2010年11月28日日曜日

12年秋 11月 月間MVP

量と質


 11月の月間MVPを発表させていただきます。今月のテーマは「量と質」となっております。




投手部門


 ジャイアンツ 澤村栄治 


 澤村は春季リーグ戦第一期、第四期に次いで通算三度目の受賞となった。


 本来であればライオンの菊矢吉男投手が受賞するべきであると思います。菊矢は今月、8試合に登板して6勝1敗、64回3分の2を投げて防御率1.95、WHIP1.31、奪三振率4.36であった。
 また、イーグルスの中河美芳は今月、8試合に登板して6勝2敗、69回3分の1を投げて防御率2.08、WHIP1.37、奪三振率3.78であった。


 これに対して澤村は今月、4試合に登板して4勝0敗、31回を投げて防御率0.29、WHIP0.68、奪三振率8.71です。


 まず、昭和12年秋季リーグ戦において澤村が月間MVPを受賞するということに違和感を覚える方が数多くいらっしゃると思います。一般的には澤村の全盛期は24勝4敗の成績をあげた昭和12年春季リーグ戦であると言われており、秋季リーグ戦では7月の徴兵検査に甲種合格したことによる精神的ダメージ、優子さんとの恋愛問題、性病説等から調子を崩したのだ言われています。


 当ブログの見解を申し述べますと、春の投げ過ぎによる反動であったと考えています。澤村は春季リーグ戦では3月28日から7月11日までに30回登板しています。そのうち先発が24回あり、3ヶ月半で244回を投げています。これは中二日~三日で約3カ月投げとおしたことを意味します。年間に換算すると400回以上を投げたこととなりますが、戦後でも権藤博や稲尾が400回を投げています。戦後のピッチャーで最も澤村に近いと言われる権藤博は新人から35勝、30勝の二年間がピークでした。稲尾の場合は頭脳的ピッチングで八年持たせましたが投げ過ぎによる故障と言われています。


 前置きが長くなりましたが、昭和12年春季リーグ戦において澤村と同等の投球回数を投げたピッチャーは野口明(257回)、古谷倉之助(256回)、畑福俊英(240回)ですが、澤村とはピッチングスタイルが異なります。
 
 野口明は速球派ではありましたが逸早く技巧派に転向しており、実際に残されている読売新聞の記述にも「横手からの速球」などという記述も見られます。畑福もかつては剛球のイメージがありましたが完全に技巧派に転向していることは実況中継の中でも述べているとおりです(これは肩を痛めながらも投げ続けた苦肉の策です。)。古谷は当ブログで「のらりくらり投法」と名付けさせていただいた(実際は下柳のぱくりですが)とおりチェンジ・オブ・ペースを武器にします(但し、八王子で投げていた若かりし頃は速球派で鳴らしたであろうことは容易に想像がつきます。)。


 本日はここまでが前置きとなりますのでもう少しお付き合いください。
 
 澤村は秋季リーグ戦に入って9月(8月29日~9月25日)は8回登板、10月(10月2日~10月30日)は9回登板し、春とは違って結構打ちこまれています。藤本監督も思うところがあったのでしょうか、11月最初の登板(11月4日)はライオン戦でのリリーフで3回を1安打に抑えて6勝目をあげます。


 次は11月10日の金鯱戦、自責点1で完投して7勝目、その次は11月17日の阪急戦で、延長10回3安打12三振で完封。今年最後の登板は11月26日のイーグルス戦で先輩・畑福俊英と投げ合って3安打11三振自責点0で完投。


 と言うことで、11月は最初の登板が中四日のリリーフ、中五日で完投、中六日で完封、中八日で完投(但しこの間に11月20日、東西対抗で完封しており、23日にも3回途中まで投げています。)、結局11月の成績は、31回を投げて4勝0敗、防御率0.29、WHIP0.68、奪三振率8.71です。

 これってひょっとして澤村は衰えていた訳でもなく調子を落としていた訳でもなく、ましてや性病でもなく、単に疲れていただけなのではないでしょうか。中五日や中六日ということは、2010年現在におけるNPBでも行われているローテーションであり、常識的なローテーションで投げれば澤村は防御率0.29のピッチングができるピッチャーであったというだけのことではなかったのでしょうか。

 ここで澤村のピッチングスタイルを想起してみましょう。澤村が古谷のようなのらりくらり投法ではなく、野口明や畑福のように技巧派に転身できた訳ではないことは皆様ご存知のとおりです。

 すなわち、力投派のピッチャーにとって、疲れを残さないことがいいピッチングをする絶対条件であり、澤村の昭和12年11月のローテーションが全てを証明しているということです。



打撃部門

 タイガース 景浦将

 11月の月間MVP打撃部門は圧倒的強さを誇るタイガース打線から選びます。問題は、誰を選ぶかということです。

 タイガースの強さは、ジャイアンツや阪急のような一発頼みではない打戦のつながりにあります。これは、両翼110メートルを超す甲子園球場と両翼78メートルの後楽園球場を主戦場とする違いに起因しています。タイガースは11月の13戦中、甲子園で7試合、西宮で3試合、後楽園で3試合を行っています。一方ジャイアンツは、11月の12戦中、後楽園球場で7試合、洲崎球場で3試合、甲子園で2試合を行っています。

 昭和12年秋季リーグ戦では公式試合は195試合(無効試合1を除いています)行われ、108本のホームランが生まれましたが、その内甲子園では3本(中村信一、景浦将、宮武三郎)、西宮で14本、洲崎で5本、後楽園で86本が飛び出しています。後楽園に80%が集中するという超いびつな形でペナントレースが行われ、今後も続いていくこととなります。「記録」を整理されている方は、この点を十分理解しながら整理されることをお薦めいたします。


   前置きが長くなりましたので本題に入ります。

 藤村富美男 13試合、67打席、打率 0.397、OPS 0.973
 山口政信   13試合、65打席、打率 0.212、OPS 0.600
 景浦将    13試合、57打席、打率 0.350、OPS 1.144
 藤井勇    13試合、63打席、打率 0.259、OPS 0.628
 伊賀上良平 13試合、57打席、打率 0.163、OPS 0.505
 岡田宗芳   13試合、55打席、打率 0.269、OPS 0.578

 藤村富美男、景浦将の対決であることは一目了然です。藤村は二番セカンドに定着して今月無安打は1試合のみという安定味を見せています。景浦の強みは今月14安打で四球も17を数えていることです。藤村は25安打で四死球が4個、四球はわずか2個です。積極的に打っていくプレースタイルと、後ろに山口政信、景浦将が控えているだけに歩かせる訳にはいかないという投手側の事情にもよるでしょう。

 結局のところ、14打点をあげた景浦将という結論に達しました。








 

 



 


 

0 件のコメント:

コメントを投稿