2010年8月11日水曜日

12年春 講評

 我が国野球史上初の試みとなる長期リーグ戦は、ジャイアンツとタイガースの激しい首位争い(最大ゲーム差1.5ゲーム)の末、ジャイアンツが引き分け一つの差で優勝をとげた。ジャイアンツの優勝の要因は、八球団中唯一、二度のアメリカ遠征において長期の戦いを経験していたことに起因する。戦力的にははるかにタイガースが上回るが最後は経験の差がものをいったのである。


 と持論を述べるつもりでいたのですが、何と澤村栄治が同じことを言っていることが判明しました。本日いつものとおり資料整理のため野球体育博物館の図書室に行ってきましたが(今週は夏休み)、昭和12年7月28日付け読売新聞の「巨人軍座談会」において、澤村の発言として「・・・これは二度のアメリカ遠征でハードワーク試合の経験が非常に役立ち調子を崩さずにすみました。実際アメリカ遠征の効果は大きかったとつくづく思っています。」と掲載されている。


 なお、図書室の後ろの席の小学生が夏休みの自由課題として「野球の歴史の研究」を題材にしてホーレス・ウィルソンによる野球の伝来以来の歴史を調べていたのには驚かされました(私が野球体育博物館に通っていたのは中学生時代です。当時は後楽園球場の隣の一軒家でした。)。頼もしき後継者です。世は歴女ブームですがそのうち野球史ブームがやってくるかもしれません。


*写真は第1回アメリカ遠征を伝える作品、好著です。




 ジャイアンツは青柴憲一と成田友三郎を病気で欠いたため、澤村、スタルヒン、前川八郎で回さざるを得なかったわけであるが、澤村をタイガース戦に集中的に投入し、他のカードでは澤村の連投は優勝決定日のセネタース8回戦のみで、後はスタルヒンと前川でやりくりしてきた。しかもシーズン後半はスタルヒンが大いに成長して一本立ちしたことが大きい。ローテーションを最後まで守ったのは長期の戦いを経験しているからである。
  


 タイガースは投打ともに最強の布陣であったが、逆に投手陣が豊富すぎたことがジャイアンツに半ゲーム差で優勝を譲る要因ともなった。ジャイアンツは澤村と心中する以外に道はなく他に選択肢がなかった訳であるがタイガースは四本柱の中で誰を中心にすべきかを最後まで決めることができなかった。この点、前述の座談会で藤本監督も「・・・タイガースでは景浦、御園生、西村よりは若林を一番警戒していたのだがタイガースは若林をベンチに置いて逆に逆にと投手を出してくれたので大いに助かった・・・」と述べている(この記事を読んでタイガースの夏合宿は大いに発奮したのではないだろうか。石本監督のスパルタ指導にも一段と力が入ったと推測される。)。なお、7月16日付け読売新聞はタイガースにハワイ朝日軍のカイザー田中義雄捕手が入団すると伝えている。唯一の弱点であった捕手陣の整備も完了(門前真佐人が弱点というのだから戦力の充実ぶりがうかがえる。)。






 セネタースは苅田久徳を中心とする併殺網、隙のない走塁で少ないチャンスを生かす機動力野球で阪急との三位争いを制した。野口明は澤村と比べるとやや波があったが最多投球回(257回、二位は古谷倉之助の256回)を記録して不動のエースの座を保った。ジャイアンツ戦4勝の全てが野口明によるものであった。野口明の不振時に伊藤次郎が出てきたことも大きかった。






 阪急は期待外れと言うべきかこんなもんだろうと言うべきか迷うところ。春先は圧倒的強さを誇ったが当時から長続きするかについては懐疑的な見方が強かった。山下実の怪我による欠場により快進撃は止まったが、上田藤夫、黒田健吾の伏兵陣が頑張ったことで何とか踏みとどまることができた。西村正夫、山田伝に続き宮武三郎、山下実、山下好一、ジミー堀尾文人と揃う打線は迫力満点ではあるが外野と一塁手に重複してしまっている。


 宮武三郎については5月9日付け阪急vsセネタース3回戦において「当ブログでは宮武の活躍をお伝えできそうにないのは残念」と書きましたが、出場する試合においてはその存在感を十分に発揮している。慶応義塾大学時代の名声に比してプロで残した数字が物足りないことに起因して宮武に関しては「プロでは全盛期を過ぎており十分に力を発揮できなかった。」と伝わっているのだが(これに起因して5月9日には上記のように書いてしまった訳ですが)、ジャイアンツ7回戦において澤村を打ち砕く左中間二塁打を放つなど、少ない出場機会においてその実力の片りんを見せていることを発見できたことは今回のスコアブック解読作業の一つの収穫であった。残された数字を見るだけでは分からない事実関係を紐解いていくことが当ブログの存在意義でもあります。


 
 金鯱は最終第四期に5連勝が二回、第四期の勝利数はジャイアンツをも上回る活躍で大いに盛り上げてくれた。何といってもチームが最も充実しているところでタイガースとぶつかり7、8回戦を中山正嘉の二試合連続2安打完封で連勝したことによりジャイアンツに優勝をもたらすこととなった。

 6月25日のセネタース5回戦12回裏、岡田源三郎監督が自ら代走として出場しサヨナラのホームを踏んでからチームの雰囲気が一変した。勝負強い小林利蔵は二塁打12本でランキング四位、長打を連発する瀬井清は本塁打3本でランキング三位、三塁打6本でランキング四位、第四期の月間MVPに輝いた黒澤俊夫はおもに四、五、六番を打ち、打率は2割9分5厘で第三位、四死球が多く(51個でランキング四位)盗塁も多い(18個でランキング六位)。
 エース古谷倉之助はチェンジオブペースを主体とするのらりくらり投法で15勝とハーラー三位。先発の時は主に五番を打つ。



  大東京は強さと脆さを併せ持つ。主にトップを打つ鬼頭数雄は打数244でダントツ一位。安打数67は首位打者松木謙治郎に次いで二位、塁打数も松木、中島治康に次いで第三位の88であった。
 エース近藤久は11勝をあげてハーラー第五位。バッティングも良い。



  名古屋は序盤戦、森井茂と田中実のみで回すというローテーションを組んだあたりが長期リーグ戦の経験の無さを露呈している。遠藤忠二郎の加入によりローテーションに余裕ができた。田中実は「元祖・リリーフの切り札」と言っても良い存在で主にロングリリーフで9勝3セーブ(セーブは当ブログ独自の算定であり公式記録にはありません。)をあげた。



 イーグルスは12勝44敗の成績からは計り知れない可能性を持つ。確かにぼろ負けの試合もあるが終盤に粘りを見せることが多い。接戦に負けるケースが多いが一歩違えば逆のケースになり得る戦いぶりである。課題はショートサム高橋吉雄の守備であり、四番バッターだけにはずせないのでセカンドに回すべきであり、そのためにはショートに人材を得ること以外に解決策はない。バッキー・ハリスの加入により打線に厚みを増しており侮れない存在である。中根之は昨年の首位打者に続いて今季も松木に次いで第二位であった。
 エース畑福俊英は人生意気に感じるタイプでありどんな場面でも肩の痛みを押して投げまくる。投球回数239回は野口明、古谷倉之助、澤村栄治に次ぐ第四位であり澤村との差は僅かに5イニングである。



 

 秋季リーグ戦は約1カ月半の休みを挟んで8月29日に開幕する予定。この間兵役による退団、新加入選手があり秋の陣容は若干変化があります。各チームはオープン戦、夏季トレーニングにより秋季リーグ戦への準備は万端です。

  リーグ戦は休みを挟みますが当ブログに夏休みはありません。明日から秋季リーグ戦の実況中継を行います。





















0 件のコメント:

コメントを投稿