2011年2月28日月曜日

13年春 7月 月間MVP

 先月は亀田忠が圧倒的な投球で文句なしの選出であったが、亀田は投げ過ぎの弊害から調子を崩し、今月は選考が難航した。各選手のレベルが上がってきた証左であろう。

月間MVP(対象期間6月27日~7月17日)


投手部門

 セネタース 浅岡三郎 1

 第一候補は西村幸生とスタルヒンであった。西村は今月4勝1敗、7試合に登板して48回3分の2を投げて防御率1.48。しかし再三指摘してきたとおり走者を出し過ぎておりWHIPは1.46と極めて悪く、月間MVPの贈呈は無理との結論に至った。もちろん松坂や野茂のように走者を出しながら抑えていくピッチングスタイルもあるが、西村の場合は緻密なピッチングができる投手であり、今季に限っては呑み過ぎの弊害が出ていると言われても弁明はできないであろう。

 WHIPは(被安打+与四球)÷投球回数で算出し、1イニング当りヒットと四球で何人の走者を出したかを見る指標であり、当然数字が低い方がよい。走者を出さないことが良い投球と言う考えは昭和13年であっても2011年であっても変わらないが、一方で菊矢吉男、亀田忠や松坂、野茂等にはあてはまらない。1.20が一つの基準とも言われるが、月間MVPの受賞には1.00以下であることが望ましい。 

 スタルヒンは今月8試合に登板して3勝2敗、51回3分の1を投げて防御率1.05、WHIPは0.86であり完封も2試合あって数字だけ見れば文句なしの受賞と言いたいところなのだが、どうしても肝心なところで精神的脆さを露呈する。今月はここで負ければタイガースの優勝という7月13日の阪急5回戦では7回3分の1で降板しており、負け投手にこそなってはいないもののエースとしてはいかにも頼りない。相手投手の石田光彦は延長11回を完投しているのである。藤本監督がマウンドに来てもボールを放さず「ボク、ナゲルヨ」くらいは言ってほしかった。16日の1安打完封は消化試合に入ってのもの、四万大観衆を集めた最終日のタイガース5回戦でも負け投手となっており、月間MVPの贈呈は無理と判断した。

 と言うことで、三番手候補の浅岡三郎、中山正嘉、近藤久の争いとなった。近藤は今月2勝2敗、7試合46回を投げて防御率1.57、WHIP1.24、負けた2試合も完投して自責点2、3に抑えており4勝0敗の可能性もあった。中山は3勝2敗、8試合48回を投げて防御率1.88、WHIP1.31、奪三振率が4.21で候補の五人の中で一番高かった。浅岡は3勝2敗、6試合48回を投げて防御率1.69、WHIP1.23、登板した試合は全て試合を作っており負けた2試合も完投して自責点は1、2であり5勝0敗の可能性もあった。

 近藤久は今季序盤戦は不調で中盤以降投げられず、終盤に来て復帰して好調なピッチングを見せたがシーズンを通じての活躍がなかった点もマイナス要因となった。中山はいかにも将来性を感じさせるがまだ波があり、安定味に欠ける。浅岡三郎の安定味は十分月間MVPに値するものであり、選考は難航したが浅岡の受賞に決定した。

 浅岡三郎は澤村栄治やスタルヒンのような素質に恵まれている訳でもなく、西村幸生や御園生崇男のように打戦に援護される訳でもない。こつこつと地道に努力するタイプが、素質や打戦に恵まれている投手にマイナス要因が見られた月に安定した成績を残したことからチャンスが転がり込んできたものである。

 浅岡三郎氏は昨年「野球小僧」のインタビューに登場されているようにお元気のようであった。昨年のインタビュー時点で96歳とのことである。




打撃部門

 イーグルス バッキー・ハリス 1

 最終2試合で4本のホームランを放ったバッキー・ハリスが受賞した。

 ハリスは今月11試合に出場して42打数17安打13打点4本塁打、打率4割5厘、出塁率4割5分7厘、長打率7割3分8厘、OPS1.195という立派な成績であった。OPS1.195は昭和12年以降の月間の記録としては、12年春季7月の黒澤俊夫1.191を上回り過去最高である。4本塁打を放った最後の2試合を除くと打率3割8分2厘、出塁率4割4分7厘、長打率4割4分1厘、OPS0.889であった。

 OPSは出塁率+長打率で算出されますので何も目新しい指標ではなく昭和13年であっても2011年であっても十分使える指標です。但し試合数が少ないと異常値が出やすいので注意が必要です。今月のハリスの場合、最後の二試合を除いた数字も検討材料とさせていただきました。

 景浦将は今月13試合に出場して55打数16安打16打点2本塁打、打率2割9分1厘、OPS0.799であった。
 今季首位打者に輝いた中島治康は今月10試合に出場して42打数13安打7打点1本塁打、打率3割1分、OPS0.784であった。

 景浦は迫力満点の打棒を見せて月間MVP候補No1であったがハリスにしてやられた。一方今季の中島は迫力に欠けていた。タイガース優勝、ジャイアンツ二位という結果は、結局のところ景浦と中島の迫力の差であったと言える。

2011年2月27日日曜日

13年春 第11節 週間MVP

 今節はタイガースが5勝1敗、阪急が3勝1敗1分、金鯱が2勝1敗、名古屋とジャイアンツが2勝2敗、セネタースとライオンが1勝3敗、イーグルス3敗1分であった。


週間MVP

投手部門

 タイガース 景浦将 1

 7月13日のセネタース5回戦では4回表レフトからマウンドに上がり6イニングを1安打無失点、17日のジャイアンツ5回戦では3回裏レフトからマウンドに上がり7イニングを7安打2失点で今節2勝をあげる。



打撃部門 

 タイガース 景浦将 1

 今節25打数9安打6得点10打点、二塁打2本、本塁打2本、5四球と猛打を見せつける。投手部門とのW受賞は昭和12年秋季リーグ戦第12節の澤村栄治以来史上二人目の快挙である。


 イーグルス バッキー・ハリス 1

 最後の二試合で2本塁打ずつを放って苅田久徳の5本を抜いて今季6本塁打として逆転本塁打王に輝く。





殊勲賞

 名古屋 三浦敏一 1

 15日のセネタース5回戦では延長11回サヨナラヒット、16日の阪急6回戦では0対3の場面で同点スリーランホームランを放ち逆転勝利に結びつける。



 阪急 キヨ野上清光 1

 今節21打数9安打、15日のライオン5回戦では殊勲の逆転タイムリーを放つ。




敢闘賞

 タイガース 藤村富美男 1

 今節27打数11安打9得点4打点1盗塁、二塁打2本、三塁打2本の活躍を見せる。



 阪急 ジミー堀尾文人 1

 今節23打数9安打3得点4打点2盗塁1本塁打の活躍を見せる。



 ジャイアンツ 白石敏男 1

 今節18打数8安打3得点2盗塁、二塁打2本、三塁打1本の活躍を見せる。




技能賞

 阪急 フランク山田伝 1

 14日のイーグルス4回戦でバッキー・ハリスから3盗塁を奪う。



 セネタース 浅岡三郎 1

 15日の名古屋5回戦では凡飛の山を築く巧投、17日のチームの五位をかけた金鯱5回戦では中山正嘉に投げ勝ちハーラーでも五位に並ぶ。




 タイガース 御園生崇男 1

 14日の名古屋5回戦でセーブとホームスチールを同一試合で記録する史上唯一(多分)のプロ野球選手となった。

13年春 タイガースvsジャイアンツ 5回戦

7月17日 (日) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9  計
3 1 0 1 0 1 0 2 6 14 タイガース    29勝6敗   0.829 御園生崇男 西村幸生 景浦将
3 1 1 0 0 0 0 1 0  6  ジャイアンツ 24勝11敗 0.686 前川八郎 川上哲治 スタルヒン 水原茂 成田友三郎


勝利投手 景浦将        2勝0敗
敗戦投手 スタルヒン 14勝3敗


二塁打 (タ)西村、藤村2、田中 (ジ)千葉、平山
三塁打 (ジ)三原、白石
本塁打 (タ)景浦 5号 


景浦将、投打に圧倒


 いよいよ昭和13年春季リーグ戦最後の試合、四万観衆が見守る中、16時25分、二出川延明主審の右手が上がりプレイボール。

 タイガースは初回、先頭の本堂保次四球、藤村富美男左前打、山口政信四球で無死満塁、景浦将は遊飛に倒れて一死満塁、左の松木謙治郎を迎えたところでジャイアンツベンチは早くも先発前川八郎を退けて二番手に川上哲治を起用、松木は投ゴロに倒れるががこれを川上がエラーする間に本堂が生還して1点を先制、カイザー田中義雄が左前にタイムリー、伊賀上良平の一ゴロの間に山口が還って3-0とする。

 ジャイアンツは1回裏、先頭の三原脩が中越えに三塁打、呉波の左翼線タイムリーで1-3、千葉茂が右中間に二塁打を放って無死二三塁、中島治康左前タイムリーで2-3としてなお無死一三塁となり先発御園生崇男をKO、二番手に西村幸生が登場、白石敏男の遊ゴロは6-4-3と渡るゲッツー、しかし中島は動かず二死三塁、水原茂が四球から盗塁、ここでキャッチャー田中が三塁に悪送球して中島が還り3-3の同点として二死三塁、永澤富士雄四球から盗塁、吉原正喜四球で二死満塁、しかし川上は二ゴロに倒れて同点止まり。ここは一気に突き放しておかなくてはならないところ、中島のボーンヘッドもいただけない。

 タイガースは2回、岡田宗芳四球、西村が左中間に二塁打を放ちその際レフト千葉が悪送球して岡田が還り4-3。藤村右飛、山口四球で一死一塁、ここで川上が退き三番手にスタルヒンが登場、景浦は三ゴロ併殺に倒れる。ジャイアンツはその裏、三原が右翼線にヒット、呉が送って西村のボークで一死三塁、千葉の右犠飛で4-4の同点とする。

 タイガースは3回から西村に代えて景浦をマウンドに送る。ジャイアンツは3回、白石の右中間三塁打と永澤の右犠飛で5-4と勝ち越す。タイガースは4回、二死後藤井勇が中前打で出塁、藤村が右中間にタイムリー二塁打を放って5-5の同点に追い付く。

 タイガースは6回、藤村右前打、山口左翼線打、景浦中前タイムリーの三連打で6-5と勝ち越す。今季最終戦は死闘となってきた。

 ジャイアンツは7回からスタルヒンを下げて水原が今季初登板、タイガースは8回、一死後本堂四球、藤村左前打、山口四球で満塁、景浦が押出し四球を選んで7-5、松木の一ゴロの間に藤村が還って8-5と突き放す。ジャイアンツはその裏、先頭の水原死球、二死後平山菊二の左中間二塁打で6-8と追いすがる。

 タイガースは9回、田中、伊賀上が連続左前打、ジャイアンツは五番手に成田友三郎を投入、御園生の投前送りバントが野選を誘い無死満塁、岡田が左前に2点タイムリーを放ち10-6、御園生はキャッチャー吉原からの二塁牽制に刺されるが二死後藤村がこの日5安打目となるタイムリー左中間二塁打を放って11-6、山口の中前タイムリーで12-6、更に景浦がレフトスタンドにツーランホームランを叩き込んで止めを刺して14-6とする。ジャイアンツも最終回、二死から白石左前打、水原中前打と粘りを見せるが最後は景浦が永澤を三振に打ち取り、18時17分、ゲームセットを告げるサイレンが高々と鳴り響く。

 藤村富美男が6打数5安打4得点2打点、景浦将が5打数2安打4打点であった。中島治康は5打数2安打で今季通算145打数50安打打率3割4分5厘で首位打者を確定した。

 翌日の読売新聞は「痛打あり、美技あり、名誉をかけて血みどろの一戦を争ったこの試合の如きは恐らく多戦の職業野球の中にあっても特に珍重すべき興味満点のものと断じてよく・・・」と伝えている。

 景浦将が決勝打にダメ押し本塁打、投げては7回を7安打2四球1死球6三振2失点と投打にその底力を見せつけた試合であった。




     *激戦を伝えるスコアブック




13年春 阪急vsイーグルス 5回戦

7月17日 (日) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
1 0 0 0 0 0 1 0 0 2 阪急     21勝13敗1分 0.618 石田光彦
0 0 0 1 0 0 0 0 1 2 イーグルス 18勝15敗2分 0.545 亀田忠


二塁打 (阪)堀尾
本塁打 (イ)ハリス 5号、6号


バッキー・ハリス、逆転ホームランキング


 阪急は初回、西村正夫、フランク山田伝が連続四球、黒田健吾三振、ジミー堀尾文人の打席で西村が三盗に成功、一走山田は走っていないのでサインではなく西村の判断であろう。堀尾が中前にタイムリーを放って1点を先制する。

 イーグルスは1回裏、先頭の寺内一隆が右前打で出塁、野村実が送って一死二塁とするが中根之は左飛、バッキー・ハリスは投ゴロに倒れる。2回、二死から寺内、野村が連続四球、しかし中根は二ゴロに倒れて無得点。

 イーグルスは4回、この回先頭のハリスが「左翼スタンドにライナーで飛込む物凄い大本塁打」(読売の記述通り)を放って1-1の同点とする。

 阪急は7回、この回先頭の黒田の三ゴロをサード漆原進がエラー、堀尾が左翼線に二塁打を放って無死二三塁、宮武三郎に代わる代打山下好一四球で無死満塁、キヨ野上清光の打席で亀田忠がワイルドピッチを犯して2-1とリードする。

 イーグルスは9回、この回先頭のハリスが左翼スタンドにホームランを放ち2-2の同点、本日は一日4試合の豪華版、第四試合にタイガースvsジャイアンツ戦を控えており9回時間切れ引分けとなった。

 石田光彦は9回を3安打5四球2三振の好投を見せるが3本のヒットの内ハリスに打たれた2本塁打が致命傷となった。一方亀田忠は11安打8四球2暴投2三振と相変わらずのピッチングであったが再三のピンチを凌いで引分けに持ち込んだ。阪急の残塁は16を数えた。

 バッキー・ハリスは最終二試合で4本塁打を放ち苅田久徳の5本を抜いて本塁打王に輝いた。ここで7月14日の阪急戦を思い出してもらいたい。この試合でハリスは山田伝の3個を始め阪急に6個の盗塁を許し捕逸も犯している。一日置いて二試合連続ホームラン、この豹変ぶりについて苅田久徳の自伝「天才内野手の誕生」によると、「当時31歳だったハリスは子宝に恵まれなかった。それがロサンゼルスから「ブジシュッサン」の電報を受け取って、躍り上がって喜んだ。そのハッスル余波が、キング獲得となったのだ。」とのことである。

(2011年3月9日追記)
 昭和13年9月5日付け読売新聞は宇野庄治記者の署名入り記事で9月4日秋季リーグ戦ライオンvsイーグルス戦でのバッキー・ハリスのホームランについて「この朝帰米中の愛妻から安産の電報に接して欣喜雀躍のハリスだ、果然、ハリスは1ストライク後真ん中に落ちるドロップを憂然左中間スタンドに叩き込み・・・」と伝えている。どうやら苅田の記憶違いのようである。


 四コーナー最後方から直線一気の追い込みを見せたバッキー・ハリス。直線一気の追い込みと言えば古くはコウジョウ、有名どころではミスターシービーとなりますが矢張りシービークロスでしょう。5才(当時、現4才)秋の毎日王冠と目黒記念を豪快な追い込みで連続レコード勝ちしたときは鳥肌が立ちました。但し当ブログ的にはナカミサファイヤとなります。オークスでは本命アグネスレディー対抗ナカミサファイヤで大的中、馬体減りが懸念される中猛調教を行い評論家はこぞって無印にしていましたが当ブログの評価は真逆、これだけの追い切りができれば心配なしと判断しました。この時の配当金でミズノの最高級グローブを買いました。新潟記念の奇跡的追い込みはユーチューブで見ることができます。

2011年2月26日土曜日

13年春 セネタースvs金鯱 5回戦

7月17日 (日) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
2 0 0 0 0 2 0 0 0 4 セネタース 13勝21敗1分 0.382 浅岡三郎
0 0 1 0 0 0 0 0 1 2 金鯱      13勝22敗       0.371 中山正嘉


勝利投手 浅岡三郎 8勝9敗
敗戦投手 中山正嘉 8勝7敗


二塁打 (金)松元
三塁打 (金)五味


本塁打 (セ)尾茂田 1号

セネタース、逆転五位


 現在金鯱は13勝21敗、3割8分2厘で第五位、セネタースは12勝21敗1分、3割6分4厘で0.5ゲーム差の第六位、今季最終戦が五位決定戦となった。

 ハーラー争いも注目、スタルヒンが14勝で最多勝は確定、亀田忠12勝、西村幸生11勝、御園生崇男10勝に次いで菊矢吉男8勝、中山正嘉8勝、浅岡三郎7勝であり中山が勝てば単独五位、浅岡が勝てば三者同率五位となる。

 セネタースは初回、先頭の苅田久徳が中前打で出塁、北浦三男の二ゴロでランナーが入れ替わり一死一塁、ここで尾茂田叶が左翼スタンドに先制ツーランホームランを放って2-0とする。

 金鯱は3回、この回先頭の松元三彦が左翼線に二塁打、一死後佐々木常助の左前打で一三塁、トップに返り五味芳夫の遊ゴロ併殺崩れの間に松元が還って1-2とする。

 セネタースは6回、この回先頭の北浦三男が右前打で出塁、尾茂田四球、四番綿貫惣司の三前バントが内野安打となって無死満塁、浅岡の三ゴロをサード五味がバックホームするがキャッチャー松元がこれをエラー、三走北浦に続いて二走尾茂田もホームインして4-1とする。

 金鯱は9回、この回先頭の小林茂太の左飛をレフト伊藤次郎がエラー、古谷倉之助が左翼線にヒット、中山四球で無死満塁、しかしここで浅岡が踏ん張り松元三振、武笠茂男に代わる鈴木鶴雄の二ゴロの間に小林茂が還って2-4とするが佐々木が三ゴロに倒れてセネタースが逆転五位となる。

 浅岡三郎は7安打3四球8三振の力投で今季最終戦を完投で飾り菊谷、中山と並んでハーラー五位に躍り出る。



*浅岡、中山の投げ合いを伝えるスコアブック

13年春 ライオンvs名古屋 5回戦

7月17日 (日) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 1 1 0 0 0 0 0 2 ライオン  9勝26敗 0.257 近藤久
0 1 0 0 0 0 0 0 0 1 名古屋 11勝24敗  0.314 西沢道夫 森井茂


勝利投手 近藤久     2勝5敗
敗戦投手 西沢道夫 3勝4敗


本塁打 (ラ)水谷 1号


近藤久、有終の美を飾る


 いよいよ昭和13年春季リーグ戦の最終日を迎えた。日曜の後楽園球場は超満員となり、翌日の読売新聞によると「四万大観衆が集まった」とのこと。

 ライオンは初回、先頭の坪内道則が左前打で出塁、一死後水谷則一四球、二死後桜井七之助四球で満塁とするが煤孫伝は三振に倒れる。名古屋は初回、先頭の桝嘉一が中前打で出塁、鈴木秀雄右前打で無死一二塁とするが大沢清中飛、白木一二右飛、倉本信護三ゴロでチャンスを生かせず。

 名古屋は2回、先頭の三浦敏一が四球で出塁、田中実の投ゴロでランナーが入れ替わり、西沢道夫左直、村瀬一三四球で一死一二塁、トップに返り桝が左翼線にタイムリーを放って1点を先制する。

 ライオンは3回、一死後水谷則一が右翼スタンドに同点ホームランを叩き込んで1-1とする。更に4回、この回先頭の煤孫が四球で出塁、中野隆雄の三ゴロは5-4と渡り煤孫は二封、セカンド田中実からファースト大沢清に転送されるがこれを大沢がエラーして打者走者中野は二塁に進む。日野弘美は遊飛に倒れるが近藤久が右翼線にヒットを放ち二死一三塁、トップに返り坪内四球で二死満塁、続く山本尚敏のカウントがノースリーとなったところで名古屋ベンチは先発西沢道夫から森井茂にスイッチするが森井の初球はボールとなって押出しで2-1、水谷は捕ゴロに倒れる。

 森井茂は5回以降ライオン打線を2安打無得点に抑える好投を見せるが近藤久はそれを上回る出来で結局3安打6四球4三振の完投で今季2勝目、終盤に来て調子をあげてきた近藤が今季最終戦で有終の美を飾ることとなった。

 桝嘉一は2打数2安打2四球で今季109打数36安打打率3割3分で終えた。中島治康は昨日まで140打数48安打打率3割4分3厘であり、首位打者争いの行方は本日の第四試合までもつれ込むこととなった。

13年春 セネタースvsジャイアンツ 5回戦

7月16日 (土) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 セネタース    12勝21敗1分 0.364 遠藤忠二郎 金子裕
1 0 0 0 1 0 0 0 X 2 ジャイアンツ 24勝10敗       0.706 スタルヒン


勝利投手 スタルヒン 14勝2敗
敗戦投手 遠藤忠二郎 1勝3敗


二塁打 (セ)綿貫 (ジ)スタルヒン


スタルヒン、1安打完封


 ジャイアンツは初回、一死後呉波死球、千葉茂四球、中島治康の遊ゴロで千葉は二封、中島が二盗を決めて二死二三塁、白石敏男の右飛をライト家村相太郎がエラーする間に呉が還って1-0と先制する。

 読売新聞も「巨人軍の苦手とする遠藤」と書いているように「隠れジャイアンツキラー」の遠藤忠二郎は4回までジャイアンツ打線を無得点に抑える。ジャイアンツは5回、この回先頭の呉が三塁に内野安打、千葉四球で無死一二塁、キャッチャー北浦三男の二塁牽制悪送球で無死一三塁、中島の三ゴロをサード横沢七郎がエラーするが三走呉は動けず無死満塁、セネタースはここで遠藤から金子裕にスイッチ、白石は一邪飛に倒れるが水原茂が左犠飛を打ち上げて2-0とする。レフト伊藤次郎からの返球をカットしたサード横沢は一走中島の離塁が大きいと見るやファースト綿貫惣司に送球、中島がタッチアウトとなりチェンジ。

 セネタースは4回一死後、綿貫惣司が右中間に二塁打を放ったのみでスタルヒンは1安打3四球2三振で今季五度目の完封を1安打ピッチングで飾る。スタルヒンは今季14勝2敗、しかしここまで週間MVPの受賞が無い。本日も消化試合に入っての1安打完封である。どうも肝腎な試合での粘りが見られない。この時点では藤本定義監督も澤村に託したような全幅の信頼はしていないようだ。

2011年2月25日金曜日

13年春 タイガースvsライオン 5回戦

7月16日 (土) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 2 4 0 0 0 0 0 0 6 タイガース 28勝6敗   0.824 西村幸生
3 0 0 0 1 0 0 0 0 4 ライオン    8勝26敗 0.235 大友一明 菊矢吉男


勝利投手 西村幸生 11勝4敗
敗戦投手 菊矢吉男    7勝18敗


二塁打 (タ)西村 (ラ)桜井
三塁打 (ラ)大友


ライオン自滅


 ライオンは初回、先頭の坪内道則が捕前にセーフティバント、キャッチャーカイザー田中義雄の一塁悪送球で無死一塁、記録は捕失で坪内には内野安打は記録されていない。二番山本尚敏の捕前送りバントを又も田中が二塁に悪送球して無死一二塁、タイミングはセーフだったと判定されて記録は捕失で山本には犠打は記録されていない。水谷則一の三前バントが内野安打となって無死満塁、大友一明が押出し四球を選んで1点を先制する。桜井七之助は二失に倒れるが煤孫伝の右犠飛で2-0、中野隆雄の中前タイムリーで3-0とする。

 タイガースは2回、初回に2エラーの田中が左前打で出塁、伊賀上良平左前打、藤井勇四球で無死満塁、西村幸生の遊ゴロの間に田中が還って1-3、岡田宗芳四球後、松木謙治郎の右犠飛で2-3とする。ライオンは先発大友一明をあきらめて3回から菊矢吉男が登板する。

 タイガースは3回、この回先頭の景浦将が四球で出塁、田中の遊ゴロをショート山本がエラー、伊賀上が送って一死二三塁、藤井の内野安打で3-3の同点。西村の三ゴロをサード中野がエラーする間に田中が還って4-3と逆転、岡田は二飛に倒れるが松木が四球を選んで二死満塁、藤村富美男の遊ゴロを山本がエラーして5-3、山口政信が押出し四球を選んで6-3とする。

 ライオンは5回、二死後大友が右中間に三塁打、桜井の遊ゴロをショート岡田がエラーする間に大友が還って4-6とする。皆川定之にショートのポジションを奪われかけている岡田にはこのところミスが目立つ。

 西村幸生は6回以降を無失点で切り抜け、5安打5四球3三振の完投で11勝目をあげるが、相変わらずランナーを出しながらのピッチングである。西村は昨秋に続いて防御率一位となりながらMVPを逃すこととなり不運だとの説が根強いが、少なくとも今季は昨秋に比べてピッチング内容が見劣り、むしろ今季MVPが取れなかったのは当然ではないか。

 菊矢吉男は4回以降タイガース打線を2安打無得点に抑えるが、3回に3四球と味方の3エラーが重なり1安打で4点を奪われたのが全てであった。

2011年2月24日木曜日

13年春 阪急vs名古屋 5回戦

7月16日 (土) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 2 0 1 0 0 0 0 0 3 阪急    21勝13敗 0.618 高橋敏 浅野勝三郎
0 0 0 3 1 0 0 0 X 4 名古屋 11勝23敗 0.324 繁里栄 森井茂


勝利投手 森井茂 4勝10敗
敗戦投手 高橋敏 1勝1敗


二塁打 (阪)大原 
本塁打 (名)三浦 2号


三浦敏一、連日の殊勲


 阪急は2回、一死後宮武三郎が四球で出塁、キヨ野上清光が右前打を放ち一死一二塁、宇野錦次の投ゴロは1-5-3と渡るがサードはセーフで一塁はアウトとなり二死二三塁、名古屋はここで早くも先発の繁里栄が降板して二番手に森井茂が登場、大原敏夫が代わりばなを左中間に二塁打して二者を迎え入れて2-0と先制する。

 阪急は4回、この回先頭のジミー堀尾文人が四球で出塁、宮武の左前打をレフト鈴木秀雄がエラーして無死一三塁、野上は一ゴロに倒れるが宇野が右犠飛を打ち上げて3-0とリードを広げる。

 名古屋は4回、この回先頭の大沢清が四球で出塁、白木一二が右前打、倉本信護は左飛に倒れて一死一二塁、ここで三浦敏一が左翼スタンドに凄い当たりの大本塁打をかっ飛ばして(翌日の読売新聞にはこう書かれています)3-3の同点に追い付く。三浦は昨日のサヨナラヒットに続く殊勲の一打となった。

 名古屋は5回、この回先頭の桝嘉一が四球で出塁、鈴木秀雄に代わる代打石田政良の投前送りバントをピッチャー高橋敏が失して犠打エラーとなり無死一二塁、阪急は先発高橋が降板して浅野勝三郎をリリーフに送る。大沢二飛、白木右飛と國學院大學出身の右打ち巧者二人が凡退して二死一二塁、ここで中島治康と激しい首位打者争いを演じてきた二走桝、一走石田が決死のダブルスチールを敢行、キャッチャー大原の三塁送球が悪送球となり桝が還って決勝の1点をあげて逃げ切り4A対3で名古屋が阪急を降す。

 阪急の二番手浅野勝三郎は4イニングを1安打無四球1三振無失点の好投を見せるが打線の援護がなかった。ロングリリーフの森井茂は7回3分の1を6安打3四球1三振1失点に抑えて今季4勝目をあげる。名古屋は6安打であったがそのうち森井茂が3打数3安打であった。

 名古屋の決勝点は一二塁からのダブルスチールがキャッチャー悪送球を誘ったものであった。昭和48年センバツ準決勝、怪物江川と対戦した広島商業は8回裏、一二塁からダブルスチールを敢行、二塁ランナー金光が三塁に滑り込むと小倉捕手の送球が逸れて金光がホームイン、江川を破って決勝に進出しましたが剛腕永川を擁する横浜高校に敗れます。夏の大会2回戦で江川を撃破した銚子商業も順々決勝で静岡高校に敗れました。江川に勝つと一瞬のエアポケットに入ってしまうのでしょう。広島商業はこの年の夏は決勝で静岡高校を破って優勝、銚子商業は翌年の夏を制すこととなります。因みにこの年の静岡高校は公立進学校としては史上最強チームでしょう。植松、水野、白鳥と並ぶクリーンナップはプロ並みでした。


*昭和48年夏の甲子園を制した広島商業。迫田監督、金光主将、主砲楠原、佃・達川のバッテリー、名二塁手川本、決勝でサヨナラスリーバントスクイズを決めた大利選手が名を連ねます。


2011年2月23日水曜日

13年春 金鯱vsイーグルス 5回戦

7月16日 (土) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 1 0 0 0 6 0 7 金鯱           13勝21敗    0.382 鈴木鶴雄 中山正嘉
0 1 0 1 0 2 0 0 0 4 イーグルス 18勝15敗1分 0.545 古川正男 亀田忠 望月潤一


勝利投手 鈴木鶴雄  1勝6敗
敗戦投手 亀田忠   12勝9敗
セーブ   中山正嘉  3

三塁打 (金)小林茂

本塁打 (イ)ハリス 3号、4号


バッキー・ハリス、二打席連続本塁打


 イーグルスは2回、先頭のバッキー・ハリスの三ゴロをサード五味芳夫がエラー、ハリスが二盗を決めて無死二塁、中河美芳が左前にタイムリーを放って1点を先制する。

 金鯱4回、この回先頭の小林茂太が右中間に三塁打、古谷倉之助の左犠飛で1-1の同点とする。

 イーグルスは4回裏、一死後ハリスが左翼スタンドにホームラン、2-1とリードする。更に6回、一死後野村実がピッチャー強襲ヒットで出塁、二死後ハリスが二打席連続ホームランをレフトスタンドに叩き込んで4-1する。ハリスのバックツーバックは昭和12年以降では初めて、恐らくプロ野球史上初の快挙ではないか。

 金鯱は6回、この回先頭の江口行男中前打、瀬井清左前打で無死一三塁、ここでイーグルスベンチは先発の古川正男から亀田忠にスイッチ、小林茂は三振、瀬井がディレードスチールを試みるが2-6-3-6-3と渡る挟殺プレーでタッチアウト、三走江口は動けず二死三塁、ここで江口がホームスチールを敢行するがタッチアウトとなってチェンジ。亀田は7回も1四球2三振で切り抜けるが8回に乱れた。

 金鯱は8回、この回先頭の佐々木常助からトップに返り五味芳夫、江口、瀬井と四連続四球で2-4、ここで戦前随一のクラッチヒッター小林茂太が右前に2点タイムリーを放って4-4の同点とする。二走瀬井はハリスからの牽制に刺されて一死一塁、しかし古谷倉之助、松元三彦が連続四球を選んで亀田は降板、三番手に望月潤一が登場する。鈴木鶴雄に代わる代打中山正嘉のスクイズが内野安打となって5-4と逆転、武笠茂男の二ゴロ併殺崩れの間に三走古谷に続いて二走松元も好走塁を見せてホームに還り7-4と突き放す。

 セネタースは8回から先発鈴木鶴雄の代打に出てスクイズを決めた中山正嘉がそのままマウンドに上がり2イニングを1安打に抑えて快勝。中山には当ブログルールによりセーブが記録される。イーグルスは望月が1回3分の2を1安打無四球1三振無失点に抑えている。望月は出番は少ないがこのところ好投を続けており、昨年は四球連発から破綻するケースが見られたがコントロールがついてきた。亀田は連戦の疲れから調子を崩しており、もう少し早く望月にスイッチしていれば逃げ切れたのではないか。ハリスの歴史的な二打席連続ホームランが見られただけに残念である。

 翌日の読売新聞はハリスの二連発を「イ軍はハリスが左翼スタンドへ直球で叩きこむ痛烈な本塁打で再びリードし、更に六回またもハリスが左翼へ大本塁打を放り込んで・・・」と伝えている。



*バッキー・ハリスの二打席連続ホームランを伝えるスコアブック

2011年2月22日火曜日

13年春 タイガースvsジャイアンツ 4回戦

7月15日 (金) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 1 0 0 2 0 0 0 3 タイガース   27勝6敗   0.818 西村幸生 青木正一
0 1 0 2 5 0 0 1 X 9 ジャイアンツ 23勝10敗 0.697 前川八郎 スタルヒン


前川八郎    6勝3敗
西村幸生 10勝4敗


二塁打 (タ)景浦 (ジ)中島
本塁打 (ジ)永澤 1号


永澤富士雄、4打数4安打3打点


 ジャイアンツは2回、この回先頭の中島治康が右翼線に二塁打、白石敏男が左前打で続いて二盗に成功して無死二三塁、永澤富士雄の三前の当りは内野安打となるが走者は動けず一死満塁、吉原正喜の二ゴロゲッツー崩れの間に中島が還って1点を先制する。

 タイガースは3回、この回先頭の岡田宗芳が四球で出塁、トップに返り松木謙治郎が右前打、藤村富美男の投ゴロで岡田は三封、山口政信四球で一死満塁、景浦の投ゴロの間に松木が還って1-1の同点とする。

 ジャイアンツは4回、一死後水原茂が右前打で出塁、永澤が右翼スタンドに叩き込んで3-1とする。続く5回、打順良く一番三原脩からの攻撃、三原中前打、呉波三前バント安打、千葉茂右前打で無死満塁、中島は三邪飛に倒れるが白石の遊ゴロをショート岡田がエラーする間に三原に続いて二走呉も還って5-1、水原右前タイムリー、永澤も右前タイムリーで7-1として西村幸生をKO、代わった青木正一から吉原もセンター右にタイムリーを放って8-1とリードを広げる。

 タイガースは6回、景浦三塁内野安打、伊賀上良平左前打、藤井勇右前打で無死満塁、カイザー田中義雄の三ゴロと青木の一ゴロの間に1点ずつ返して3-8とする。

 ジャイアンツは7回表タイガース二死一二塁で先発の前川八郎からスタルヒンにスイッチして伊賀上良平を二飛に打ち取り、8回には中島のタイムリーで1点追加して9-3で快勝。昨秋はタイガースに七戦全敗であったが今季はこれで対戦成績を2勝2敗とした。タイガースは西村の調子が戻らないと秋季リーグ戦は苦しいか。

 名古屋の石田政良、桝嘉一と激しい首位打者争いを繰り広げる中島治康は本日の5打数3安打で打率を3割4分3厘として二位石田に1分3厘差をつけた。永澤富士雄が4打数4安打3打点の活躍を見せる。永澤は夏の北海道地元凱旋試合で怪我をして川上哲治にレギュラーの座を譲ることとなる。

2011年2月21日月曜日

13年春 阪急vsライオン 5回戦

7月15日 (金) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 3 0 0 0 0 0 3 阪急   21勝12敗 0.636 重松通雄 小田野柏
0 0 1 1 0 0 0 0 0 2 ライオン 8勝25敗 0.242 近藤久


勝利投手 小田野柏 3勝2敗
敗戦投手 近藤久     1勝5敗


キヨ野上清光、殊勲の逆転タイムリー


 ライオンは3回、一死後日野弘美が左中間に三塁打、アテ馬として実質デビューを飾った日野にとって初の長打となる。続く近藤久が中前にタイムリーを放って1点を先制する。

 阪急は4回、この回先頭の黒田健吾が四球で出塁、パスボールで二進、ジミー堀尾文人が中前にヒットを放ち盗塁、宮武三郎四球で無死満塁、キヨ野上清光が右前に2点タイムリーを放って2-1と逆転に成功、野上はキャッチャー日野の牽制に刺されるが島本義文が中前にタイムリーを放って宮武を迎え入れて3-1とする。

 ライオンは4回裏、大友一明が三前に内野安打、煤孫伝は一邪飛に倒れるが、桜井七之助の三ゴロをサード黒田がエラー、中野隆雄左前打で一死満塁、阪急ベンチは先発の重松通雄をあきらめ小田野柏を投入、日野の投ゴロで三走大友が還って2-3と詰め寄る。

 小田野は5回に水谷則一に三塁への内野安打を許した以降は6~9回を無安打ピッチング、結局5回3分の2を投げて1安打無四球1三振の好投で3勝目をあげる。

 近藤久も6回以降阪急打線を無安打に抑えるが球運なく今季1勝5敗、しかしこのところ復調してきた。

 殊勲の逆転タイムリーを放ったキヨ野上清光は球史にほとんどその名は残っていない。永田陽一氏著「ベースボールの社会史」で紹介されている記述が最も詳しいであろう。著者の永田氏が戦後直接取材されているようだ。カリフォルニア州アラメダ出身。カリフォルニアはシアトル、シカゴと並んで1900年代初頭から最も日系人野球が盛んであった。野上の父親もアラメダ体育会のベースボールプレーヤー、1914年生まれの野上は1937年にカリフォルニア大学を卒業、日本に日本語の勉強でやってきたところを三宅大輔に誘われて阪急に入団して主力選手となった。大変な勉強家で今季限りでユニフォームを脱ぎ実業界に転じた。日系二世と言うことで軍隊では大変苦労させられたようであるが戦後は事業に成功したとのこと。この項の記述は当然のことながら「ベースボールの社会史」を参考(というよりほとんど丸写し)にさせていただきました。

2011年2月20日日曜日

13年春 セネタースvs名古屋 5回戦

7月15日 (金) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 10  11 計
2 0 0 0 0 0 0 0 0  0    0  2 セネタース 12勝20敗1分 0.375 浅岡三郎 金子裕
0 0 2 0 0 0 0 0 0  0  1X  3 名古屋      10勝23敗       0.303 西沢道夫

勝利投手 西沢道夫 3勝3敗
敗戦投手 浅岡三郎 7勝9敗


二塁打 (セ)今岡 (名)三浦
三塁打 (名)大沢


浅岡三郎、苦心の巧投報われず

 本日は普段あまり話題にならない補殺と刺殺がメインテーマとなっております。


 セネタースは初回、先頭の苅田久徳が四球で出塁、伊藤次郎が投前送りバントを決めて一死二塁、北浦三男の投ゴロに苅田が飛び出し二三塁間に挟まれて挟殺プレー、1-5-6-1と渡り苅田はタッチアウトとなる間に北浦は二塁に進み二死二塁。記録だけ見れば苅田のボーンヘッドにも見えるが挟殺プレーに持ち込んで相手のミスを誘ったとも見える。少なくとも時間を稼いで北浦を二塁に進ませたのは流石と言うところ。尾茂田叶四球で二死一二塁、綿貫惣司が中前にタイムリー、浅岡三郎も左前タイムリーで続いて2点を先制する。

 名古屋は1回裏、先頭の桝嘉一が二ゴロ、鈴木秀雄右飛、大沢清右飛。2回、白木一二左飛、倉本信護遊飛、田中実右飛。3回、三浦敏一左中間二塁打、西沢道夫中飛、村瀬一三左飛、桝四球、鈴木四球で二死満塁、大沢清の右前タイムリーで二者還り2-2の同点。白木四球で再度満塁とするが倉本中飛でチェンジ。4回、田中左飛、三浦中飛、西沢一邪飛。5回、村瀬中飛、桝左飛、鈴木中飛。6回、大沢右前打、白木右飛、倉本左前打、田中左飛、三浦四球、西沢中飛でチェンジ。7回、この回先頭の村瀬が投ゴロに倒れて1回先頭の桝嘉一以来の補殺が記録される。

 浅岡三郎の投球は凡庸のように見えるが打者のタイミングを外して凡飛の山を築く。西沢道夫も好調で5~8回は無安打ピッチング。

 名古屋は8回、先頭の大沢清が珍しく引っ張って左中間に三塁打を放つがサード横沢七郎の隠し玉に引っ掛かってタッチアウト。左中間と言ってもセンターオーバーに近いライナーの当たりだったようで気持ちはセンター返しだったのではないか。

 西沢は9回表のセネタースの攻撃も2安打を許しながら無得点に抑える。浅岡も9回三者凡退に抑えて延長戦に突入。セネタース守備陣の補殺はここまで僅か5個。隠し玉の際にサード横沢にボールを渡したショート今岡謙次郎と今岡に送球したセンター尾茂田叶に補殺が記録されているのでゴロアウトは桝の二ゴロ、村瀬の投ゴロ、9回の田中実の三ゴロの3個だけである。

 セネタースは10回、11回と西沢に抑えられて浅岡の好投に応えることができない。

 名古屋は10回も村瀬中飛、桝中飛、鈴木はこの日初の三振。11回裏、この回先頭の大沢清がこの日4本目となるヒットを中前に放って出塁、白木の投ゴロは浅岡からショート磯野政次に渡るが磯野がこれを痛恨のエラー、倉本の三前送りバントが内野安打となって無死満塁、浅岡はここで無念の降板、金子裕がリリーフに登場する。田中実は中飛に倒れて一死満塁、三浦が左前にサヨナラタイムリーを放って試合終了を告げるサイレンが高々と鳴り響く。

 セネタースは10回までゴロアウトは三個だけで凡飛の山を築く巧投を見せた浅岡三郎を見殺しにした形となった。西沢道夫は延長11回を投げ抜き7安打5四球1三振の完投で3勝目をあげる。西沢のピッチングは浅岡とは対照的で名古屋守備陣は24個の補殺を記録した。セネタース守備陣の補殺は結局6個であった。逆に外野陣の刺殺は中飛が10個、左飛が5個、右飛が4個であった。西沢のピッチングの秘密は近々特集を組む予定ですので乞うご期待。名古屋打線は8安打を放ったがヒットを打ったのは三人だけ。大沢清が5打数4安打2打点、倉本信護が5打数2安打、三浦敏一が4打数2安打1打点であった。

13年春 タイガースvs名古屋 5回戦

7月14日 (木) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9  計
0 0 6 1 0 0 0 1 3 11 タイガース 27勝5敗   0.844 釣常雄 御園生崇男
0 0 1 0 0 0 4 0 0  5  名古屋    9勝23敗 0.281 森井茂 繁里栄


勝利投手 釣常雄 2勝0敗
敗戦投手 森井茂 3勝10敗
セーブ   御園生崇男 1


二塁打 (タ)山口、藤井 (名)石田
三塁打 (タ)藤村、山口


御園生崇男、セーブとホームスチールを記録する


 優勝を決めたタイガースは釣常雄が先発。

 タイガースは3回、一死後松木謙治郎が二塁に内野安打、藤村富美男の三ゴロでランナーが入れ替わり、山口政信が右中間にタイムリー二塁打を放って1点を先制、景浦将四球、伊賀上良平二塁内野安打で無死満塁、六番セカンドに起用された奈良友夫が右中間に走者一掃の二塁打を放って4-0、門前真佐人が右前タイムリー、釣常雄の左前打とレフト桝嘉一のエラーにより1点追加して6-0とする。

 名古屋は3回裏、二死後石田政良が三塁内野安打から二盗に成功、大沢清の一ゴロをファースト松木がエラーする間に石田が還って1-6とする。しかしタイガースは4回、藤村の左中間三塁打と景浦の左前打タイムリーで7-1とする。藤村の三塁打はセンターの左をゴロで抜けたと記録されており、藤村の打球の速さを物語っている。

 名古屋は7回、この回先頭の村瀬一三が四球で出塁、6回の守備から桝嘉一に代わってレフトに入っている鈴木秀雄の二ゴロでランナーが入れ替わり、石田が右翼線に二塁打を放って一死二三塁、大沢が四球を選んで一死満塁、ここで四番白木一二がセンターに満塁ホームランを放って7-5と詰め寄る。白木のホームランについては翌日の読売新聞の記述は「中堅左を抜く本塁打」となっており、狭い後楽園では珍しいランニングホームランの可能性が高い。

 タイガースは8回、先頭の藤村が四球、山口の遊ゴロは6-4と渡るがセカンド田中実がエラー、最近名前を聞かなかったかつてのリリーフの切り札田中実は本日は七番セカンドでスタメン出場している。景浦の二ゴロは4-6と渡り山口は二封されるがショートからの送球をファースト大沢がエラーする間に藤村が還って8-5とする。タイガースは8回から釣に代わって御園生崇男がリリーフで登場する。

 タイガースは9回、一死後御園生が右翼線ヒットで出塁、皆川定之に代わる代打岡田宗芳の右前打で無死一二塁、岡田はこのところショートのポジションを皆川に奪われているだけに必死である。トップに返り松木の右飛で御園生が三進して一死一三塁、ここでダブルスチールが決まって9-5、藤村四球から山口が止めの右越え三塁打を放って11-5とする。

 3点差のセーブシチュエーションで登場したリリーフ御園生崇男は8回、9回を無安打で投げきり現行ルールに準ずる当ブログルールによりセーブが記録された。御園生は9回のダブルスチールの際の三塁ランナーであり、ホームスチールも記録されている。同一試合でホームスチールとセーブを記録した史上唯一の投手の可能性がある。いかにもオールラウンダーらしい記録である。因みに9回の重盗ではキャッチャー木下博喜に悪送球が記録されているが御園生崇男には盗塁が記録されている。記録者は木下の送球が悪送球で無くても御園生がホームインしたと判断したものである。

 ジャイアンツの中島治康と激しい首位打者争いを繰り広げる石田政良は3打数2安打、今季通算109打数36安打で打率3割3分2毛、桝嘉一は3打数1安打、100打数33安打で3割3分ちょうど、中島3割3分3厘に3厘差で二位と三位に並んでいる。




*御園生崇男が記録した本盗とセーブ




2011年2月19日土曜日

13年春 阪急vsイーグルス 4回戦

7月14日 (木) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
1 0 1 0 0 2 0 0 1 5 阪急     20勝12敗    0.625 宮武三郎 森弘太郎
0 0 0 0 0 3 0 0 0 3 イーグルス 18勝14敗1分 0.563 亀田忠




勝利投手 森弘太郎 5勝2敗
敗戦投手 亀田忠   12勝8敗


二塁打 (阪)野上
本塁打 (阪)堀尾 1号


山田伝、ハリスから3盗塁


 阪急と阪急を1ゲーム差で追うイーグルスの直接対決となった三位攻防戦。

 阪急は初回、一死後フランク山田伝が左前打で出塁して果敢に二盗に成功、バッキー・ハリスのパスボールで山田は三塁に進む。黒田健吾四球で一死一三塁、ジミー堀尾文人が左犠飛を打ち上げて1点を先制する。

 阪急は3回、一死後西村正夫が四球で出塁、山田の右前打で西村は三塁に進み一死一三塁、山田が二個目の盗塁を決めて一死二三塁、黒田の三ゴロで西村がホームに突っ込むがサード漆原進からのバックホームにタッチアウト、堀尾が中前にタイムリーを放って2-0とする。5回には山田がこの日三個目の盗塁を決めるが得点無し。

 イーグルスは3回、無死から太田健一、辻信夫、山田潔が三連続四球を選んで無死満塁のチャンスを掴んだが中根之は一邪飛、漆原進の右飛に三走太田がホームを突くがライト西村正夫からの返球にタッチアウトとなった。

 阪急は6回、一死後上田藤夫が三塁に内野安打、七番ファーストに起用された浅野勝三郎に代わる代打林信一郎が左前打を放って一死一二塁、二死後宮武三郎の一ゴロはファースト中河美芳から一塁ベースカバーに入った亀田忠に渡るかと思われたがこれが悪送球となり二走上田に続いて一走林もホームに還り4-0とする。普通に考えれば中河の悪送球をキャッチャーハリスがカバーして一塁ランナーまでホームに還るとは考えにくいが、本日のハリスは山田に走りまくられたりとどうもおかしい。

 5回まで宮武に無安打に抑えられていたイーグルスは6回裏、先頭の中根之が右前に初安打を放って出塁、二番漆原進の遊ゴロをショート上田がエラーして無死一二塁、ハリスが汚名挽回の左前タイムリーを放って1-4、阪急ベンチはここで先発宮武をあきらめ森弘太郎をリリーフに送る。亀田は中飛に倒れて一死一二塁、中河の投ゴロを森は三塁に投げるがこれが野選となって一死満塁、杉田屋守が右前にタイムリーを放って2-4、太田健一の二ゴロの間にハリスが還って3-4として二死二三塁、辻信夫に代わる大貫賢は三ゴロに倒れてチェンジ。

 阪急は9回、堀尾がレフトスタンドにホームランを放って5-3とする。

 イーグルスは最終回も森弘太郎に簡単に二死を取られ、山田に代えて望月潤一を代打に送るが三振に打ち取られてゲームセットを告げるサイレンが鳴り響いた。森がイーグルス打線を抑えて阪急は三位の座を守る。

 森弘太郎は4イニングを1安打2四球2三振無失点と見事なリリーフ、後の大投手の片鱗を見せる。阪急はフランク山田伝の3盗塁の他にも黒田健吾、キヨ野上清光、大原敏夫が1個ずつ盗塁を決めて合計6盗塁、バッキー・ハリスの動きはどうもおかしかった。亀田忠も疲労の蓄積からか一頃の元気は無く、中河美芳も手痛いエラーがありイーグルスは三位に並ぶチャンスを自ら潰してしまった。翌日の読売新聞は「イ軍の亀田は恐らく連投のためであろう、この日スピードなく・・・著しく不調を示し、また女房役のハリスも亦尋常ならず彼として珍しい六盗塁を許すという不元気であった。さらに守備の中心中河が・・・高価な失策を演じた如くイ軍は攻守に亙って平素の堅実さを失っていた。」と伝えている。

 この読売の記述は興味深い。昭和13年7月15日の段階でバッキー・ハリスの強肩が知れ渡っていたこと、タコ足中河美芳の名手ぶりが伝わっていたことがうかがえる。更に当時としても亀田の連日の登板が懸念されていることが分かる。

訂正のお知らせ

7月9日のタイガースvs名古屋4回戦で西村幸生の勝敗を9勝4敗とお伝えしておりましたが9勝3敗の間違いでした。


7月13日ののタイガースvsイーグルス5回戦で西村幸生の勝敗を10勝4敗とお伝えしておりましたが10勝3敗の間違いでした。


お詫びして訂正させていただきます。単なる転記ミスで、チームの勝敗は間違いありません。本文は修正済みです。

2011年2月18日金曜日

13年春 ライオンvs金鯱 5回戦

7月14日 (木) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
1 0 0 0 2 0 0 0 0 3 ライオン 8勝24敗 0.250 菊矢吉男 近藤久
0 1 0 0 2 0 2 1 X 6 金鯱   12勝21敗 0.364 中山正嘉


勝利投手 中山正嘉 8勝6敗
敗戦投手 菊矢吉男 7勝17敗


佐々木常助、3打数3安打


 7月7日付け読売新聞は来期からライオンの監督が小西得郎から高田勝生に交代し、高田は選手兼任で就任すると伝えている。

 ライオンは初回、一死後この日もショートに入っている山本尚敏が左前打で出塁、水谷則一の二ゴロで山本は二進、四番大友一明が左前にタイムリーを放って1点を先制する。

 金鯱は2回、四番小林茂太が中前打で出塁、古谷倉之助は左飛に倒れるが小林茂が二盗を決めて更にワイルドピッチで三進、中山正嘉の二ゴロの間に小林茂が還って1-1の同点とする。
 ライオンは5回、一死後煤孫伝の遊ゴロをショート瀬井清がエラー、中野隆雄中前打で一三塁、中野が二盗を決めて日野弘美の二ゴロをセカンド江口行男が低投して三走煤孫に続いて二走中野もホームに還って3-1としてなお一死二塁。しかし中山正嘉はくさらず坪内道則を右飛、山本を三振に打ち取る。ライオンとしてはここで追加点が欲しかったところであり、中山がここで粘ったことが結果的に勝因となった。

 金鯱は5回裏、この回先頭の佐々木常助が右前打で出塁、五味芳夫の三前送りバントをファースト桜井七之助がエラーして一三塁、五味が二盗を決めて無死二三塁、しかし江口は投ゴロ、瀬井は一邪飛に倒れて二死二三塁、ライオンは満塁策をとらず無類の勝負強さを誇る小林茂太と勝負するが小林茂は中前に同点タイムリーを放って3-3とする。

 シーソーゲームに決着をつけたのは金鯱7回の攻撃、又もや先頭の佐々木が左前打で出塁、五味の三前送りバントが内野安打となり更にサード中野が一塁に大暴投して一走佐々木は一挙にホームに還り4-3として五味も三塁に進み、キャッチャー日野のパスボールで五味が還って5-3とする。更に8回、二死から七番松元三彦、八番武笠茂男、九番佐々木常助の三連打で1点を追加して6-3とする。

 中山正嘉は8安打2四球4三振の完投、チーム12勝のうちの8勝目をあげてエースとしての地位を固めてきた。九番佐々木常助が3打数3安打2得点1打点の活躍であった。

2011年2月17日木曜日

13年春 阪急vsジャイアンツ 5回戦

7月13日 (水) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12  計
0 0 0 0 0 0 0 1 0  0   0   2   3  阪急             19勝12敗 0.613 石田光彦
0 0 0 1 0 0 0 0 0  0   0   0   1  ジャイアンツ 22勝10敗 0.688 スタルヒン 前川八郎


勝利投手 石田光彦 5勝4敗
敗戦投手 前川八郎 5勝3敗


二塁打 (ジ)白石
本塁打 (阪)黒田 4号


タイガース、優勝決定


 ジャイアンツは4回、一死後白石敏男が中前打で出塁して二盗に成功、吉原正喜四球、永澤富士雄四球で一死満塁、スタルヒンが中犠飛を打ち上げて白石がホームイン、この際二走吉原はタッチアップから三塁に向かう。センタージミー堀尾文人からのバクホームをカットしたピッチャー石田光彦はホームをあきらめサード黒田健吾に送球、吉原は二三塁間に挟まれて黒田からの送球を受けたショートキヨ野上清光がタッチしてアウト。これから見ると吉原が三走白石の本塁生還をアシストする目的で自らを囮とするためにスタートを切った頭脳的プレーにも見えるし、吉原らしい猪突猛進にも見え、真相は永遠の謎である。

 スタルヒンは7回まで阪急打線を5安打1四球無得点に抑えてきたが阪急は8回、この回先頭の石田光彦が四球で出塁、西村が送って一死二塁とするとジャイアンツはスタルヒンから前川八郎にスイッチ。フランク山田伝は三振に倒れるが黒田が右前にタイムリーを放って1-1の同点に追い付く。石田光彦は7~9回を三者凡退に抑えて試合は延長戦に突入する。

 阪急は10回表三者凡退。ジャイアンツは10回裏、一死後前川が一失に生き、二死後呉波に代わる代打川上哲治が四球を選び兵役から戻ってきた山本栄一郎が代走で登場するが千葉茂は二ゴロに倒れる。

 阪急は11回表、二死から宮武三郎、野上、宇野錦次が三連続四球、しかし上田藤夫が投ゴロに倒れて無得点。ジャイアンツは11回裏、二死後白石が中前打を放つが吉原は遊ゴロに倒れる。
 阪急は12回表、この回先頭の石田が四球で出塁、続く西村正夫の記録は投飛、恐らくバントの名手西村の送りバント失敗であろう。山田も中飛の倒れて二死一塁、ここで黒田が起死回生のツーランホームランを左翼スタンドに叩き込んで3-1とする。

 石田光彦は12回裏、先頭の代打青柴憲一に四球を与えるが三原脩を5-4-3のダブルプレーに打ち取り12回を投げ抜き5安打8四球1三振の完投で5勝目をあげる。黒田健吾がタイムリーとツーランで全打点をあげる。2得点に結びつけた石田が選んだ2四球が勝負を決めた。スタルヒンは肝腎なところで抑えきれず、本格化までは未だ道半ばである。

 マジックを1としていたタイガースはマジック対象のジャイアンツが敗れたため優勝が決定。

13年春 タイガースvsセネタース 5回戦

7月13日 (水) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 1 0 2 1 0 4 0 1 9 タイガース  26勝5敗        0.839 藤村富美男 景浦将
0 0 3 0 0 0 0 0 0 3 セネタース 12勝19敗1分 0.387 金子裕


勝利投手 景浦将 1勝0敗
敗戦投手 金子裕 4勝6敗


本塁打 景浦 4号


景浦将、阿修羅の如し


 タイガースは2回、一死後伊賀上良平が右前打で出塁、カイザー田中義雄の遊ゴロをショート磯野政次がエラー、奈良友夫の右前タイムリーで1点を先制する。

 セネタースは3回、この回先頭の青木幸造が左前打で出塁、磯野の送りバントが内野安打となり、苅田久徳の送りバントも内野安打となって無死満塁、北浦三男の右翼線安打で1-1の同点、尾茂田叶の投ゴロで磯野は本封、綿貫惣司が右前に2点タイムリーを放って3-1と逆転に成功する。
 
 タイガースは4回、この回先頭の山口政信が四球で出塁、景浦将が右翼スタンドに第4号同点ツーランホームランを放って3-3とする。景浦は6月4日の対ライオン2回戦でも左腕近藤久から甲子園の右翼スタンドに第3号を放っているが本日も左腕金子裕から右翼スタンドにホームラン。近藤、金子共に右打者の外角に逃げるシュートボールを得意とするだけに景浦は引き付けるだけ引き付けて右足に体重を残して引っ叩いているのではないか。6月4日の試合でも指摘した通り景浦は右にも大きなものを打てる打法を会得しており、決してプルヒッターではない。昭和12年秋季リーグ戦10月10日のセネタース4回戦では伊藤次郎の外角高めを甲子園のバックスクリーン右にライナーで飛び込む特大のホームランを放っており、合わせるだけのバッティングではなくステイバックがきちんととれているのではないか。

 ホームランを打った景浦は4回、レフトからマウンドに上がり先発藤村富美男はセカンドへ、セカンド奈良友夫がファーストに回り、ファースト本堂保次に代わり玉井栄が入ってレフト。
 タイガースは4回、一死後九番藤井勇が四球、玉井左前打、藤村四球で満塁から山口の遊ゴロゲッツー崩れの間に藤井が還って4-3と逆転する。

 タイガースは7回、この回先頭の皆川定之が左前打で出塁、6回からファーストに入った松木謙治郎が一塁に内野安打、玉井の送りバントが野選を誘い無死満塁、藤村の右犠飛で5-3、山口が三前内野安打で一死満塁、景浦の中前タイムリーで6-3、田中の押出し四球と奈良の左前タイムリーで8-3。更に9回、山口と田中のヒットで9-3とする。

 4回からリリーフに立った景浦将は6イニングを1安打1四球3三振で無得点に抑えきり、打っては5打数2安打3打点1本塁打と阿修羅の如き活躍。

  タイガースはいよいよマジックを1とした。





          *景浦の打撃とピッチング




2011年2月15日火曜日

13年春 タイガースvsイーグルス 5回戦

7月13日 (水) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 4 0 0 1 5 タイガース  25勝5敗         0.833 西村幸生
0 0 0 0 0 0 1 0 0 1 イーグルス 18勝13敗1分 0.581 亀田忠 望月潤一


勝利投手 西村幸生 10勝3敗
敗戦投手 亀田忠   12勝7敗


二塁打 (タ)景浦
三塁打 (タ)藤村


西村幸生、完投で10勝目


 序盤戦は西村幸生、亀田忠の投げ合いが続く。タイガースは初回一死後藤村富美男が中前打からパスボールで二塁に進むが山口政信、景浦将が連続三振。2回は松木謙治郎が中前打で出て無死一塁とするが伊賀上良平と西村が三振。5回も先頭のカイザー田中義雄が右前打で出塁するが二死から本堂保次三振。亀田はここまで3安打5三振3四球無失点。

 イーグルスは初回、中根之遊失、バッキー・ハリス左前打で一死一二塁とするが亀田は遊ゴロ併殺打。2回も中河美芳の右前打と辻信夫が四球で出塁するが杉田屋守、山田潔、漆原進がいずれも遊ゴロに打ち取られる。3回は寺内一隆二直、中根投ゴロ、ハリス遊ゴロ。4回は亀田、中河、杉田屋がいずれも二ゴロに倒れる。西村のボールはよく動いているようでほとんど内野ゴロに打ち取っている。

 タイガースは6回、この回先頭の藤村が四球で出塁、山口の遊ゴロをショート山田が一塁に悪送球、景浦が左翼線にタイムリー二塁打を放って1-0と先制、松木の右前タイムリーで3-0、伊賀上の中前打で無死一三塁として難敵亀田忠をKO、二番手に望月潤一が登場する。田中が望月の代わりばなを捕えて右前にタイムリーを放ち4-0、しかし西村中飛、岡田宗芳三邪飛、本堂遊ゴロで追加点はならず。

 イーグルスは7回、辻四球、漆原中前打で無死一二塁から岡田と松木のエラーで1点を返して1-4。

 望月潤一は7回、8回と三者凡退に抑えて9回も二死を取るが本堂右前打、藤村右中間三塁打で1点を献上し、タイガースが5対1で快勝してマジックを2とする。

 西村幸生は7安打6四球2三振と相変わらず走者を出しながら要所を抑えるピッチング、完投で今季10勝目をあげる。

2011年2月14日月曜日

13年春 第10節 週間MVP

 今節は前節の変則開催のあおりを受けて再び変則開催となった。タイガースが4勝1敗、イーグルスが2勝1敗、ジャイアンツが3勝2敗、阪急が1勝1敗、金鯱が2勝3敗、名古屋が1勝3敗、ライオンが1敗、セネタースが1敗であった。


週間MVP

投手部門

 タイガース 御園生崇男 1

 優勝に向けて邁進するタイガースで安定味抜群のピッチング。


打撃部門

 金鯱 古谷倉之助 1

 今節15打数5安打6打点。タイガース5回戦のホームラン、阪急5回戦のサヨナラ打、今季最高の激戦となったイーグルス4回戦でドラマを呼ぶ9回表の同点打と、印象に残る打撃であった。



殊勲賞

 イーグルス 中河美芳 1

 今季最高の激戦となった金鯱4回戦でサヨナラ打を放つ。


敢闘賞
 
 金鯱 中山正嘉 1

 ジャイアンツ5回戦の好リリーフ、阪急5回戦では延長10回完投勝利。

 金鯱 小林茂太 3

 今節21打数7安打5打点、当代屈指のクラッチヒッター。


技能賞

 イーグルス 漆原進 1

 今節11打数4安打4打点の活躍。渋いつなぎ役が目立つ。ジャイアンツ4回戦では中根之との二発でスタルヒンを沈める。

 イーグルス 中根之 1

 今節16打数5安打。スタルヒンからのホームラン、金鯱4回戦では中河のサヨナラ打を呼ぶヒットを放つ。

2011年2月13日日曜日

13年春 阪急vsセネタース 5回戦

7月10日 (日) 上井草


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 1 1 0 0 0 2 阪急          18勝12敗       0.600 重松通雄
0 0 1 0 0 0 0 0 0 1 セネタース 12勝18敗1分 0.400 伊藤次郎 浅岡三郎


勝利投手 重松通雄 2勝0敗
敗戦投手 伊藤次郎 0勝2敗


二塁打 (セ)苅田
三塁打 (阪)西村


ジミー堀尾、4打数3安打2盗塁


 初回に二死満塁のチャンスを逃したセネタースは3回、この回先頭の苅田久徳が右中間に二塁打、一死後尾茂田叶の三ゴロは苅田動けず一二塁、綿貫惣司の右前タイムリーで苅田が還って1点を先制する。

 阪急は5回、二死から西村正夫が右中間に三塁打、フランク山田伝が中前にタイムリーを放って1-1の同点とする。

 阪急は6回、この回先頭のジミー堀尾文人がこの日3本目のヒットを中前に放つとこの日2個目の盗塁を決めて無死二塁、黒田健吾は三邪飛に倒れて、キヨ野上清光四球で一死一二塁、宇野錦次の一ゴロで野上が二封されて二死一三塁、島本義文の遊ゴロをショート磯野政次が一塁に悪送球する間に堀尾が還って2-1と逆転に成功する。

 重松通雄は7安打4四球4三振の完投で今季2勝目をあげる。重松通雄、古川正男の両アンダーハンドが絶好調である。

 阪急の四番を打つジミー堀尾文人が4打数3安打2盗塁の活躍。スピードとパワーを併せ持つという点では当代随一である。スピードとパワーの融合と言えば40本塁打40盗塁、いわゆる40-40となるが、日本で最も近付いたのは1987年西武時代の秋山幸二の43本塁打38盗塁でしたが未だ達成者はいません。井口が日本で続けていれば可能性がありましたが。メジャーではホセ・カンセコ以降、バリー・ボンズ、アレックス・ロドリゲスが到達しましたがいずれも薬の力を借りていたようで、実質的には2006年のアルフォンソ・ソリアーノだけということになります。

 日本ではラビットボールを使用した昭和25年に3人誕生する可能性がありました。この年161打点、143得点、376塁打の現在も残る日本記録を樹立した小鶴誠は51本塁打28盗塁、40-40を意識していればもう少し盗塁が伸びた可能性があります。別当薫は43本塁打34盗塁、こちらは記録を意識してさえいれば間違いなく到達したでしょう。もう一人はこの年38歳の岩本義行39本塁打34盗塁です。

 ジミー堀尾が現代に甦れば、間違いなく40-40候補となっていたでしょう。





*昭和10年アメリカ遠征時のジミー堀尾文人のサイン


13年春 タイガースvsライオン 4回戦

7月10日 (日) 上井草


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
1 0 1 0 0 0 0 1 1 4 タイガース 24勝5敗   0.828 御園生崇男
0 0 1 0 0 0 0 0 1 2 ライオン    8勝23敗 0.258 菊矢吉男


勝利投手 御園生崇男 10勝1敗
敗戦投手 菊矢吉男       7勝16敗


二塁打 (ラ)煤孫


タイガース、マジック3


 タイガースは一番本堂保次をファーストに入れて二番にセカンド藤村富美男、松木謙治郎を下げて八番ライトに塚本博睦を入れる。石本秀一監督は何とか塚本を使おうとしている。
 ライオンは二番ショートに山本尚敏を起用、ライオンはショート中野隆雄の守備が最大のネックとなっており、中野隆雄をサードに回して昭和11年以来の試合出場となる山本をショートに配してきた。

 タイガースは初回、二死から山口政信が四球で出塁、すかさず二盗を決めて二死二塁、景浦将の四球は敬遠の可能性が高い。二死一二塁から伊賀上良平が左翼線にタイムリーを放って1点を先制する。2010年12月8日付ブログ「12年秋 講評」において「当ブログからMVPを選出するとすれば山口政信に贈呈したい。」と書きましたが、山口はこれができるからMVPに相応しいと判断した訳です。こうやって1点を拾っていけるのがタイガースの強味な訳です。

 タイガースは3回、この回先頭の本堂が四球で出塁、藤村の右前打で無死一三塁、ここで藤村がディレード気味にスタートを切るとキャッチャー日野弘美はショート山本に送球、本堂がホームを突くが2-6-2と送球されて本堂はタッチアウト、本堂には盗塁失敗が記録される。藤村がセカンドに走り日野が再度ショートに送球するがこれが悪送球となって藤村は三塁に進む。この場面を翌日の読売新聞は「重盗を刺そうとした捕手の二塁悪投」と記しているがこれは正確ではない。本堂は「2-6-2」でアウトとなり盗塁失敗が記録されていることからタイガースの重盗は失敗に終わっているわけで、藤村に対する悪送球はその次のプレーとなる。因みに藤村の二塁進塁にも三塁進塁にも盗塁は記録されていない。ということは二塁進塁は重盗失敗による進塁で、この場合片割れには盗塁は記録されない。三塁進塁はキャッチャー日野の悪送球によるものでこのプレーで日野には失策が記録されている。山口三振後、景浦が左前にタイムリーを放って2-0とする。

 ライオンは3回裏、この回先頭の日野が四球で出塁、菊矢吉男は三振に倒れるがトップに返り坪内道則が中前打、山本左飛後、水谷則一が右前にタイムリーを放って1-2とする。

 前節の変則開催のあおりを受けて今節も変則開催となりライオンは本日が今節初登場で7月3日以来一週間ぶりの試合となり菊矢吉男は休養十分、むしろ肩が軽すぎるかもしれない。タイガースは3~5回は無安打、6回二死から本堂が右前打して二盗を決めるが藤村は中飛に倒れる。ライオンも御園生崇男の前に4~6回まで無安打、7回一死後菊谷が中前打を放つが坪内の二直に飛び出しダブルプレー。因みに当時は公式戦の合間を縫ってオープン戦が頻繁に行われています。本日はジャイアンツvs名古屋のオープン戦が仙台で行われている。名古屋は昨日の第二試合を上井草で行っており、16時10分に試合終了してから西武線で新宿に行き上野に出て恐らく夜行で仙台に向かったのではないか。ジャイアンツは昨日は試合が無かったので一足先に着いていたでしょうが。したがってライオンも休みの間にオープン戦を行っている可能性はありますが。地方ファンの開拓が名目でしょうが、少しでも入場料を稼ぎたいというお家の事情が優先されたのでしょう。現在の好環境に慣れきった選手会であれば「ストライキだー」と騒ぐでしょうが。

 タイガースは8回、一死後景浦が右前打で出塁、景浦の場合豪打ばかりが喧伝されているが、こういう出塁するべき場面では軽打で出塁することが多い。伊賀上左前打、カイザー田中義雄四球で一死満塁、御園生の二ゴロ併殺崩れの間に景浦が還って3-1とする。更に9回、先頭の本堂が四球で出塁、藤村が左前打で続き山口の右飛で本堂が三進、山口はこういう場面で進塁打が打てる。景浦が中犠飛を打ち上げて4-1とリードを広げる。当時は犠牲フライは記録されておらず凡打となるが景浦にも進塁打を打つと言う意識があった訳です。

 ライオンは9回、この回先頭の煤孫伝が左翼線に二塁打、中野のピッチャー強襲ヒットで無死一三塁、日野に代わる代打近藤久の一ゴロで中野は二封、煤孫は動けず一死一三塁、菊谷の投ゴロで二死二三塁、坪内の中前打で煤孫が還って2-4とするが山本は左飛に倒れてゲームセットを告げるサイレンが鳴り響く。

 御園生崇男は8安打5四球6三振の完投で今季10勝目をあげる。菊矢吉男も9回を8安打7四球5三振の完投ながら今季16敗目を喫す。

 タイガースはこれでマジックナンバーを3とする。本日の試合は目立たないがタイガースの強さの秘密が随所に見られた。タイガースを研究する人はこういう試合を研究材料とするべきでしょう。







*タイガース2回の重盗失敗の場面。本堂は2-6-2で盗塁失敗、藤村の二塁進塁は(a)となっており重盗失敗の片割れによる進塁でこの場合は盗塁は記録されません。三塁進塁ははキャッチャーからショートへの送球が高く逸れて悪送球となったことによるもの。2’がキャッチャーのエラー、2-6の-の上に・があるのが高く逸れた送球であることを表しています。

13年春 金鯱vsイーグルス 4回戦

7月10日 (日) 上井草


1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11  計
1 0 0 0 0 0 0 4 2  0   0   7 金鯱           11勝21敗       0.344 常川助三郎 鈴木鶴雄 中山正嘉
4 3 0 0 0 0 0 0 0  0  1X  8 イーグルス 18勝12敗1分 0.600 古川正男 亀田忠


勝利投手 古川正男     3勝5敗
敗戦投手 常川助三郎 0勝3敗


二塁打 (イ)寺内、漆原、ハリス


今季最高の激戦


 金鯱はキャッチャー松元三彦が帰ってきた。岡田源三郎監督は采配に専念できる。

 金鯱は初回、先頭の五味芳夫が四球で出塁するとすかさず盗塁、しかしバッキー・ハリスの強肩に阻まれて盗塁失敗。江口行男が左前打、瀬井清も左前打で続いて一死一二塁、小林茂太の一ゴロは3-1と渡るが連係が悪くベースカバーに入った古川正男がエラーして一死満塁、古谷倉之助の遊ゴロ併殺崩れの間に江口が還って1点を先制する。

 イーグルスは1回裏、先頭の寺内一隆が左翼線に二塁打、漆原進が左中間に二塁打を放って1-1の同点。中根之の投ゴロで漆原が三塁に走り常川助三郎が三塁に送球するがこれをサード五味がエラー、バッキー・ハリスが右翼線に二塁打を放ち二者を迎え入れて3-1と逆転、ライトからの返球が悪送球となる間にハリスは三塁に進み無死三塁。中河美芳のピッチャー返しは投直となって一死三塁、中河のこのバッティングが本日のドラマの伏線となりますので覚えておいてください。ここで杉田屋守がスクイズを決めて4-1とする。この回の3本の二塁打は翌日の読売新聞によると全てテキサスリーガーズヒットであったとのこと、常川にとっては不運であったようだ。

 イーグルスは2回、この回先頭の山田潔が四球、辻信夫も四球を選んで無死一二塁、金鯱は常川から鈴木鶴雄に交代、寺内が送って一死二三塁、漆原が中前にタイムリーを放って二者還り6-1、中根の二ゴロで二進した漆原が三盗を決めて二死三塁、ハリスがライト戦にタイムリーを放って7-1とリードを広げる。ここまで漆原とハリスが3打点ずつをあげる。

 鈴木鶴雄はこの後9回に2四球を出して中山正嘉と交代するまでイーグルス打線を無得点に抑え終盤のドラマを演出する立役者となった。

 リードすると生きてくる古川正男の軟投は金鯱打線を寄せ付けず2回~7回まで無安打ピッチング。ところが8回に捕まった。

 金鯱は8回、一死後瀬井清が中前打で出塁、小林茂左前打、古谷左前打で一死満塁、復活松元三彦が左翼線にタイムリーを放って二者還り3-7、イーグルスはここで古川から亀田忠にスイッチ、武笠茂男が右前にタイムリーを放って4-7、鈴木四球で一死満塁、佐々木常助が中犠飛を打ち上げて5-7とする。

 金鯱は9回、この回先頭の江口が中前打からワイルドピッチで二進、瀬井は三振に倒れるが小林茂四球で一死一二塁、ここで決死のダブルスチールを決めて一死二三塁、昨日サヨナラヒットを放った古谷倉之助が又も殊勲の同点2点タイムリーを中前に放って7-7と追い付く。

 イーグルスは9回裏、この回先頭の漆原が四球で出塁、中根の三ゴロでランナーが入れ替わりハリス四球、金鯱はここで好投の鈴木鶴雄から中山正嘉にスイッチ、中河四球で一死満塁、杉田屋の打球は右翼へのフライ、タッチアップから三走中根がスタート、しかしライト小林茂太からの返球が一瞬早くタッチアウトで延長戦に突入。

 金鯱は10回表、一死後佐々木が中前打を放つが五味三ゴロ、江口二ゴロ。イーグルスは10回裏、二死から辻が四球を選ぶが寺内は投ゴロ。金鯱は11回表、先頭の瀬井が四球、小林茂の遊ゴロでランナーが入れ替わり小林茂は二盗を試みるがハリスに阻まれる。直後に古谷が中前打を放つが松元は一ゴロ。

 イーグルスは11回裏、先頭の漆原は遊飛、中根が中前にクリーンヒット、ハリスの遊ゴロで中根は二進、ここで中河美芳が中前にサヨナラタイムリーを放ち激戦に終止符を打つ。中河は第一打席の投直の後は第二打席も投ゴロ、第三、四打席の左飛、二ゴロも気持ちはセンター返しにあったのであろう。第五打席はじっくりと見て四球、第六打席のサヨナラ中前打はWBCのイチローの決勝打のような感じだったのではないか。

 フランクリン・ルーズベルト大統領が「野球は8対7の試合が一番面白い。」と言うのはもう少し後の事ですが、今季最高の激戦と言ってよいでしょう。

 この試合の敗戦投手は2回途中6失点で降板した常川助三郎に記録されている。序盤の失点が大きかったと判断されたのであろうが当時としてもかなり大胆な判断だったと思う。一方、勝利投手は5失点ながら古川正男に記録されている。記録者は2回~7回まで無安打に抑えたピッチングを評価したのであろう。古川の好調なピッチングはネット裏でも話題になっているのではないか。現行ルールであれば勝利投手は亀田忠、敗戦投手は中山正嘉であることは言うまでもない。




*金鯱vsイーグルス4回戦の激戦を伝えるスコアブック











          *金鯱8回、9回の反撃の場面






          *中河美芳のサヨナラヒットの場面







     *勝利投手は古川正男、敗戦投手は常川助三郎に記録されている




2011年2月12日土曜日

13年春 イーグルスvsジャイアンツ 5回戦

7月9日 (土) 上井草


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 イーグルス  17勝12敗1分 0.710 亀田忠
0 0 0 0 1 0 0 1 X 2 ジャイアンツ 22勝9敗     0.586 スタルヒン


勝利投手 スタルヒン 13勝2敗
敗戦投手 亀田忠      12勝6敗


二塁打 (イ)中根 (ジ)スタルヒン
三塁打 (ジ)千葉


スタルヒン、ハーラー争いを制す


 12勝でハーラートップに並ぶ亀田忠vsスタルヒンの対決。

 イーグルスは初回、二番中根之が内野安打で出塁するがバッキー・ハリス右飛、亀田忠遊ゴロ。2回は三者凡退、3回は二死から寺内一隆が中前打、しかし中根は三振に倒れる。4回は三者凡退、5回は一死後野村実が内野安打で出るが山田潔の右飛に飛び出して9-3と渡りゲッツー。

 ジャイアンツは初回、二死から千葉茂が右中間に三塁打、中島治康四球で一三塁、しかし水原茂は捕飛に倒れる。2回は一死後吉原正喜が四球に歩くも無得点、3回は三者凡退、4回は一死後水原が左前打で出塁するが白石敏男二ゴロ、吉原遊直で得点無し。

 ジャイアンツは5回、一死後スタルヒンが中越えに二塁打、トップに返り三原脩の左前打で一三塁、呉波の二ゴロをセカンド野村がエラーする間にスタルヒンが還って1点を先制する。ジャイアンツは8回、この回先頭の千葉が四球で出塁、中島が投前に送りバント、水原の右飛で三進、白石が右前にタイムリーを放って2-0とする。

 イーグルスは6回は三者凡退、7回、先頭のハリスが左前打で出塁するがキャッチャー吉原からの牽制に刺されて無得点、8回も先頭の杉田屋守が右前打で出塁するがゲッツーで得点はならず。

 イーグルスは9回、一死後寺内一隆が四球で出塁、ジャイアンツはレフトを千葉から平山菊二に交代、中根の当たりは平山の頭上を襲い二塁打となり一死二三塁、ハリスの左犠飛で1-2とするが亀田は三飛に倒れてゲームセットを告げるサイレンが鳴り響く。

 スタルヒンは6安打1四球4三振の完投で今季13勝目をあげる。亀田忠は8回を6安打3四球4三振。スタルヒンはハーラートップに立ったが今季は印象度が薄い。むしろ内容的には亀田忠の方がはるかに濃い。

 中島治康はこの日2打数無安打で今季通算127打数43安打打率3割3分9厘で首位打者をキープ。桝嘉一が3割3分、伊藤健太郎が三位に上がり3割2分4厘、中根之が浮上して落ちてきた石田政良と並んで3割2分1厘とここまでが争覇圏内となってきた。

13年春 タイガースvs名古屋 4回戦

7月9日 (土) 上井草


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 1 3 0 1 1 6 タイガース 23勝5敗   0.821 西村幸生
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 名古屋    9勝22敗 0.290 森井茂 繁里栄


勝利投手 西村幸生 9勝3敗
敗戦投手 森井茂     3勝8敗


二塁打 (タ)伊賀上、松木 (名)大沢


西村幸生、投打に活躍


 タイガースは前日3安打の塚本博睦を一番ライトに起用、しかしこの日は二打席連続三振で三打席目に本堂保次を代打に送られた。

 タイガースは5回、この回先頭の西村幸生が左前打で出塁、岡田宗芳の遊ゴロは6-4-3と渡るがセカンドはセーフで一死二塁、塚本に代わる代打本堂の一ゴロをファースト大沢清がエラーして一死一三塁、藤村富美男の左犠飛で1点を先制する。

 タイガースは6回、この回先頭の景浦将が三塁に内野安打、これをサード倉本信護が一塁に悪送球して無死二塁、五番松木謙治郎の左中間タイムリーで2-0とする。松木は盗塁に失敗するが続く伊賀上良平が左中間に二塁打、門前真佐人の三ゴロをサード倉本がエラー、西村が左前にタイムリーを放って3-0、名古屋は先発森井茂から繁里栄にスイッチ、パスボールと岡田四球で一死満塁、本堂の中犠飛で4-0とする。

 タイガースは8回、伊賀上四球、西村左前打から岡田が中前にタイムリーを放って5-0、更に9回、山口政信四球、松木の右翼線二塁打から伊賀上の左前タイムリーで6-0とする。

 西村幸生は7安打3四球2三振で今季3度目の完封勝利、打っても4打数3安打1得点1打点の活躍であった。今季はいまいち調子が出ていないが本日は今季一番の出来と言ってよいのではないか。タイガースはマジックナンバーを4とした。

13年春 阪急vs金鯱 5回戦

7月9日 (土) 上井草


1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 計
2 0 0 0 0 0 0 0 0  0  2  阪急 17勝12敗 0.586 小田野柏
2 0 0 0 0 0 0 0 0 1X 3  金鯱 11勝20敗 0.355 中山正嘉


勝利投手 中山正嘉 7勝6敗
敗戦投手 小田野柏 2勝2敗


二塁打 (阪)黒田、野上、山田 (金)小林茂、瀬井、江口


古谷倉之助、サヨナラ打


 金鯱中山正嘉、阪急小田野柏による見応えのある投げ合いとなった。

 阪急は初回、先頭の西村正夫が四球で出塁、フランク山田伝の遊ゴロをショート瀬井清がエラー、宮武三郎の投ゴロで二走西村は三封、四番ジミー堀尾文人の三ゴロで二死二三塁、黒田健吾が左翼線に二塁打を放って2点を先制する。

 金鯱は1回裏、二死から瀬井清が四球で出塁、小林茂太が右中間に二塁打を放って瀬井が還り1-2、古谷倉之助の投ゴロを小田野がエラーする間に小林茂が還って2-2の同点とする。

 中山正嘉は2回先頭の宇野錦次を四球で歩かせるが島本義文を6-4-3の併殺に打ち取る。3回、4回は三者凡退、5回に3四球を与えて一死満塁とするが山田を捕邪飛、宮武を投ゴロに抑える。6回にキヨ野上清光、7回に山田に二塁打を許すが後続を抑え8回は三者凡退、9回二死から小田野を四球に歩かせるが牽制で刺す。これは小田野の疲れを誘うために歩かせたのではないだろうか。策士岡田源三郎監督が考えそうなものである。

 小田野柏は2回、先頭の岡田源三郎監督を四球で歩かせパスボールで二塁を許すが後続を抑え、3回もエラーと四球で二走者を出すが中山を一ゴロ、武笠茂男を遊ゴロに抑える。4回も先頭の岡田監督を四球で歩かせ佐々木常助の送りバントと五味芳夫の右前打で一死一三塁のピンチを迎えるが五味の盗塁を島本義文が刺して江口行男を二ゴロに打ち取る。5回は三者凡退、6回は二死後岡田監督に中前打と盗塁を許すが佐々木を遊ゴロ、7回も二死から瀬井に二塁打を打たれるが小林茂を投ゴロに抑える。8回、9回は三者凡退で試合は延長戦に突入。

 阪急は10回表、この回先頭の西村が三前にセーフティバントを決めて山田が送りバント、宮武敬遠で一死一二塁、堀尾の遊ゴロで宮武が二封、黒田四球で二死満塁とするが野上は二ゴロに倒れる。

 金鯱は10回裏、この回先頭の江口が右翼線に二塁打、瀬井の投前送りバントは一塁ベースカバーに入ったセカンド宇野がエラー、小林茂敬遠で無死満塁、ここで古谷倉之助が中前にサヨナラヒットを放って金鯱が打っ棄る。

 翌日の読売新聞は「岡田監督大活躍!」の見出しと共に「また本塁に頑張って士気を鼓舞ししかも四球、安打、盗塁などで自ら三度までチャンスを作っていった岡田監督大車輪の奮闘も○し得ぬ勝因であった。」と締めており、岡田源三郎監督の奮闘は社会現象化してきているようだ。

13年春 金鯱vsタイガース 5回戦

7月8日 (金) 後楽園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 1 0 2 0 0 0 3 金鯱      10勝20敗 0.333 常川助三郎 塩田猪年男
0 3 0 1 0 1 0 2 X 7 タイガース 22勝5敗   0.815 釣常雄 御園生崇男


勝利投手 御園生崇男 9勝1敗
敗戦投手 常川助三郎 0勝2敗


二塁打 (金)小林茂 (タ)釣、田中、御園生
本塁打 (金)古谷 1号 (タ)伊賀上 1号


塚本博睦、実力を示す


 ジャイアンツが勝手にこけてマジック点灯後初の試合となるタイガースは釣常雄が先発、六番センターに塚本博睦が初めてスタメンに名を連ねる。

 タイガースは2回、一死後伊賀上良平が左翼スタンドに先制ホームラン。塚本が中前打で出塁するとすかさず二盗に成功、流石は呉港中学時代から俊足で鳴らしただけの事はある。カイザー田中義雄が中前にタイムリーを放って2-0、釣常雄が右翼線に二塁打を放ち無死二三塁、岡田宗芳の遊ゴロに二走釣が当たって守備妨害、三走田中のホームインは認められて3-0とする。

 金鯱は4回、この回先頭の小林茂太が右翼線にヒット、一死後武笠茂男の右翼線ヒットで一三塁、岡田源三郎監督が中犠飛を打ち上げて1-3とする。

 タイガースは4回裏、この回先頭の塚本が二打席連続ヒットを左前に放ち田中の右中間二塁打で無死二三塁、金鯱は常川助三郎から塩田猪年男にスイッチ、一死後岡田死球で満塁、本堂保次の遊ゴロの間に塚本が還って4-1とする。

 金鯱は6回、一死後小林茂太が左中間に二塁打、古谷倉之助が左翼スタンドにツーランホームランを叩き込んで3-4とする。続く武笠は死球、タイガースベンチはここで釣から御園生崇男にスイッチ、岡田源三郎は三振に倒れ、武笠の盗塁を田中が刺してチェンジ。

 タイガースは6回裏、この回先頭の塚本が三席連続ヒットを左翼線に放ち、田中の三ゴロでランナーが入れ替わり、釣の投ゴロでゲッツーかと思われたが塩田からの送球をセカンド江口がエラー、バックアップのセンター佐々木常助からの三塁送球が悪送球となる間に田中が還って5-3とする。更に8回、一死後塚本が四打席連続出塁となる四球を選んでこの日2個目の盗塁に成功、田中左前打で一死一三塁、御園生崇男の左中間二塁打で二者還って7-3としてそのまま逃げ切りマジックを5とする。

 御園生崇男は3回3分の2を無安打1四球5三振の快投、現行ルールでは釣常雄に勝利投手が記録されるがピッチング内容が考慮されて公式記録では御園生に9勝目が記録される。

 初スタメンの塚本博睦が3打数3安打1四球2盗塁3得点と実力を示した。恐らく岡田源三郎監督がマスクを被る時は各チームとも盗塁は控えているようであるが、めったに出番のない塚本にはそんなことは言っておられない。金鯱も五味芳夫が2盗塁、江口、武笠が1盗塁と「脚の金鯱」を見せつけた。翌日の読売新聞は「なお岡田監督大童の奮闘は金鯱軍の士気を鼓舞した点に多大の力があった」と締めており、岡田源三郎監督の奮闘がかなり話題になってきていることがうかがえる




*塚本博睦の活躍を伝えるスコアブック