2010年4月11日日曜日

12年春 ジャイアンツvsタイガース 1回戦

4月10日(土)甲子園

1 2 3 4 5 6 7 8 910 11 12
0 0 0 0 0 2 0 0 1 0  0 1 4 ジャイアンツ 5勝2敗   0.714 前川八郎-澤村栄治
0 0 0 1 0 2 0 0 0 0  0 0 3 タイガース  
4勝2敗1分 0.667 西村幸生

勝利投手 澤村栄治 4勝0敗
敗戦投手 西村幸生 2勝1敗

二塁打 (ジ)筒井、水原、中島、白石 (タ)岩崎
伝統となる一戦
 ジャイアンツvsタイガースの今季第1戦。ジャイアンツは初回、呉波左飛、白石敏男右飛、水原茂三振と西村幸生は順調な立ち上がり。その裏タイガースの攻撃、松木謙治郎の当たりは一二塁間へ、ファースト永澤富士雄飛び込むが抜かれる、しかしセカンド筒井修が好捕、前川八郎のベースカバーが遅れ筒井がそのままファーストベースに駆け込みアウト、無補殺セカンドゴロを記録する。藤井勇一ゴロ、小島利男三振で前川も無難な立ち上がり。タイガースは4回、先頭の小島左前に痛打、景浦の三塁猛ゴロはサード水原華麗に捌き小島二封、山口政信の二ゴロで景浦二進、伊賀上良平の左飛をレフト伊藤健太郎が落球し1点を先取。ジャイアンツは6回、先頭の水原が右中間二塁打、主砲中島治康は西村のボールになる外角スライダーに強引にバットを合わせ右翼線にライナーの二塁打で同点、中島のアウトステップを見て外にはずれるスライダーで攻めたが中島の腰は残っており、西村はあれを持っていかれるかと職業野球の奥義に感服、続く筒井は三振、ここでタイムリーエラーに2三振と元気のない伊藤に代わり代打にベテラン山本栄一郎を起用、西村は腰が回らないと見て内角にシュートで攻める、山本肘をたたんでこれを痛打し左前にクリーンヒット、日本運動協会以来の熟練の技を見せて中島を迎え入れ2-1と逆転。山本は昨年澤村の無安打無得点試合でも代打で決勝タイムリーを放っており、無類の勝負強さを誇る。
 タイガースは6回裏、一死後景浦、山口が連続四球、前川限界と見たジャイアンツベンチはここで澤村栄治を投入、代わった澤村は伊賀上を三振に斬って取る。しかし負傷の門前真佐人に代わってマスクを被る岩崎利夫が澤村の快速球を左中間に運び二塁打、二者を還して3-2と又も逆転。ここはリードを奪ったところで回の頭から澤村を投入するべきであり、前川を引っ張りすぎたベンチのミスであろう。この点、翌日の読売新聞誌上においても鈴木惣太郎氏が「結果からいうのではないがこの回の初めから澤村を投入すべきであった」と論じている。当時の新聞に掲載されている論評には結果論にすぎないと思われる記事が多く見られるが、鈴木氏は「結果からいうのではないが」とことわりを入れているところは流石の見識というところか。
 ジャイアンツは7回、先頭の澤村が三遊間に流し打って無死一塁、呉が送って一死二塁、白石の当たりは一塁線を破るが澤村三塁で自重し白石二塁へ駆け込み記録は二塁打で一死二三塁の大チャンス、しかし西村は水原を遊飛、中島を三ゴロに抑える。澤村は7回、皆川定之から三振、藤井に四球を与えるが三番小島を三振に斬って取る。8回も四番景浦、五番山口を三振に打ち取りクリーンナップ三者連続三振、あの草薙の快投を彷彿させる。ジャイアンツは9回、先頭の澤村は珍しく引っ張って一二塁間へのゴロ、ファースト松木が捕って一塁ベースカバーに走ったこの回からセカンドに入った加藤信夫に送球、しかし澤村の気魄の走塁に手元が狂ったか悪送球となり無死一塁、呉が又も送り一死二塁、白石の当たりは痛烈なライナーで右翼景浦の前に、澤村今度は三塁を蹴ってホームへ向かう、遠投140メートルの超強肩景浦バックホーム、澤村はキャッチャー岩崎のブロックをかいくぐり遂に同点。澤村は9回も岩崎、皆川から三振を奪い、延長戦に突入。
 宇治山田が生んだ西村幸生、澤村栄治両雄の投げ合いは遂に延長戦へ、10回ジャイアンツは筒井三ゴロ、山本二飛、永澤も二飛で三者凡退、その裏タイガースは先頭の松木が澤村のワンバウンドとなるドロップに空振り三振、と思いきや内堀保がはじき三振ナットアウト、松木一塁へ走るが内堀落ち着いて永澤に送球しワンアウト、記録は三振。藤井が三失で一死一塁、9回の守備から小島に代わりセカンドに入った加藤信夫の代打藤村富美男三ゴロで藤井二封、景浦三ゴロで11回へ。ジャイアンツは内堀一ゴロ、澤村遊飛、呉左飛でチェンジ。その裏タイガースは山口二ゴロ、伊賀上三ゴロ、岩崎中飛で12回へ。
 12回表、ジャイアンツは先頭の白石が中前に痛烈な当たり、白石の気魄が打球に乗り移ったか名手山口がこれを後逸し白石は一挙三塁へ、この願ってもないチャンスに水原中前に弾き返しついに4-3と勝ち越す。中島三振、筒井投ゴロで水原二進、山本中飛でスリーアウト。その裏タイガースは先頭の西村の代打御園生崇男が粘って四球を選び無死一塁、しかし皆川の代打本堂保次は三振、澤村の球威は全く衰えず松木二飛、藤井遊飛でゲームセット。澤村は6回3分の2を投げ代わりばなの1安打のみで9奪三振の力投。
 打の殊勲白石敏男、投の殊勲澤村栄治、昨年茂林寺の合宿、バッティング練習中こめかみに死球を受けて(当時はヘルメットはまだない)倒れた白石、心配そうに駆け寄り起こそうとした先輩水原、三原の手を払いのけ「どきんしゃい、わしゃぁ打つけぇ」、だらけた練習を続けていた投手陣に緊張が走る、澤村が藤本監督に「僕走ってきます」、この瞬間から巨人軍の伝統が始まったと言っても過言ではない。そして「打倒澤村」を合言葉に報道陣をシャットアウトして行ったタイガースの秘密特訓、松木によれば「若手に課した特訓はとても親兄弟に見せられるものではなかった」という。巨人ー阪神戦が伝統の一戦と呼ばれるのは後世のことであるが、本日のような熱戦の積み重ねが伝統を築いていったのである。

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