前にタイムリーを放って5-2とする。ここで名古屋は先発繁里栄が降板して4回から西沢道夫を投入する。西沢はいきなり上田に死球を与えて無死満塁とピンチを広げるが、黒田を三ゴロ、山下好を一邪飛、宮武を三ゴロに打ち取る。

 阪急は5回、堀尾、宇野錦次の連続中前打と大原の犠打野選で無死満塁とし、4回途中から二番手として登板している石田光彦の遊ゴロの間に堀尾が還って6-2とする。更に8回、二死一二塁で7回から山下好に代わってレフトに入っているフランク山田伝が中前にタイムリーを放って7-2とリードを広げる。

 桝嘉一はこの日の3打数1安打で規定打席に達し、今季33打数14安打、打率4割2分4厘で首位打者に立った。2位の石田政良もこの日4打数1安打で4割5厘と4割をキープしている。

 4回無死一塁で先発浅野をリリーフした石田光彦はいきなり大沢清を二ゴロ併殺で切り抜けると調子の波に乗り、9回までの6イニングを1四球6三振で無安打に抑えきり今季3勝目をあげる。石田は昭和12年7月16日、春季リーグ戦セネタース8回戦において一度目のノーヒットノーランをやっており、昭和15年8月22日の満州シリーズ大連におけるライオン9回戦で二度目のノーヒットノーランをやることとなる。一度目も1四球であったが阪急、セネタース共にシーズン最終戦のいわば消化試合であった。二度目はライオン打線が南京虫にやられて力が出なかったかもしれないし、石田も4四球を与えている。本日は8回に西沢に四球を与えた以外全て凡打に打ち取っており付け入る隙を与えておらず、二度のノーヒットノーランより内容は上ではないだろうか。先発していたら恐らくノーヒットノーランをやっていたのではないか。そうすれば生涯3回となり、澤村栄治、外木場義郎と並ぶこととなる。八百長疑惑と奇行により歴史低評価は決して高くはないが、実力は相当なものであったと見る。

13年春 金鯱vsジャイアンツ  3回戦

5月28日 (土) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 1 1 0 2 金鯱             4勝9敗 0.308 鈴木鶴雄 常川助三郎
5 0 1 0 0 0 0 0 X 6 ジャイアンツ 8勝4敗 0.667 成田友三郎


勝利投手 成田友三郎 1勝2敗
敗戦投手 鈴木鶴雄   0勝2敗


二塁打 (金)五味 (ジ)中島、千葉
本塁打 (ジ)白石 1号、 伊藤 1号


ジャイアンツ、鮮やかな先制攻撃


 ジャイアンツは初回、第一試合との連投となる鈴木鶴雄を攻めたてる。トップの呉波の三ゴロをサード五味芳夫が一塁に悪送球、続く白石敏男がライトポール際にきわどく飛びこむツーランを放って2点を先制する。更に水原茂四球、中島治康が左翼線に二塁打を放ち無死二三塁、伊藤健太郎は浅い中飛に倒れるが千葉茂が左中間に二塁打を放って4-0、永澤富士雄が中前タイムリーで続いて5-0、吉原正喜が四球を選んで一死一二塁、成田友三郎二ゴロ、呉は中飛に倒れてようやく1回の攻撃を終えるがこの回一挙5点を先行する。

 ジャイアンツは3回にも伊藤が左翼スタンドにホームランを放って6-0とする。金鯱はこの回で鈴木鶴雄が降板して4回から常川助三郎が登板する。 

 この展開となると成田は気分良くピッチングを続け、6回まで2安打無失点。金鯱は7回、この回先頭の常川が四球で出塁、続く松元三彦の遊ゴロをショート白石が二塁に悪送球、白球が一塁側ファウルグラウンドを転々とする間に常川は二塁、三塁を蹴ってホームを駆け抜け1点を返して打者走者松元も二塁に進む。ここで当ブログの読者であればピンときていただきたい。一般に、キャッチャー吉原正喜は内野ゴロの際、打者走者より早く一塁ベースカバーに走ったと伝えられている。恐らくそれはもう少し後のことなのであろう。本件においても打者走者より早く一塁ベースカバーに走っていたなら一塁ランナーをホームまで還すことは無かったはずである。もしかしたら吉原は、本件を教訓として素早いベースカバーを常とすることにしたのかもしれない。

 金鯱は8回、五味芳夫が左中間に二塁打を放ちレフト伊藤からの返球が逸れる間に三塁に進み、江口行男の中犠飛で2-6とするがここまで。

 成田友三郎は4安打3四球6三振、失点2自責点0の完投で今季初勝利をあげる。金鯱の二番手常川助三郎は5イニングを1安打に抑える好投を見せる。


 吉原正喜は当時のキャッチャーには珍しく俊足で動きが素早かったと伝えられています。ご覧になられた方も多いかと思いますが、「吉原正喜 ユーチューブ」で検索すると吉原の貴重な映像を見ることができます。

13年春 金鯱vsイーグルス 2回戦

5月28日 (土) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9  計
0 3 0 0 0 0 1 0 0  4  金鯱           4勝8敗 0.333 中山正嘉 鈴木鶴雄
0 0 6 0 5 0 0 2 X 13 イーグルス 6勝7敗 0.462 中河美芳


中河美芳 3勝1敗
中山正嘉 2勝3敗


二塁打 (イ)寺内2、大貫、中根、杉田屋
三塁打 (金)五味 (イ)野村
本塁打 (イ)ハリス 1号


イーグルス、15安打13得点で連勝


 金鯱は2回、この回先頭の中山正嘉中前打、松元三彦も中前打で続いて無死一二塁、武笠茂男の投ゴロで中山は三封、岡野八郎の遊ゴロで武笠が二封、岡野二盗後佐々木常助四球で二死満塁、ここでトップに返り五味芳夫が右中間に走者一掃の三塁打を放って3点を先制する。

 イーグルスは3回、この回先頭の漆原進が三塁への内野安打で出塁、トップに返り寺内一隆が右中間に二塁打を放ち無死二三塁、中根之は浅い中飛に倒れるがバッキー・ハリス四球で満塁、四番ピッチャー中河美芳が押出し四球を選んで1-3、大貫賢が左中間にイーグルス塁打を放って3-3の同点に追い付きなお一死二三塁、杉田屋守の左飛をレフト武笠が失する間に三走中河が還って4-3と逆転、野村実が中前にタイムリーを放って5-3、山田三振後この回二順目の漆原が四球を選んで二死満塁、寺内が押出し四球を選んで6-3とする。

 イーグルスは5回、この回先頭の杉田屋守が中前打で出塁、野村の遊ゴロでランナーが入れ替わり、山田中前打、漆原四球で一死満塁、トップに返り寺内が右翼線にタイムリー二塁打を放って8-3、中根の一ゴロで三走漆原は捕^無に突っ込みファースト瀬井清はバックホームするが間に合わず野選となって9-3、中根盗塁失敗で二死三塁、バッキー・ハリスが左翼スタンドにツーランホームランを叩き込んで11-3とリードを広げる。

 金鯱は7回、ボークで二塁に進んだ瀬井を小林茂太の右翼線タイムリーで還して4-11とするが、イーグルスは8回、杉田屋左中間二塁打、野村左中間三塁打、山田が右翼線にタイムリーを放って3点追加し13-4で圧勝する。

 5月14日以来の登板となる中河美芳は11安打5四球を許しながらも打線の援護に支えられて3三振を奪い完投で3勝目をあげる。このところファーストに大貫賢が起用されることもあり、何かアクシデントがあったのか。まだ憲兵隊に目を付けられてはいないと思うのですが。

 杉田屋守は5打数4安打の活躍、第一試合も4打数2安打で今季通算47打数16安打、打率を3割4分としてベストテンの6位に上げてきた。寺内一隆も5打数3安打3打点、二塁打2本、今季2割9分5厘として9位に入ってきた。

13年春  ライオンvsイーグルス 2回戦

5月28日 (土) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 1 0 0 0 0 0 0 1 ライオン   4勝8敗 0.333 菊矢吉男
0 2 0 0 0 0 0 0 X 2 イーグルス 5勝7敗 0.417 亀田忠


勝利投手 亀田忠   3勝2敗
敗戦投手 菊矢吉男 4勝6敗


本塁打 (ラ)大友 1号


亀田忠、最初の1安打ピッチング


 イーグルスは「三振か四球か」の亀田忠が先発、ライオンも亀田ほどではないが荒れ球が持ち味の菊矢吉男が先発。

 ライオンは初回、いきなり坪内道則、大友一明、鬼頭数雄が三連続四球で無死満塁、四番水谷則一三振、室井豊三振、原一朗は三ゴロに倒れて無得点、初回から亀田がやってくれる。

 イーグルスは1回裏、二死からバッキー・ハリス、亀田忠の連打でチャンスを作るが中河美芳は二ゴロに倒れて無得点。2回、この回先頭の杉田屋守が右前打で出塁、野村実の一塁線送りバントが内野安打となり無死一二塁、山田潔は一邪飛に倒れて一死一二塁。山田の打力から考えるとこれは送りバント失敗による一邪飛であると推測される。しかし漆原進がセンター左にタイムリーを放って1点を先制、トップに返り寺内一隆四球で一死満塁、中根之の一ゴロで寺内が二封される間に野村が還って2-0とする。一死満塁でファースト、サードにゴロが来た場合はホームゲッツーがセオリーである。本件の場合、中根の一ゴロをファースト室井豊は二塁に送球してベースカバーに入ったショート中野隆雄がベースタッチして一走寺内を二封している。セカンドゲッツーを狙ってのゲッツー崩れとは考えにくい。本来キャッチャーである室井の不慣れに起因している可能性もあるがいくらなんでもこの程度の基本はむしろキャッチャーであれば分かっているはず。一二塁間の緩いゴロでバックホームは間に合わずと判断して二封を狙ったと考えるのが妥当であろう。1点覚悟で後ろに守っていた可能性もあるが、昭和13年当時の守備としては考えにくい。

 ライオンは3回、一死後大友一明が左翼スタンドにホームランを叩き込んで1-2と追い上げる。ライオンとしてはまさかこの本塁打が本日放つこととなるヒットの全てになるとは夢にも思っていなかったであろう。

 この一発で目が覚めたのか亀田忠はこれ以降見違えるようなピッチング、4回と6回に中野隆雄に二つの四球を与えたのみで無安打に抑えきる。結局1安打5四球7三振の完投で3勝目をあげる。亀田は通算10回の1安打ピッチングをやることになるが、本日が事始めである。

 菊矢吉男も7安打2四球5三振と安定したピッチングを見せたが相手が悪かった。

2010年12月30日木曜日

13年春 5月 月間MVP

 今シーズンは各チーム5回総当たり合計140試合となります。約3分の1の44試合が終了した時点で月間MVPの表彰をさせていただきます。


投手部門

 タイガース 御園生崇男 1

 候補となるのは5勝0敗のスタルヒン、4勝0敗の御園生崇男、3勝1敗の西村幸生となります。

 スタルヒンは46回3分の2を投げて防御率 1.93、WHIP 1.07、奪三振率 5.80。
 西村幸生は34回3分の2を投げて防御率 2.08、WHIP 1.24、奪三振率 5.56。
 御園生崇男は33回3分の1を投げて防御率 1.44、WHIP 1.09、奪三振率 2.03。


 単純に数字だけを眺めればスタルヒンになりますが、スタルヒンはタイガース戦の登板を避けていますので当ブログではこの数字を評価しません。藤本定義監督は澤村とは心中しましたが、まだスタルヒンを信頼しきってはいないようです。スタルヒンの本格化までは現在八合目というところでしょうか。

 御園生崇男の歴史的評価は過少評価であると考えます。制球力があり安定味抜群の投球、打者としても走者としても優秀です。奪三振率が低いのはピッチングスタイルの違いであり評価を下げる必要はありません。西村幸生はランナーを出しながら抑えていくピッチングスタイルなのでどうしてもWHIPが見劣りします。

*昭和23年頃のブロマイドです。





打撃部門


 ジャイアンツ 伊藤健太郎 1

 タイガースから打撃ベストテンに顔を出しているのは第10位の伊賀上良平 2割9分3厘だけであり、タイガースは投手力と打戦のつながりで勝ち進んでいます。ジャイアンツからは2位中島治康 3割6分2厘、3位伊藤健太郎 3割5分9厘、6位白石敏男 3割1分1厘、8位水原茂 2割9分7厘と四人が顔を揃えますがタイガースには勝てそうな雰囲気がありません。

 スタッツを調べるまでは5試合連続2打点を継続中の中島治康で決まりであろうと思っていましたが、中島と伊藤の数字を出してみたら考えが変わりました。

中島治康  11試合 47打数17安打 5得点 13打点 打率 3割6分2厘、OPS 0.801
伊藤健太郎 11試合 39打数14安打 4得点 10打点 打率 3割5分9厘、OPS 0.941

 OPSは出塁率と長打率の和で算出されます。中島の長打率は4割2分6厘、伊藤の長打率は4割6分2厘。ジャイアンツは11試合中、ホームランはまず出ない甲子園で4試合、鳴海で3試合を行っていますので長打率は二人とも特別高い訳ではありません。中島は11試合で1四球、伊藤は9四球。これにより中島の出塁率3割7分5厘に対して伊藤の出塁率は4割7分9厘となりOPSで大差がつく原因となりました。

 中島治康の悪球打ちは伝説となっていますが、数字で表すとこういう結果となります。中島は松本商業から早稲田大学に進みますが神宮での実績はほとんどありません。同じく松本商業から早稲田大学に進んだ矢島粂安の方が大学、全日本時代ははるかに評価は上です。なんでも打っていく中島のスタイルは、待球主義の当時の野球界では異端であった訳です。



*昭和9年全日本時の矢島粂安(上)と中島治康のサイン(下)


13年春 第4節 週間MVP

 今節はタイガースが3勝0敗、名古屋、金鯱、阪急が2勝1敗、イーグルス、セネタース、ジャイアンツが1勝2敗、ライオンが0勝3敗であった。
 各チーム11試合を経過して、1位タイガース10勝1敗、2位阪急7勝4敗、2位ジャイアンツ7勝4敗、4位ライオン4勝7敗、4位金鯱4勝7敗、4位名古屋4勝7敗、4位イーグルス4勝7敗、4位セネタース4勝7敗となり、全チームがAクラス入りするという異常事態となった(ワールドカップと違い得失点差で順位は変動しません。)。





週間MVP


 投手部門


 阪急 浅野勝三郎 1


 今節はスタルヒン(7安打3四球5三振)、西村幸生(3安打6四球4三振)、浅野勝三郎(2安打無四球3三振)、小田野柏(3安打3四球4三振)、亀田忠(2安打9四球12三振)と5人のピッチャーが完封勝利を収めた。この5人を有名な順に並び替えると
 
① スタルヒン・・・・・・一般人でも知っている人がいる
② 西村幸生・・・・・・かなりの野球ファンなら知っている
③ 亀田忠・・・・・・・・それなりに調べている人なら知っている
④ 小田野柏・・・・・・かなり調べないと知らない
⑤ 浅野勝三郎・・・・ほとんど知らない


というところでしょうか。これを今節の成績順に並べると


① 浅野勝三郎・・・・・・(2安打無四球3三振)
② 小田野柏・・・・・・・・(3安打3四球4三振) 
③ 亀田忠・・・・・・・・・・(2安打9四球12三振)
④ 西村幸生・・・・・・・・(3安打6四球4三振)
⑤ スタルヒン・・・・・・・・(7安打3四球5三振)


と全く逆の順番になります。

 有名度ランキングは、ほぼ通算成績に比例します。ところがこれを昭和13年5月21日~22日に彼らが残した成績にフォーカスすると全く逆の結果が出ました。当ブログが毎週週間MVP他を表彰している意味はここにあります。


  打撃部門

 タイガース 藤村富美男 1

 今節は三番に座り14打数6安打5打点、「四球ゼロ」が藤村のバッティングスタイルを物語っている。






殊勲賞

 名古屋 倉本信護 1

 金鯱3回戦の満塁走者一掃逆転二塁打を評価。

 
 タイガース 本堂保次 1

 今節6打数3安打4打点、数少ない出場チャンスを生かした。



敢闘賞

 名古屋 松尾幸造 1

 今節二試合連続完投勝利。


 金鯱 小林茂太 1

 今節11打数5安打3打点。阪急2回戦では決勝ホームランを放つ。



技能賞 

 名古屋 村瀬一三 2

 二試合連続三塁打を放ち三度目の三賞受賞となる。

2010年12月29日水曜日

13年春 タイガースvsジャイアンツ  2回戦

5月22日 (日) 西京極


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
2 0 0 0 0 0 5 0 0 7 タイガース   10勝1敗 0.909 西村幸生 御園生崇男
0 0 0 0 0 2 1 0 0 3 ジャイアンツ  7勝4敗 0.636 川上哲治 前川八郎


勝利投手 御園生崇男 4勝0敗
敗戦投手 川上哲治     1勝1敗


二塁打 (タ)本堂、藤村
三塁打 (タ)本堂 (ジ)中島
本塁打 (タ)松木 3号


本堂保次、2安打3打点の活躍


 タイガースは前日イーグルスを完封した西村幸生が連投で先発、一方ジャイアンツはルーキー川上哲治の先発。ジャイアンツはスタルヒンのタイガース戦登板を避けているようでは心許ない。

 タイガースは初回、先頭の山口政信が右前打で出塁、本堂保次が右翼線に二塁打を放つと山口は快足を飛ばしてホームに還り1点を先制、藤村富美男左前打で無死一三塁、松木謙治郎の二ゴロの間に本堂が還って2-0とする。

 川上は2回にも岡田宗芳四球、山口左前打、本堂死球で二死満塁のピンチを迎えるが藤村を右飛に打ち取り3回以降6回まで三者凡退に抑える。

 ジャイアンツ戦に自信を持つ西村は5回まで無安打ピッチング。ジャイアンツは6回、一死後呉波が四球で出塁、二死後水原茂の左前打で一三塁、ここで中島治康が右中間を破る三塁打を放って2-2の同点に追い付く。タイガースはピッチャーを西村から御園生崇男に、キャッチャーを門前真佐人からカイザー田中義雄に交代する。

 この日のタイガースの打順は七番門前、八番西村であった。7回の攻撃は七番からであるが、石本秀一監督は門前に代えて御園生を七番に入れ、西村に代えて田中を八番に入れている。ピッチャーながら足の速い御園生を先に打たせようという腹だったに違いない。

 同点に追い付かれたタイガースは7回、その御園生は右飛に倒れるが田中が左前打で出塁、岡田宗芳の二ゴロでランナーが入れ替わり、トップに返り山口四球で二死一二塁、ここで本堂が右中間を破る三塁打を放って4-2と再びリードをとると藤村が中越え二塁打、松木が右翼スタンドにツーランホームランを叩き込んで7-2として川上をノックアウト。

 ジャイアンツは7回、千葉茂の三塁内野安打、永澤富士雄の中前打と松木のエラーで1点を返すが焼け石に水。川上ー吉原の熊工バッテリーコンビも海内無双のタイガース打線には通用せず三ゲーム差をつけられる。

 景浦の欠場により藤村がライトに入っている関係で二番セカンドで出場している本堂保次は4打数2安打3打点の活躍、21日のイーグルス戦でも2打数1安打1打点であり、数少ない出場機会に必死に食らいついている。

13年春 セネタースvsジャイアンツ  1回戦

5月22日 (日) 西京極


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
5 0 0 0 0 0 3 0 1 9 セネタース   4勝7敗 0.364 遠藤忠二郎 金子裕
1 1 0 0 0 0 3 0 0 5 ジャイアンツ  7勝3敗 0.700 成田友三郎


勝利投手 金子裕    2勝1敗
敗戦投手 成田友三郎 0勝2敗


二塁打 (セ)苅田、綿貫 (ジ)伊藤


セネタース、先制攻撃で快勝


 セネタースは初回、先頭の苅田久徳が四球を選んで出塁、北浦三男の三ゴロをサード水原茂が二塁に送球するが野選となり無死一二塁、尾茂田叶が中前に先制タイムリーを放ち1-0。綿貫惣司の投ゴロで二走北浦が三封、遠藤忠二郎は三飛に倒れるが伊藤次郎の右前打で二死満塁、青木幸造の左前打をレフト伊藤健太郎が後逸する間に三人の走者に続いて打者走者青木までホームに還り5-0とする。

 ジャイアンツは1回裏、先頭の呉波が四球で出塁、白石敏男の二ゴロでランナーが入れ替わり、水原が四球、中島治康が右前にタイムリーを放って1-5。続く2回、内海五十雄、田代須恵雄連続四球、成田が送って一死二三塁、セネタースベンチ(と言っても苅田監督がセカンドから指示を出したかもしれませんが)は遠藤から好調金子裕にスイッチ、呉四球で一死満塁、白石の左犠飛で2-5、水原四球で再び満塁、しかし中島が遊ゴロに倒れてチェンジ。

 セネタースは7回、一死後横沢が左翼線にヒット、苅田が右中間に二塁打を放って二三塁、北浦の左前タイムリーで6-2、尾茂田の中犠飛で7-2、綿貫の右中間タイムリー二塁打で8-2とリードを広げる。

 ジャイアンツは7回裏、呉と水原が四球で出塁し、中島の中前タイムリーと伊藤の左中間2点タイムリー二塁打で3点返して5-8とするが、セネタースは9回、二つの四球とエラーで満塁として綿貫の二ゴロの間に1点を追加、9対5で逃げ切る。

 2回からリリーフで登板した金子裕は7回3分の2を投げて被安打は2本、7四球は許すものの5三振の好投、ヒットを打たれたのは7回のタイムリー2本だけと好調ぶりを示す。第一試合で亀田の剛球と対戦したセネタースにとっては成田友三郎の球は打ち頃だったかもしれない。むしろ森井茂や木下博喜のような超緩球であればタイミングがとりにくかったかもしれない。成田にそこまでの芸当を要求するのは酷か。





13年春 セネタースvsイーグルス 3回戦

5月22日 (日) 西京極


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 セネタース  3勝7敗 0.300 浅岡三郎
2 0 0 0 1 1 0 0 X 4 イーグルス 4勝7敗 0.364 亀田忠


勝利投手 亀田忠     2勝2敗
敗戦投手 浅岡三郎 2勝4敗


二塁打 (イ)亀田


三振か四球か


 イーグルスは初回、先頭の寺内一隆の三ゴロをサード横沢七郎がエラー、中根之が右前に運ぶとライト家村相太郎がエラーして寺内が還り1点を先制、一死後四番亀田忠が左中間を破り2-0とする。

 イーグルスは5回、一死後山田潔が中前打で出塁、トップに返り寺内も中前打、中根の右飛で山田が三塁に進塁し、バッキー・ハリスの左前タイムリーで3-0とする。更に6回、一死後杉田屋守、野村実が連続右前打して一死一三塁、漆原進四球で一死満塁、山田に代わる代打太田健一が中犠飛を打ち上げて4-0とリードを広げる。

 亀田忠は初回、先頭の苅田久徳を三振に仕留めるとエンジン全開、続く北浦三男に四球を与えるが尾茂田叶を三振。2回は先頭の家村から三振を奪うと、浅岡三郎、青木幸造、横沢七郎に三連続四球を与えるが磯野政次三振、苅田は一邪飛。3回は尾茂田、綿貫惣司の三四番を三振、家村、浅岡に四球、青木は右飛に打ち取る。4回、5回はおとなしく1三振ずつ、ここまで無安打6四球8三振。

 6回は先頭の浅岡を四球で歩かせるが代打遠藤忠二郎を投ゴロに打ち取り1-4-3のゲッツー、しかし横沢にこの日初ヒットとなる中前打を許し続く磯野にも四球、しかし苅田は三振に仕留める。7回は北浦、尾茂田を連続三振に仕留めて三者凡退。8回は浅岡三郎を四球で歩かせ磯野にこの日2本目となる内野安打を許すが1三振を奪い切り抜ける。9回は北浦、尾茂田を連続捕邪飛に打ち取り最後は綿貫を遊ゴロに仕留めて毎回三振は逃すものの結局、2安打9四球12三振で来日初完封を記録する。

 亀田忠を紹介する文献、記事、各種サイトには必ずそのピッチングスタイルについて「三振か四球か」と紹介されている。本日の試合こそが亀田の「三振か四球か」伝説の起源となったのである。

13年春 金鯱vs名古屋 3回戦

5月22日 (日) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 金鯱   4勝7敗 0.364 中山正嘉 鈴木鶴雄
0 0 0 4 0 0 0 0 0 4 名古屋 4勝7敗 0.364 松尾幸造


勝利投手 松尾幸造 2勝6敗
敗戦投手 中山正嘉 2勝2敗


二塁打 (名)倉本2


松尾幸造、12奪三振の力投


 金鯱は初回、江口行男、佐々木常助の一二番が連続四球、瀬井清は三振に倒れるが勝負強い小林茂太がセンター左にタイムリーを放って1点を先制する。

 3回まで無安打に抑えられていた名古屋は4回、この回先頭の三番桝嘉一が四球で出塁、白木一二中前打、三浦敏一の左飛をレフト武笠茂男が失して無死満塁、ここで六番倉本信護がセンター右奥に走者一掃の二塁打を放って3-1と逆転に成功、二死後石丸藤吉が右前にタイムリーを放ち4-1とする。

 初回に連続四球から1点を失った松尾幸造は相変わらず四球を出しながらのピッチングではあったが3回は1四球3三振、4回は1安打2三振、6回は三者凡退に抑えて2三振とここまで6四球を与えるが10三振の力投、終盤は打たせて取るピッチングに切り替え、結局4安打7四球12三振の完投で開幕から6連敗後2連勝。ようやく勝ち方を覚えてきたようである。球は速くカーブにキレがありシュートに威力があるので、ピッチングのコツさえ覚えればもっと勝てるのではないか。この日のピッチングは松尾の投手人生におけるターニングポイントになるかもしれない。

 金鯱は6回から中山正嘉をリリーフした鈴木鶴雄が3イニングを無安打2四球1三振の好投を見せた。いずれにしても倉本の一打と松尾の力投に尽きる試合であった。



2010年12月28日火曜日

13年春 阪急vs名古屋 1回戦

5月22日 (日) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9  計
2 0 0 6 2 0 0 4 0 14 阪急    7勝4敗 0.636 小田野柏
0 0 0 0 0 0 0 0 0  0 名古屋 3勝7敗 0.300 森井茂 木下博喜


二塁打 (阪)山下好
三塁打 (名)村瀬
本塁打 (阪)黒田 2号


小田野柏、二試合連続完封


 阪急は初回、一死後上田藤夫がショートへの内野安打、続く黒田健吾が右翼ポール際にツーランホームランを叩き込んで2点を先制する。

 阪急は4回、この回先頭の黒田が四球で出塁、山下好一も四球、5月7日以来久々出場の五番ファースト山下実監督一ゴロで山下好一は二封、山下実盗塁後ジミー堀尾文人が四球を選び一死満塁、二死後大原敏夫の三ゴロをサード大沢清が一塁に低投する間に黒田に続いて山下実も三塁を蹴ってホームイン。なお二三塁から小田野柏が中前に2点タイムリーを放ち6-0、トップに返り西村正夫が中前打で続き二死一二塁、名古屋は先発の森井をあきらめて木下博喜をリリーフに送る。上田の三ゴロを今度はファースト小島茂男が落球して二死満塁、黒田が押出し四球、しかもフォアボール目がワイルドピッチとなって二走西村も還りこの回6点、8-0とする。

 阪急は5回、山下実の右飛をライト桝嘉一が落球、宇野錦次左前打、大原の送りバントも内野安打となり二死満塁から西村の一ゴロをファースト小島がこの日2つ目のエラーを演じ二者還り10-0。8回にも西村、上田の連打と投失で満塁として山下好一の右中間二塁打、山下実の右前タイムリー、堀尾の左犠飛で4点を追加して14対0で圧勝する。

 小田野柏は大量点をバックに余裕のピッチング、打たれたヒットは好調石田政良の2本の左前打と同じくルーキーの村瀬一三に許した左中間三塁打の3本だけ。3四球4三振で二試合連続完封勝利をあげる。

 阪急は第一試合に続いての完封勝利、ダブルヘッダー2試合で相手に計5安打しか許していない。

13年春 阪急vsライオン 2回戦

5月22日 (日) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 2 0 0 0 0 2 阪急   6勝4敗 0.600 浅野勝三郎
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 ライオン 4勝7敗 0.364 菊矢吉男


浅野勝三郎 2勝0敗
菊矢吉男   4勝5敗


浅野勝三郎、2安打無四球完封


 両チーム2安打ずつという歴史的投手戦となった。明暗を分けたのはコントロールであった。

 阪急は5回、この回先頭の七番宇野錦次が四球、続く島本義文も四球、浅野勝三郎が送りバントを決めて、トップに返り西村正夫も四球を選んで一死満塁、上田藤夫の当りは三塁への内野安打となって1点を先制、黒田健吾が押出し四球を選んで2-0とする。

 ライオンは初回、先頭の坪内の遊ゴロをショート上田が一塁に悪送球、しかし二番大友一明の投ゴロは1-6-3と渡りゲッツー。続く鬼頭数雄が死球を受けるが水谷則一は二ゴロに倒れる。2~4回は三者凡退。ライオンは5回、この回先頭の室井豊がショートへの内野安打で出塁、菊矢吉男の三ゴロをサード黒田がエラー、中野隆雄が送りバントを決めて一死二三塁と一打同点のチャンスを掴むが柳澤騰市が浅い中飛、藤浪光雄も右飛に倒れて無得点に終わる。

 菊矢吉男は上田の内野安打と西村正夫の中前打(これも飛球によるヒットと記録されているのでポテンの可能性もある。)の2安打に抑えて9回を投げきるが与四球が8を数えた。奪三振は3個。5回に4つの四球を集めたことが致命傷となった。

 浅野勝三郎は6回以降、8回の藤浪の左前打以外は走者を許さず、結局2安打無四球1死球3三振で完封勝利を飾る。今節は5人の投手が完封勝利を飾っており、この中からピッチング内容が吟味された上で週間MVPが選出されると予想されているが、浅野は最有力候補である。

13年春 セネタースvsタイガース 2回戦

5月21日 (土) 西京極


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 3 0 0 0 0 3 セネタース 3勝6敗 0.333 村沢秀雄 伊藤次郎
3 1 0 0 0 0 1 0 X 5 タイガース 9勝1敗 0.900 青木正一 釣常雄 御園生崇男 藤村富美男


勝利投手 藤村富美男 3勝0敗
敗戦投手 村沢秀雄   0勝1敗


二塁打 (タ)松木、伊賀上2


タイガース、継投で逃げ切る


 タイガースは明日にジャイアンツ戦を控えているためか御園生崇男を温存し青木正一を先発に起用、石本秀一監督は当然継投策を考えているでしょう。セネタースは今季初登板となる村沢秀雄が先発。村沢は本牧中学出身、苅田監督の後輩に当たる。村沢は昨年イーグルスに入団したのでコネ入団ではないが、セネタース移籍にあっては苅田久徳監督の引きがあったことは容易に想像がつく。とにかくセネタースは戦争の影響甚大であり、昭和11年百万ドル内野を形成したサード高橋輝彦を11年暮れに兵役にとられたのを皮切りにショート中村信一、エース野口明、主砲中村民雄を兵役にとられ、補強は先週一試合四失策の磯野政次だけとあって苅田監督としては人材は喉から手が出るくらい欲しい状況である。今シーズン苅田はMVPを獲得することになるが、数字的には何でと思われる方も多いかと思いますが、守備と共にこのような状況のチームを引っ張ったことが評価されたのである。

 タイガースは初回、先頭の山口政信が四球で出塁、ところが藤井勇の二ゴロをセカンド苅田が4B-3のゲッツー、再びところが藤村富美男の二ゴロを苅田がエラー、松木謙治郎の右越え二塁打で二死二三塁、伊賀上良平が左翼線に2点タイムリー二塁打、奈良友夫が右前タイムリーと続いて3点を先制する。更に2回、この回先頭の青木正一が中前打、岡田宗芳の遊ゴロで一死二塁、一死後藤井四球から藤村が中前にタイムリーを弾き返して4-0とする。ここでセネタースは村沢が降板して伊藤次郎がマウンドに上る。

 タイガース先発の青木は2回を無安打に抑えて3回から早くも釣常雄に交代。セネタースは5回、一死後横沢七郎の遊ゴロをショート岡田がエラー、伊藤右前打、磯野政次の二ゴロで二死二三塁、トップに返り苅田四球、北浦三男押出し四球で1-4、タイガースはここで釣をあきらめとっておきの御園生崇男を投入、ところが尾茂田叶が代り端を左翼線に2点タイムリーして3-4と追いすがる。タイガースは7回からライトの藤村富美男を四番手としてマウンドに送り、藤井がレフトからライト、御園生がマウンドからレフトに移動。

 3回以降二番手伊藤次郎に抑えられていたタイガースは7回、この回先頭の岡田が四球で出塁、山口の投ゴロで岡田は二進、藤井の遊ゴロで岡田は三塁に走りショート磯野は三塁に送球するが岡田の足が早くフィルダーズチョイス、藤井盗塁後、藤村の三ゴロの間に岡田が還ってノーヒットで1点を追加、5-3とする。

 藤村富美男は7回以降セネタースの反撃を断ちきり今季オールリリーフで3勝目をあげる。

 タイガースは昭和13年当時では極めて珍しい四投手によるリレーで勝利をもぎとった。2010年の日本シリーズを制した千葉ロッテマリーンズも細かな継投で逃げ切り、中継ぎで活躍した内竜也投手が打のヒーロー清田と共に優秀選手として表彰されました。内は2003年のドラフト1位、野球強豪校に行くことを拒否して川崎工業に進み甲子園を目指しましたが最後の夏はベスト8か4で敗退したと記憶しています。当時の神奈川は横浜・桐蔭・桐光・相模の四強の牙城を崩すのは至難の業でしたが、この年は給前の商大と内の川崎工業に期待がかかりました。甲子園に行った給前は切れのいい快速球、内は力のある速球を投げていました。共にプロを目指していましたが、甲子園に行けなかった内がロッテからドラフト1位、給前は現在BCリーグで投げておりプロ入りをあきらめてはいません。残念ながら決定的に球質が軽い。神奈川の決勝では横浜の成瀬と涌井からタイムリーを打っていますがバッティングでもやや非力。しかしあきらめるのはまだ早い。荒波翔もようやく横浜ベイから3位指名されました。横浜高校で1年夏からレギュラーだった荒波も高校でドラフトされず、大学でも全日本でしたがドラフトされずようやく同期の成瀬と同じ土俵に上ります。

 2003年ドラフトでロッテ6位の成瀬が今やエース、私は一つ下の涌井を評価しており成瀬には全く注目しておらずドラフトされたことにも気づいていませんでした。私の評価No1の内がようやく出てきて打の評価No1の荒波がようやくプロ入り、いつものことながら自らの見る目の無さにあきれる毎日です。そんな私を慰める記事を一つご紹介いたします。本日のスポニチの有本義明氏のコラム「昨日、今日、明日」に菊池の打者転向を薦める記述が見られます。私は菊池は下半身が硬くプロではコントロールに苦しむだろうと思い、馬力を生かしての打者転向説を唱えていましたので我が意を得たりというところです。日大桜丘の仲根は打者転向が遅すぎたため開花し損ないました。箕島の島本は入団当初は客寄せのためにピッチャーもやりましたがすぐに打者に転向してそこそこの成功を収めています。

2010年12月27日月曜日

13年春 イーグルスvsタイガース 2回戦

5月21日 (土) 西京極


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 イーグルス 3勝7敗 0.300 古川正男 望月潤一
2 1 0 3 0 0 0 1 X 7 タイガース 8勝1敗 0.889 西村幸生


三塁打 (タ)藤村


イーグルス、二試合連続完封負け


 タイガースはオーダーをがらりと変えてきた。


 タイガースは初回、一番(八)山口政信が右前打で出塁、二番(七)御園生崇男の初球に山口は二盗に成功、御園生は三振、三番(九)藤村富美男の右前タイムリーで1点を先制する。四番(三)松木謙治郎の右前打で藤村が三塁に達して一死一三塁、五番(五)伊賀上良平の左前タイムリーで2-0とする。六番(四)奈良友夫は中飛、七番(二)門前真佐人四球で二死満塁、八番(一)西村幸生遊ゴロで三者残塁。


 タイガースは2回、不動の九番(六)岡田宗芳が右前打で出塁、二死後藤村が左中間に三塁打を放って3-0とする。更に4回、一死後御園生崇男四球、ここでイーグルスベンチは先発の古川正男を下げて期待の大型左腕望月潤一を投入、藤村の右前打で一死一三塁、松木の二ゴロの間に三走御園生が還って4-0、伊賀上四球で二死一二塁、奈良に代わる代打本堂保次の中前タイムリーで5-0としてなお一三塁、門前が左前にタイムリーを放って6-0とする。


 イーグルスは初回、先頭の寺内一隆四球、野村実中前打、中根之四球で無死満塁と絶好の先制のチャンスを迎える。しかしバッキー・ハリス三飛、大貫賢捕邪飛、杉田屋守投ゴロで得点はならず。2回~7回は西村に無安打に抑えられる。


 タイガースは8回、一死後御園生に代わる代打藤井勇が右前打、藤村の三ゴロをサード漆原が一塁に悪送球して二三塁、松木の二ゴロの間に藤井が還って7-0とする。

 西村幸生は8回にヒットと四球で二走者を許すが得点は許さず、結局3安打6四球4三振でイーグルス打線を完封、3勝目をあげる。


 イーグルスはダブルヘッダーに連続完封負けを喫す。イーグルス二番手の望月潤一は5回以降、藤井勇に打たれた1安打に抑え1四球、2三振の好投、8回の1失点は無論自責点は付かず。

13年春 イーグルスvsジャイアンツ 2回戦

5月21日 (土) 西京極


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 イーグルス  3勝6敗 0.333 亀田忠
2 0 0 0 0 0 2 0 X 4 ジャイアンツ 7勝2敗 0.778 スタルヒン


スタルヒン 5勝0敗
亀田忠    1勝2敗


二塁打 (ジ)水原、スタルヒン


スタルヒン、二試合連続完封


 今週は京都シリーズが昭和7年に開場したばかりの西京極球場で行われる。

 ジャイアンツは初回、このところ新人の三田、野村にポジションを明け渡して久々に一番センターで先発出場の呉波が四球で出塁、二盗を試みるもバッキー・ハリスの強肩に刺される。白石敏男が一塁に内野安打、水原茂が左中間に二塁打を放ち一死二三塁、中島治康が右前にタイムリーを放ち二者還り2点を先制する。3回にも二死から左翼線ヒットで出塁した水原が二盗を試みるもこれまたハリスに刺される。

 ジャイアンツは7回、一死後吉原正喜が四球で出塁、スタルヒンが右中間を抜く二塁打を放ち一死二三塁、トップに返り呉の代打に起用された川上哲治が四球を選んで一死満塁、白石敏男が右前に2点タイムリーを放って4-0とする。水原の遊ゴロでランナーが入れ替わると水原が二盗を敢行、しかし三度ハリスの強肩に刺されてチェンジ。

 イーグルスは初回、二塁に寺内一隆を置いてハリスが右前打を放つがホームを突いた寺内がライト中島の強肩に刺されて先制のチャンスを逃す。2回にも大貫賢と野村実にヒットが出るが無得点。3回以降はスタルヒンが調子を上げてチャンスらしいチャンスはつかめず。7回に亀田忠のヒットと水原のエラーで無死一二塁のチャンスが巡ってくるが無得点。8回も漆原進の内野安打と代打太田健一の左翼線ヒットに好走塁を絡めて無死二三塁のチャンスを作るが後続無く得点はならず。

 イーグルスは9回、一死後杉田屋守に代わる代打木下政文が四球で出塁、吉原のパスボールで木下は二進、二死後山田潔に代わる代打古川正男は三振を喫するがスリーストライク目がワイルドピッチになって振り逃げで二死一三塁とするが漆原三振でゲームセット。

 スタルヒンは7安打3四球5三振で二試合連続完封勝利、ハーラー単独トップの5勝目をあげる。

 吉原正喜は9回にパスボールを犯した。開幕戦の初回にスタルヒンの球をパスボールして以降、5月1日の阪急1回戦ではスタルヒンがリリーフに出ると田代須恵雄に交代させられ、5月7日と15日のスタルヒン先発の試合では先発をはずされ田代がマスクを被っている。パスボールは走者がいる時にしか記録されないのでおそらく走者のいない時にもポロポロやっていたのであろう。初めはスタルヒンに良く文句を言われていたという逸話はいたるところで語られているが、スコアブックに残された記録もそれを裏付けている。吉原が猛練習の末スタルヒンの球が捕れるようになるのはもう少し先のようである。既に吉原の体はアザだらけになっていることであろう。



13年春 阪急vs金鯱 2回戦

5月21日 (土) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 1 0 0 0 0 1 阪急 5勝4敗 0.556 森弘太郎 石田光彦
0 0 0 1 0 0 0 2 X 3 金鯱 4勝6敗 0.400 古谷倉之助


勝利投手 古谷倉之助 1勝4敗
敗戦投手 石田光彦     2勝2敗


二塁打 (阪)黒田 (金)小林茂
本塁打 (金)小林茂 1号


小林茂太、獅子奮迅の働き

 現在三連勝の阪急は森弘太郎の先発、一方金鯱は古谷倉之助でダブルヘッダー連勝を狙う。

 3回まで1安打に抑えられていた金鯱は4回、この回先頭の小林茂太が右中間に二塁打、古谷が一塁線に送りバントを決めて一死三塁、二死後武笠茂男の打席にワイルドピッチで生還して1点を先制する。

 4回まで毎回安打の阪急は5回、一死後上田藤夫が三塁に内野安打、続く黒田健吾が右翼線に二塁打を放ち上田は三塁に進み、ライトからの返球の隙を突いてホームに還り1-1の同点とする。この場面は翌日の読売新聞には「単打の上田が黒田の二塁打に続く宮武の遊ゴロで生還する」と記述されています。確かに続く宮武三郎は遊ゴロに倒れていますが打点は記録されていません。上田の生還の記録は字が小さすぎて判別しづらいのですがセカンドとキャッチャーが絡むプレーの間に生還していることは分かりますので恐らく中継プレーの隙を突いた走塁であったと考えられます。この間守備側にはエラーは記録されておりません。因みに読売新聞の記事は全て署名入り記事であり、現場で取材しているケースも多く大変参考になるのですが、現場の記者がつけてきたスコアブックを見て記事を起こしているにすぎないとしか思えないミスも散見されますのでご注意ください。

 阪急は7回まで3安打に抑えている森弘太郎を下げて8回から石田光彦をリリーフに投入するがこれが裏目に出た。すなわち、金鯱は8回、一死後江口行男が四球で出塁、瀬井清は中飛に倒れるが続く小林茂太が右翼ポール際にホームランを叩き込んで3-1とリードする。

 古谷倉之助は9安打を浴びながら2四球1三振の完投、久しぶりにヒットは打たれながら得点は許さないというのらりくらり投法が決まって今季初勝利をあげる。

 翌日の読売新聞には「阪急がこれという武器もない森を8回から石田に代えたのは当然の策で」と記述されている。後年名投手となる森弘太郎も、この時点ではまだこの程度の評価であったことがうかがわれる。

 なお、昨年の金鯱の主砲小林利蔵が兵役で抜けたため「小林」姓は小林茂太だけとなりフルネーム或は小林茂の表記は必要なくなりましたが、小林利蔵は昭和14年には戦地から戻ってきますので、このままの表記で行きたいと思います。

2010年12月26日日曜日

13年春 ライオンvs金鯱 2回戦

5月21日 (土) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 1 0 0 0 1 0 0 2 ライオン 4勝6敗 0.400 近藤久
0 1 0 1 1 1 0 0 X 4 金鯱    3勝6敗 0.333 中山正嘉


勝利投手 中山正嘉 2勝1敗
敗戦投手 近藤久   0勝2敗


三塁打 (金)江口


金鯱、小刻みに加点


 金鯱は2回、先頭の小林茂太が四球で出塁、中山正嘉が送って松元三彦の左前タイムリーで1点を先制する。

 ライオンは3回、先頭の中野隆雄が四球で出塁、柳澤騰市が送って二死後坪内道則の右前タイムリーで1-1の同点に追い付く。

 金鯱は4回、この回先頭の小林茂が右前打で出塁、続く中山の一ゴロをファースト桜井七之助が二塁に送球、これをショート中野が失して無死一二塁、松元のバントは捕前のゴロとなりキャッチャー藤浪光雄は三塁に送球、しかしこれをサード柳澤騰市がエラー、無死満塁から武笠茂男の遊ゴロは6-2と渡り小林茂は本封、続く岡野八郎が押出し四球を選んで2-1と勝ち越す。

 金鯱は5回、この回先頭の江口行男が右中間に三塁打、続く瀬井清がセンター左にタイムリーを放って3-1。更に6回、二死から岡野が三塁に内野安打、佐々木常助が四球でつなぎ、トップに返り五味芳夫が中前にタイムリーを放って4-1と小刻みに加点する。

 ライオンは7回、この回先頭の中野が左前打で出塁、柳澤の投ゴロでランナーが入れ替わり、近藤久の二ゴロをセカンド江口がエラー、トップに返り坪内が中前にタイムリーを弾き返して2-4とする。
 
 ライオンは8回、二死から藤浪が二遊間に内野安打、中野が中前打で続いて二死一二塁、柳澤に代わる代打室井豊が二塁に内野安打、二走藤浪は三塁からホームを狙うがセカンド江口からの送球に刺されてチェンジ。9回も五味芳夫のエラーで坪内が一塁に生きるが後続を断たれてゲームセット。

 中山正嘉は前回先発の5月14日、対名古屋1回戦では12奪三振の熱投を見せたがこの日は6安打3四球2三振と普段通りの打たせて取るピッチングで完投、2勝目をあげる。期待の大きい中山が勝てるようになってくれば金鯱の上位浮上も現実味を帯びてくる。


(2010年12月27日 20時23分追記:タイトルが間違っていました(12年春になっていました)ので訂正させていただきました。)



13年春 ライオンvs名古屋 2回戦

5月21日 (土) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 ライオン 4勝5敗 0.444 菊矢吉男
2 0 0 0 0 0 0 3 X 5 名古屋   3勝6敗 0.333 松尾幸造


勝利投手 松尾幸造 1勝6敗
敗戦投手 菊矢吉男 4勝4敗


二塁打 (名)松尾
三塁打 (名)村瀬


ライオン、5個のダブルプレーを喫す


 ライオンは初回、先頭の坪内道則がいきなり死球で出塁、大友一明の初球に二盗、キャッチャー三浦敏一の送球が逸れる間に三塁に達する。大友三振後、鬼頭数雄が右前にタイムリーを放って1-0、水谷則一も右前打で続いて一死一二塁、しかし好調桜井七之助は三球連続の空振り、スタートを切っていた鬼頭は三浦の送球に刺されて三振ゲッツー。

 名古屋は1回裏、一番石田政良の遊飛をショート中野隆雄が落球、一死後桝嘉一が二塁に内野安打、白木一二四球で一死満塁、大沢清が押出し四球を選んで1-1の同点、三浦敏一の三ゴロゲッツー崩れの間に桝が還って2-1と逆転する。

 ライオンは2回、一死後中野が左前打で出塁するが柳澤騰市の三塁小飛球に飛びだしゲッツー。3回、先頭の菊矢吉男が左前打で出塁するが坪内道則のサードライナーに飛び出してゲッツー。4回、鬼頭右前打、水谷四球で無死一二塁とするが桜井のショートへの小飛球に鬼頭が飛び出し4イニング連続ダブルプレーを記録する。

 ライオンは6回、一死後四球に生きた鬼頭が二盗に成功するが調子に乗って三盗に失敗。7回には藤浪光雄の四球、柳澤の中前打で一死一二塁とするが、菊谷が三球連続の空振り三振、更にキャッチャー三浦が一塁に牽制球を投じて柳澤を刺して三振ゲッツー、ライオンはこの日5個のダブルプレーを記録する。

 名古屋は8回、この回先頭の桝が左前打で出塁、白木の遊ゴロでランナーが入れ替わり、大沢四球で一二塁、三浦は三振に倒れるが続く村瀬一三が左中間に三塁打を放って二者還り4-1、松尾の右前タイムリーで5-1と突き放す。

 松尾幸造はライオンの拙攻に助けられて6安打6四球5三振の完投でうれしい今季初勝利を飾る。女房役三浦敏一が3つの刺殺を決めて援護する。松尾は常に走者を背負ったピッチングとなるが、力み過ぎに起因しているようで、力の抜き方を覚えればもっと勝てるピッチャーになるはず。

 ライオン7回の攻撃での菊谷の三振のスリーストライク目をキャッチャー三浦が一塁牽制で刺したプレーが「併殺」に該当するか否かは記録の達人で無いと即答は難しいかもしれません。一般にスリーストライク目に盗塁を刺した場合は「三振ゲッツー」として併殺が記録される点についてはほとんど疑問の余地はないと思いますが、牽制の場合となると少なくとも当ブログの知識レベルでは即答はできません。スコアブックの併殺数を記録する欄には併殺数が5と記載されており、「雑記」欄に「7回にも1併殺 計5---いずれも二人コンビ」と書かれているので併殺として取り扱うこととさせていただきます。ルール上は「三振時にボールデッドになるまでに走者をアウトにした場合は併殺とする」と解されるようなので、スリーストライク目に盗塁を刺した場合でも牽制で刺した場合でも「併殺」に該当するのではないかと思われますが断言はできませんのでご注意ください。



13年春 第3節 週間MVP

 今節は阪急が3勝0敗、ジャイアンツが3勝0敗、タイガースが2勝1敗、イーグルス・金鯱・名古屋・セネタースが1勝2敗、ライオンが0勝3敗であった。阪急は浅野、石田、小田野がそれぞれ完投勝利を収め、山下実が監督に専念して出場していないがチームとして機能してきており、戦力から見ても今季は期待してよいのではないか。


週間MVP


 投手部門


 阪急 小田野柏 1

 スタルヒンがリリーフと完封で2勝をあげたが、矢張りタイガースの開幕八連勝を止めた小田野の完封勝利を評価したい。


 打撃部門


 阪急 宮武三郎 1

 今節三試合連続2打点をあげて13打数6安打6打点。阪急三連勝の打の立役者となった。
 今節は景浦将が11打数3安打5打点、中島治康が三試合連続打点をあげて14打数4安打5打点と、戦前を代表する三人が揃い踏みするという歴史的な週となった。


 ライオン 桜井七之助 1

 チームは三連敗ながら今節11打数7安打4打点と大暴れ。現在打撃ベストテンの二位に頑張っている。



殊勲賞


 名古屋 大沢清 1

 イーグルス2回戦において桶狭間の奇跡を演出する逆転三塁打を評価。大沢清は戦争から復員すると弟・啓二がぷー太郎をしているのを見て「喝」を入れ、大沢親分はこれを機会に野球に実を入れるようになった。



敢闘賞


 ジャイアンツ 千葉茂 1

 今節14打数5安打2得点5打点、二塁打1、三塁打2の活躍、猛牛伝説がスタートすることとなった。

 名古屋 石田政良 1

 今節10打数6安打、目立たないが、今シーズン終了時点に於いても打撃ベストテンの第三位に入ることとなる好打者。

 


技能賞 


 セネタース 苅田久徳 1

 守備を評価することはスコアブックの解読からは至難の業ですが、タイガース戦で見せた無死一三塁から三塁ランナー松木謙治郎をくぎ付けにする1-4-3のダブルプレーは、ピッチャーから送球を受けて眼でランナーを牽制したままでのノールックスローであったと強く推認できる。いわゆる苅田ならではの妙技というやつ。


 金鯱 江口行男 1

 今節11打数5安打、ジャイアンツ戦ではスタルヒンから2安打を放ってノーヒットノーランを免れる。































 

2010年12月25日土曜日

13年春 ジャイアンツvs金鯱 2回戦

5月15日 (日) 鳴海


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
2 0 0 1 3 0 0 0 1 7 ジャイアンツ 6勝2敗 0.750 スタルヒン
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 金鯱             2勝6敗 0.250 古谷倉之助 中山正嘉


勝利投手 スタルヒン    4勝0敗
敗戦投手 古谷倉之助  0勝4敗


二塁打 (ジ)水原
三塁打 (ジ)千葉2


猛牛伝説の始まり


 ジャイアンツは一番センターに結果の出ない三田政夫に代えて野村高義を起用、しかし野村も結果がついてこず、徐々に呉波の出番が増えていくことになる。吉原正喜は二度目のスタメン落ちで田代須恵雄がマスクを被る。

 ジャイアンツは初回、先頭の野村が四球で出塁、白石敏男の遊ゴロでランナーが入れ替わり、水原茂の右中間二塁打で白石が還って1点を先制、中島治康が右前タイムリーで続き2-0とする。

 ジャイアンツは4回、この回先頭の千葉茂が中越えに三塁打、ワイルドピッチでホームに還り3-0。更に5回、野村四球、白石三塁内野安打、水原の三ゴロで野村は三封、ワイルドピッチで一死二三塁、中島は投ゴロに倒れて二死二三塁、伊藤健太郎が四球を選んで二死満塁、ここで千葉が又もや中越えに三塁打を放ち三者生還して6-0とする。後年「猛牛」と呼ばれることとなる千葉茂にとって、猛牛伝説の始まりとなる活躍であった。ジャイアンツは9回にも一死満塁から中島の二ゴロの間に1点を追加して7-0で快勝、鳴海シリーズを締める。

 スタルヒンは初回に江口行男に右前打を許して以降は快調なピッチングを続け2回~8回を2四球1死球の無安打ピッチング、9回に江口にこの日2本目のヒットを右前に許すが堂々の完封で今季4勝目をあげる。


 昭和9年、読売新聞がベーブ・ルース等を招聘して全日本との試合が全国各地で行われた。鳴海球場でも11月22、23日に二試合が行われたが、読売はこの興行権を新愛知新聞に譲っている。正力松太郎はすでにプロ野球リーグ戦の構想を練っており、名古屋地区にもプロ球団を誕生させるためにプロ野球興行の美味しさを新愛知新聞にも味あわせる作戦を敢行した。作戦は成功、公称二万人収容の鳴海球場(当時は内野までしかスタンドが無かった。)には三万人の観衆が詰めかけて興行的に大成功を収めた。これに味をしめて新愛知新聞は名古屋軍を結成することとなり、ライバル名古屋新聞も金鯱軍を結成し、中部地区に2球団が誕生することとなったのである。

 「野球界」昭和10年1月号には「東海地区は全国屈指の野球黄金の地の事とてこの22日の一戦には三万ファンに囲まれて開始された」と記されている。二万人しか入らない球場に三万人を集めたらどうすれば良いのか、スタンドの切れた内野から外野ににかけてロープを張って即席の立見席にしたか簡易なスタンドを造ったのであろう。でなければ二万人収容の球場に三万人を集めることはできない。

 鳴海球場は甲子園球場並みの広さを誇り、昭和9年の全米軍も甲子園同様鳴海球場ではホームランを打っていません。千葉茂の2本の三塁打も鳴海球場ならではのものでしょう。この二日間で後楽園球場では7本のホームランが出ていますが鳴海球場は当然0本でした。


*この写真は本邦初公開となります。当時の報道写真にベーブ・ルース、ジミー・フォックス、ルー・ゲーリッグのサインが入れられ関係者に配られたものです。元新愛知新聞社の関係者から出てきたものなので、恐らく鳴海球場での試合前に撮影されたものと推測できます。




*当時の報道写真の証である「YC」の刻印が右下にあります。





*後方に見えるのが立見席に詰めかけた観衆ではないかと思われます。















13年春 ジャイアンツvs名古屋 1回戦

5月15日 (日) 鳴海


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 3 3 0 0 0 0 2 8 ジャイアンツ 5勝2敗 0.714 前川八郎
1 0 0 2 0 0 0 0 0 3 名古屋         2勝6敗 0.250 松尾幸造


勝利投手 前川八郎 1勝1敗
敗戦投手 松尾幸造 0勝6敗


二塁打 (ジ)白石、千葉 (名)桝


前川八郎、完投で今季初勝利


 ジャイアンツは好調が伝えられる前川八郎が先発、一方名古屋は力がありながら今季0勝5敗の松尾幸造でダブルヘッダー連勝を狙う。

 名古屋は初回、先頭の石田政良が一塁内野安打で出塁、二番鈴木秀雄がエンドランを決めて右前打して無死一三塁とする。スコアブックの記載だけでは石田が鈴木の当りで三塁に進んだことしか読み取れませんのでエンドランがかかっていたか否かは特定できませんが、ここは翌日の読売新聞に「ヒット・エンド・ラン」の記述がありますのでそれに従いました。桝嘉一の二ゴロの間に石田が還って1点を先制する。

 ジャイアンツは3回、先頭の三田政夫が四球で出塁、白石敏男右翼線二塁打、水原茂四球で無死満塁、中島治康が右犠飛を打ち上げて1-1の同点として一死一三塁、水原が盗塁を決めて二三塁、伊藤健太郎の遊ゴロの間に白石が還って2-1と逆転、千葉茂が右中間にタイムリー二塁打を放って3-1とする。

 ジャイアンツは4回、吉原正喜、前川八郎が連続四球、三田の三前送りバントが犠打エラーとなり無死満塁、一死後水原が右前に2点タイムリーを放って5-1としてなお一三塁、中島が右犠飛を打ち上げて6-1とリードを広げる。

 名古屋は4回裏、この回先頭の石丸藤吉が四球で出塁して一死後二盗に成功、松尾、村瀬一三が連続四球で続いて一死満塁、石田が左前にタイムリーを放って2-6、桝の三塁内野安打で3-6とする。

 ジャイアンツは9回、この回先頭の伊藤四球、千葉左前打、永澤富士雄の投ゴロで伊藤は三封、吉原四球で一死満塁、前川が押出し四球を選んで7-3、8回から三田に代わってセンターに入っている呉波が左犠飛を打ち上げて8-3とする。

 前川八郎が8安打5四球7三振の完投で今季初勝利をあげる。松尾幸造も完投して10安打8四球3三振、力はあるのだがまだまだピッチングが荒く勝星なしの六連敗と名古屋の負けを一人で背負い込んでいる。

 伊藤健太郎はこの日4打数2安打、今季25打数12安打、打率4割8分0厘で現在断トツの首位打者である。



13年春 イーグルスvs名古屋 2回戦

5月15日 (日) 鳴海


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 2 2 0 4 イーグルス 3勝5敗 0.375 古川正男 亀田忠
0 0 0 1 0 0 0 5 X 6 名古屋    2勝5敗 0.286 森井茂


勝利投手 森井茂   1勝0敗
敗戦投手 古川正男 0勝3敗


二塁打 (名)白木、石田
三塁打 (イ)ハリス (名)大沢


桶狭間の奇跡


 イーグルスは下手投げの軟投派古川正男が先発、名古屋も軟投派というよりスローボーラー森井茂が先発。翌日の読売新聞は「名軍森井の緩球は第一球より打って出るイ軍打者を着々凡打に討取って柔よく剛を制するピッチングの巧さを味わしめ、一方イ軍古川の軟投も名軍打者を抑えてスピーディな投手戦を展開」と伝えている。森井を緩球、古川を軟投と伝える微妙な違いをご堪能ください。この試合は得点が入った割には1時間13分の短時間で終了しています。もし終盤の点の取り合いが無ければ、昭和12年8月27日のイーグルスvs名古屋1回戦で記録した57分を更新していたかもしれません。この時は森井が完封しています。

 名古屋は4回、この回先頭の二番鈴木秀雄が四球で出塁、桝嘉一が送って白木一二が左中間にタイムリー二塁打を放ち1点を先制、代走に小島茂男が起用されそのままレフトに入る。

 イーグルスは7回、この回先頭の四番バッキー・ハリスが中前打で出塁、中河美芳の投前送りバントが野選を誘い、杉田屋守の三前送りバントをサード大沢清が悪送球して犠打エラーとなり無死満塁、古川の三ゴロの間にハリスが還って1-1の同点としてなお一死二三塁、続く山田潔の当りはセカンド後方にふらふらと上がる飛球、セカンド石丸藤吉が向こうむきで捕った瞬間三走中河はタッチアップからホームに突進、生還して2-1と逆転に成功する。山田の非力が効を奏した模様。山田には打点が記録されています。

 イーグルスは8回、一死後野村実が遊撃内野安打で出塁、二死後ハリスが中越えに三塁打を放ち3-1、中継のショート村瀬一三からのバックサードが高投となりハリスも生還して4-1、終盤にきての4点で勝負あったかに見えた。

 名古屋は8回裏、この回先頭の森井は三ゴロ、村瀬も三ゴロに倒れたかに見えたがサード漆原がエラー、トップに返り石田政良が左中間に二塁打を放ち一死二三塁、鈴木秀雄の右前タイムリーで2-4、桝が四球を選んで一死満塁、小島は捕邪飛に倒れて二死満塁、ここでイーグルスベンチは大沢の右打ちに備えてかセンター寺内一隆とライト中根之を入れ替える。しかし大沢はいつも通りの右打ち、打球はライト戦を転々とする三塁打となり三者生還、5-4と逆転に成功、石丸藤吉も中前タイムリーで続いて電光石火の攻撃で6-4と大逆転。帰り支度に入っていたイーグルスはここで古川から昨日のダブルヘッダーに連投した亀田忠を投入、三浦敏一を中飛に打ち取りようやく名古屋の攻撃が終了する。

 森井茂は9回のイーグルスの反撃も無得点に抑えて4安打2四球1三振の完投で今季初勝利をあげる。古川は7回3分の2を投げて7安打4四球0三振。

 尾張名古屋の大逆転劇、名古屋は地元鳴海球場で奇襲攻撃を敢行し、イーグルスを討ち取ったのである。

13年春 阪急vsタイガース 3回戦

5月15日 (日) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
1 0 2 0 0 0 0 1 0 4 阪急     5勝3敗 0.625 小田野柏
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 タイガース 7勝1敗 0.875 西村幸生 御園生崇男


勝利投手 小田野柏 1勝1敗
敗戦投手 西村幸生 2勝1敗


二塁打 (阪)堀尾
本塁打 (阪)宮武 1号


小田野柏、猛虎を封じる


 タイガースは大エースの風格がでてきた西村幸生が先発。一方、阪急はルーキー小田野柏が先発。小田野は今季三度目の登板、初登板のジャイアンツ戦では4回までノーヒットピッチングを続け勝利に貢献し、二度目のタイガース戦も6安打に抑えて1対2の惜敗であった。阪急ベンチがダブルヘッダー第一試合のセネタース戦に石田光彦を回して小田野をタイガースにぶつけてきたところから見ても、 既にローテーションの柱となっている。

 阪急は初回、先頭の西村正夫が四球で出塁しパスボールで二進、上田藤夫は二ゴロで西村を三塁に進め、二死後四番宮武三郎が中前にタイムリーを放つ。トップが出塁して二番が進塁打で送り四番が決めるという理想的な攻撃で1点を先制する。

 2回は宇野錦次四球、小田野中前打、西村四球で満塁とするが上田三振でチャンスを潰すが阪急は3回、この回先頭の黒田健吾の三ゴロを名手伊賀上良平が一塁に悪送球して黒田は二進、宮武の二ゴロで黒田は三進、ジミー堀尾文人が左中間に二塁打を放って2-0、フランク山田伝の中飛で堀尾はタッチアップから三塁に進み、宇野の右前タイムリーで3-0とする。

 タイガースは初回、一死後藤村富美男の右前打と山口政信の四球で一二塁のチャンスを作るが景浦将左飛、伊賀上三ゴロでチェンジ。2回も二死から西村が四球で出塁するが無得点。3回は先頭の松木謙治郎中前打、藤村四球で無死一二塁のチャンスを作るが山口三ゴロ、景浦三飛、伊賀上遊失で二死満塁とするが藤井勇が三振と小田野をあと一歩まで追い詰めるが攻めきれず。タイガースは4回から西村に代えて御園生崇男を投入、逆転に向けて態勢を整える。この時点ではいずれ小田野を捕まえてみせるという自信があったのだろう。

 代わった御園生は7回まで堀尾に四球を与えたのみでノーヒットピッチング。タイガースは4回も御園生の右前打、松木が四球とランナーは出すが得点に結びつかず4回で8残塁を喫す。5回は初の三者凡退、6回は先頭の藤井が四球で歩くが続く御園生の痛烈な流し打ちをファースト宮武がジャンプ一番好捕してそのままベースを踏んでゲッツー、7回も一死後松木が宮武のエラーに生きるが盗塁失敗。

 阪急は8回、この回先頭の宮武が左翼スタンドにホームランを放ち待望の追加点、4-0とリードを広げる。

 タイガースは8回も無死から山口、景浦が連続四球を選ぶが伊賀上中飛、本堂保次三飛、御園生は右飛に倒れる。最終回も一死後岡田宗芳が左翼線にヒットを放つが奈良友夫の遊ゴロが6-4-3と渡ってゲッツー、試合終了のサイレンが鳴り響く。

 小田野柏はタイガースが誇る西村幸生、御園生崇男を向こうに回して4安打7四球2三振、堂々の完封でプロ入り初勝利を飾る。圧巻は3回二死満塁で藤井を三振に打ち取った場面と8回無死一二塁で三連続フライアウトに打ち取った場面。終盤になっても球威は落ちていなかったのであろう。冒頭にも記したように小田野は一戦毎にたくましくなってきている。本日の完封は偶然ではなく必然であったのである。

 阪急の1回、3回の攻撃では上田と宮武が走者二塁の場面で走者を三塁に進める二ゴロを打って得点に結び付けています。このような進塁打は阪急の住友平、南海の桜井輝秀が得意としていました。特に桜井は、オールスターの晴れ舞台においても走者二塁の場面で内角球を無理やり(と見えました)セカンドゴロにしてランナーを進めました。記録を調べてみると桜井がオールスターに出場したのは1973年、74年の二度なので、私がテレビで目撃した試合はいずれかのものであったはずです。

 阪急は戦いぶりが変わってきました。昨年は期待を裏切りましたが、今季は期待してよいのではないでしょうか。




*小田野柏のプロ入り初勝利を伝えるスコアブック





*3回、二死満塁で藤井勇を三振に打ち取った場面





*8回、無死一二塁で三連続フライアウトに打ち取った場面

13年春 阪急vsセネタース 1回戦

5月15日 (日) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
3 2 0 0 0 0 0 2 2 9 阪急     4勝3敗 0.571 石田光彦
0 2 0 0 0 0 0 0 2 4 セネタース 3勝5敗 0.375 浅岡三郎


勝利投手 石田光彦 2勝1敗
敗戦投手 浅岡三郎 2勝3敗


二塁打 (阪)西村
本塁打 (阪)山田 1号 (セ)青木 1号


セネタース8失策


 阪急は初回、先頭の西村正夫が右翼線に二塁打、上田藤夫の一塁内野安打と盗塁で無死二三塁、黒田健吾の中前打で西村が還り上田も三塁を蹴ってホームに向かう。タイミングはアウトであったがセンター尾茂田叶からのバックホームをキャッチャー北浦三男がエラーして2点を先制してなお無死二塁、宮武三郎が右翼線にタイムリーで続き3-0とする。

 阪急は2回、一死後西村が中前打で出塁、上田左前打、黒田の三ゴロをサード今岡謙次郎からの送球をセカンド苅田久徳がエラーして一死満塁、宮武の左前タイムリーで4-0、一死後フランク山田伝の遊ゴロをショート磯野政次がエラーして5-0とする。

 セネタースは2回裏、一死後伊藤次郎が四球で出塁、二死後青木幸造が左翼スタンドにホームランを放ち2-5とする。序盤戦は点の取り合いとなったが3回以降石田光彦、浅岡三郎が立ち直り7回まで両軍無得点。

 阪急は8回、この回先頭の島本義文がショートに内野安打、石田の遊ゴロをショート磯野がこの日4個目のエラー、西村の投ゴロで島本は三封、しかし上田の投ゴロを浅岡が三塁に悪送球する間に二走石田に続いて一走西村も快足を飛ばしてホームに還り7-2とする。

 阪急は9回、この回先頭の山田伝が左翼スタンドにホームランを叩き込んで8-2、一死後島本の中前打をセンター尾茂田が後逸して一死三塁、石田が左犠飛を打ち上げて9-2とする。

 セネタースは9回裏、綿貫惣司中前打、伊藤右前打とワイルドピッチで無死二三塁、二死後磯野に代わる代打佐藤武夫の左前タイムリーで3-9、今岡四球後、苅田の内野安打で4-9とするがここまで。

 石田光彦は11安打2四球4三振の完投で今季2勝目をあげる。浅岡三郎は8失策のバックに足を引っ張られて今季3敗目を喫す。

13年春 ライオンvsセネタース 2回戦

5月15日 (日) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 2 0 1 0 0 0 3 ライオン   4勝4敗 0.500 菊矢吉男
0 0 2 0 1 1 2 0 X 6 セネタース 3勝4敗 0.429 金子裕


勝利投手 金子裕     1勝1敗
敗戦投手 菊矢吉男 4勝3敗


二塁打 (ラ)鬼頭 (セ)苅田、伊藤
本塁打 (ラ)桜井 1号


金子裕、安定度抜群


 ライオンはチームの全勝星をあげている菊矢吉男、セネタースはこのところコントロールが安定して好投を続けている金子裕の先発。5月13日付け読売新聞の予想記事には「金子あたりのシュートボールが奏功すれば鬼頭、水谷の主力打者が左利きなのでセ軍の活路も拓ける・・・」と記されている。目立たないが見どころのあるゲームが期待できる。

 セネタースは3回、一死後本日一番に起用された森口次郎が四球で出塁、苅田が右中間を破り森口を迎え入れて1点を先制、二塁打の苅田はバックホームの間に三塁を陥れる。この走塁が効いて北浦三男の左犠飛で苅田が生還して2-0とする。1安打で2得点というところがセネタースらしい攻めである。

 ライオンは4回、二死後四番水谷則一が左対左を苦にせず中前打で出塁、桜井七之助が左翼スタンドにホームランを叩き込んで2-2の同点とする。

 セネタースは5回、一死後苅田がショートへの内野安打で出塁してすかさず二盗、続く北浦の右前打で苅田は三塁を蹴ってホームに突進、ライト水谷のバックホームが高く逸れて苅田がホームイン、3-2とする。水谷にエラーが記録され北浦には打点は記録されない。

 ライオンは6回、この回先頭の坪内道則が右前打で出塁、大友一明の投ゴロでランナーが入れ替わり二死後大友が水谷の初球に盗塁、水谷四球後、桜井が右前にタイムリーを放って再び3-3の同点に追い付く。なお一三塁から桜井が盗塁、これは北浦の送球に刺されてチェンンジ。

 セネタースは6回裏、この回先頭の伊藤次郎が右翼線に二塁打、金子の投ゴロで伊藤は三塁に走る、菊谷は三塁に送球するがこれが悪送球となり伊藤が生還して4-3と三度リードする。更に7回、この回先頭の森口が四球で出塁、苅田も四球、北浦が送って尾茂田叶四球で一死満塁、この日五番に起用された佐藤武夫に代わる代打家村相太郎は三振、しかし伊藤の遊ゴロをショート中野隆雄がエラーし森口が還りて5-3、金子が右前にタイムリーを放ち6-3とする。

 自らのエラーで決勝点を与えてしまった菊矢吉男は8回を投げ抜き8安打5四球5三振、6失点自責点3であった。7回の2失点はエラーが絡んでいるが6回の決勝点は自責点にはならなくとも自らの悪送球であり反省が必要。ライオンの全打点を記録した桜井七之助はこの日4打数3安打3打点、これで七試合連続安打、今季29打数11安打、打率3割7分9厘でジャイアンツ伊藤健太郎に次いで打撃ベストテンの二位につけている。

 金子裕は7安打1四球2三振の完投で今季初勝利をあげる。金子は今シーズン四度目の登板となる。4月29日はリリーフで4回を3安打3四球であったが、5月に入って見違えるピッチングを見せている。すなわち、5月8日・8回を5安打1四球、5月9日・6回を3安打1四球、本日が9回を7安打1四球。5月の3試合で防御率1.57、WHIP0.78である。

 WHIPは(被安打+与四球)÷投球回数で算出されます。すなわち1イニング当りヒットと四球で何人の走者を出したかを算出する指数であり、当然数値が低い方が安定した投球を表します。投手の基本である「走者を出さない」を数値化した指数であり、年間の世界記録は2000年にペドロ・マルチネスが記録した0.74です。金子裕は短期間とはいえ、全盛期のペドロ・マルチネス並みの投球をしていることになります。

2010年12月24日金曜日

訂正のお知らせ ②

 12月21日にアップしました阪急vsライオン1回戦の阪急の勝敗を2勝4敗と記載しておりましたが3勝3敗の間違いですのでお詫びして訂正させていただきます。

 重ね重ね申し訳ございません。本文は訂正させていただいております。

訂正のお知らせ

 12月22日にアップしましたタイガースvsセネタース1回戦における松木謙治郎の本塁打を第1号と記載していましたが第2号の間違いでしたのでお詫びして訂正させていただきます。 

 12月23日にアップしました名古屋vs金鯱1回戦の松尾幸造の勝敗を0勝4敗と記載していましたが0勝5敗の間違いでしたのでお詫びして訂正させていただきます。

 間違いが生じた理由は単純な集計ミスによるものです。シーズン当初ということでまだエクセルでの管理をしておらず記憶に頼っていたことに起因しております。早速エクセルでの管理に変更します。本文は訂正済みです。

2010年12月23日木曜日

13年春 名古屋vs金鯱 1回戦

5月14日 (土) 鳴海


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 4 0 0 0 0 0 4 名古屋 1勝5敗 0.167 松尾幸造 繁里栄 木下博喜
0 1 3 0 1 0 0 0 X 5 金鯱   2勝5敗 0.286 中山正嘉


勝利投手 中山正嘉 1勝1敗
敗戦投手 松尾幸造 0勝5敗


二塁打 (名)大沢
三塁打 (金)瀬井


中山正嘉、熱投12奪三振


 この試合が、鳴海球場で行われた名古屋vs金鯱戦の公式戦としては歴史上唯一の試合となります。日本運動協会(芝浦協会)、宝塚運動協会、天勝野球団以降のプロ野球公式戦は昭和11年に始まりますが、昭和11年は小さなリーグ戦やトーナメント戦形式で行われています。昭和11年5月16、17日に行われた第1回日本職業野球連盟試合・名古屋大会が鳴海球場で開催されましたが、ここには金鯱が参加しておらず両チームの対戦はありませんでした。同年10月4~6日に第2回全日本野球選手権大会・名古屋大会が鳴海球場でトーナメント方式で行われました。1回戦のタイガースvs名古屋の勝者が金鯱と対戦する組合せとなりましたが10対5でタイガースが勝ったため名古屋vs金鯱戦は実現しませんでした。昭和15年にも鳴海球場で公式戦が8試合行われますが、4月20日が名古屋vs南海、阪急vsセネタース、4月21日が阪急vs名古屋、南海vsセネタース、満州シリーズを経て10月26日が翼vs金鯱、巨人vs黒鷲、10月27日が翼vs黒鷲、巨人vs金鯱のみで名古屋vs金鯱戦は行われておりません。

 14時28分、川久保喜一主審の右手が上がり試合開始。ここまで名古屋は1勝4敗、金鯱は1勝5敗で最下位争いを繰り広げているが、ここは熱戦を期待したいところ。

 金鯱は2回、一死後中山正嘉は三振、ところがキャッチャー三浦敏一が正規に捕球できず中山は一塁に走る、三浦から一塁への送球が逸れて中山は一塁に生きる。いわゆる振り逃げである。記録は「K 2’」となっている。三振は通常「SO-2」と記録され、捕手には刺殺が記録される。キャチャーが正規に捕球できなかった場合は打者走者にタッチするか一塁に送球してアウトにする必要があり、打者がアウトであれば「K 2-3」と記録され、三振ナットアウトではあるが投手には奪三振が記録される。スリーストライク目が暴投であればピッチャーにワイルドピッチが、捕逸であればキャッチャーにパスボールが記録されるが本件は「2’」と記録されキャッチャーにエラーが記録されており、一塁への送球が逸れたか、打者走者にぶつけてしまいセーフになったと考えられる。中山は一塁に生きるがピッチャー松尾幸造には奪三振が、中山には三振が記録される。ということで一死一塁、松元三彦の三ゴロで中山は二進、武笠茂男が左前にタイムリーを放ち1点を先制する。

 金鯱は3回、この回先頭の佐々木常助が四球、トップに返り五味芳夫が左翼線ヒット、江口行男が送って一死二三塁、ここで第一試合でも二本のタイムリーを放った瀬井清が右中間に三塁打を放ち3-0、続く小林茂太の初球に松尾がワイルドピッチ、4-0とする。

 名古屋は4回、この回先頭の鈴木秀雄四球、桝嘉一四球、白木一二の二ゴロで桝は二封、小島茂男三振、三浦敏一四球で二死満塁、ここで七番倉本信護が右翼線に二塁打を放って2-4、松尾に代わる代打石田政良が中前にタイムリーを放ち3-4、石丸藤吉が右前にタイムリーを放ち下位打線の活躍で同点に追い付く。名古屋は4回から二番手繁里栄が登板。名古屋・鳴海球場での名古屋ダービーは白熱の展開となってきた。

 金鯱は5回、江口、瀬井連続四球、小林茂はピッチャーへの内野安打で無死満塁、中山が押出し四球を選んで5-4とする。

 名古屋は繁里から木下博喜に継投して金鯱打線を無得点に抑えるが、中山正嘉も5回以降名古屋打線を無得点に抑えきり、中山は4安打8四球12三振の力投を見せる。

 技巧派と言われる中山正嘉であるが、フランチャイズ球場でのライバル名古屋戦とあって燃えたか、6回以降の4イニングで7三振を奪う。中山は昭和10年夏の甲子園優勝投手、「夏将軍」と呼ばれる松山商業に甲子園初優勝をもたらした。この時のメンバーからは伊賀上良平、千葉茂始め大挙してプロ野球に身を投じている。




*鳴海球場における名古屋vs金鯱戦を伝えるスコアブック





*中山正嘉振り逃げの場面





*中山の熱投を伝えるスコアブック








13年春 イーグルスvs金鯱 1回戦

5月14日 (土) 鳴海


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
3 3 0 0 0 0 0 0 0 6 イーグルス 3勝4敗 0.429 中河美芳 亀田忠
0 0 0 0 0 3 0 0 2 5 金鯱     1勝5敗 0.167 古谷倉之助


勝利投手 亀田忠    1勝1敗
敗戦投手 古谷倉之助 0勝3敗


三塁打 (金)小林茂


イーグルス、辛くも逃げ切る


 イーグルスはここまで6試合、二遊間はセカンド木下政文、ショート山田潔の新人コンビをスタメンで使ってきたが、本日の第二試合は七番ショート野村実、八番セカンド山田潔に変えてきた。木下はここまで22打数4安打で第一試合では二塁打を打っている。一方、山田は17打数1安打。にもかかわらずセカンドに回されたということは、イーグルス首脳陣は山田潔の守備力を高く評価しているということになる。事実、山田潔は1956年まで現役を続け守備の名手として名を馳せることとなるわけですから、イーグルス森茂雄監督、河野安通志の慧眼は大したものです。木下も戦争の時代を生き抜き392試合に出場して通算13本塁打を放つことになりますので、1334試合で通算8本塁打の山田より打力は上だったのでしょう。

 イーグルスは初回、寺内一隆の二ゴロをセカンド江口行男がエラー、大貫賢捕邪飛、中根之の投ゴロで寺内は二進、バッキー・ハリス四球で一二塁、中河美芳がセンター左に先制のタイムリーを放ち1点を先制、太田健一四球で二死満塁、ここで今季初スタメンの野村実がセンター右に2点タイムリーを放ち3-0とする。

 イーグルスは2回、この回先頭の漆原進左前打、トップに返り寺内の一塁内野安打で無死一三塁、大貫が左犠飛を打ち上げて4-0、中根が右前打で続き一死一二塁、ハリスの中前タイムリーで5-0、センターからの返球を中継したセカンド江口はハリスのオーバーランを見て一塁に送球するがこれが悪送球となり一死二三塁、続く中河の初球、キャッチャー松元三彦が二塁に牽制するがこれも悪送球となり中根が還って6-0とリードを広げる。

 金鯱は初回の江口のヒット以降無安打、3~5回は三者凡退に抑えられていたが6回、一死後五味芳夫中前打、江口左前打、瀬井清左前タイムリー、小林茂太右翼線三塁打と怒涛の四連打で3点を返して3-6。古谷倉之助は3回以降立ち直りイーグルス打線に追加点を許さず試合は最終回に進む。

 金鯱は9回裏、この回先頭の武笠茂男が四球を選んで出塁、岡野八郎に代わる代打中山正嘉が左前打を放ち無死一二塁、ここでイーグルスベンチは中河をあきらめて第一試合で完投した亀田忠を投入する。佐々木常助に代わる代打鈴木鶴雄が右前にタイムリーを放ち4-6、五味中飛、江口も中飛で二死一二塁、瀬井が左前にこの日二本目のタイムリーを放ち5-6の一点差、しかし四番小林茂が一塁ゴロに倒れてゲームセット(鳴海球場でもサイレンが使用されていたかは定かではありませんのでサイレンが鳴るとは断定できません。)。

 試合経過で分かる通り現行ルールでは中河美芳に勝利投手が記録されて亀田忠にはセーブが記録されるところですが公式記録では亀田忠に勝利投手が記録されています。当時の勝利投手・敗戦投手は記録者の主観に委ねられている部分があり、現行ルールと違っていても多くは納得のいく裁定が下されていますが、この試合の勝ち投手は中河美芳ではないでしょうか。9回に中河が残した2走者が生還したことにより中河に自責点5点が記録されていることが亀田を勝利投手とした根拠となっていると考えられますが、亀田が無安打に抑えて中河の自責点が3点であったなら結果はどうなっていたのでしょうか。リリーフ亀田が2本のタイムリーを浴びたことにより中河の自責点が増え、亀田が無安打に抑えていれば中河の自責点が減るというシチュエーション、すなわち、亀田が好投すれば中河に有利になり、亀田が打たれると中河に不利になるケースだけに判定は難しいところでしょう。亀田が無安打に抑えきって勝利投手が記録されたならばまだ分かりますが、自責点は中河に行くと言っても2安打を打たれているわけですから説得力に欠けるのではないでしょうか。むしろ亀田がダブルヘッダーに連投してきたことを評価したのかもしれません。




*亀田忠に勝利投手が記録されている

13年春 イーグルスvsジャイアンツ 1回戦

5月14日 (土) 鳴海


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 1 0 0 1 イーグルス  2勝4敗 0.333 亀田忠
0 0 0 0 0 2 0 1 X 3 ジャイアンツ 4勝2敗 0.667 川上哲治 スタルヒン


勝利投手 スタルヒン 3勝0敗
敗戦投手 亀田忠      0勝1敗


二塁打 (イ)中根、木下
三塁打 (イ)亀田 (ジ)伊藤


2351分の1


 5月14、15両日は鳴海球場で変則ダブル計6試合が行われます(Wikipediaでは昭和13年に鳴海球場で行われた公式戦は4試合(2010年12月23日現在)となっていますが、正しくは今日からお伝えする6試合です。)。本日の第一試合は0時30分、二出川延明主審の右手が上がりプレイボール。

 先発ピッチャーはイーグルスが新エース・四番ピッチャー亀田忠、ジャイアンツは川上哲治とルーキー同士の対決となった。

 イーグルスは初回、トップの寺内一隆が四球で出塁、二番中根之が右中間を抜く二塁打を放ち無死二三塁、しかしバッキー・ハリス三振、亀田忠三振、中河美芳が二ゴロに倒れて無得点。ここで川上を捕え損なったことが敗因となった。2回も先頭の杉田屋守が左前打で出塁するが続く木下政文が6-4-3のゲッツー。初回も2回も強攻策に出ているあたり、イーグルス首脳陣は川上くみし易しと読んでいるようである。この辺りから類推すると矢張り川上のピッチングは見た目には打ちやすそうに見えるのであろう。イーグルス・中河美芳も同様のはずですが。二死無走者から山田潔遊失、漆原進、寺内連続四球で満塁とするが初回二塁打の中根は三振。この粘り、しぶとさが後年の大打者川上の原動力であろう。

 イーグルスは3~5回も毎回走者を出しながら無得点、6回は二死から木下が左中間に二塁打、山田四球、漆原四球で満塁とし、ようやく川上をマウンドから引きずり降ろすが代わったスタルヒンに寺内が三振。

 ジャイアンツは5回まで亀田に1安打に抑えられる。ジャイアンツの15のアウトの内訳は三振が3、内野ゴロが2(千葉と永澤の二ゴロ)、フライアウトが10、フライアウトの内訳は白石の右飛、水原が右飛と投飛、中島が右飛と右邪飛、伊藤が三飛、永澤が中飛、吉原が遊飛と左飛、川上が中飛、因みに野村高義は2三振。ジャイアンツ打線は川上を除いて全員が右打者、ほとんどが右方向への打球であり、亀田の球威を物語っている。この中で吉原正喜だけが左方向への打球を飛ばしており、吉原の負けん気の強さを如実に物語っている。亀田が許した1安打が3回の川上哲治の中前打であり、これが打撃の神様がプロ野球に残した2,351安打のスタートとなった。

 ジャイアンツは6回、2三振の野村に代えて代打呉波を起用して四球、白石敏男の投前送りバントを亀田がエラーして無死一二塁、水原茂四球で満塁、中島治康が右犠飛を打ち上げて無安打で1点を先制する。更に伊藤健太郎四球で再度満塁とし、千葉茂が右前にタイムリーを放ち2-0。

 イーグルスは7回、この回先頭の中根が四球で出塁、一死後亀田四球、中河四球で満塁、杉田屋の三ゴロの間に中根が還って1-2。

 ジャイアンツは8回、中島が左前打で出塁すると伊藤が左中間に三塁打を放ち3-1と突き放す。
 スタルヒンは9回、二死から亀田に右翼線三塁打を許すが中河四球後杉田屋を二ゴロに打ち取り今季3勝目をあげる。川上哲治は5回3分の2を投げて4安打7四球3三振無失点、亀田忠は8回を投げきり5安打6四球5三振。

 ジャイアンツ打線の打球方向から類推すると、亀田の球威を警戒して右打ちの指令が出ていたのであろう。吉原は命令違反ともとれるが、若者はこのくらいの反骨心がなければだめ。亀田の球威が落ちたのを見て8回には中島、伊藤が強振に切り替えたのであろう。


*川上プロ入り初ヒットの瞬間