2025年12月11日木曜日

22年 金星vs東急 9回戦

8月3日 (日) 桐生新川

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 計
1 1 0 0 3 0 2 0 1  2  10 金星 25勝40敗1分 0.385 江田孝 内藤幸三 
2 1 1 0 1 0 3 0 0  0   8  東急 24勝37敗2分 0.393 白木義一郎

勝利投手 内藤幸三       8勝9敗 
敗戦投手 白木義一郎 12勝14敗

二塁打 (金)小前、大友、坪内 (東)大下、長持
三塁打 (金)酒沢
本塁打 (東)大下弘 6号、7号

勝利打点 なし

猛打賞 (金)酒沢政夫 3、坪内道則 8 (東)鈴木清一(4安打)2、大下弘(4安打)5


白木と大下のWエラーでシーソーゲームに決着

 第16節4日目、桐生新川の第1試合は江田孝と白木義一郎の先発で午後零時2分、国友球審の右手が上がりプレイボール。

 いつもより1時間早い試合開始となった。恐らく第2試合終了後に東京に帰る列車の時間の都合であろう。桐生での試合は2日間だけなので、前夜は近くで一泊して本日は帰京するはずである。今夜も宿泊であれば試合時間を早める必要は無い。

 桐生までの交通手段は、東京から高崎線で高崎に出て、高崎から新前橋を経由して上毛線で西桐生まで行く方法以外には考えにくい。高崎と新前橋は上越線で接続されている。待ち時間を考慮すると、新幹線が無かった当時だと桐生から東京までは3時間近くかかったのではないか。

 金星は初回、先頭の酒沢政夫が右越えに三塁打、一死後坪内道則監督の左犠飛で1点を先制する。

 東急は1回裏、先頭の鈴木清一が左前打で出塁、一言多十も三遊間を破り、レフト小前博文がこの打球を後逸する間に一走鈴木が一気にホームに還って1-1の同点、打者走者の一言は三塁に進み、一死後大下弘がセンターにタイムリー二塁打を放ち2-1と逆転に成功する。

 金星は2回表、前の回にタイムリーエラーを犯した先頭の小前が右越えに二塁打、門馬祐の中前タイムリーで2-2の同点に追い付く。

 東急は2回裏、二死後苅田久徳監督がノーボールツーストライクから粘って四球で出塁すると二盗に成功、鈴木の2打席連続ヒットが右前タイムリーとなって3-2と勝ち越す。

 東急は3回裏、二死後大下が右越えに豪快な第6号ホームランを放ち4-2とリードを広げる。

 金星は5回表、一死後江田が三塁線に内野安打、トップに返り酒沢が右前打、大友はストレートの四球で一死満塁、坪内の右前タイムリーで3-4と1点差、西沢道夫が左前に逆転の2点タイムリーを放ち5-4とリードする。

 東急は5回裏、先頭の鈴木清一が3打席連続ヒットとなる中前打で出塁、金星ベンチはここで先発の江田から内藤幸三にスイッチ、一死後飯島滋弥の当りはセンター後方に飛ぶが坪内が名人芸を見せてホームランキャッチ、二死一塁から大下の当りはライトの石壁を直撃する当りとなって一走鈴がホームインし5-5の同点、大下は一塁にストップとなったが打点は記録されており、一塁走者を還すタイムリーシングルヒットとなった。

 金星は7回表、先頭の酒沢が中前打で出塁、大友が右中間にタイムリー二塁打を放ち6-5、坪内の三塁内野安打で無死一三塁、一死後清原初男が中前にタイムリーを放ち7-5とリードする。

 東急は7回裏、先頭の苅田が遊失で出塁、トップに返り鈴木清一が4打席連続ヒットとなる右前打を放って無死一二塁、一言の送りバントは捕邪飛となって失敗、飯島は三振に倒れて二死一二塁、ここで大下が右越えに豪快な第7号逆転スリーランを放ち8-7と試合をひっくり返す。

 金星は9回表、一死後大友が左前打で出塁、坪内のライト線二塁打で一死二三塁、西沢のレフトへの痛烈なライナーが犠飛となって8-8の同点に追い付く。

 金星は10回表、先頭の小前が三塁線に内野安打、門馬に代わる代打坂本勲が右前打を放って無死一二塁、中村信一の送りバントはピッチャー白木の守備範囲に転がり白木は三塁に送球、しかしこれが悪送球となって二走小前はホームイン、白木の悪送球をカバーしたレフト大下からの返球も悪送球となって一走坂本もホームに還り10-8と2点をリードする。

 東急は10回裏、一死後長持栄吉が左中間に二塁打、鈴木圭一郎は4球ファウルで粘って四球を選び一死一二塁、しかし白木の二遊間へのゴロをセカンド大友が捕球すると自らベースを踏んで一塁に転送、「4B-3」の併殺が完成してシーソーゲームに終止符を打つ。

 大下弘は4安打2本塁打6打点と爆発したが、肝心なところで悪送球。東急は白木と大下の2大スター選手によるWエラーで痛い星を落とした。

2025年12月7日日曜日

22年 阪急vs南海 9回戦

8月2日 (土) 西宮

1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 2 1 0 0 2 5 阪急 32勝34敗2分 0.485 野口二郎
3 0 0 0 0 1 0 0 0 4 南海 34勝29敗3分 0.540 丸山二三雄 別所昭

勝利投手 野口二郎   11勝11敗 
敗戦投手 丸山二三雄 8勝8敗

勝利打点(急)青田昇 6

猛打賞 (南)山本一人 4


南海、別所投入が裏目

 西宮の第2試合は野口二郎と丸山二三雄の先発で午後3時28分、二出川球審の右手が上がりプレイボール。

 南海は初回、先頭の安井亀和が中前打で出塁、河西俊雄が左前打で続いて無死一二塁、田川豊の三塁内野安打で無死満塁、山本一人監督が左前に2点タイムリーを放ち、一走田川が三塁に向かうと打者走者の山本も一塁ベースを回って二塁を狙い、レフト山田伝は二塁に送球、この隙を突いて三塁に進んでいた田川がホームに還る好走塁を見せて3点を先制する。

 阪急は5回表、先頭の坂元義一が四球で出塁、日比野武の右前打で無死一二塁、一死後荒木茂はストレートの四球を選んで一死満塁、二死後トップに返り田中幸男が中前に2点タイムリーを放ち、2-3と1点差に迫る。

 阪急は初回から3回まで三者凡退、4回に上田藤夫が初ヒットを放ち、5回になって丸山を捕まえた。

 阪急は6回表、一死後野口明がセンター右にヒット、坂元は右前に抜けるヒット、これをライト田川がファンブルする間に一走野口明は三塁に進んで一死一三塁、日比野が左前に同点タイムリーを放ち3-3と追い付く。

 南海は6回裏、一死後山本が左前打で出塁、飯田徳治も中前打で続き、堀井数男の投ゴロの間に二者進塁して二死二三塁、丸山の一塁線タイムリーで4-3と勝ち越す。

 阪急は9回表、一死後野口二郎が左前打で出塁、荒木に代わる代打楠安夫が中前打で続いて一死一二塁、楠に代わって代走に西村正夫が登場、山田に代わる代打安井鍵太郎が四球を選んで一死満塁、南海ベンチはここで先発の丸山に代えてエース別所昭を投入、トップに返り田中のカウントスリーボールワンストライクからの5球目はストライク、この時キャッチャー筒井敬三が一塁に送球、一塁ベースにはセカンド安井亀和が入って一走安井鍵太郎はタッチアウト、田中は四球を選んで二死満塁、上田藤夫が押出し四球を選んで4-4の同点、青田の三塁線ヒットがタイムリーとなって5-4と逆転に成功する。

 野口二郎は最終回を三者凡退に抑え、13安打を打たれながら無四球2三振の完投で11勝目をマークする。

 南海はエース別所の投入が裏目に出て逆転負け。

 9回表に一走安井鍵太郎がキャッチャー筒井敬三からの送球に刺された場面は、スコアカードに「2-4A」と書かれていることから一塁ベースカバーにセカンド安井亀和が入ったことが分かる。形だけ見るとサードとファーストが突っ込んでセカンドが一塁ベースカバーに入り、ピッチャーがウエスとして飛び出した一塁ランナーを刺す「ピックオフプレー」のようにも見えるが、満塁でカウントがスリーボールワンストライクなのでピッチャーはウエストするとはできず、ストライク投球だと打たれた場合にヒットになる可能性が高まるので、この場面で「ピックオフプレー」を選択する可能性は考えられない。

 となると、田中のスクイズが空振りストライクとなり、三走野口二郎がサインを見逃していてスタートを切っておらず、サイン通りスタートを切っていた一走安井鍵太郎が刺された可能性が考えられる。このケースだとファースト飯田徳治は打者のスクイズの構えを見たら前に突っ込み、セカンド安井亀和は一塁ベースカバーに向かうことになる。この時代にはまだセーフティスクイズが存在していた可能性は低く、仮にセーフティスクイズであったならば一走安井鍵太郎がスタートを切ることもない。

*9回に一走安井鍵太郎がキャッチャーからの送球に刺された場面。田中幸男の打席でカウントスリーボールワンストライクからの5球目、ストライク投球の時で、(2-4A)と記載されているとおり、セカンド安井亀和が一塁ベースカバーに入ったもの。

2025年12月6日土曜日

22年 東急vs中日 9回戦

8月2日 (土) 桐生新川

1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
1 0 0 0 0 1 0 0 0 2 東急 24勝36敗2分 0.400 北川桂太郎 
1 0 0 0 0 0 3 0 X 4 中日 38勝24敗1分 0.613 藤本英雄

勝利投手 藤本英雄   17勝10敗 
敗戦投手 北川桂太郎 2勝8敗

二塁打 (東)一言2、飯島 (中)三村

勝利打点(中)金山次郎 3

猛打賞 (東)飯島滋弥 2


藤本英雄、大下を徹底マークで17勝目

 桐生新川の第2試合は北川桂太郎と藤本英雄の先発で午後2時53分、島球審の右手が上がりプレイボール。一塁塁審は円城寺審判員。

 東急は初回、一死後一言多十が右越えに二塁打、続く飯島滋弥が左中間にタイムリー二塁打を放ち1点を先制する。

 中日は1回裏、先頭の杉江文二の当りは遊ゴロ、これをショート鈴木清一がエラー、金山次郎の送りバントは三塁ファウルフライとなって失敗、大沢清のショートへの内野安打で杉江は三塁に進んで一死一三塁、加藤正二の左犠飛で1-1の同点に追い付く。

 東急は3回表、先頭の苅田久徳監督が四球で出塁するが、ここから藤本が鈴木、一言、飯島を3連続三振に抑え込む。

 中日は5回裏、先頭の藤原鉄之助が左前打で出塁、三村が送りバントを決めて一死二塁、二死後金山の中前打で二走藤原は三塁ベースを蹴ってホームに向かうが、センター一言からの好返球にタッチアウト。

 東急は6回表、一死後一言がライトに二塁打、飯島の左前タイムリーで2-1と勝越しに成功する。

 中日は7回裏、一死後藤原が左前打で出塁、三村の右中間二塁打で一死二三塁、トップに返り笠石徳五郎は四球を選んで一死満塁、ここで金山が左前に逆転の2点タイムリー、レフト大下の後逸もあって一走笠石もホームに還り4-2とする。

 藤本英雄は8安打1四球8三振の力投で9回を完投、17勝目をマークしてハーラートップの別所に1勝差と迫る。

 藤本は徹底的に大下をマークした。

 この日の大下は4打数1安打。ヒットを打った第2打席は先頭打者で、残りの3打席は全てヒットで出た飯島を塁に置いての打席であったが全て藤本に抑えられた。第1打席と第3打席は飯島がタイムリーを放った直後であったが追撃打を放つことはできなかったのである。

 現在の最高投手と最高打者の対決は、この日は藤本に軍配が上がった。

2025年12月5日金曜日

22年 大阪vs太陽 7回戦

8月2日 (土) 西宮

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 計
0 0 0 0 0 0 0 0 0  0   0   0  0 大阪 44勝20敗3分 0.688 御園生崇男 
0 0 0 0 0 0 0 0 0  0   0   0  0 太陽 25勝38敗3分 0.397 真田重蔵

二塁打 (大)呉昌征
三塁打 (太)荒川

勝利打点 なし

猛打賞 (太)荒川昇治(4安打)1


御園生と真田の投げ合いで0対0の引分け

 西宮の第1試合は御園生崇男と真田重蔵の先発で午後1時38分、杉村球審の右手が上がりプレイボール。

 大阪は初回、先頭の呉昌征が左前打で出塁、しかし真田の牽制に刺されてチャンスを潰す。

 大阪は3回表、二死後御園生が左前打で出塁、トップに返り呉のライト線二塁打で二死二三塁、金田正泰は四球で二死満塁、富樫淳の当りは投前にボテボテの当り、これを真田が冷静に判断して本塁に送球、三走御園生がフォースアウトとなって無得点。一塁に投げて悪送球になる可能性を考えての頭脳的プレーであった。

 太陽は3回裏、先頭の荒川昇治が右越えに三塁打を放って先制のチャンスを作るが後続なく無得点。

 太陽は6回裏、先頭の真田が三塁線にヒット、トップに返り辻井弘が送りバントを決め、藤井勇は四球で一死一二塁、しかし主砲森下重好と四番中谷信夫は凡飛に倒れて無得点。
 太陽は9回裏、先頭の藤井が左前打で出塁、しかし続くクリーンナップトリオが倒れて無得点。試合は延長戦へ。

 大阪は10回表、先頭の玉置玉一が中前打で出塁、武智修の送りバントが野選を誘って無死一二塁、一死後ダブルスチールを試みるが玉置がキャッチャー伊勢川真澄からの三塁送球に刺されて失敗、二死二塁から呉が四球を選んで一二塁とするが、金田正泰の当りはファーストライナーとなってスリーアウトチェンジ。

 大阪は12回表、二死後武智が右前打で出塁すると二盗を決めて二死二塁と最後のチャンス、しかし御園生は右飛に倒れて無得点。

 太陽は12回裏、先頭の伊勢川が二遊間にヒット、藤本定義監督は最終回とあってキャッチャー伊勢川に代えて代走の切り札蔵本光夫を起用、佐竹一雄が四球を選んで一死一二塁、佐竹に代えて代走に湯浅芳彰を起用、荒川がこの日4本目のヒットを右前に放ち、二走蔵本は三塁ベースを蹴ってサヨナラのホームに突っ込むが、ライト富樫からの返球にタッチアウト。ピッチャー経験もある富樫の強肩がチームを救う。

 最後はスリリングな展開となったが0対0の引き分けに終わった。

 御園生崇男は12回を投げて7安打2四球2三振無失点。開幕14連勝を逃した。

 真田重蔵は12回を投げて8安打3四球4三振無失点。これまでもお伝えしてきたように真田は調子を上げてきている。昨年は25勝をマークしながら今季はここまで9勝止まりであるが、後半戦は勝ち星を伸ばしてくるのではないか。

2025年11月28日金曜日

22年 巨人vs金星 12回戦

8月2日 (土) 桐生新川

1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 2 0 0 0 1 0 2 0 5 巨人 32勝32敗1分 0.500 川崎徳次
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 金星 24勝40敗1分 0.375 内藤幸三 三富恒雄

勝利投手 川崎徳次 11勝8敗 
敗戦投手 内藤幸三   7勝9敗

二塁打 (巨)呉、川上 (金)内藤

勝利打点(巨)呉新亨 2

猛打賞 (巨)田中資昭 2


巨人、桐生で勝率5割復帰

 本日より地方遠征がスタート。

 当ブログの実況中継クルーが桐生に遠征するのは昭和20年11月24日の東西対抗第2戦と翌日の東軍vs全桐生戦以来のことになる(2019年7月15日及び19日の実況中継参照)。

 第16節3日目、桐生新川球場の第1試合は川崎徳次と内藤幸三の先発で午後0時56分、西垣球審の右手が上がりプレイボール。7月24日の後楽園で審判デビューした円城寺満審判員も桐生遠征に帯同して三塁塁審を務める。

 巨人は2回表、一死後中島治康が四球を選んで出塁、呉新亨が右中間にタイムリー二塁打を放ち1点を先制、武宮敏明の左前打で一死一三塁、川崎の左前タイムリーで2-0とする。

 巨人は6回表、先頭の平山菊二が中前打で出塁、中島の左前打で無死一二塁、ワンストライクからの2球目がワイルドピッチで二者進塁、カウントワンボールワンストライクの場面で金星ベンチは先発の内藤に代えて三富恒雄をマウンドに送り、呉は四球を選んで無死満塁、この場合の与四球は三富に記録され、武宮の左犠飛で1点追加、3-0とリードを広げる。

 巨人は8回表、一死後呉新亨、武宮、川崎が3連続四球で満塁、トップに返り山川喜作が三塁にタイムリー内野安打を放ち4-0、なおも続く一死満塁から田中資昭の遊ゴロ併殺崩れの間に三走武宮が還って5-0とダメ押す。

 川崎徳次は4安打1四球1三振で今季6度目の完封、11勝目をマークする。

 川崎の力投に応えて先制、中押し、ダメ押しと着々と加点、巨人は5割に復帰した。

 昨年は北陸、北海道、九州に遠征したが、今年は桐生、徳島、長野に遠征することになる。

 戦前はシーズン中にもオープン戦が行われており、桐生新川球場でも何回かプロ野球の試合が行われた。

 終戦直後に行われた東西対抗第2戦と東軍vs全桐生の2試合は、プロ野球復活の象徴として歴史に名を刻んでいる。

2025年11月24日月曜日

代走の代走

 昭和22年8月1日、太陽ロビンスの藤本定義監督は、1点ビハインドの9回裏の攻撃で、四球で出塁した佐竹一雄に代走として石田良雄を送り、石田が三塁に進んだ時点で蔵本光夫を代走に起用してダブルスチールを狙うという奇策を講じて同点に追い付いた。 

 佐竹一雄は捕手と一塁手を兼務する選手で足は速くない。9回裏に同点のランナーが出れば足の速い選手を代走に送るのはセオリーである。石田良雄は城東商業の出身でこの日がプロ入り初出場。藤本監督は同点を狙って佐竹に代えて若手の石田を代走に起用した。そして石田が三塁に進む展開となり、ダブルスチールを狙うために石田よりも経験豊富の蔵本光夫を「代走の代走」として起用してダブルスチールを敢行、これがショート小林悟楼の悪送球を誘って同点に追い付いたのである。

 確認できる範囲ではあるが、これがプロ野球史上初の「代走の代走」であった。

 「代走の代走」はこの後も2事例が確認されている。

 2003年頃に横浜の山下大輔監督は、一塁に出塁したタイロン・ウッズに代えて代走に河野友軌を起用、河野が二塁に進むと「代走の代走」に田中一徳を起用した。強打のウッズは「通算2940打数で三塁打0本」の日本記録保持者であることから分かるように足は遅かった。山下監督はまず若手の河野を代走に出して様子を見てから、スコアリングポジションに進んだ場面で「足のスペシャリスト」であった田中一徳を「代走の代走」に起用したのである。PL学園時代の田中一徳は1998年夏の甲子園で歴史的名勝負となった横浜高校戦で松坂大輔から4安打を放ってドラ一でプロ入りした。165cmと小柄ながら俊足好打を評価されてプロの世界に飛び込んだのである。

 2011年には阪神の真弓明信監督が一塁に出塁した桧山進次郎に代えて代走に野原将志を起用し、野原が二塁に進んだ場面で「走の切り札」であった大和を「代走の代走」に起用したのである。この頃の桧山は「代打の切り札」として活躍しており走力は衰えていたので若手の野原を代走に起用し、スコアリングポジションに進んだところで大和を「代走の代走」に起用した。

 プロ野球史上で確認できる「代走の代走」は上記の3つの事例だけであるが、共通点は多い。

①足の遅い選手が一塁に出塁する。

②足の速い若手を代走に起用する。

③スコアリングポジションに進んで勝負の場面となったところで経験豊富なスペシャリストを「代走の代走」として起用する。

 そして、この策を選んだ監督が藤本定義、山下大輔、真弓明信だった点にも注目したい。

 藤本監督は自伝のタイトルが「覇者の謀略」だったように知略に長けた監督として知られており、山下大輔と真弓明信は現役時代は「名遊撃手」であった。「遊撃手」が最も広い視野で野球を見るポジションであることは言うまでもなく、監督としても広い視野で野球を見ていたことが分かる。

 なお、石田良雄はこの試合がプロでの唯一の試合出場であった。通算1試合で0打数0安打であったことはネット上でも確認できるが、その1試合の出場が「代走で出て代走を送られて引っ込んだ」という事実は、当ブログの読者以外で知る者はいない。真実は当ブログにある。


2025年11月23日日曜日

22年 南海vs太陽 12回戦

8月1日 (金) 西宮

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 計
0 0 0 2 0 0 0 0 0  1  3 南海 34勝28敗3分 0.548 中谷信夫 
0 0 0 1 0 0 0 0 1  0  2 太陽 25勝38敗2分 0.397 井筒研一

勝利投手 中谷信夫 7勝9敗 
敗戦投手 井筒研一 5勝6敗

二塁打 (南)堀井 (太)藤井

勝利打点(南)田川豊 5


田川豊が延長10回決勝打

 西宮の第2試合は中谷信夫と井筒研一の先発で午後3時25分、金政球審の右手が上がりプレイボール。

 南海は4回表、先頭の河西俊雄が三塁線にヒット、田川豊が送りバントを決めて一死二塁、井筒の牽制悪送球で一死三塁、山本一人監督が四球を選んで二盗を決め一死二三塁、飯田徳治が中前に先制の2点タイムリーを放ち2-0とリードする。

 太陽は4回裏、先頭の辻井弘が四球で出塁、藤井勇の一ゴロの間に辻井は二進、森下重好の中飛で二走辻井がタッチアップから三進、中谷順次は四球を選んで二死一三塁、伊勢川真澄の中前タイムリーで1点返して1-2とする。

 南海は9回表、一死後飯田が中前打で出塁、飯田は二盗を試みるがキャッチャー伊勢川の強肩に刺されて二死無走者、堀井数男の遊ゴロをショート松井がエラー、筒井敬三に代わる代打別所昭が左前打を放って二死一二塁、しかし中谷は遊飛に倒れて無得点。

 太陽は9回裏、先頭の佐竹一雄が四球を選んで出塁、代走に石田良雄を起用、荒川昇治は右飛に倒れ、松井信勝に代わる代打湯浅芳彰が四球を選んで一死一二塁、湯浅はこの回から代打を出されて引っ込んで筒井に代わってマスクを被る坂田清春からの一塁牽制に刺されて二死二塁、井筒の三塁内野安打で二死一三塁、ここでダブルスチールを敢行、井筒は二塁に達して盗塁が記録され、ショート小林悟楼からの本塁送球が逸れて2-2の同点とする。

 この時ホームに滑り込んだのは石田良雄の代走に起用された蔵本光夫であった。もう一度整理すると、四球で出塁した佐竹に代わって代走として石田良雄が起用され、二塁に進んだ時点か三塁に進んだ時点かは不明であるが代走石田の代走に蔵本光夫が起用されてダブルスチールを敢行し、ホームはタイミングアウトであったが悪送球でセーフとなって最終回で2-2の同点となった。一走井筒には盗塁が記録されたが、三走蔵本の生還は悪送球によるもので本盗は記録されていない。

 太陽は10回表の守備から、代打を出されて引っ込んだショート松井に代わってファースト佐竹の代走に出た石田の代走に出た蔵本がショートに入り、松井の代打に出た湯浅に代わって藤村隆男が入ってライト、ライトの辻井弘がファーストに回った。この守備変更が試合に大きく影響を与えることになる。

 南海は10回表、二死後河西が中前打で出塁、井筒からの一塁牽制をこの回ライトからファーストに回った辻井が後逸、この間に河西は二塁に進み、田川豊が左前にタイムリーを放ち3-2と勝ち越す。

 太陽は10回裏、先頭の藤井が右越えに二塁打を放って無死二塁と同点のチャンス、しかし期待の主砲森下は力が入ったか捕邪飛、四番中谷も捕邪飛に倒れ、最後は伊勢川も二ゴロに倒れて万事休す。

 中谷信夫は5安打6四球3三振の完投で7勝目をマークする。

 両チーム終盤の選手起用が微妙に試合結果に影響したゲームであった。

 田川豊が延長10回表に決勝打を放った。田川は6月2日の金星戦でも延長10回表に決勝打を放ち、近畿グレートリングから南海ホークスに球団名を変更してからの初勝利に貢献した。