2010年5月13日木曜日

12年春 タイガースvsジャイアンツ 3回戦 その2



5月1日(土)洲崎

1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 タイガース   8勝5敗1分  0.615 景浦将-若林忠志
0 0 1 0 0 3 0 0 X 4 ジャイアンツ 10勝4敗   0.714 澤村栄治


勝利投手 澤村栄治 8勝1敗
敗戦投手 景浦将   3勝2敗


澤村栄治、二度目のノーヒットノーランを達成


(昨日からの続き)
 澤村栄治は6回、先頭の松木謙治郎をセカンドフライ、続く藤井勇をレフトフライに討ち取ると三番御園生崇男からこの日8個目の三振を奪い依然ノーヒット。ホップするストレートの威力に陰りは見えない。恐らくセカンドの三原にもショートの白石にも、白球が澤村の手を離れる瞬間「ピシッ」「ピシッ」という指をはじく音が聞こえていたのではないか。
 ジャイアンツは6回、打順よく二番水原茂からの攻撃。水原は一塁内野安打で出塁、続く三原脩はセンターフライに倒れるが四番中島治康がセンター前にクリーンヒットを放ち一死一二塁、更に筒井修が一二塁間を破り一死満塁と絶好の追加点のチャンス。ここで進境著しい白石敏男がセンター前に弾き返し二者生還、3対0とする。更に筒井と白石がダブルスチールに成功、一死二三塁とし、伊藤健太郎の三塁横内野安打で筒井が還り4対0とリードを広げる。内堀保はサードフライ、澤村はセンターフライに倒れいよいよ終盤戦に突入。

 澤村栄治は7回、四番小島利男をサードフライ、五番景浦将もサードフライに討ち取り、続く藤村富美男をライトフライに退け、タイガースの誇る中軸を抑え込む。先発投手にとって最も苦しいと言われる6、7回がフライと三振のみ、小手先でかわそうなどという発想は澤村の辞書にはない。スライダーやツーシームもいいけど、少しは澤村の爪の垢でも煎じて飲んだ方がいいのではと思わせる投手のいかに多いことか。現在澤村のピッチングを踏襲できているのは日米を見渡してもサンフランシスコ・ジャイアンツのティム・リンスカムだけである。
 タイガースは7回から景浦をライトに退かせ若林忠志をリリーフに投入、ライト藤村富美男がセカンドに入り小島利男が退く。ジャイアンツは7回裏、呉波がサードゴロ、水原茂がライトフライ(代わったところに飛ぶ)に倒れた後、三原脩が一塁線を鋭く破り出塁するが中島治康はセカンドゴロに倒れて追加点はならず。

 いよいよ8回、澤村のノーヒットに気が付く観衆も澤村を気遣い黙って見守るのみ、ベンチも当然声をかける者もなし。この回からファーストを若い筒井修からベテラン永澤富士雄に代える、これはジャイアンツベンチの大ヒットであろう。もちろんこの時ダイヤモンドには三原、水原がおり、不安はないはずであるが、京都商業出身の澤村から見れば東京六大学出身者は何かと煙たい存在、その点永澤富士雄は昭和9年函館オーシャン倶楽部から久慈次郎と共に全日本チームに参加した大ベテランであり、澤村にとってはこれ程頼もしい存在は無い。澤村栄治は8回、伊賀上良平からこの日9つ目の三振を奪う、続く岡田宗芳はショートゴロ、白石慎重に捌いてツーアウト、ここでタイガースベンチは加藤信夫に代えて4月10日の試合途中負傷欠場から復帰したばかりの門前真佐人を代打に起用、しかしこの藁にもすがる思いの代打起用も通じず澤村は門前をこの日10個目の三振に斬って取る。
 ジャイアンツは8回裏、代わったばかりの永澤富士雄がファーストゴロ、白球を掴んだ松木がそのまま一塁ベースを踏んでワンアウト、白石敏男が死球を受け一塁に生きる。コントロールの良い若林がデッドボールとは緊張感が伝わってくる。続く伊藤健太郎のサードゴロは伊賀上から藤村、松木と渡りダブルプレー、いよいよ最終回に進む。


 9回表タイガースの攻撃はトップの松木謙治郎から。松木は昭和10年、タイガース入団以前の大連実業団時代、澤村と対戦し手も足も出なかった。悔しい思いをしていたところ、タイガース球団創設時に勧誘され、再び澤村と対戦できると思い契約したと著書「タイガースの生い立ち」に記している。澤村との対決に懸ける想いは誰よりも強かったと推察される。しかしこの日の澤村の出来は圧巻であり、松木をキャッチャーファウルフライに討ち取る。続く藤井勇からこの日11個目の三振を奪う。藤井は鳥取一中時代、昭和9年夏の甲子園で京都商業の澤村と対戦し二塁打を放ち快勝している。それ以来澤村キラーとして名を馳せてきたがここでは通用せず。タイガースベンチは御園生崇男に代えて奈良友夫を代打に起用、これも松木著「タイガースの生い立ち」によれば奈良は広島商業時代真剣刃渡りで知られる石本秀一監督のスパルタ練習で鍛えられ、第二の鶴岡一人と云われた逸材である。しかし無安打無得点がかかった9回二死からの代打はいかにも荷が重く、澤村のホップするストレートは奈良のバットの上っ面に当たり三塁頭上にフライを打ち上げる、水原茂がウィニングボールをがっちりと掴んで試合終了のサイレンがけたたましく鳴り響く。ここに澤村栄治による自身二度目のノーヒットノーランが達成され、洲崎球場に座布団の雨が降ることとなった。

(翌日の読売新聞には座布団の雨が降る様子を見事なショットで捉えた写真が掲載されています。スクラップブックのコピーは野球体育博物館の図書館で閲覧できます。)


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