2011年7月3日日曜日

ノックバット事件


 ジャイアンツ7回の攻撃で無死一二塁の場面、当ブログでは公式スコアブックに基づき「スタルヒンの投ゴロで白石は三封」と書かせていただきました。事実は、「スタルヒンの投前送りバントを西村が三塁に送球して白石がフォースアウト」であったことが各種文献で確認できます。そしてこれが一塁側ダッグアウトの藤本定義監督からはセーフに見え、杉村正一郎審判に猛然と抗議したと伝えられています。当事者である白石敏男の自伝「背番号8は逆シングル」にはこの場面が克明に描かれています。「無死一、二塁だからタッチプレーではない。スタートよく三塁へ走っていたぼくは、猛然と足からすべり込んだ。焦ったのだろう、西村君の、三塁手伊賀上君への送球はちょっと悪送球になった。伊賀上君が捕るより早く、ぼくのスパイクは、三塁ベースに届いていた。ぼくのスパイクがベースに触れてから、伊賀上君が捕ったのがはっきりわかった。」しかし杉村審判の判定はアウトであった。

 試合終了後、藤本監督が杉村審判を本部席まで追いかけ、ベンチにいた三原脩がノックバットを持って藤本に続いた。当時はノックは監督の仕事であり、興奮して本部席に駆け込んだ藤本が仕事道具であるノックバットを忘れたため三原が代わりに持っていったらバットを持って殴りこんできたと誤解されたのかもしれない。シーズン終了後三原に罰金100円が課せられ、頭にきた三原は球界を去ることになる。


 私の拙い経験も踏まえて論評させていただきますと、こういうプレーでは当事者であるプレイヤーの感覚が正しいと思います。審判や観客やアナウンサーや解説者はどうしてもタイミングで判断しがちですが、微妙に足が離れた手が離れたというのは当事者にしか分からないケースがままあります。私が現役時代の東京六大学準硬式リーグ戦では、主審は連盟から派遣されますが、塁審は各チームから選ばれたレギュラークラスが務めます。早明戦で三塁塁審をやっていたとき、明治のランナーが三塁に頭から滑り込んできてちょっと手が離れたところに早稲田の主将三塁手がタッチしました。タイミングは明らかにセーフで、三塁コーチャーズボックスにいた明治の監督が猛然と抗議してきました。偶然位置取りが良かったのか、走者の手が離れた一瞬三塁手がタッチしたところがはっきりと見えましたので「アウトです。」と答えてその場は収まりました。早稲田の三塁手は「あれアウトだよ。」と言っていました。明治の走者は暴れ者で有名でしたがあっさりと一塁側ベンチに帰って行きました。一塁塁審は同僚が務めていましたがベンチの様子がよく見えていたようで、後で「走者がばつの悪そうな顔をしていたけど、手が離れたのか。」と聞いてきましたので「うん。」と答えたのを覚えています。次の回に明治の監督がやけに愛想が良かったので、ベンチで本人に手が離れたことを確認したんだなと思いました。スポーツなんてそんなもんです。

 戦後三原はジャイアンツに請われて復帰しますが今度は「ポカリ事件」起こし、水原茂がシベリヤから帰還すると追われるように西鉄ライオンズに去り、「我いつの日か中原に覇を唱えん」と発してジャイアンツ相手に三連覇することとなります。杉村審判も戦後まで審判を務めますが、阪神の放棄試合のきっかけとなる判定にも関わることとなります。

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