8月5日 (月) 奉天 満鉄球場
1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
1 0 0 1 0 0 0 0 0 2 南海 17勝38敗3分 0.309 清水秀雄 政野岩夫
0 0 0 0 0 0 0 0 3X 3 イーグルス 29勝28敗3分 0.509 亀田忠
勝利投手 亀田忠 16勝13敗
敗戦投手 政野岩夫 6勝10敗
二塁打 (南)岡村
勝利打点 なし
奇跡の逆転サヨナラ
昨日大連で名古屋と延長10回を戦ってきたイーグルスは本日は奉天で南海と対戦する。イーグルスはこれで大連-奉天間を二往復半しており8日間での移動距離は2,000キロとなった。8日間での移動距離としては日本野球史上空前にして絶後の距離でしょう。現代のような飛行機ならまだしもほとんどが三等車での夜行列車です。到着日の7月29日の大連から奉天への移動は昼間でしたが二日と20時間船に揺られた直後のことです。満州シリーズの移動が苛酷であったことは書籍などでも読める話ですが、こうして一日一日の動きを追っていくとよりリアリティがあるのではないでしょうか(笑)。しかもイーグルスは本日は南海、セネタースとのダブルヘッダーです。8月5日付け満州日日新聞に掲載されている進藤鎮雄の予想にも「南海、セ軍に戦を挑まれるイ軍は今大会でも最も苦しい試合ではあるまいか」と書かれています。
南海は2日の新京でのライオン戦以来の試合となるが、当初の予定では4日に哈爾濱(ハルビン)でセネタースと帯同試合(オープン戦のことです)を行う予定になっていたが各地の雨のおかげでこちらは中止となり哈爾濱まではいかずに済んだようです。哈爾濱(ハルビン)は新京から更に北に約250キロとなります。因みに「ハルビン」は「ハルピン」と表記される場合もあるようですが現在では「ハルビン」と表記されることが多いようなので当ブログでは「ハルビン」とさせていただきます。松木謙治郎著「タイガースの生いたち」には「オープン戦として撫順、安東、吉林、錦県、ハルピンで数試合が行われた。」と書かれています。以前は「ハルピン」と表記されていたようです。
南海は肘に故障を抱える清水秀雄が先発。哈爾濱での帯同試合が中止になったおかげで南海は3日、4日と奉天に滞在して休養がとれたためでしょう。イーグルスは亀田忠が先発で四番、下痢のため3試合欠場が続いていた中河美芳が五番ファーストで満州リーグに初登場となった。
南海は初回、先頭の岩出清が左前打で出塁、岡村俊昭が右中間にタイムリー二塁打を放って1点を先制する。
南海は4回、先頭の吉川義次が四球から二盗に成功、清水も四球を選び、木村勉の遊ゴロで清水が二封されて一死一三塁、木村が二盗を決めて一死二三塁、上田良夫の左犠飛で2-0とする。
2,000キロを旅してきたイーグルス打線は清水の剛球とドロップに手も足も出ず7回まで杉田屋守の中前打1本に抑えられて二塁も踏めず無得点。
イーグルスは8回、二死後木下政文が四球を選んで出塁、翌日の読売新聞及び満州日日新聞によると、この時清水が左足に痙攣を起こして退場を余儀なくされ、南海ベンチは政野岩夫をリリーフに送る。清家忠太郎は一ゴロに倒れてスリーアウトチェンジ。
イーグルスは9回裏、先頭の山田潔に代わる代打玉腰忠義が四球を選んで出塁、トップに返り岡田福吉も四球を選んで無死一二塁、岩垣二郎の一塁線送りバントはファースト伊藤経盛がもたつきオールセーフ、犠打エラーが記録されて無死満塁、谷義夫が押出し四球を選んで1-2、亀田の投ゴロは「1-2-3」と渡ってゲッツー、二死二三塁から中河の当りは一塁線のゴロ、ピッチャー政野岩夫がマウンドを駆け降りて一塁に送球するがこれが中河の背中に当たる間に三走岩垣が同点のホームを踏み、続いて二走谷もサヨナラのホームを駆け抜けてイーグルスが奇跡的な逆転勝利をおさめる。
イーグルスは1安打で満州リーグ初勝利を飾った。亀田忠は5安打3四球無三振の完投で16勝目をあげる。
過酷な旅を続けるイーグルスと外地の水が合わず苦しんできた中河美芳に勝利の女神が同情の微笑みを投げかけた試合であった。
*亀田忠は5安打完投で16勝目をあげる。清水秀雄は7回3分の2を1安打無失点に抑えながら左足の痙攣により無念の降板。
*8日間で2,000キロを旅し、1安打ながら奇跡的な逆転サヨナラ劇を演じたイーグルス打線。
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