2010年6月30日水曜日

三冠への道 ⑫

 6月29日のダイヤモンドバックス戦、アルバート・プホルスは4打数3安打2本塁打1二塁打5打点。久々の爆発を見せて今季279打数87安打、3割1分2厘(4位タイ)、18本塁打(1位タイ)、57打点(3位)と数字を伸ばしてきました。十分可能な位置にはおりますが、4月7日に予言した三冠達成の可能性は35%と見ています。
 例年に比べて本日のような爆発が少ないことが一番の懸念材料です。したがって例年のような数字が上がってきません。近年になくライバル連中の数字も伸びてこないのでチャンスではありますが。

 6月29日現在首位打者のアトランタ・ブレーブスのトップバッター、マーティン・プラドはベネズエラ出身の26歳と伸び盛りにあり、ブレイクしても不思議ではありません。近年10年の両リーグ延べ20人の首位打者のうち、純然たるトップバッターはイチローだけであり、打数が多くなる一番打者は首位打者争いでは不利になるのが通常ですが、逆に言うとトップに立ってしまえば打数が多いだけに打率が落ちにくくなるという利点があり、プホルスとしては早く定位置の3割3分台に乗せたいところですが、前述のとおり今年は固め打ちが少なく、二位に付けているフィリーズのプラシド・ポランコもいつ首位打者を取ってもおかしくないだけの実績を有していますので、三部門の中では最も危ないと思います。

 ニューヨーク・メッツの貴公子デビット・ライトがタイトルを取るとしたら打点王しかないでしょう。現在プホルスに4打点差をつけてトップにいますが、タイトルを取るだけの迫力に欠けるだけにどうでしょうか。結局ライアン・ハワードとの一騎打ちになると思いますが、今年のハワードはプホルス以上に爆発力が影を潜めているだけにこちらはプホルス有利と思います。

 超混戦の本塁打部門は候補が目白押しです。このペースだと着地が30本台の可能性もあるだけに、プホルス、ハワード、プリンス・フィルダーの三巨頭の他に、アダム・ダンにも初タイトルの可能性は十分ありますし、私一押しのダン・アグラや他の伏兵陣にも可能性がでてきました。


 珍しくアメリカン・リーグのバットマンレースにも触れておきます。
 ロビンソン・カノの首位打者可能性は85%と見ます。安定味があり、ここまでくれば大きく落ち込むことはないと思います。むしろ着地は3割6分台~7分台に上げてくるのではないでしょうか。現在二位のエイドリアン・ベルトレは落ちると思いますので、二位争いはジャスティン・モウノーとイチローでしょう。

 本塁打、打点部門はミゲール・カブレラの二冠が濃厚であり、いよいよ初のMVPのチャンス到来です。フロリダ・マーリンズ時代は年俸50万ドルと不当に安く抑えられながらネクストプホルスと言われ続けてきましたが、アメリカン・リーグ3年目にして初戴冠(MVP)の可能性は80%と見ています。仮にプホルスが2015年以降衰えていくようだと、プレイヤー・オブ・ザ・ディケード候補一番手となります。

 

12年春 名古屋vsセネタース 7回戦

6月15日 (火) 上井草


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0  名古屋   14勝24敗 0.368 野口明
0 0 0 0 0 0 0 1 X 1 セネタース 22勝15敗 0.595 木下博喜


勝利投手 野口明  14勝3敗
敗戦投手 木下博喜 2勝6敗


二塁打 (名)高木 (セ)北浦、大貫


今季最短の59分


 名古屋先発木下博喜の巧投、セネタース先発野口明の小気味よいピッチングで7回まで両軍無得点。セネタースは8回、この回先頭の野口明が左前打で出塁、今岡謙次郎が送って苅田久徳四球で一死一二塁、続く北浦三男の当りは三ゴロ、サード大沢清は捕球後三塁ベースを踏んで二走野口は三封でツーアウト。大沢が一塁に送球するがこれが悪送球となり白球がファウルグラウンドを転々とする間に一走苅田が一挙ホームに還り1点を先制。翌日の読売新聞によると、大沢はアウトカウントを勘違いしたらしく、三塁ベースを踏んで一瞬間をおいてから一塁に送球したがこれが悪送球となった模様。


 翌日の読売新聞は「木下が巧みにスローボールを交えてセ軍打者のミートを狂わせて凡打に討ちとれば野口は正面から堂々と内外角を攻め立てて名古屋の打順を抑えつけ・・・」と記している。両投手による投げ合いはテンポよく進行し、試合開始3時53分、試合終了4時52分、試合時間59分という今季最短時間を記録する。

 野口明は5安打1四球2三振で今季6度目の完封で14勝目をあげる。

12年春 タイガースvsイーグルス 7回戦

6月15日 (火) 上井草


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
1 1 0 0 0 0 0 0 0 2 タイガース  29勝8敗1分 0.784 若林忠志
0 0 1 0 0 0 0 0 0 1 イーグルス  6勝30敗   0.167 藤野文三郎


勝利投手 若林忠志   6勝1敗
敗戦投手 藤野文三郎 0勝3敗


二塁打 (タ)門前 (イ)佐藤、藤野、高橋


松木謙治郎の巧打でイーグルスを降す


 いよいよ今季最終対決となる7回戦、8回戦がスタート。

 タイガースは初回、松木謙治郎左前打、藤井勇死球、景浦将四球から山口政信が押出し四球を選んで1点を先制。伊賀上良平は投ゴロで1-2-3のゲッツー。続く2回、門前真佐人左中間二塁打、若林忠志内野安打、岡田宗芳の遊ゴロでランナーが入れ替わり松木が左前打に流し打って2-0とする。前回苦しめられた藤野文三郎に対して松木は徹底しておっつけ打法で活路を見出す。これが現在首位打者の源泉であろう。藤井は三直で、飛び出していた二走岡田が封殺されて2イニング連続ダブルプレイ。

 イーグルスは3回、辻信夫が内野安打で出塁、藤野文三郎が右中間に二塁打を放ち辻が還って1-2と追いすがる。しかし4回以降は若林の巧投に対して若林と同じくハワイからやってきたサム高橋吉雄の2安打のみに封じられ、又も1点差で惜敗。

 イーグルス守備陣は、7回に5-2-3、9回も6-4-3とこの試合4つのダブルプレイを完成させる。タイガースも2つのゲッツーを決めて両軍合わせて6つのダブルプレイを演じる。

 若林忠志は5安打4四球3三振の完投で6勝目、藤野文三郎は8回を6安打7四球2三振、イーグルス投手陣に1枚加わった。

2010年6月29日火曜日

12年春 第12節 週間MVP

 今節は各チーム4試合づつの豪華版。ジャイアンツが4連勝、タイガースが3勝1敗で両者の差は半ゲーム差に縮まった。セネタース、阪急、大東京が各2勝、名古屋、金鯱が1勝、イーグルスは4連敗。


週間MVP

 阪急 北井正雄 1

 この選出にははっきり言って私情をはさんでおります。客観的には1節あたり3勝という空前絶後の記録を樹立したスタルヒンの単独受賞が妥当ですが、今節をおいて北井正雄に受賞の時間的余裕が残されておりませんのでご了承願います(当ブログにおける各賞の選定基準については2010年3月24日付けブログ「解読」4.その他参照)。

 6月12日の対名古屋5回戦の快投以降、北井には投げるだけの力が残っていなかったのか外野手としての出場が続きます。北井本人には自らの残された時間が分かっていたのだと思います。北井の病についてはその死まで周りが分かっていたという記録は残されておりませんが、この後の使われ方からみると、周りのだれかに相談していたのではないかと思われます。関西大学時代から親しかった西村正夫か、人格者三宅大輔監督か(巨人監督時代には澤村や田部武雄にも慕われていた)、あるいは入団時に世話になった村上実マネージャーか。

 いずれにしても、その生命を懸けた快投に対して、当ブログから週間MVPを授与するものとさせていただきます。

 ジャイアンツ スタルヒン 1

 今節3勝をあげる活躍。依然一本立ちとは言いかねる面も残っていますが、徐々に成長していることは事実。


 タイガース 奈良友夫 1

 奈良友夫(広島商業)は強打タイガースの三番に定着し、今節15打数5安打5打点の活躍。タイガース内野陣の競争は激しく、ショートは岡田宗芳(広陵中学)、サードは伊賀上良平(松山商業)が定着していることから残るセカンドを藤村富美男(呉港中学)皆川定之(桐生中学)、本堂保次(日新商業:山口政信の後輩)、比留木虎雄(長崎商業)という同年代の俊英と競うこととなる。

 石本秀一監督としては広島商業監督時の教え子ということもあり、えこひいきと取られないためにも広島商業時代以上のスパルタで鍛え上げたことは想像に難くない。昭和12年春のタイガースの報道陣をシャットアウトしたトレーニングは、松木によると「若手に課した猛特訓はとても親や親戚には見せられるものではなかった」という。

 6月13日の対イーグルス6回戦ではチームが16得点する中、一人蚊帳の外の2打数2三振で即座に藤村富美男と交代させられている。レギュラー定着には精進あるのみ。



殊勲賞

 大東京 浅原直人 1

 対阪急5回戦延長11回表、決勝のホームスチールを決める。この試合の9回には、1点ビハインドの場面で代走坪内道則もホームスチールで同点としている。

敢闘賞

 大東京 近藤久 2

 対阪急6回戦において延長16回を完投。打者64人に対して7安打9四球3三振。

技能賞

 ジャイアンツ 永澤富士雄

 今節17打数8安打8打点。週間MVPでもおかしくない活躍であるが、8打点はイーグルス戦のものであり(ジャイアンツの得点は11点と10点)若手の奈良友夫に譲ってもらう。イーグルス二連戦では二試合連続二塁打2本。 







 

12年春 大東京vsセネタース 6回戦

6月13日 (日) 甲子園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 1 0 0 1 0 2 大東京   13勝21敗2分 0.382 菊矢吉男
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 セネタース 21勝15敗    0.583 伊藤次郎


勝利投手 菊矢吉男 2勝0敗
敗戦投手 伊藤次郎 3勝3敗


二塁打 (大)柳澤、鬼頭、中村


菊矢吉男、移籍後初完封


 セネタースは初回、トップの苅田久徳四球、中村信一の投ゴロを菊矢吉男が二塁に悪送球して無死一三塁と絶好の先制チャンスをもらう。しかし尾茂田叶、中村三郎が連続三振、北浦三男も一飛に倒れる。更に2回、大貫賢、伊藤次郎に連打が出るが大貫はオーバーランで刺され、一死一塁家村相太郎のカウントツースリーで伊藤が二塁に走るが三振ゲッツーでチャンスを潰す。三回以降菊矢が立ち直り、こうなると点をとるのが難しくなる。

 一方伊藤次郎の緩急に手を焼いていた大東京は5回、一死後柳澤騰市が右中間に二塁打を放ち、鬼頭数雄の左翼線二塁打で1点を先制。大東京は8回、藤浪光雄に代わって伊原徳栄を代打で起用。伊原は遊失に生き、水谷則一右飛で一死後浅原直人の遊ゴロをショート中村信がセカンドに悪送球、これを見て伊原は三塁へ向かう、しかしバックアップのファースト中村民雄からサード今岡謙次郎に送球されて伊原はタッチアウト、二死一塁となるが中村三郎が左中間を破り浅原が一塁から長駆ホームを駆け抜け2-0とする。

 菊矢吉男は6安打4四球9三振の力投で初の完封勝利、シーズン途中にタイガースから大東京に移籍して運が開けた。



 伊原徳栄は敦賀商業(現・県立敦賀高校)出身、当ブログでもお馴染みのタイガース・松木謙治郎、金鯱・小林利蔵の後輩に当る。両先輩に自慢できるのは昭和9年全日本チームに捕手として参加していること(松木は昭和6年全日本に参加しています。)。職業野球では実績を残すことができませんでしたが、戦争の時代を生き抜き戦後は昭和30年から33年まで母校の監督を務めています(敦賀高校野球部ホームページより)。


*写真は昭和9年全日本時の伊原徳栄のサイン(真ん中、左が杉田屋守、右が永澤富士雄)


12年春 阪急vs名古屋 6回戦

6月13日 (日) 甲子園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
2 1 0 0 0 0 1 0 0 4 阪急   18勝17敗1分 0.514 石田光彦
0 0 0 0 0 0 0 2 0 2 名古屋 14勝23敗      0.378 木下博喜-大沢清


勝利投手 石田光彦 5勝3敗
敗戦投手 木下博喜 2勝5敗


二塁打 (名)大沢清


上田藤夫、先制タイムリー


 阪急は初回、二死から宮武三郎が中前打、山下好一右前打、ジミー堀尾文人四球で二死満塁、ここで上田藤夫が中前にはじき返して2点を先制。2回にも、石田光彦、黒田健吾のヒットと宮武のタイムリーで1点追加して3-0とする。

 阪急先発の石田光彦は7回まで名古屋打線を4安打無得点に抑える好投。投げる前に十字を切ることから十字架投法と呼ばれている。阪急は7回にも倉本信護にヒットから満塁とし、黒田が押出し四球を選んで4-0、名古屋は先発木下博喜をあきらめてサードの大沢清をマウンドに送って後続を断つ。
 名古屋は8回、この回先頭の石丸藤吉が左翼線安打、桝嘉一四球、四番ピッチャー大沢清が中堅右にタイムリーを放ち1-4、大沢のヒットで三塁に進んだ桝が小島茂男の二ゴロの間に生還して2-4と追いすがるがここまで。

 大沢はリリーフ登板後、ランナーを出しながらも阪急打線を無得点に抑えるが、石田も9回無死一二塁のピンチを併殺で切り抜け7安打4四球1三振の完投で5勝目をあげる。

2010年6月28日月曜日

12年春 イーグルスvsタイガース 6回戦

6月13日 (日) 洲崎

1 2 3 4 5 6 7 8  9  計
0 0 0 0 0 0 0 2  1  3  イーグルス 6勝29敗    0.171 畑福俊英-松本操-古川正男
6 2 7 0 0 0 0 1 X  16 タイガース 28勝8敗1分 0.778 西村幸生


勝利投手 西村幸生 7勝2敗
敗戦投手 松本操   1勝2敗

二塁打 (イ)寺内2 (タ)藤井2、門前4、西村
三塁打 (タ)山口
本塁打 (タ)景浦 1号


門前真佐人、二塁打4本6打点


 タイガースの強力打線が序盤から火を噴いた。初回、松木謙治郎四球、藤井勇右中間二塁打、景浦将四球、山口政信押出し四球でまず1点、門前真佐人が中越えに満塁走者一掃の二塁打を放ち4点、西村幸生、岡田宗芳連続四球で二死満塁、ここでイーグルス先発の畑福俊英は降板、二番手松本操から松木、藤井が連続タイムリーを放ちこの回一挙6点をあげる。
 タイガースは2回、山口遊失、伊賀上良平中前安打で一死一三塁、ここで又も門前が左翼線に二塁打を放ち二者生還して8-0、門前は2打席で5打点をあげる。更に3回、景浦の今季第1号となる右中間ツーランホームランを皮切りに、山口中越え三塁打、西村左中間二塁打、松木右前打に藤井右中間二塁打、藤村富美男ピッチャー強襲安打で7点を追加して15-0とする。
 西村幸生は7回までイーグルスを2安打無得点に抑える。8回、9回は手を抜いたようでイーグルスが寺内一隆の2本の二塁打などで3点を返すが、タイガースも8回、門前がこの日4本目の二塁打で6打点目をあげて16A対3で圧勝。
 両チーム合わせて9本の二塁打を含めて合計11本の長打が乱れ飛ぶ。

12年春 ジャイアンツvs金鯱 6回戦

6月13日 (日) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 1 2 0 0 0 0 1 4 ジャイアンツ 28勝9敗1分      0.757 スタルヒン
0 0 0 0 0 1 0 0 1 2 金鯱      14勝20敗1分   0.412 古谷倉之助


勝利投手 スタルヒン    8勝4敗
敗戦投手 古谷倉之助 9勝8敗


二塁打 (ジ)呉 (金)島、江口


スタルヒン、古谷倉之助を返り討ち


 金鯱は前日休ませた古谷倉之助が予定通りの先発、一方ジャイアンツは調子を上げてきたスタルヒンで連勝を狙う。

 ジャイアンツは3回、先頭の三原脩が右前打で出塁して二盗、呉波が右中間に二塁打を放ち1点を先制。更に4回、伊藤健太郎四球、永澤富士雄右前打で無死一二塁、筒井修は投前に送りバント、古谷は三塁に送球、しかしこれがタイミングは間に合わず更に暴投となり伊藤が生還、筒井には犠打が記録され野選とエラーが併せて記録される。続く内堀保の投ゴロを古谷が一塁に送球する間に永澤が還り3-0とする。

 金鯱は6回、島秀之助が左中間に二塁打を放ち三盗、黒澤俊夫の二ゴロで快足島が生還して1-3。更に7回、一死後江口行男が右中間を破り二塁を蹴って三塁へ向かう。しかしライト中島治康から中継のセカンド三原、三原からサード水原茂と転送されて江口はタッチアウト。

 ジャイアンツは9回、筒井二失、内堀中前打からスタルヒンが中前にタイムリーを放ち4-1と突き放す。金鯱は最終回、黒澤と瀬井清の四球で二死一二塁とし、江口行男の右前タイムリーで1点を返すがここまで。

 古谷倉之助は8安打を許していつも通りのピッチングができず、自らの拙守により墓穴を掘る。一方スタルヒンは5安打3四球3三振の完投で8勝目をあげる。

2010年6月27日日曜日

12年春 名古屋vs阪急 5回戦

6月12日 (土) 甲子園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 名古屋 14勝22敗     0.389 田中実
2 2 0 0 0 1 1 0 X 6 阪急   17勝17敗1分  0.500 北井正雄


勝利投手 北井正雄 2勝3敗
敗戦投手 田中実   7勝6敗


二塁打 (名)田中実 (阪)宇野
三塁打 (阪)山下好一


北井正雄、今生の快投


 投げられる体ではない北井正雄が快投を見せた。サイドに近いスリークオーターから繰り出される切れ味鋭いシュート、ストレート、十字架球は全盛期に近いものであった(翌日の読売新聞には「随所に北井が昔日の球威の片鱗を窺わせた」と記されている。)。昨年「東の澤村、西の北井」と呼ばれた球威が戻ったのである。


 名古屋は初回、志手清彦四球、石丸藤吉の遊ゴロでランナーが入れ替わり桝嘉一の投ゴロは北井からセカンド宇野錦次に送球されるが宇野が落球、大沢清の中前タイムリーで1点を先制する。続く小島茂男は三振、前田喜代士四球で二死満塁とするが芳賀直一も三振。
 名古屋は2回、田中実二ゴロ、三浦敏一三振、志手三振。3回、石丸左飛、桝嘉一左飛、大沢清三振。北井正雄は3回までに5三振を奪う力投を見せる。

 阪急は山下実を短期の兵役で欠き三番ファースト宮武三郎がスタメン出場。阪急は初回、トップの西村正夫が中前打で出塁、西村二盗黒田健吾遊失後、宮武が左前にタイムリー、中継ミスもあって2-1と逆転する。更に2回、この回先頭の北井正雄が左前打で出塁、西村も左前打で続き山下好一の右翼線三塁打で二者還り4-1とリードを広げる。
 阪急は6回、左翼線二塁打の宇野錦次を二塁に置いて北井が左前にタイムリーを放ち5-1。更に7回、西村がバントヒットで出塁、黒田のバントも内野安打となり宮武四球、山下好一押出し四球で6-1とする。

 名古屋は4回、小島投ゴロ、前田が四球に歩くが小坂三郎の投ゴロは1-6-3と渡りゲッツー。5回、田中実左飛、三浦三振、志手左飛。北井はこれで6奪三振。更に6回、石丸中飛、桝捕邪飛、大沢清三振。北井の奪三振は7つに達する。7回、小島中飛、前田遊ゴロ、小坂右飛。2回から7回を北井正雄はノーヒットに抑える。
 名古屋は8回、田中実左中間二塁打、三浦四球で無死一二塁、志手に代わる代打白木は一邪飛、石丸中前打で一死満塁、桝の三ゴロをサード黒田が好捕して5-4-3のゲッツー。最終回、大沢清三ゴロ、小島三失に生きるが前打三振、小坂に代わる代打服部一男中飛でゲームセット。
 
 北井正雄は3安打4四球8三振の快投、打っても4打数2安打1打点。約2カ月後に胸の病に腸チフスを併発してこの世を去る男の最後の晴れ舞台であった。


*北井正雄の足跡を記した唯一の著作









12年春 セネタースvs大東京 5回戦

6月12日 (土) 甲子園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 3 4 0 1 1 0 9 セネタース 21勝14敗    0.600 野口明
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 大東京   12勝21敗2分 0.364 大友一明-桜井七之助-村田重治


勝利投手 野口明   13勝3敗
敗戦投手 大友一明  3勝8敗


二塁打 (セ)野口明 (大)水谷


野口明、五度目の完封


 両軍3回まで1安打ずつで無得点。セネタースは4回、先頭の北浦三男四球、家村相太郎が送って大貫賢四球で一死一二塁、野口明の遊ゴロを今季初スタメンのショート佐山昌義が失する間に北浦が還って1点を先制、今岡謙次郎の三ゴロを今度はサード柳澤騰市が失して大貫に続き野口明も還り3-0とする。苅田久徳遊ゴロ、中村信一投ゴロでチェンジとなり、大東京先発の大友一明は持ち味を発揮して打たせてとろうとしているがバックに足を引っ張られる。

 セネタースは5回、先頭の尾茂田叶中前打、一死後北浦四球、家村の二ゴロはセカンド中村三郎からショート佐山へ、これを佐山が後逸する間に二者還り5-0。大友はがっくりきて大貫、野口明に連続四球を与えて満塁の走者を残して降板、桜井七之助にマウンドを譲る。今岡遊飛で二死満塁、苅田久徳の三ゴロをサード柳澤が一塁へ暴投、大友の残した二者が還り7-0とする。大友は7失点であるが自責点はゼロ、大東京守備陣の乱れで大勢が決する。

 セネタースは7回も三失に生きた大貫を野口明の二塁打で還して8-0、ここまで自責点はゼロ。8回も尾茂田、中村民雄、北浦の三連打で満塁とし、大貫の中犠飛で1点を追加、この試合初めて自責点が記録される。

 野口明は大量リードをバックに快調なピッチング、4安打1四球5三振で今季五度目の完封で13勝目をあげる。大東京では唯一水谷則一が3安打と気を吐くが、6失策が全てサードとショートでは試合にならず惨敗を喫す。

2010年6月26日土曜日

12年春 金鯱vsジャイアンツ 5回戦

6月12日 (土) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 1 0 0 0 0 1 金鯱      14勝19敗1分 0.424 古谷倉之助-鈴木鶴雄
0 1 1 0 0 2 2 0 X 6 ジャイアンツ 27勝9敗1分   0.750 澤村栄治


勝利投手 澤村栄治 17勝2敗
敗戦投手 鈴木鶴雄  2勝5敗


二塁打 (金)古谷 (ジ)内堀
三塁打 (金)瀬井 (ジ)呉、伊藤


澤村栄治、今季最多の12奪三振


 ジャイアンツは6月10日、11日のイーグルス戦はスタルヒン、前川八郎のみで連勝してきただけに本日の澤村栄治先発は予想通り、第二節の対戦(5月15日、16日)では金鯱は3回戦の澤村を避けて4回戦に古谷倉之助を投入して引分けに持ち込んだが本日は澤村にぶつけてきた。

 ジャイアンツは2回、伊藤健太郎、永澤富士雄の連打と捕逸で一死二三塁とし、筒井修の三ゴロをサード瀬井清が一塁に悪送球する間に伊藤が還り1点を先制。更に3回、呉波が四球で歩くと二盗に成功、水原茂の右前打で呉が快足を飛ばしてホームに還り2-0とする。金鯱は4回から古谷をファーストに回し二番手に鈴木鶴雄を投入、古谷を温存しつつ追い付けば再投入の構えをとる。この辺りに岡田源三郎監督の深謀遠慮が見て取れる。Wikipediaによると岡田源三郎は明治大学監督時代、奇策を駆使した戦法で早慶両校を悩ませ1923年秋、明治大学にリーグ戦初優勝をもたらしたとのこと、二出川延明、湯浅禎夫、田部武雄、松木謙治郎を育てたことで知られる。この岡田と松木の関係が今シーズンの行方を左右することとなる。

 金鯱は5回、瀬井清が中越え三塁打を放つ。しかし三上良夫の代打スリム平川喜代美、小林茂太は連続三振、相原輝夫四球で二死一三塁、ここで相原が二盗、キャッチャー内堀保の送球が逸れて瀬井が生還して1-2とする。続く濃人渉も三振、ここぞという時の澤村のピッチングは本気で三振を獲りに行く。

 ジャイアンツは6回、二死から内堀四球、三原脩中前打で二死一二塁とし、呉の右中間三塁打で2点を追加、7回にも中島治康右前打、伊藤中越え三塁打、筒井修の遊ゴロで2点を追加して6-1とする。結局古谷に再登板の機会は訪れることなくゲームセットのサイレンが高らかに鳴り響く。

 澤村栄治は4安打4四球、今季五度目の二桁奪三振、今季最多の12三振を奪い完投で17勝目をあげる。なお、古谷倉之助の降板に疑問を感じられる方もいらっしゃるかと思いますがそれは現代の豊富な先発陣を抱えた時代を基準にしているからであり、金鯱が唯一の切り札である古谷をどう有効活用するのか、全ての野球人にとって未経験となる本邦初の長期リーグ戦も半ばを過ぎてきて各チームの投手陣のやり繰り事情を検証してみるのも面白いかも。

12年春 タイガースvsイーグルス 5回戦

6月12日 (土) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
3 0 0 1 0 0 3 0 1 8 タイガース 27勝8敗1分 0.771 御園生崇男-藤村富美男-景浦将
1 4 0 0 0 1 0 0 1 7 イーグルス  6勝28敗    0.176 藤野文三郎


勝利投手 藤村富美男 2勝1敗
敗戦投手 藤野文三郎 0勝2敗


二塁打 (イ)小島2
三塁打 (タ)景浦 (イ)中根
本塁打 (タ)門前 2号


景浦将、3安打4打点


 タイガースは初回、トップの松木謙治郎中前打、一死後奈良友夫四球で一死一二塁、景浦将が右中間に三塁打を放ち2点を先制、山口政信の遊ゴロをショートサム高橋吉雄が失する間に景浦が還り3-0。イーグルスはその裏、二死から小島利男左前打、高橋四球、太田中前にタイムリーを弾き返して1-3とする。尚も野村実が四球を選び二死満塁で好調佐藤武夫を迎えるが佐藤は二ゴロに倒れて追加点はならず。

 イーグルスは2回、この回先頭の藤野文三郎の右飛をライト景浦が落球、一死後中根之の三ゴロをサード皆川定之が失して一死一二塁、金井清の遊ゴロをショート岡田がファンブルするが三走藤野が飛び出して岡田から皆川に渡り藤野はタッチアウトで二死一二塁とタイガース守備陣の乱れからチャンスを掴むと小島が右翼線に二塁打を放ち2-3、御園生崇男のワイルドピッチで金井が還り3-3、サム高橋が左前打にタイムリーを放ち4-3と逆転、高橋二盗を決めて野村の左前タイムリーで5-3とする。タイガースは3回から御園生をセンターに回しセンター山口に代えて藤村富美男をリリーフに送る。

 タイガースは4回、門前真佐人が中越えに第2号となる大ホームランを放ち4-5と1点差に詰め寄る。しかしイーグルスは6回、三塁打の中根を金井の中犠飛で還して6-4とする。
 タイガースは7回、一死後岡田四球、松木右前打、藤井勇四球で満塁として奈良友夫の右犠飛で岡田が還り5-6、景浦の遊撃内野安打で松木が還り6-6の同点、御園生の遊ゴロで藤井がホームを狙うがこれはショート高橋からのバックホームでアウト、しかしキャッチャー佐藤の三塁牽制悪送球で景浦が還り7-6と逆転。タイガースは9回も藤井、奈良、景浦の三連打で1点を追加して8-6とする。

 イーグルスは9回裏、この回先頭の太田が中前打で出塁、一死後佐藤に代わる代打畑福俊英が左前打して一死一二塁、タイガースは藤村をあきらめライトから景浦をマウンドに呼び寄せる。藤野に代わる代打杉田屋守が左前打して一死満塁杉田屋の代走に田村稔を起用、寺内一隆中前にはじき返して三走太田に続いて二走畑福も巨体を揺らしてホーム二突進、しかしセンター御園生からのバックホームに敢え無くタッチアウト。更に打者中根にとき、景浦からセカンドベースに入ったショート岡田に牽制球が送られて田村が刺されてゲームセット。

 イーグルスは前日のジャイアンツ戦に続いて大魚を逸して7連敗となるが、7連敗中ボロ負けは6月10日のジャイアンツ5回戦のみであり、もう一工夫あれば違った結果がでるはず、本日で勝率は1割7分6厘となったが、チームが若いだけで決してあきらめてはいない。
 景浦将は放った3安打が全てタイムリーで4打点の活躍。

2010年6月25日金曜日

12年春 金鯱vsタイガース 6回戦

6月11日 (金) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9   計
0 0 0 0 0 3 0 0 4   7  金鯱    14勝18敗1分 0.438 鈴木鶴雄-松元三彦
5 0 0 1 4 0 0 2 X 12 タイガース 26勝8敗1分  0.765 若林忠志-藤村富美男


勝利投手 若林忠志 5勝1敗
敗戦投手 鈴木鶴雄 2勝4敗


二塁打 (金)平川、小林 (タ)藤井、奈良、若林


奈良友夫、三番の重責を果たす


 タイガースは初回、金鯱先発の鈴木鶴雄の立ち上がりを攻めて松木謙治郎四球、藤井勇の右前打で松木が三塁に進み無死一三塁、奈良友夫の右前打で松木が還り1点を先制、藤井も三塁を陥れる。景浦将四球で無死満塁、山口政信への二球目にキャッチャー相原輝夫が二塁に牽制悪送球して藤井が還り2-0、山口の三ゴロをサード瀬井清がバックホームするも野選となり奈良が生還して3-0、伊賀上良平に代わる代打玉井栄の二ゴロで山口が二封されるが景浦が還って4-0、玉井が二盗を決めて若林忠志が右翼線にタイムリーして5-0とする。3安打2四球で5得点と無駄のない攻めで主導権を握る。初回から勝負と見て伊賀上に代えて玉井を代打に起用できるのは選手層の厚さがなせる業であるが、長期的視野に立った若手育成の成果でもある。以前にも書きましたが、この春打倒澤村を合言葉に報道陣をシャットアウトして行った秘密特訓は、投手板の一尺前から投げさせる練習が有名であるが、若手に課した特訓はとても親兄弟に見せられるものではなかった(松木謙治郎著「タイガースのおいたち」より)。リーグ戦前の座談会で石本監督は「若手をどんどん使ってレギュラーとの実力差を縮めていく。」と語っており、その言葉通り3月26日の開幕戦から本堂保次、奈良友夫、玉井栄、塚本博睦、青木正一を使うなど若手を実践に投入して育てている。そんな中で奈良友夫が三番に定着してきている。タイガースは代打玉井に代わり皆川定之がサードに入る。


 タイガースは4回も松木、藤井の連打と景浦四球で一死満塁として先発鈴木をKO。二番手松元三彦から山口の三ゴロで1点を追加。更に5回、若林中前打、藤井四球から奈良の右中間二塁打で二者還り8-0、景浦、山口連続四球で満塁とし、皆川が右前に2点タイムリーを放ち10-0とする。
 金鯱は6回、この回先頭の松元が一失に生き佐々木常助が死球、トップに返り濃人渉中前タイムリーで1-10、濃人二盗失敗後、小林利蔵が右中間に三塁打で2点目、黒澤俊夫が右翼線安打し点3-10と反撃する。


 タイガースは8回、二死から松木四球、藤井中越え三塁打、奈良友夫左前打で2点追加して12-3。金鯱は9回、瀬井右中間三塁打、島秀之助四球、一死一三塁から、村田信一の投ゴロを若林が三塁に悪送球して1点、佐々木四球、濃人中犠飛で2点、更に江口行男右翼線タイムリー、小林右中間二塁打でこの回4点を返して若林をKO。しかし二番手藤村富美男に黒澤が三邪飛に打ち取られてゲームセット。金鯱は良く粘ったが前半の失点が重すぎた。


 タイガースは14安打で12得点、藤井、若林が3安打、このところ三番に定着している奈良友夫は6打数3安打4打点の活躍。

12年春 イーグルスvsジャイアンツ 6回戦

6月11日 (金) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8   9   計
0 0 1 0 0 0 0 8   0    9 イーグルス    6勝27敗   0.182 松本操-望月潤一-大石綱-石井秋雄
0 1 0 1 0 0 3 4 1X  10 ジャイアンツ 26勝9敗1分 0.743 前川八郎-スタルヒン


勝利投手 スタルヒン  7勝4敗
敗戦投手 石井秋雄  0勝3敗


二塁打 (イ)佐藤、畑福 (ジ)永澤2、伊藤、中島
三塁打 (イ)高橋


イーグルス大魚を逸す


 ジャイアンツは津田四郎主将が九番キャッチャーで今季初先発マスクを被る。一方イーグルスは左腕松本操が二試合連続先発。ジャイアンツは昨年金鯱の内藤幸三(今季から兵役)を苦手としており左腕に弱いとも言われている。

 ジャイアンツは2回、先頭の前川八郎がショートへの内野安打で出塁、一死後津田の三ゴロでランナーが入れ替わる。打者三原脩の三球目、津田が二塁にスタート、キャッチャー佐藤武夫の送球は高くそれてセンターへ抜ける、これをバックアップの寺内一隆が後逸する間に津田が生還して1点を先制。イーグルスは3回、一死後金井清四球、サム高橋吉雄が左中間に三塁打を放ち1-1の同点に追い付く。ジャイアンツは4回、前川が三遊間を破ると続く永澤富士雄が左中間に二塁打を放ち前川還って2-1とする。

 ジャイアンツは7回、この回先頭の水原茂左前打、中島治康も右前打で続き無死一二塁とするとイーグルスベンチは松本を降板させ又も左腕の望月潤一を投入する。伊藤健太郎左前打で無死満塁、筒井修の投ゴロは望月バックホームして三走水原がフォースアウトで一死満塁、前川の二ゴロで中島が生還して3-1、尚も二死二三塁で永澤が右前に痛打を放ち伊藤、筒井が相次いでホームに還り5-1。6回に津田の代打で登場しそのままマスクを被る内堀保が右前打で続く、これは三塁に走った永澤をライト中根之が刺してチェンジ、勝負あったかに見えた。

 イーグルスは8回、先頭のサム高橋四球、太田健一右翼線安打で高橋は三塁に進みライトからの返球の間に太田も二塁を陥れて無死二三塁、杉田屋守の遊ゴロは二走太田に当り守備妨害となり一死一三塁、一走杉田屋に代わり代走野村実を起用、七番に上がった好調佐藤武夫が五試合連続長打となる左翼線二塁打を放ち高橋が還り1点返して2-5。更に望月に代わる代打畑福俊英の当りは左中間に落ちて二塁打となり三走野村が還り3-5、捕られそうな当りだったためスタートが遅れた佐藤は三塁に止まりなお一死二三塁。寺内の二ゴロの間に佐藤が還り4-5、ファースト送球が悪送球となり寺内も一塁に生きて一死一三塁とチャンスが続く。トップに返り中根四球で一死満塁、ジャイアンツはようやく前川を諦めてスタルヒンを投入する。金井に代わる代打古川正男は三振に倒れ二死満塁、ここで三番小島利男が中前にタイムリーを放ち二者を迎え入れて6-5と逆転、中根は三塁に進み小島二盗、高橋四球で再び二死満塁、太田の遊ゴロをショート筒井が悪送球して7-5。更に杉田屋の代走に出た野村に打順が回り野村が左前に2点タイムリーを放ちこの回8点、大逆転で9-5とリードする。

 イーグルスは8回から大石綱を投入、このまま逃げ切れば望月潤一に職業野球入り初白星が転がり込むこととなるがジャイアンツは8回裏、この回先頭の三原四球、呉波四球で無死一二塁、イーグルスは早くも大石が降板して石井秋雄を注ぎこむ。水原中飛で一死一二塁、中島の二ゴロを逆転打を放ったセカンド小島が一塁に悪送球する間に二者が還り7-9。伊藤の左中間二塁打で中島が還り8-9、筒井の右飛をライト田村稔が落球、伊藤は二塁から動けず一死一二塁、スタルヒン中飛で二死一二塁、ここで永澤がこの日二本目の二塁打を右中間に放ち遂に9-9の同点となり望月の初勝利はお預け。

 イーグルスの9回の攻撃は寺内の四球以外は全て三振で9回裏へ進む。ジャイアンツは9回裏、打順良くトップの三原からの攻撃、三原四球、平山菊二が送って水原四球で一死一二塁、イーグルスは投手を使い果たしており石井の続投、打者は主砲中島治康、中島の一打は右中間を破り三原がサヨナラのホームを踏み10A対9でジャイアンツの勝利、イーグルスは大魚を逸す。
 

2010年6月24日木曜日

12年春 阪急vs大東京 6回戦

6月10日 (木) 甲子園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16  計
0 0 0 0 0 0 0 0 2  0   0   0   0   0   0   0   2 阪急   16勝17敗1分 0.485 重松通雄-笠松実-石田光彦
0 0 0 0 0 0 0 0 2  0   0   0   0   0   0   0   2 大東京 12勝20敗2分 0.375 近藤久


二塁打 (大)近藤
三塁打 (大)大友


延長16回の激闘、引き分く


 翌日の読売新聞は冒頭「両軍必死の攻防は血戦十六合ついに引分という大リーグ(筆者注:春の大リーグ戦のこと、米大リーグではない)の新記録を作った」と伝えている。

 前半戦は阪急が押し気味に試合を進める。すなわち、1回、一死後黒田健吾右前打、山下好一、山下実連続四球で一死満塁と先制のチャンスを掴むがジミー堀尾文人、上田藤夫が連続三振に倒れる。2回は無死から宇野錦次がヒットで出塁するが後続なく、4回は堀尾遊失と三盗、倉本信護四球で作った二死一三塁のチャンスも得点ならず、5回は西村正夫バントヒット、7回は宇野四球でそれぞれ無死から走者を出すが後続なく8回まで無得点。大東京先発の近藤久は数度のピンチに見舞われながらも要所を締める。
 一方大東京は、阪急先発の重松通雄の下手からの巧投に8回まで6安打を放つもいずれも散発に終わり無得点、8回を終わって0-0のまま試合は9回へ。

 阪急は9回表、先頭のジミー堀尾が中堅左にヒットで出塁、上田が送って宇野四球で一死一二塁のチャンスを作ると倉本に代えて代打宮武三郎が登場、この試合最大の山場を迎える。宮武の三球目、ダブルスチール成功で一死二三塁、近藤はあくまで宮武と勝負、宮武は期待に応えてセンター前に抜けるタイムリーを放ち二者を迎え入れてついに2-0とリードする。殊勲の宮武に代えて代走に北井正雄を起用、しかし重松遊ゴロ、西村三ゴロで9回裏へ。

 大東京は9回裏、水谷則一投ゴロ、煤孫伝二ゴロと三、四番が倒れて二死無走者となり配色濃厚となるが土壇場で粘りを発揮する。浅原直人がセンターにはじき返し二盗、中村三郎四球で二死一二塁、ここで阪急ベンチは重松から笠松実にスイッチ、ところが笠松のコントロールがままならず筒井隆雄の代打大友一明四球で二死満塁、柳澤騰市の代打菊矢吉男が押出しの四球を選び1-2、近藤も押出し四球で何と2-2の同点となる。笠松退き石田光彦がリリーフに登場、鬼頭数雄は二ゴロに倒れて延長へ。

 阪急は10回、先頭の黒田四球、山下好一の一ゴロでランナーが入れ替わり期待の山下実は右飛に倒れ好一二盗失敗でチェンジ。その裏大東京は二番からの好打順も三者凡退。阪急は11回、先頭の堀尾が一失に生き上田が送って一死二塁、ここで大東京小西得郎監督はレフトを坪内道則から投手登録の強肩村田重治に代える。宇野の当りは代わったばかりの村田への飛球となり村田ががっちりと捕球してツーアウト。変わったところに打球が飛ぶ(ずいぶん前の話になりますが、野球中継で某解説者が「飛ぶと思うから代えるんです。」というコメントをしていました。)。小西監督としてはバックホームに備えて強肩村田を起用したのだろうが何か閃くものがあったか。

 大東京は11回裏、二死から大友四球、漆原進左前打で二死一二塁とサヨナラのチャンスを迎えるが近藤は遊ゴロに倒れる。阪急は12回、一死から山下好一左前打、二死後堀尾四球で二死一二塁とするが上田が遊ゴロでチェンジ。大東京も12回裏二死から水谷が右翼線ヒットで出塁するが煤孫は中飛に倒れる。阪急は13回から15回まで三者凡退、続投の大東京近藤久は疲労困ぱいの様子であるがかえって開き直ったか。大東京は13回裏、二死から大友の当りは中堅頭上を越える、大友は三塁を回りサヨナラのホームを目指して激走、しかしセンター堀尾から中継のセカンド宇野へ、更に中継にピッチャー石田が入り石田がバックホームして大友アウト。この場面ではピッチャーの石田はホームベースカバーに走っても何の意味もないわけで、中継に入ったのは隠れた大ファインプレーである。

 大東京は14回裏、一死後近藤が執念の右翼線二塁打を放つが鬼頭右飛、藤浪光雄遊ゴロで得点ならず。大東京の15回裏は三者凡退。
 阪急は16回、先頭の宇野左前打で出塁、島本義文が送って一死二塁、しかし石田が遊飛、西村は二ゴロに倒れて16回裏へ。薄暮迫るなか大東京は16回裏、村田、大友、漆原は三人とも三振、すでにボールは見えずらくなっており、これは「もうやめましょう」という意思表示であろう。あるいは死力を尽くした試合は引き分けで良しとする意思表示か。決して敗退行為ではない。

 試合開始3時45分、試合終了6時42分、プレー・スピーディを旨とする職業野球(2010年3月25日付け当ブログ「前夜」参照)らしく、延長16回を3時間以内で終了させる。球審沢東洋男、塁審川久保喜一、金政卯一、この日甲子園に詰めかけた1,448人の観衆のうち何人が試合終了まで観戦したのでしょうか。
 

2010年6月23日水曜日

12年春 セネタースvs名古屋 6回戦

6月10日 (木) 甲子園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 1 0 0 1 0 0 1 3 セネタース 20勝14敗 0.588 浅岡三郎-野口明
1 0 0 0 0 1 0 2 X 4 名古屋     14勝21敗 0.400 木下博喜


勝利投手 木下博喜 2勝4敗
敗戦投手 浅岡三郎 4勝9敗


二塁打 (セ)苅田
三塁打 (名)小島


小島茂男、殊勲の3打点


 名古屋は初回、志手清彦が中前打で出塁、石丸藤吉右前打、桝嘉一も三遊間を破り無死満塁、大沢清の中犠飛で1点を先制。セネタースベンチは早くも先発浅岡三郎を諦め野口明を投入して後続を断つ。エース投入で負けられないセネタースは3回、一死後苅田久徳が右翼線二塁打で出塁、苅田三盗を決めて中村信一四球で一死一三塁、尾茂田叶の左犠飛で1-1の同点とする。

 セネタースは6回、北浦三男が四球で出塁、家村相太郎のセカンドベース寄りの二ゴロは捕球した石丸藤吉がベースを踏んで北浦は二封、しかし石丸の一塁転送が悪送球となり打者走者の家村は二塁へ進む。ここで野口明が左前にタイムリーを放ち2-1と逆転。しかし名古屋も6回、桝嘉一、前田喜代士のヒットで二死一二塁として芳賀直一に代わる代打小島茂男の右前タイムリーで1点返して2-2の同点に追い付く。

 名古屋は8回、大沢清が右前打で出塁、小坂三郎が送り、前田中前打で一死一三塁、ここで又も小島が左中間に三塁打を放ち4-2とリード。セネタースも9回、野口明の左前打と苅田の中前打で1点を返すが苅田が一二塁間に挟まれて逃げ切れずゲームセット、名古屋が接戦を制す。二本のタイムリーで3打点をあげた小島茂男の殊勲が光る。

 公式記録では浅岡三郎が敗戦投手となっているが、打者四人で犠飛による1失点で交代てしおり、その後味方が同点に追いつきながら野口明が決勝点を許したものであり、野口に敗戦が記録されるのが妥当であろう。

12年春 ジャイアンツvsイーグルス 5回戦

6月10日 (木) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
1 0 0 0 5 0 0 0 5 11 ジャイアンツ 25勝9敗1分 スタルヒン
0 0 1 0 0 0 0 0 0 1  イーグルス     6勝26敗   松本操 畑福俊英


勝利投手 スタルヒン   6勝4敗
敗戦投手 松本操     1勝1敗


二塁打 (ジ)永澤2 (イ)佐藤


永澤富士雄、二塁打2本4打点の活躍


 ジャイアンツは1回、呉波四球、筒井修の三ゴロでランナーが入れ替わりボークで筒井二進、水原茂が中前にタイムリーを放ち1点を先制。イーグルスは3回、絶好調八番佐藤武夫が四試合連続長打となる右翼線二塁打で出塁して無死二塁、一死後寺内一隆の三ゴロを水原が一塁に悪送球して1-1の同点、水原は自らの先制タイムリーを帳消しにする。


 ジャイアンツは5回、一死後筒井が右中間二塁打、水原四球で一死一二塁、中島治康の三ゴロで水原二封、しかし併殺を焦ったセカンド小島利男が一塁に悪送球して筒井が生還してなお二死二塁、伊藤健太郎の左翼線安打で中島が還り3-1、伊藤はバックホームの間に二塁へ進む。平山菊二に代わる代打津田四郎主将が右前にタイムリー、津田もバックホームの間に二塁に進む。更に永澤富士雄の左中間二塁打で5-1、ピッチャー松本操から畑福俊英に代わり内堀保左前打で6-1とする。


 ジャイアンツは9回、水原、伊藤のヒットに永澤の本日二本目となる二塁打等で5点を追加して11-1とする。
 スタルヒンは大量リードに守られて3安打4四球6三振の完投で6勝目をあげる。永澤富士雄が4打点の活躍。

2010年6月22日火曜日

12年春 タイガースvs金鯱 5回戦

6月10日 (木) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 計
0 0 0 0 1 0 1 0 0  0   2 タイガース 25勝8敗1分   西村幸生-景浦将
0 0 0 0 1 1 0 0 0 1X  3 金鯱     14勝17敗1分 古谷倉之助


勝利投手 古谷倉之助 9勝7敗
敗戦投手 景浦将    7勝3敗


黒澤俊夫、濃人渉の重盗で金鯱サヨナラ


 古谷倉之助、西村幸生の先発とあって投手戦が予想されたが、珍しく予想が当たり4回まで両軍無得点。特に古谷は4回まで強打タイガース打線を無安打に抑える。

 タイガースは5回、西村幸生が初安打を右前に放ち岡田宗芳が送って一死二塁、更にワイルドピッチで西村が三塁に進み藤井勇の左犠飛で1点を先制。古谷のチェンジオブペースを攻略するには西村、藤井のように球に逆らわずに流し打った方が良い。
 金鯱は5回裏、先頭の相原輝夫四球、こちらも佐々木常助が送ってトップに返り濃人渉の中前タイムリーで1-1の同点とする。タイガースは6回から西村の代えて景浦将がライトからマウンドに上がる。金鯱は6回、遊失に生きた黒澤俊夫を古谷が送り瀬井清の右前タイムリーで2-1と逆転に成功。
 しかしタイガースは7回、四球で出塁した西村を再び岡田が送りこちらもトップに返り松木謙治郎の中前タイムリーで同点とする。その後は古谷、景浦の投げ合いが続き延長戦に突入。

 タイガースの10回表は三者凡退。金鯱は10回裏、この回先頭の濃人が遊失で無死一塁、江口行男が送り小林利蔵の遊ゴロをショート岡田がこの日三つめのエラーで一死一三塁、黒澤俊夫の二直はセカンド奈良友夫が落球するが二塁に送球して一走小林が二封され二死一三塁、しかし一塁ランナーが俊足黒澤に入れ替わったことが金鯱に幸いする。打者古谷の初球、黒澤がスタート、キャッチャー門前真佐人が二塁に送球するや三走濃人渉がスタート、岡田は黒澤へのタッチをあきらめホームに返球、これを門前が落球して濃人ホームイン、金鯱サヨナラでタイガースを倒す。

 古谷倉之助は延長10回を3安打7四球1三振といつもながらの与四球は多く奪三振は少ないが被安打が少ない投球で完投、9勝目をあげる。

2010年6月21日月曜日

12年春 名古屋vsセネタース 5回戦

6月9日 (水) 甲子園


1 2 3 4 5 6 7 8 9  計
0 0 0 0 0 0 0 0 0  0  名古屋   13勝21敗 0.382 森井茂-田中実-伊藤国雄-大沢清
4 0 3 2 5 0 0 0 X 14 セネタース 20勝13敗 0.606 野口明-浅岡三郎


勝利投手 野口明 11勝3敗
敗戦投手 田中実  7勝5敗
セーブ   浅岡三郎 2


二塁打 (セ)野口明、中村信、大貫
三塁打 (名)大沢清


苅田久徳の好走塁、猛攻を呼び込む


 セネタースは初回、トップの苅田久徳が四球で出塁、一死後尾茂田叶の左前打で苅田は一気に三塁へ進み一死一三塁、中村民雄四球、北浦三男が左翼線に2点タイムリーを放ち、家村相太郎四球から野口明が左中間に二塁打を放ってこの回4点を先制する。セネタースは3回、北浦、家村のヒットと苅田の四球で二死満塁とし、中村信一の左翼線二塁打で三者が還り7-0とする。
 セネタースは4回も、中村民の四球と北浦のヒットで二死二三塁とし、野口明が右前に2点タイムリーを放ち9-0。5回も苅田のヒットに始まり尾茂田、大貫賢、北浦がヒットを連ね、野口明の5打点目となるタイムリーで14-0として前半で試合を決める。

 セネタースは後半はレギュラー陣を休ませ控えを投入、苅田の後には今岡謙次郎、尾茂田の後のセンターには武田勇、大貫賢の後のレフトには青木幸造が登場するがヒットを打った者はいなかった。
 野口明は5回まで1安打に抑えて余裕の降板、リリーフ浅岡三郎も4回を1安打に抑えて完封リレー。

 セネタースの圧勝を呼び込んだのは苅田久徳の好走塁、初回尾茂田の左前打で一気に三塁を陥れ、3回は中村信の左翼線二塁打で一塁から長駆ホームに還る。

12年春 大東京vs阪急 5回戦

6月9日 (水) 甲子園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 計
0 0 0 1 0 0 0 0 1  2   1   5 大東京 12勝20敗1分 0.375 大友一明-菊矢吉男
0 0 2 0 0 0 0 0 0  2   0   4 阪急   16勝17敗    0.485 石田光彦-中田武夫-重松通雄


勝利投手 大友一明 3勝7敗
敗戦投手 中田武夫 4勝2敗
セーブ   菊矢吉男 2


二塁打 (大)浅原 (阪)上田
三塁打 (大)柳澤 (阪)堀尾


坪内道則、浅原直人、捨身の本盗

 阪急は3回、一死後フランク山田伝が右前打で出塁、山下実の二ゴロでランナーが入れ替わり山下好一四球、ここでジミー堀尾文人が左中間に三塁打を放ち2点を先制する。大東京は4回、煤孫伝左前打、浅原直人の右前打で無死一三塁、中村三郎の左犠飛で1点返して1-2とする。
 大東京先発の大友一明は毎回のように四球を連発するが追加点を許さず、阪急は6回から石田光彦に代えて中田武夫をリリーフに投入してこちらも追加点を許さず。

 大東京9回、先頭の煤孫が内野安打で出塁すると代走に坪内道則を起用、坪内は二盗を決めて一死後中村の二ゴロで三塁に進む、代打近藤久の四球目に坪内が思い切りよくスタート、ホームスチールが成功して土壇場で2-2の同点に追い付く。

 大東京は10回、先頭の柳澤騰市がキャッチャーフライを打ち上げるが大原敏夫がこれをフェアグラウンドで落球、大友が送って一死二塁、二死後藤浪光雄が左前打を放ち柳澤生還して3-2、レフトからの返球を中継に入った中田がホームに悪送球する間に藤浪は三塁に進む。水谷則一の二ゴロをファースト山下実が失する間に藤浪が生還して4-2とする。

 阪急は10回裏、先頭の山下実がこの日11個目の四球を選んで出塁、代走に川村徳久を起用、山下好一四球、堀尾の遊ゴロの間に二者進塁して一死二三塁、上田藤夫の二ゴロの間に川村が還り3-4、代打宮武三郎の遊飛をショート成瀬芳輝が落球して4-4の同点とする。

 大東京は11回、先頭の浅原直人が右中間二塁打で出塁、中村は三振ナットアウト、キャッチャー大原敏夫は飛び出しかけた三塁に送球、しかし浅原は戻ってセーフ、サード黒田健吾からファースト林信一郎に送球されて中村はアウト。成瀬は投失に生き二盗を決めて一死二三塁、柳澤は捕邪飛に倒れて二死二三塁、打者大友の四球目、浅原がホームに突進、又もホームスチールが成功して5-4と再びリードを奪う。

 阪急は11回裏、一死後黒田、山田が連続四球を選んで一死一二塁。ここで大東京は14四球を与えながらも踏ん張ってきた大友を降板させて菊矢吉男をマウンドに送る。阪急は川村に代えて森弘太郎を代打で起用、しかし森の当りはピッチャーライナーとなり一走山田が飛び出しておりゲッツーで試合終了、延長11回の激戦に終止符が打たれる。

 坪内、浅原の捨身のホームスチールで大東京が上位食いを果たす。阪急は8連敗で勝率5割を割り込む。

12年春 第11節 週間MVP

今節はタイガースが四連勝、阪急が四連敗、セネタースは1勝3敗だが1勝はジャイアンツからのもの。投手部門は大混戦、一方打撃部門は3連敗のイーグルスから佐藤武夫が選出された。




週間MVP


 セネタース 野口明 4


 ジャイアンツ 澤村栄治 5


 野口明は3節連続受賞、一時の不調から完全に立ち直った。野口のジャイアンツ戦、澤村の阪急戦のピッチングは甲乙付けがたく同時受賞となった。


 イーグルス 佐藤武夫 1


 3連敗のチームからの選出は異例。八番打者ながら今節3試合で11打数5安打8打点、二塁打2本、三塁打1本。ゆで卵パワーが炸裂(佐藤は今季タイガースからイーグルスに移籍してレギュラーポジションをつかんだ。松木謙治郎著「タイガースのおいたち」によると、ゆで卵を続けて食べる特技があり、20個続けて食べたこともあるとのこと。戦争の時代を生き抜き戦後は審判として活躍することになる。)。




殊勲賞


 金鯱 佐々木常助 2


 大東京6回戦で3打数2安打4打点の活躍。完全にレギュラーではないが、出ればきっちり仕事をする。


敢闘賞


 タイガース 御園生崇男 1


 安定味抜群のクレバーなピッチングで今節2勝2完投。


技能賞


 金鯱 古谷倉之助 2


 今節2勝2完投。大東京戦は2安打7四球2三振、名古屋戦は3安打5四球0三振。与四球は多く奪三振は少ないが被安打が少ない。チェンジオブペースに相手打線が翻弄されている様子がうかがえる。

2010年6月20日日曜日

12年春 タイガースvs阪急 5回戦

6月7日 (月) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 4 0 3 0 0 0 1 8 タイガース 25勝7敗1分 0.781 御園生崇男
0 0 1 0 0 0 0 1 0 2 阪急     16勝16敗   0.500 北井正雄-重松通雄-笠松実


勝利投手 御園生崇男 7勝1敗
敗戦投手 北井正雄   1勝3敗


二塁打 (タ)松木2 (阪)山下実、堀尾
三塁打 (タ)松木
本塁打 (タ)山口 1 (阪)山下実 2


松木謙治郎3本の長打


 阪急は北井正雄が久々の先発、五番ファーストに宮武三郎を起用し山下実をライトに配す。したがって、二番 (8) ジミー堀尾文人、三番 (9) 山下実、四番 (7) 山下好一、五番 (3) 宮武三郎という世にも恐ろしき強力打線となった訳であるが、実情は、宮武が病気上がり、堀尾の体調も万全ではなく、山下実は6月12日から20日間予備勤務のため大阪第四聯隊に入営することになっており(これは5月31日付け読売新聞に掲載されています)、まともに働けそうなのは山下好一のみ。北井の体はすでに投げられる状態になく、現在のタイガース相手では苦戦は免れないか。

 1回、2回と1安打づつを許しながらも何とか踏ん張ってきた北井正雄もついに3回に力尽く。タイガースは3回、先頭の岡田宗芳四球、トップに返り松木謙治郎が右中間に三塁打を放ち1点先制、藤井勇の中前タイムリーで2-0、奈良友夫も中前打で続き景浦将の左前タイムリーで3-0、ここで北井が退きリリーフに重松通雄を投入、山口政信の二ゴロの間に奈良が還り4-0とする。

 阪急は3回裏、ヒットと盗塁で二塁に進んだ倉本信護を堀尾の左前打で還して1-4。タイガースは5回、一死後山口政信が左中間最深部にホームラン、伊賀上良平、御園生崇男連続四球で重松が降板、代わった笠松実も門前真佐人に四球を与え、岡田の左犠飛で6-1、松木の右中間二塁打で御園生が還り7-1とする。

 阪急は8回、短期とは言え入営を控える山下実が左翼スタンドに第2号ホームランを流し打って1点を返すが、タイガースも9回、ヒットで出塁した伊賀上が岡田の三ゴロで生還し8-2とする。
 大量リードをバックに御園生崇男はいつもながらの安定したピッチング、6安打3四球1三振の完投で7勝目をあげる。首位打者松木謙治郎は放った3安打がいずれも長打となる活躍。



 翌日の読売新聞は市岡忠男の論評を掲載していますが、その中で重松通雄について「三回中途のリリーフに成功した阪急重松投手は下手投げで・・・」と記しています。「下手投げの元祖」には諸説あり、重松通雄も元祖と言われている一人です。「潜航艇投手」と呼ばれた武末悉昌を元祖とする説もありますが、これは戦後の1949年南海に入団していきなり21勝をあげたことから言われているものであり、正確には「元祖・下手投げの主戦投手」と言うべきでしょう。昭和12年春季リーグにおいても判明しているだけでも重松通雄、古川正男が下手から投げています。

 君島一郎氏著「日本野球創世記」には、「第五章 青井鉞男とその時代」の中で、「大正七年の秋、青井はひょっこり一高校庭にやってきて、練習していた内村祐之投手(医学博士、東大名誉教授、神経研究所長、前プロ野球コミッショナー)にアップ(筆者注:アップカーブ「浮き上がるカーブ」のこと、内村は大正年間では小川正太郎と双壁のサウスポー)を投げてみろと言う。・・・(中略)・・・突然のことで内村も面喰った・・・何しろ大先輩のいうことであり取敢えずアンダースローで浮き上がるカーブを投げると、オーバースローで投げろと言う。」という記述があり、少なくとも大正中期には「下手投げ投球」が認識されていたことがうかがえます。そもそも1845年にアレキサンダー・カートライトが野球をルール化した時はピッチャーは下手からしか投げられなかったのですから、ピッチャーの元祖が「下手投げ」であり、「下手投げ投手の元祖」は理論的にはありえないということになります。




*写真は武末悉昌のサイン(昭和28年西鉄時代のものと思われます。)



12年春 ジャイアンツvsセネタース 6回戦

6月6日 (日) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 3 0 1 0    4 ジャイアンツ 24勝9敗1分 0.727 澤村栄治
1 0 0 0 0 0 0    1 セネタース  19勝13敗   0.594 浅岡三郎
       (7回コールド)
勝利投手 澤村栄治 16勝2敗
敗戦投手 浅岡三郎  4勝8敗


二塁打 (ジ)呉 (セ)浅岡
本塁打 (セ)苅田 1号


澤村栄治、雨中の快投


 既に梅雨入りしているのか全国的に雨模様、甲子園は早々と雨天中止、賀陽宮五殿下がご来場された洲崎球場は1,755人の観衆を集めて午後1時35分雨の中プレイボール。

 昨日野口明に完封されて首位タイガースとの差を1.5ゲームに広げられたジャイアンツは負けられない一戦とあってエース澤村栄治の先発。しかしセネタースは初回、澤村が投じた第1球目、先頭の苅田久徳が五殿下もビックリの先頭打者ホームランを左翼スタンドに叩き込み1点を先制。澤村はこの一発で目が覚めたかその後は7回まで2安打無四球8三振でセネタース打線を封じ込める。

 ジャイアンツは4回、先頭の筒井修死球、永澤富士雄が送り内堀保四球の一死一二塁で澤村が右前に同点タイムリーを放つ。しかもライト伊藤次郎がこれを失しする間に内堀も還り2-1と逆転。更に呉波の一ゴロで三塁に進んだ澤村がキャッチャー北浦三男の捕逸で生還して3-1。ジャイアンツは6回にもヒットと盗塁の永澤を呉の右中間二塁打で還して4-1とする。この後雨脚が強くなり7回終了で雨天コールドゲーム、澤村は16勝目をあげる。


 Wikipediaによると賀陽宮恒憲王は「野球の宮様」とも呼ばれ、昭和9年に渡米した際にはヤンキー・スタジアムで試合を観戦したとのこと。また、野球の事業化に着手したが失敗したともある。翌日の読売新聞は「畏れ多くも五殿下のあらせられるネット裏の御席まで雨滴を飛ばすさまに聯盟関係者一同いたく恐縮申し上げたが五殿下には御かまいもなく雨中に1時間余試合終了まで御熱心に御観戦遊ばされ、2時40分御帰還遊ばされた。試合中殿下はご説明申上げる富樫聯盟理事長をかえりみさせられて「職業野球はスピーディで良い。澤村投手の球は一寸大学リーグの選手には打てまい」などといろいろ専門的なご批評を賜った由で富樫聯盟理事長もいたく恐縮、聯盟関係者一同もこの光栄に大いに感激している。」と報じている。

2010年6月19日土曜日

12年春 金鯱vs名古屋 5回戦

6月5日 (土) 甲子園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 1 0 3 0 0 0 0 0 4 金鯱   13勝17敗1分 0.433 古谷倉之助
0 0 0 0 0 1 0 0 0 1 名古屋  13勝20敗    0.394 木下博喜-田中実


勝利投手 古谷倉之助 8勝7敗
敗戦投手 木下博喜   1勝4敗


二塁打 (金)古谷、瀬井
三塁打 (金)濃人


古谷倉之助、のらりくらりと奪三振ゼロで8勝目


 半ゲーム差で五位の座を争う両チームによる名古屋ダービー第5戦。金鯱は2回、一死後五番古谷倉之助が左中間に二塁打、江口行男四球、瀬井清遊失で一死満塁、相原輝夫の右犠飛で1点を先制する。更に金鯱は4回、この回先頭の古谷が四球で歩くと江口が送り瀬井の左前打で一死一三塁とする。相原の二ゴロはセカンド石丸藤吉のエラーを誘い古谷が還って2-0、二死後トップの濃人渉が左中間に三塁打して2点を追加、4-0とゲームの主導権を握る。

 古谷倉之助は相変わらずののらりくらり投法で名古屋打線を封じこむ。ようやく名古屋は6回、大沢清中前打、白木一二四球、岩田次男中前打の無死満塁から芳賀直一の中犠飛でを1点を返す。更に古谷暴投、二塁から白木が一気にホームに還るがキャッチャー相原の送球が打者三浦敏一に当たり三浦に守備妨害が宣せられて白木のホームインは認められず。

 結局名古屋の反撃もここまで、古谷は3安打5四球0三振の完投で8勝目。与四球は多く奪三振は少ないが被安打が少ない、チェンジオブペースにより打者のタイミングをかわしていくピッチングはお見事。名古屋は6回からリリーフの田中実が1安打無得点の好投を見せたが7失策と乱れて1-4で敗れ、金鯱との差は1.5ゲームに開く。

12年春 イーグルスvs大東京 4回戦

6月5日 (土) 甲子園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 2 0 0 0 0 1 3 イーグルス 6勝25敗    0.194  古川正男
2 0 0 0 0 0 2 0 X 4 大東京   11勝20敗1分 0.355 近藤久


勝利投手 近藤久   7勝9敗
敗戦投手 古川正男 1勝3敗


二塁打 (イ)佐藤、小島 (大)浅原、鬼頭


八番佐藤武夫の連日の殊勲も実らず


 大東京は初回、鬼頭数雄、藤浪光雄が連続四球、キャッチャー佐藤武夫のパスボールで無死二三塁、水谷則一の右犠飛で1点先制、浅原直人の右翼線二塁打で2-0とする。イーグルスは4回、一死後サム高橋吉雄四球、太田健一の遊ゴロでランナーが入れ替わり杉田屋守中前打、田村稔四球で二死満塁、ここで打撃好調の八番佐藤武夫が左翼線に名誉挽回の二塁打を放ち2-2の同点に追い付く。

 しかし大東京は7回、一死後近藤久が右前打、鬼頭中越え二塁打、藤浪四球で一死満塁、水谷の二ゴロは6-4-3と渡りゲーッツー、と思いきやショートサム高橋の送球が悪送球となり三走近藤に続き二走鬼頭もホームに還り4-2とする。イーグルスは最終回、内野安打で出塁した中根之を小島利男の中犠飛で還して3-4と1点差に迫るが最後はサム高橋が左飛に倒れてゲームセット、惜しい試合を落とす。

 近藤久は5安打8四球6三振の完投で7勝目をあげて景浦将、古谷倉之助、田中実と並び、ハーラー3位争いがし烈になってきた。イーグルスは5回一死一三塁、7回一死満塁のチャンスを生かせず残塁10の拙攻、ショート高橋のエラーで落とす試合が目立っており内野守備強化が待たれる。イーグルス八番打者佐藤武夫は今節3試合11打数5安打8打点、二塁打2、三塁打1。チームは全敗ながら週間MVPの有力候補である。

2010年6月18日金曜日

12年春 セネタースvsジャイアンツ 5回戦

6月5日 (土) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 1 0 0 0 2 0 0 3 セネタース  19勝12敗   0.613 野口明
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 ジャイアンツ 23勝9敗1分 0.719 前川八郎-スタルヒン


勝利投手 野口明  11勝3敗
敗戦投手 スタルヒン 5勝4敗


ジャイアンツ打線、野口明に手も足も出ず


 ジャイアンツは先発に前川八郎を起用、一方セネタースは連投でエース野口明を起用。6月2日は野口明、澤村栄治ともに完投しているだけにジャイアンツはセネタース先発は伊藤次郎と見たか。先発読み違えの時点で勝負あったと言っては言い過ぎか。

 野口明は絶好調だった春先にも見られなかったような今季最高のピッチングでジャイアンツ打線を2安打3四球1死球3三振の完封に斬って捨てる。特に2回、伊藤健太郎に与えた死球が効いた。続く内堀保は二ゴロ、永澤富士雄は二飛と完全に腰が引けてしまった。これでは野口の小気味よい外角速球とカーブは打てない。

 セネタースは3回、北浦三男が中前打で出塁、続く野口明は投前に送りバント、当りが強すぎて前川は二塁に送球、しかしこれが悪送球となり無死一二塁、野口明には犠打は記録されず(もちろん安打も記録されず)、野選ではなく前川にエラーが記録される、すなわち前川の送球が逸れなければアウトであったと判定されたもの(スコアブックには「BH」と記録されているが意味は不明)。横沢七郎が送り苅田久徳四球で一死満塁、中村信一が中犠飛を打ち上げ1点を先制、しかし野口明はタッチアップから三塁を欲張り三塁タッチアウト。スコアブックには8-3-1と記録されているので、恐らくサード水原は中村信のスクイズを警戒して前進守備をとっていたためサードベースが開いていたことから野口明は三塁に走ったのではないか。しかし内外野も守る前川八郎が素早く三塁ベースカバーに入って中継のファースト永澤富士雄からの送球を受けて野口明をタッチアウトにしたのではないか。

 ジャイアンツは5回からスタルヒンをマウンドに送るがセネタースは7回、この回先頭の大貫賢が左前打で出塁、北浦が送って野口明右前打で一死一三塁、九番横沢七が中前にはじき返して貴重な追加点。苅田二失後、中村信のショートへの内野安打で3-0とする。

 野口明は7回までジャイアンツ打線をノーヒットに抑える完璧な出来栄え、これでジャイアンツ戦は3勝負けなし。8回永澤、9回三原修に中前打を許すがジャイアンツ打線を封じ込めて今季4度目の完封で11勝目を飾る。翌日の読売新聞には「野口無類の好投」の大見出しが載る。

 首位を行くタイガースが負けないだけにジャイアンツとしては手痛い敗戦、ゲーム差は1.5に開く。
 なお、現行ルールでは先取点を取られた前川八郎が負け投手となるが、公式記録ではスタルヒンに負けが記録されている。

12年春 阪急vsタイガース 4回戦

6月5日 (土) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 2 0 0 0 0 0 2 阪急     16勝15敗   0.516 石田光彦-笠松実
0 0 0 1 0 4 0 0 X 5 タイガース 24勝7敗1分 0.774 西村幸生-若林忠志-景浦将


勝利投手 若林忠志 4勝1敗
敗戦投手 石田光彦 4勝3敗
セーブ   景浦将 2


二塁打 (タ)門前


タイガース豪華リレー


 洲崎球場に3,826人と空前の大観衆が詰めかける。69年後に経営統合することになる関西の電鉄会社同士のライバル対決。1回戦は首位攻防戦であったが約2カ月を経過して首位タイガースと四位阪急の差は7ゲームに開いた。

 意地を見せたい阪急は打線を大幅に入れ替えて黒田健吾をトップ、フランク山田伝を五番に据えて臨む。4回、本日五番に入るこの回先頭の山田伝が右前打で出塁、上田藤夫の送りバントは内野安打となり無死一二塁、宇野錦次三振、倉本信護四球、石田光彦三振の二死満塁でこの日トップに入る黒田が左前に痛烈にはじき返して二者還り2点を先制。まずは打線変更が効を奏す。

 タイガースは4回裏、藤井勇、奈良友夫連続四球から景浦将が三遊間を破り藤井が還って1-2。阪急5回の攻撃で先頭の山下実が四球に歩くとタイガースは先発の西村幸生から若林忠志にスイッチして後続を断つ。タイガースは6回、先頭の松木謙治郎が四球、一死後奈良の右翼線安打で一三塁、景浦四球、山口政信押出し四球で2-2の同点。ここで伊賀上良平が中前にタイムリーを放ち3-2と逆転して石田をマウンドから引きずり下ろす。更に代わった笠松実から門前真佐人が右翼線に二塁打を放ち2点を追加して5-2とする。

 阪急は7回、先頭のジミー堀尾文人が右翼線安打、続く山下実が左前打して無死一二塁とするとタイガースは若林に代えてライトから景浦将がおっとり刀で駆けつける。ウォーミングアップもそこそこに景浦は続く山下好一をセカンドフライ、山田伝をセンターフライ、上田藤夫をサードファウルフライに打ち取りピンチを脱する。阪急は9回、山下実が右前打を放ち最後の反撃を試みるが景浦に後続を抑えられてタイガースが5A対2で阪急を降す。

 タイガースは5安打で5点、一方阪急は10安打で2点、石田光彦が与えた7四球が命取りとなった。タイガースは西村、若林、景浦を惜しげもなく投入、充実の投手陣が首位タイガースの最大の武器となっている。

2010年6月17日木曜日

12年春 名古屋vsイーグルス 6回戦

6月2日 (水) 甲子園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
2 1 0 0 1 0 0 0 3 7 名古屋   13勝19敗  0.406 森井茂-木下博喜-田中実
1 1 1 1 0 0 0 1 0 5 イーグルス 6勝24敗  0.200 畑福俊英


勝利投手 田中実   7勝4敗
敗戦投手 畑福俊英 4勝15敗


二塁打 (名)岡本、田中 (イ)高橋
三塁打 (名)桝 (イ)佐藤


二転三転の好ゲーム


 名古屋は初回、二死から桝嘉一が中前打で出塁、この日四番に入る大沢清四球、白木一二が中前に先制タイムリーを放ち1点を先取、更に小島茂男が左翼線にタイムリーして2-0とする。イーグルスはその裏、四球の中根之をサム高橋吉雄の左翼線二塁打で還して1点を返す。名古屋は2回、森井茂左前打、岡本利三左翼線二塁打、桝の二ゴロの間に森井が還って3-1。しかしイーグルスは2回、中前打の杉田屋守がワイルドピッチで二塁に進むとこのところ当っている八番佐藤武夫が左翼線にタイムリーを放ち2-3とする。

 イーグルスは3回、中根が二塁内野安打で出塁しすかさず二盗に成功、小島利男の遊ゴロで中根は三塁へ進む。高橋が四球で出塁して一死一三塁、ここで高橋が投手牽制に釣り出され一二塁間での挟殺プレーとなるがショート芳賀直一からの送球をセカンド石丸藤吉がエラーする間に中根が還り3-3と同点に追い付く。更に4回、佐藤が右中間に三塁打を放ちチャンスを作ると寺内一隆の遊ゴロを今度は芳賀がエラーして4-3と逆転に成功。

 名古屋は5回、石丸遊失、桝四球で無死一二塁、大沢清は得意の右打ちで右前にタイムリーを放ち4-4と同点に追い付く。しかしイーグルスは8回、高橋、太田健一連続四球、桝の送りバントは内野安打となり、一死後、ラッキーボーイ佐藤武夫が押出し四球を選んで5-4と勝ち越しに成功。

 イーグルス先発の畑福俊英は久々の勝利を目指して9回のマウンドに上がる。名古屋は9回、芳賀に代わる代打服部一男四球、8回から三番手としてマウンドに上がっている田中実が左翼線に痛烈な二塁打を放ち無死二三塁、ここでリリーフがいないところがイーグルスの苦しいところ、代打岩田次男が中犠飛を打ち上げ5-5の同点、前田喜代士の遊ゴロで二死三塁、ここで石丸が左前に決勝タイムリーを放ち更に桝嘉一の右中間三塁打で7-5と逆転する。イーグルスも最終回、中根が中前打で出塁するも盗塁失敗、小島利男、サム高橋が倒れてゲームセット、六位と最下位の試合とは思えぬ二転三転の好ゲームを名古屋が制す。

 本日も好リリーフを見せた田中実が7勝目をマーク、逆に畑福俊英は澤村栄治の勝星と並ぶ15敗目を喫す。澤村と畑福の逆ハーラー争いも見もの。

12年春 大東京vs金鯱 6回戦

6月2日 (水) 甲子園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 大東京 10勝20敗1分 0.333 村田重治-桜井七之助
0 2 1 2 0 0 3 0 X 8 金鯱   12勝17敗1分 0.414 古谷倉之助


勝利投手 古谷倉之助 7勝7敗
敗戦投手 桜井七之助 0勝3敗


三塁打 (金)佐々木


古谷倉之助、のらりくらりと2安打完封


 洲崎は満員御礼であるが甲子園は下位4チームが集結とあって875人の観衆とは寂しい。

 金鯱は2回、江口行男が遊失、瀬井清が三失でもらったチャンスに相原輝夫の送りバントが内野安打となる幸運も手伝って無死満塁、佐々木常助が押出し四球を選んでまず1点、濃人渉の左犠飛で2点を先制する。3回も四球の黒澤を三塁に置いて江口が中犠飛を打ち上げて3-0。4回にも佐々木の右前ヒットを皮切りにキャッチャー悪送球と黒澤俊夫の左犠飛で2点と着々と加点して5-0とリードを広げる。
 金鯱は7回、一死後古谷倉之助投手強襲安打、江口右前打、二死後相原四球で二死満塁、ここで佐々木が右翼線に走者一掃の三塁打を放ち8-0として試合を決定付ける。

 味方打線の大量得点をバックに古谷倉之助はいつも通りのチェンジオブペースで奪三振は2個のみながらこのところ好調の大東京打線を翻弄、7四球を与えるも煤孫伝の2安打のみに抑え今季3回目の完封で7勝目をあげ、シーズン序盤は負けが込んでいた星を5分に戻す。古谷の投球術は「右版下柳流のらりくらり投法」とでも名付けましょうか。

 逆に言うと煤孫伝はノーヒットノーランを防ぐ殊勲の2安打、四番の重責を果たしている。金鯱では九番佐々木常助が3打数2安打4打点の活躍。

2010年6月16日水曜日

12年春 セネタースvsタイガース 6回戦

6月2日 (水) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 セネタース 18勝12敗   0.600 野口明
1 0 1 0 0 0 0 0 X 2 タイガース 23勝7敗1分 0.767 景浦将


勝利投手 景浦将 7勝2敗
敗戦投手 野口明 10勝3敗


二塁打 (セ)大貫

 
景浦将、野口明との投げ合いを制す


 第一試合の澤村栄治の快投に刺激されたか、第二試合では景浦将と野口明が白熱の投手戦を繰り広げた。


 セネタース初回、トップの中村信一が三失に生き尾茂田叶中前打で一死一二塁、ここで中村信が三盗を試みるとキャッチャー門前真佐人からの送球をサード伊賀上良平が逸らすという手痛いミスが出て中村信が生還して1点を先制。タイガースはその裏、藤井勇左前打、藤村富美男四球、景浦三失から山口政信が押出し四球を選んで1-1の同点とする。タイガースは3回、景浦中前、山口右前、ライトに入る御園生崇男右前と野口明に対してコンパクトな打撃を見せて三連打で満塁とし、伊賀上が汚名返上の決勝タイムリーを左前に運び2-1とする。


 点が入ったのはここまで、景浦の剛球が唸りをあげ、完全復調なった野口明が小気味よいピッチングを見せて4回以降は両軍ともにチャンスらしいチャンスもつかめず、結局タイガースが2A対1で逃げ切り首位の座をキープ。景浦は4安打1死球3三振、野口明は9安打4四球8三振。

12年春 ジャイアンツvs阪急6回戦

6月2日 (水) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 1 1 6 0 0 8 ジャイアンツ 23勝8敗1分 0.742 澤村栄治
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 阪急      16勝14敗   0.533  笠松実-中田武夫-石田光彦


勝利投手 澤村栄治 15勝2敗
敗戦投手 笠松実    4勝5敗


二塁打 (ジ)三原、中島、伊藤 (阪)山田、宇野


澤村栄治快投、大観衆を酔わす


 首位タイガースと二位ジャイアンツが半ゲーム差で競り合う白熱の熱戦を繰り広げる職業野球にもようやく人気が出てきたようで、前節の西宮球場には7,609人の観衆が押し寄せた。洲崎は1,000人を割ることが多かった(昨日は雨模様で983人)が本日は天気も快晴、上位4チームが集結とあって3,439人と洲崎球場開闢以来の大入りを記録する。

 満員の観衆に気を良くしたか本日の澤村栄治はタイガース戦のノーヒットノーラン以来の快投を見せる。すなわち、1回から3回を三者凡退4三振に抑え、4回は山下好一に初安打を許すが5回は上田藤夫、宇野錦次、倉本信護を三者三振に斬って捨てる。6回は2四球、7回、8回はそれぞれ宇野とフランク山田伝に二塁打を許すが得点は許さず、最終回は2三振で締めて結局、3安打2四球10三振、2試合連続今季6度目の完封で15勝目をあげる。

 ジャイアンツ打線は快投を続ける澤村を援護して5回、筒井修の右前打とライト山田のエラーで1点、6回も、中島治康の二塁打と伊藤健太郎の右前打で一三塁として内堀保の遊ゴロの間に1点を追加。7回には、澤村の四球に始まり筒井、内堀のタイムリー、野選、押出し四球があり、打者一巡して澤村が2点タイムリーするなど一挙6点をあげて試合を決める。
 お目当ての澤村栄治の快投に洲崎に詰めかけた大観衆も大満足の様子。

2010年6月15日火曜日

12年春 金鯱vs大東京 5回戦

6月1日 (火) 甲子園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 1 1 0 0 1 0 0 3   金鯱   11勝17敗1分 0.393 鈴木鶴雄-中山正嘉
0 1 0 2 2 1 0 1 X 7 大東京 10勝19敗1分 0.345 近藤久


勝利投手 近藤久   6勝9敗
敗戦投手 鈴木鶴雄 2勝3敗


二塁打 (金)相原 (大)筒井
三塁打 (大)浅原
本塁打 (大)煤孫 1


筒井隆雄3安打の活躍


 大東京は2回、浅原直人の右翼線三塁打と筒井隆雄の左翼線安打で1点を先制。金鯱3回、相原輝夫の右中間二塁打と濃人渉の右前タイムリーですかさず同点。更に金鯱は4回、四球で出塁した小林利蔵を三塁に置いて瀬井清が中堅左にタイムリーを放って2-1と逆転する。

 大東京は4回、浅原、筒井がヒットで出塁すると柳澤騰市の三ゴロをサード瀬井が暴投する間に二者還り3-2と逆転。更に大東京は5回、二死から水谷則一が左前打で出塁、ここで前の試合から四番に入る煤孫伝が右翼線を破り本塁まで駆け込むランニングホームラン(スコアブックの雑記欄には「場内本塁打」と記載されています)を放ち5-2と突き放す。

 大東京は6回、近藤久のスクイズが内野安打となり6-2、金鯱は7回、小林の中犠飛で一点返し3-6とするが大東京は8回にも近藤のタイムリーで1点を加え7-3で快勝、近藤久は9安打6四球を許しながらも要所を締めて完投で6勝目を飾る。金鯱は併殺が2個あり11残塁の拙攻。金鯱の9回の攻撃は代打の古谷倉之助が右前ヒット、しかし濃人の一塁ライナーに古谷は帰れずダブルプレー、そこから江口行男四球、島秀之助右前打、小林四球で満塁として一発出れば同点のチャンスを作るがこの前2試合で7打数6安打と猛打を振った黒澤俊夫は左飛に倒れてゲームセット、本日のちぐはぐな攻撃ぶりを象徴する最後であった。

12年春 イーグルスvs名古屋 5回戦

6月1日 (火) 甲子園


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 2 0 5 0 0 0 0 4 11 イーグルス 6勝23敗 0.207 松本操-大石綱
0 7 0 0 2 0 0 4 X 13 名古屋   12勝19敗 0.387 木下博喜-田中実


勝利投手 田中実 6勝4敗
敗戦投手 大石綱 0勝3敗


二塁打 (イ)佐藤、高橋
三塁打 (イ)金井 (名)木下


イーグルス粘るも及ばず


 イーグルスは2回、サム高橋吉雄が左前打、金井清内野安打で二死一二塁、ここで八番佐藤武夫が三塁線に二塁打を放ち2点を先制。しかし名古屋は2回裏、大沢清四球、前田喜代士左前打で一死一二塁、こちらも八番木下博喜が左越えに三塁打を放ち2-2の同点。岡本利三が中前打で続き3-2、二死後石丸藤吉中前打、桝嘉一四球で二死満塁、岩田次男の遊ゴロをショート高橋が大きくはじいて白球が右中間を転々とする間に三者が還り6-2、岩田もワイルドピッチで還りこの回一挙7点。

 あきらめないイーグルスは4回、金井が左中間に三塁打、三塁への返球をサード大沢清が逸らす間に一挙ホームを陥れてまず1点、記録は三塁打とエラー。2四球1死球で満塁とし、サム高橋が汚名返上の二塁打を放ち5-7、代わった田中実から太田健一が中前に2点タイムリーして7-7の同点に追い付く。

 しかし名古屋は5回、桝、岩田が四球で出塁し内野安打の間に二死二三塁、芳賀直一の遊直を又も高橋が大きくはじく間に二者還り9-7。更に8回、一死後7回から岡本に代わりマスクを被る鈴木秀雄が四球で出塁、志手清彦に代わる代打服部一男の遊ゴロは高橋の野選を誘い一死一二塁、石丸四球から桝の右前打で10-7、大沢清が押出し四球を選んで11-7、白木一二が中堅右に2点タイムリーを放ちこの回4点、13-7と突き放す。

 しかしイーグルスは粘る。最終回、タイガース松木謙治郎と首位打者を争う中根之が中前にはじき返して出塁、小島利男左前打、サム高橋四球で無死満塁、太田の中犠飛で8-13、二死後金井の中前打で9-13、金井はセンターのエラーで二塁へ進み二死二三塁、佐藤がこの日2本目の2点タイムリーを左前に放ち11-13、しかし反撃もここまで、最後は代打に畑福俊英を起用して一発に賭けるが畑福は遊飛に倒れてゲームセットのサイレンが鳴り響く。
 
 イーグルスは打撃重視のためか杉田屋守をサードに起用している。ショートサム高橋吉雄、セカンド小島利男の布陣が機能すればダントツ最下位の位置にいるはずがない。しかし現実は本日の高橋の守備のようなことが起こっている。これが二度目の指摘となるが、杉田屋守をセンターに戻し内野守備を固めるべきである。試合ぶりには粘りが出てきており、ひと工夫すれば現在の位置から抜け出せるのではないか。試合の得点は13対11であったが、名古屋の打点は7で、イーグルスの打点は10である。

2010年6月14日月曜日

12年春 阪急vsジャイアンツ 5回戦

6月1日 (火) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 0 0 0 0 0 4 0 4 阪急      16勝13敗    0.552 石田光彦
0 0 1 3 0 0 0 1 X 5 ジャイアンツ 22勝8敗1分 0.733 スタルヒン


勝利投手 スタルヒン 5勝3敗
敗戦投手 石田光彦  4勝2敗


二塁打 (阪)上田
三塁打 (ジ)永澤
本塁打 (阪)堀尾 2 (ジ)伊藤 1


スタルヒン大和魂を発揮


 ジャイアンツは昨日不可解な投球に終わったスタルヒンが先発。7回まで阪急打線を3安打無得点に抑える力投。打ってもスタルヒンは3回、右中間三塁打の永澤富士雄を三塁に置いて中前に執念のタイムリーを放ち1点を先制。ジャイアンツは4回もヒットの三原脩、中島治康を置いて伊藤健太郎が左翼スタンドにスリーランホームランを放ちスタルヒンを援護する。

 粘る阪急は8回、西村正夫に代わる代打フランク山田伝が四球、黒田健吾三塁線安打、山下好一の遊ゴロを白石敏男の欠場によりショートに入っている筒井修がエラー、この間に山田が快足を飛ばしてホームを駆け抜け1点、更に二者を置いてジミー堀尾文人が左翼スタンドにスリーランホームランを放ち4-4と同点に追い付く。

 しかし本日のスタルヒンは粘りを見せて続く宇野錦次は三ゴロに打ち取り味方の反撃を待つ。すると8回裏、二死からヒットで出た水原茂が盗塁、伊藤の三ゴロをサード黒田が一塁悪送球する間に水原が還り5-4と1点リード。スタルヒンは9回の阪急の攻撃を代打宮武三郎のヒット1本に抑えて完投勝ち。
 
 昨日のようにまだまだ精神的な甘さも見せるスタルヒンではあるが、本日は味方のエラーの直後に堀尾に同点ホームランを喫しながらも粘りのピッチング、大和魂を発揮して5勝目をあげる。いつまでも澤村頼みではジャイアンツに将来はない。スタルヒンの一本立ちこそ望まれるところである。

12年春 タイガースvsセネタース 5回戦

6月1日 (火) 洲崎


1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
4 1 1 0 0 0 0 1 2 9 タイガース  22勝7敗1分 0.759 御園生崇男
0 0 0 0 0 0 0 1 0 1 セネタース 18勝11敗    0.621 伊藤次郎-浅岡三郎


勝利投手 御園生崇男 6勝1敗
敗戦投手 浅岡三郎   4勝7敗


二塁打 (タ)藤村3、御園生2、門前
三塁打 (タ)伊賀上、御園生


御園生崇男投打に爆発


 タイガースは初回、藤井勇、藤村富美男連続四球、景浦将中前打の一死満塁から山口政信の左前タイムリーで2点を先制、更に伊賀上良平の右中間三塁打で2点を追加して4-0として早くもセネタース先発の伊藤次郎をKO、浅岡三郎がリリーフで登板。タイガースは2回も藤井四球、藤村右越え二塁打、景浦四球の一死満塁から山口の二ゴロの間に1点追加。3回もヒットの門前真佐人を御園生崇男の二塁打で還して6-0とリードを広げる。

 タイガースは8回にも藤村の右翼線二塁打で1点追加、その裏セネタースは北浦三男の中犠飛で1点返すがタイガースは9回にも門前、御園生の連続タイムリー二塁打で2点を追加して9-1で快勝。

 御園生崇男は打っては5打数4安打、二塁打2本、三塁打1本、投げては4安打2四球、4三振の完投で6勝目をあげる。藤村富美男も4打数4安打、二塁打3本の活躍。
 セネタースは2強を追いたいところであるが、野口明以外では通用しないか。

12年春 第10節 週間MVP

第三期最初の節は天候不順のため中止が相次ぎ、ジャイアンツ、タイガース、大東京、名古屋が4試合、セネタース、阪急、金鯱、イーグルスが2試合という変則開催となった。


週間MVP

 セネタース 野口明 3

 今節2戦2勝、2完投うち1完封と完全復活を果たし3度目の受賞。

 タイガース 景浦将 1

 打撃部門で1度受賞しているが、今節は3試合にライトからリリーフ登板して2勝1セーブ無失点で投手部門として初受賞。


 タイガース 松木謙治郎 2

 澤村から放った決勝スリーランで2度目の受賞。



殊勲賞

 イーグルス 松本操 1

 チームを8連敗でストップさせる完投勝利。


敢闘賞

 大東京 菊矢吉男 1

 タイガースから移籍後初勝利を完投で飾る。

技能賞

 金鯱 黒澤俊夫 2

 2試合で7打数6安打の活躍。

2010年6月13日日曜日

衝撃のデビュー

 2010年6月8日、ワシントン・ナショナルズのスティーブン・ストラスバーグが7回14三振という衝撃的デビューを飾りました。そこで、緊急特別企画として、当ブログ的衝撃的デビュー史をお伝えいたします。

① スクールボーイ・ロウ
 大リーグ史における衝撃的デビュー第1号と言えば、1934年、デトロイト・タイガースに彗星のごとく登場したスクールボーイ・ロウ(ローと記載されることもあります)を指します。当時の記録を破る16連勝を達成し、全盛期のニューヨーク・ヤンキース(この年ルー・ゲーリッグは三冠王)を倒してアメリカン・リーグチャンピオンとなる原動力となりました。日本でいえばルーキーシーズンの堀内をイメージすればよいかと思います。

 昭和9(1934)年の秋、京都商業を中退したばかりの澤村栄治が草薙でベーブ・ルース、ルー・ゲーリッグ、ジミー・フォックス、チャーリー・ゲーリンジャーから四連続三振を奪ったニュースは瞬時にアメリカに打電され、澤村に「スクールボーイ」のニックネームが付けられましたが、これはこの年にスクールボーイ・ロウの衝撃的デビューがあったばかりだったことに起因しております。現在当ブログでは澤村の全盛期に該当する昭和12年春季リーグ戦の模様を実況中継しているわけですから、当ブログとも因縁浅からぬ仲と言えるでしょう。

*写真は少年ファンにサインをするスクールボーイ・ロウの写真にスクールボーイ・ロウがサインをいれたもの。スクールボーイ・ロウのサインは日本ではちょっと珍しいかも。






② ボブ・フェラー
 「火の玉投手」の異名を持つ伝説の快速球投手。晩年はスライダーを駆使したことから「スライダーの元祖」とも呼ばれますが、スライダーを開発したわけではないと思います。日本でも藤本英雄が「スライダーの元祖」と呼ばれていますが、昭和12年時点においても西村幸生や北井正雄が投げていた十字架球は現在のスライダーと考えられており、藤本が開発したわけではないようです。

 1936年、クリーブランド・インディアンスでデビューした時は17歳、いきなり17三振の記録を作り衝撃的デビューを飾りました。因みにストラスバーグの最速は今のところ103マイルのようですが、ボブ・フェラーは104マイルとも言われています。 

*ボブ・フェラーは現在も存命であり、サインを書きまくっています。




③ バイダ・ブルー
 1971年、24勝をあげてMVPとサイ・ヤング賞をダブル受賞して衝撃的デビューを飾りました。この活躍は遠く日本でも伝えられ、私が大リーグに興味を持つきっかけとなりました。スペルからみるとヴァイダ・ブルーが正確であり、実際のデビューは1969年であり、1970年秋にはノーヒット・ノーランもやっているわけですが、大きく花開いた1971年こそが衝撃的デビューの年であったと思いますし、当時、日本の中学1年生が目にできるほどのニュースとして伝えられたのは間違いなく1971年のことでした。

 オークランド・アスレチックスは1972年から74年まで3年連続ワールドシリーズを制覇しますが、ワールドシリーズではバイダ・ブルーはリリーフで活躍していた印象が強く、残念ながらワールドシリーズでは勝利投手となることはありませんでした。

 当ブログでもよく引用させていただいている松木謙治郎氏著「タイガースのおいたち」にもバイダ・ブルーが登場します。松木氏が昭和6年にレフティ・グローブと対戦した時のことに触れている場面で「先年米球界に突如として現れ、22勝8敗(筆者注:24勝と勘違いか)の好成績でMVPに選ばれた黒人の左腕投手バイダ・ブルーが、このグローブの再来だといわれる。」と記述されております。同著の第1版は1973年3月ですから松木氏が原稿を書いていたのは1971年から72年と考えられます。プロの評論家の耳にも1971年の活躍が衝撃的デビューとして届いていた様子がうかがえます。

*写真はバイダ・ブルーのサインボール。



④ ドワイト・グッデン
 1984年、19歳で衝撃的デビューを飾り翌85年にサイ・ヤング賞を受賞。「ドクターK」と呼ばれ、シェイ・スタジアムではグッデンが三振を取るたびに「Kボード」が掲げられるのが名物となりました。現在、世界中でKボードが見られますがその元祖こそがドワイト・グッデンです。ストレートの伸びもさることながら、落差の大きいカーブが最大の魅力であり、私がリアルタイムで見たピッチャーの中で最も澤村栄治とイメージが似ているピッチャーだと思います(日本では全盛期の権藤博が最も似ていると言われておりますが残念ながらリアルタイムでは見ておりません。)。

 1986年のオールスターゲームの先発投手はアメリカン・リーグがボストン・レッドソックスのロジャー・クレメンス(この年20三振を記録して実質的衝撃的デビューを飾る)、ナショナル・リーグがニューヨーク・メッツのドワイト・グッデンということで大いに盛り上がり、日本でもフジテレビ(解説が堀内氏なので日本テレビかもしれません)で中継され、当時録画したビデオテープは今でも鮮明に再生することができます。

 なお、ロジャー・クレメンスについては最初の20三振をやった1986年が実質的デビューではありますが実際は3年目であり、また、当時からずっとクレメンスよりグッデンが上と言い続けてきた手前もあり本日の列伝からは除かせていただきます。

*写真は1986年オールスターゲームの日本での中継を録画したビデオ。マドンナ東京公演と千代の富士vs北尾戦も一緒に入っています。




⑤ ジョナサン・パペルボン
 当時のスカパーの放映で2006年春初めて見た瞬間にロジャー・クレメンスの再来と一人大騒ぎ状態に陥りました。現在メジャー最高のクローザーであることに疑いをはさむ余地はありません。松坂大輔も何回助けられたことか。

*写真は2006年5月11日にヤンキースタジアムのマウンドで実際に使用されていたピッチャープレートにパペルボンがサインを入れたもの。旧ヤンキースタジアムのピッチャープレートは定期的に交換され、使用済みプレートはMLB公式ルートを通じて市販されております。当時のプレートを購入したボストンのメモラビア業者がトライスター社と共同でパペルボンの公式サイニング会を開催し、パペルボンにサインを入れてもらったものを入手したものです。この日はパペルボンがヤンキース戦で初セーブをあげたゲームであり、偶然にも松井がレフトで捕球の際に手首を骨折した試合でもあります。サインボールはこの試合で実際に使用された公式球にパペルボンがサインを入れたもの。パペルボンは現在は省略形のサインしか書きませんので貴重な一品となりました。















⑥ ティム・リンスカム
 初めて見たのは2008年のスカパーの放映。2007年にも投げていたことは後から知りました。ボブ・フェラーの再来とも、左と右の違いがありながらもサンディ・コーファックスの再来とも言われております。初めて見たときにはボブ・フェラーやサンディ・コーファックスと比較されているという噂は耳にしておりましたが、一目見て惚れ込みました。いわゆる正統派のストレートとカーブにチェンジアップを交えた投球で三振の山を築きます。現役投手では最も澤村栄治に近い存在であると思っております。


*リンスカムのサインはカードしか持っておりません。