2010年6月20日日曜日

12年春 タイガースvs阪急 5回戦

6月7日 (月) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 4 0 3 0 0 0 1 8 タイガース 25勝7敗1分 0.781 御園生崇男
0 0 1 0 0 0 0 1 0 2 阪急     16勝16敗   0.500 北井正雄-重松通雄-笠松実


勝利投手 御園生崇男 7勝1敗
敗戦投手 北井正雄   1勝3敗


二塁打 (タ)松木2 (阪)山下実、堀尾
三塁打 (タ)松木
本塁打 (タ)山口 1 (阪)山下実 2


松木謙治郎3本の長打


 阪急は北井正雄が久々の先発、五番ファーストに宮武三郎を起用し山下実をライトに配す。したがって、二番 (8) ジミー堀尾文人、三番 (9) 山下実、四番 (7) 山下好一、五番 (3) 宮武三郎という世にも恐ろしき強力打線となった訳であるが、実情は、宮武が病気上がり、堀尾の体調も万全ではなく、山下実は6月12日から20日間予備勤務のため大阪第四聯隊に入営することになっており(これは5月31日付け読売新聞に掲載されています)、まともに働けそうなのは山下好一のみ。北井の体はすでに投げられる状態になく、現在のタイガース相手では苦戦は免れないか。

 1回、2回と1安打づつを許しながらも何とか踏ん張ってきた北井正雄もついに3回に力尽く。タイガースは3回、先頭の岡田宗芳四球、トップに返り松木謙治郎が右中間に三塁打を放ち1点先制、藤井勇の中前タイムリーで2-0、奈良友夫も中前打で続き景浦将の左前タイムリーで3-0、ここで北井が退きリリーフに重松通雄を投入、山口政信の二ゴロの間に奈良が還り4-0とする。

 阪急は3回裏、ヒットと盗塁で二塁に進んだ倉本信護を堀尾の左前打で還して1-4。タイガースは5回、一死後山口政信が左中間最深部にホームラン、伊賀上良平、御園生崇男連続四球で重松が降板、代わった笠松実も門前真佐人に四球を与え、岡田の左犠飛で6-1、松木の右中間二塁打で御園生が還り7-1とする。

 阪急は8回、短期とは言え入営を控える山下実が左翼スタンドに第2号ホームランを流し打って1点を返すが、タイガースも9回、ヒットで出塁した伊賀上が岡田の三ゴロで生還し8-2とする。
 大量リードをバックに御園生崇男はいつもながらの安定したピッチング、6安打3四球1三振の完投で7勝目をあげる。首位打者松木謙治郎は放った3安打がいずれも長打となる活躍。



 翌日の読売新聞は市岡忠男の論評を掲載していますが、その中で重松通雄について「三回中途のリリーフに成功した阪急重松投手は下手投げで・・・」と記しています。「下手投げの元祖」には諸説あり、重松通雄も元祖と言われている一人です。「潜航艇投手」と呼ばれた武末悉昌を元祖とする説もありますが、これは戦後の1949年南海に入団していきなり21勝をあげたことから言われているものであり、正確には「元祖・下手投げの主戦投手」と言うべきでしょう。昭和12年春季リーグにおいても判明しているだけでも重松通雄、古川正男が下手から投げています。

 君島一郎氏著「日本野球創世記」には、「第五章 青井鉞男とその時代」の中で、「大正七年の秋、青井はひょっこり一高校庭にやってきて、練習していた内村祐之投手(医学博士、東大名誉教授、神経研究所長、前プロ野球コミッショナー)にアップ(筆者注:アップカーブ「浮き上がるカーブ」のこと、内村は大正年間では小川正太郎と双壁のサウスポー)を投げてみろと言う。・・・(中略)・・・突然のことで内村も面喰った・・・何しろ大先輩のいうことであり取敢えずアンダースローで浮き上がるカーブを投げると、オーバースローで投げろと言う。」という記述があり、少なくとも大正中期には「下手投げ投球」が認識されていたことがうかがえます。そもそも1845年にアレキサンダー・カートライトが野球をルール化した時はピッチャーは下手からしか投げられなかったのですから、ピッチャーの元祖が「下手投げ」であり、「下手投げ投手の元祖」は理論的にはありえないということになります。




*写真は武末悉昌のサイン(昭和28年西鉄時代のものと思われます。)



2 件のコメント:

  1. 確かに野球というスポーツが出来た頃は投手は下手投げルールでしたね。
    以前、「アンダースローは日本人が考え出したフォーム」と書かれた一文を見て、驚いたものです。レイ・チャップマンの頭部にぶつけたカール・メイズは下手投げでしたが、この事件でアメリカで下手投げ投手が減ったという愚説もあります。

    重松通雄にしても古川正男にしても下手投げで投球している映像が残っていますが、当時の文献や写真を見ると下手投げの投手は他にもいたように思います。

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  2.  重松や古川の映像があるとは初めて知りました。
     
     メジャーには下手投げ投手が少ないのは事実かと思います。カンザスシティ・ロイヤルズのダン・クイゼンベリーくらいしか思いつきません。西洋人は脚が長いせいか下手投げのフォームがぎこちないと思います。クイゼンベリーも81年の日米野球で初めて見たときは変なフォームだなという印象でした。こちらは阪急の山田のような華麗なフォームを見慣れている訳ですから。流れるような下手投げのフォームは日本人の専売特許かもしれません。

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