2013年2月28日木曜日

15年 イーグルスvsセネタース 9回戦 満州リーグ


8月22日 (木) 新京 児玉公園球場

1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
1 0 0 0 0 0 1 0 0 2 イーグルス 34勝33敗4分 0.507 長谷川重一 中河美芳
0 1 0 1 1 2 0 0 X 5 セネタース 38勝24敗9分 0.613 野口二郎

勝利投手 野口二郎  24勝8敗
敗戦投手 長谷川重一 9勝6敗

二塁打 (セ)村松

勝利打点 村松長太郎 1


野口二郎24勝目

 セネタースは昭和11年シーズン後兵役に就いて4年ぶりに帰還復帰してきた高橋輝彦が復帰後初スタメンで五番サードに入る。

 イーグルスは初回、先頭の岡田福吉が左前打で出塁、二死後中河美芳の二ゴロを名手苅田久徳がエラーして二死一三塁、ここでダブルスチールを決めて1点を先制する。

 セネタースは2回、先頭の柳鶴震がピッチャー強襲ヒット、小島二男の左前打で無死一二塁、石井豊の投ゴロで二走柳は三封、織辺由三の二ゴロで一走石井が二封されて二死一三塁、トップに返り苅田が四球を選んで二死満塁、村松長太郎が押出し四球を選んで1-1の同点とする。

 セネタースは4回、一死後石井豊が左前打で出塁、織辺由三の投ゴロをピッチャー長谷川重一が二塁に送球するがセカンド岡田福吉が落球して一死一二塁、トップに返り苅田の三前セーフティバントが犠打となって二死二三塁、村松のショートへの内野安打で石井が還り2-1と勝ち越す。

 セネタースは5回、一死後高橋輝彦が右翼線にヒット、柳鶴震の三ゴロの間に高橋は二進、小島の遊ゴロをショート山田潔が失して二死一三塁、石井が左前にタイムリーを放って3-1とする。

 セネタースは6回、先頭の苅田が左前打、村松が右中間に二塁打を放って無死二三塁、野口二郎の右犠飛で4-1、ワイルドピッチで村松は三進、小林茂太は四球を選んで二死一三塁、6回表の守備から高橋に代わってサードに入っている横沢七郎が右前にタイムリーを放って5-1と突き放す。

 イーグルスは7回、先頭の谷義夫が右前打、長谷川も右前打、竹内功は三振に倒れるが清家忠太郎が中前打を放って一死満塁、山田の中犠飛で2-5とするがここまで。

 野口二郎は7安打2四球5三振の完投で24勝目をあげる。翌日の満州日日新聞によると「球速に幾分持前のスピードを欠いているが鋭く切れ込むカーブ、外角をかすめる直球のコントロール程よく」とのこと。

 その野口を助けたのは4打数3安打1得点2打点の村松長太郎であった。野口と村松は昭和12年の第14回センバツ決勝で中京商業、浪華商業のエースとして投げ合い村松が投げ勝って優勝している。野口にとって甲子園で唯一の黒星であった。プロではセネタースで同僚となり村松は外野手に転向している。


 4年ぶりの復帰となった高橋輝彦は19日の阪急戦で途中出場して2打数2安打、本日は五番に起用されて3打数1安打で6回から横沢七郎と交代した。未だ体力回復とはなっていないようであるが、“百万ドル内野”の一角が復活した。








            *野口二郎は7安打2四球5三振の完投で24勝目をあげる。












     *高橋輝彦がスタメン五番で復帰したセネタース打線。









 

2013年2月26日火曜日

15年 南海vs金鯱 9回戦 満州リーグ


8月22日 (木) 新京 児玉公園球場

1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
3 0 0 0 0 1 1 2 1 8 南海 19勝47敗5分 0.288 政野岩夫 清水秀雄
0 0 2 1 0 0 0 1 0 4 金鯱 18勝47敗7分 0.277 古谷倉之助 中山正嘉 長尾貞利

勝利投手 清水秀雄    9勝15敗
敗戦投手 中山正嘉 11勝23敗

二塁打 (南)岡村2、木村、吉川

勝利打点 上田良夫 1


失敗は成功のもと

 ここまで金鯱が18勝46敗で勝率2割8分1厘、南海が18勝47敗で勝率2割7分7厘、半ゲーム差で七位争いを繰り広げる両チームによる決戦。

 南海は初回、先頭の岩出清が中前打で出塁、藤戸逸郎も左翼線にヒットで続いて無死一二塁、岡村俊昭の一ゴロの間に二者進塁して一死二三塁、吉川義次が四球を選んで無死満塁、国久松一が右前に2点タイムリー、ライト室脇正信がこの打球を逸らす間に一走吉川もホームに還って3-0とする。

 金鯱は3回、先頭の漆原進が中前打、トップに返り五味も中前打、佐々木常助が三前に送りバントを決めて一死二三塁、濃人渉が右前に2点タイムリーを放って2-3とする。

 金鯱は4回から先発の古谷倉之助をファーストに回して中山正嘉をリリーフに送る。

 金鯱は4回裏、二死後中山が左前打で出塁、漆原進の左前打をレフト木村勉が逸らす間に中山は三塁に進みホームを狙う。木村からの返球を中継したショート上田良夫のバックホームが悪送球、ダブルエラーとなって一走中山が還って3-3の同点とする。

 南海は6回、二死後木村が左中間に二塁打、上田が中前にタイムリーを放って4-3と勝ち越す。この1点が決勝点となって上田には勝利打点が記録される。4回にダブルエラーを犯して同点に追い付かれた木村と上田で決勝点を奪った。

 勝ち越した南海は6回から先発の政野岩夫に代えて清水秀雄をマウンドに送る。

 南海は7回、二死後吉川が右中間に二塁打、国久松一は四球を選んで二死一二塁、木村が左前にタイムリーを放って5-3とする。

 南海は8回、二死後岩本義行が右前打、藤戸が中前打で続いて二死一二塁、岡村が左翼線に2点タイムリー二塁打を放って7-3と突き放す。

 金鯱は8回裏、古谷、室脇が連続四球、松元三彦の左前打で無死満塁、中山の左犠飛で4-7とする。二走室脇もタッチアップからスタートを切るが、レフト木村からの返球をカットしたピッチャー清水が二塁に送球して室脇はタッチアウト、珍しく犠打と併殺が記録された。

 南海は9回、先頭の国久が死球を受けパスボールで二進、木村は遊直に倒れるが、上田が右前にこの日2本目となるタイムリーを放って8-4として試合を決める。


 南海先発の政野岩夫は5回を投げて6回表に味方が勝ち越し、6回裏から清水秀雄が登板して逃げ切っているので現行ルールであれば政野に勝利投手が記録されて清水にセーブが記録されるところであるが、公式記録では清水に勝利投手が記録されている。


 3回にダブルエラーを犯して同点に追い付かれた木村勉と上田良夫がミスをカバーして余りある活躍を見せた。失敗をバネにして次のステップにつなげる、現代のビジネス社会でも通用する教訓です。








     *3回の守備でダブルエラーを犯した木村勉と上田良夫が活躍した南海打線。






























 

2013年2月25日月曜日

15年 ジャイアンツvsタイガース 9回戦 満州リーグ


8月22日 (木) 大連 満倶球場

1 2 3 4 5 6 7 8 9  計
0 0 0 0 1 0 1 0 0  2 ジャイアンツ 52勝20敗 0.722 スタルヒン
0 0 0 0 0 0 0 0 0  0 タイガース    41勝27敗3分 0.603 若林忠志

勝利投手 スタルヒン 25勝11敗
敗戦投手 若林忠志  14勝12敗

二塁打 (ジ)川上、スタルヒン2 (タ)本堂、松木

勝利打点 スタルヒン 2


スタルヒン攻守に殊勲

 伝統の一戦はスタルヒンと若林忠志の対決となった。8月3日の大連での試合では三輪八郎がノーヒットノーランをやっている。

 翌日の満州日日新聞は「若林の巧緻な投球、スタルヒンの剛球は相対して3回まで無為に進んだ」と伝えている。すなわち、3回まで両軍3人ずつで凡退した。タイガースは全て三者凡退、ジャイアンツは2回二死後白石敏男が四球で出塁したが二盗失敗であった。

 ジャイアンツは4回、二死後千葉茂の遊ゴロをショート皆川定之がエラー、翌日の満州日日新聞によると「緩ゴロ」ということなので難しい当りだったのでしょう。川上哲治が左翼線に二塁打を放って二死二三塁、若林はここで中島治康を敬遠、白石は投ゴロに倒れる。

 タイガースは4回裏、二死後本堂保次が左中間に二塁打を放つがカイザー田中義雄は三振に倒れる。

 ジャイアンツは5回、一死後吉原正喜が死球を受けて出塁、スタルヒンが右中間に先制のタイムリー二塁打を放って1-0とする。

 タイガースは5回裏、一死後松木謙治郎が左翼線に二塁打、若林の二ゴロが進塁打となって二死三塁、しかし森国五郎は投ゴロに倒れてスリーアウトチェンジ。満州リーグで4つの勝利打点を記録している森の神通力も通用しなかった。

 ジャイアンツは7回、一死後平山菊二が右前打で出塁、吉原の一ゴロが進塁打となって二死二塁、ここでスタルヒンが再び右翼線にタイムリー二塁打を放って2-0とする。

 タイガースは最終回、先頭のジミー堀尾文人は中飛に倒れるが皆川が四球を選んで出塁、本堂が死球を受けて一死一二塁、ジャイアンツ藤本定雄監督はここでファーストを川上哲治から永澤富士雄に交代、これは守備固めというよりスタルヒンに一息入れさせることが目的でしょう。これで落ち着いたスタルヒンは田中を右飛、伊賀上良平を遊ゴロに打ち取り、大連の空にゲームセットを告げるサイレンが高々と鳴り響く。

 スタルヒンは2安打1四球1死球2三振で今季11度目の完封、25勝目をあげる。打っても3打数2安打2打点、二塁打2本、全得点を叩き出す獅子奮迅の活躍であった。スタルヒンは第一打席は二飛、第二打席と第三打席で右方向へ二塁打、若林のコーナーを突いてくる投球を逆らわずに打ち返している。


 第一試合の鬼頭数雄は石田光彦にノーヒットノーランをやられているので当然のことながら3打数無安打で今季通算273打数89安打3割2分6厘0毛、この時点で川上哲治は264打数86安打3割2分5厘8毛と、2毛差で鬼頭が首位打者をキープ、第二試合の川上は4打数1安打で今季通算268打数87安打3割2分4厘6毛と少し差が開いた。ミクロの決死圏での闘いはまだまだ続く。







               *スタルヒンは若林忠志に投げ勝って25勝目をあげる。























 

NO-HITTERS



 石田光彦が自身2度目のノーヒットノーランを記録しました。昭和11年以降のプロ野球ではこれが記念すべき10回目のノーヒットノーランとなります。2012年にBBM社から発行されたNO-HITTERSベースボールカードを眺めながら10回のノーヒットノーランを振り返ってみましょう。

 
 第1号は昭和11年9月25日のタイガース戦で澤村栄治が達成しました。当ブログが所有しているスコアブックは昭和12年以降なのでこの試合だけ実況中継できておりません。ということで、昭和11年10月15日発行「日本職業野球聯盟広報」第七号の画像もアップさせていただます。山本栄一郎が決勝タイムリーを放って勝利打点を記録しています。この画像が公開されるのは史上初めてのことでしょう。当ブログが所有している「聯盟広報(聯盟ニュース)」は鈴木惣太郎が所有していたものです。








 第2号も昭和12年5月1日の澤村栄治でした。



 
 
 
 
 
 第3号は昭和12年7月3日のスタルヒンです。通算最多完封勝利83試合の日本記録を持つスタルヒン唯一の無安打無得点でした。
 
 

 
 
 
 
 第4号は昭和12年7月16日の石田光彦でした。体型、フォームからも切れ味鋭いピッチングが想像できます。
 
 
 
 
 
 
 
 第5号は昭和14年11月3日の中尾輝三でした。この試合では10四球を与えています。
 
 
 
 
 
 
 第6号が昭和15年3月18日の亀田忠です。体型からも剛球がイメージできます。中尾には及びませんが9四球を与えています。
 
 
 
 
 
 
 
 第7号は昭和15年4月14日の浅野勝三郎でした。四球1個の準完全試合でした。
 
 
 
 
 
 
 第8号は昭和15年7月6日の自身3度目となる澤村栄治です。兵役から復帰して10キロ太った澤村が技巧派に転向して成し遂げた快挙でした。
 
 
 
 
 
 
 
 第9号が昭和15年8月3日の三輪八郎となります。タイガースは澤村に2度やられていましたので、ようやく雪辱を果たしました。満州リーグ初の快挙でした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 第10号が昭和15年8月22日の自身2度目となる石田光彦です。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

2013年2月24日日曜日

15年 阪急vsライオン 9回戦 満州リーグ


8月22日 (木) 大連 満倶球場

1 2 3 4 5 6 7 8 9  計
4 0 0 0 3 0 2 0 0  9 阪急      41勝25敗5分 0.621 石田光彦
0 0 0 0 0 0 0 0 0  0 ライオン 17勝50敗4分 0.254 福士勇 山本尚敏

勝利投手 石田光彦 11勝8敗
敗戦投手 福士勇       7勝15敗

二塁打 (阪)石田
三塁打 (阪)中島、上田、田中

勝利打点 上田藤夫 5


石田光彦、2度目のノーヒットノーラン

 阪急は初回、先頭の中島喬が右中間に三塁打、続く上田藤夫も右中間に三塁打を放って1点を先制、フランク山田伝が三前にセーフティバントを決めて上田が還り2-0、山下好一は右邪飛、井野川利春は左飛に倒れるが黒田健吾の中前打で二死一二塁、新富卯三郎の遊飛をショート前田諭治が落球する間に二走山田が快足を飛ばしてホームに還り3-0、一走黒田も三塁に進み、田中幸男の右前タイムリーで4-0とする。

 阪急は5回、一死後黒田が四球で出塁、新富の中前打で一死一二塁、田中が右中間に三塁打を放って6-0、石田の遊飛を3回からショートに入っている加地健三郎が落球する間に田中が還って7-0とする。

 ライオンは6回から先発の福士勇に代えて山本尚敏をマウンドに送る。

 阪急は7回、先頭の田中が本日4本目のヒットを右前に放ち、石田の左中間二塁打で田中が還って8-0、トップに返り中島喬は投ゴロに倒れるが上田の中前打で一死一三塁、山田の二ゴロの間に三走石田が還って9-0とする。


 田中幸男が5打数5安打2得点3打点、三塁打1本の活躍を見せた。本来であれば“田中デー”となるところであるが、本日の主役は石田光彦に譲らねばならない。


 阪急先発の石田光彦は大量援護を背に初回から快調に飛ばした。2回は二死後鬼頭政一に四球を与えるが広田修三を三振に打ち取る。3回は一死後加地健三郎に四球を与え、坪内道則の三ゴロをサード黒田がエラーして一死一二塁のピンチを迎えたが井筒研一、玉腰年男を連続中飛に打ち取りセンター山田がポケットキャッチ。4回からが圧巻で8回まで一人の走者も出さずパーフェクトピッチング。9回、先頭の坪内を捕邪飛、井筒に代わる代打近藤久を遊ゴロに打ち取る。玉腰に四球、続く鬼頭数雄にも四球を与えて二死一二塁とするが最後は渾身のピッチングで戸川信夫を三振に打ち取りノーヒットノーランを達成する。

 石田光彦は4四球6三振で昭和12年7月16日のセネタース戦以来、自身2度目の無安打無得点を記録した。石田はこれで5試合連続完投勝利で満州リーグでは5勝0敗。投手部門のMVPをスタルヒンと争うこととなる。










        *石田光彦は4四球6三振で自身2度目のノーヒットノーランを達成する。










                 *2012年に発行された「NO-HITTERS」カード。







          *1940年8月22日のライオン戦、大連 満倶球場と書かれています。













     *田中幸男が5打数5安打を記録して大量得点で石田を援護した阪急打線。















 

帯同試合 ③



 8月20日に哈爾濱(ハルビン)八區球場と撫順永安豪球場で帯同試合が行われました。


 満州リーグにおける帯同試合は二氏審判制で行われている。12日の安東帯同試合、13日の撫順帯同試合、15日の吉林帯同試合は何れも金政卯一、川久保喜一の両氏審判で行われた。満州日日新聞には安東と吉林では主審金政卯一、塁審川久保喜一の組合せと書かれていますが、撫順では組合せが書かれていませんので分かりません。


 哈爾濱・八區球場ではセネタースvs名古屋戦が午後4時25分に試合開始。主審は倉信雄、塁審は川久保喜一の両氏審判で行われた。名古屋は河村章が先発して延長10回を完投。セネタースは小林茂太が先発、5回を1点に抑えて6回から西岡義晴が登板して延長戦まで粘ったが10回裏に桝嘉一にサヨナラヒットを打たれ、名古屋が3A対2がセネタースを降した。セネタースはエース野口二郎が肩に故障を抱えて台所事情が苦しいとあって野手二人がマウンドに上がった。


 撫順・永安豪球場ではジャイアンツvs阪急戦が午後5時ちょうどに試合開始。杉村正一郎、金政卯一の両氏審判で行われたが組合せが書かれていないのでどちらが球審を務めたかは不明です。ジャイアンツは泉田喜義が先発したが初回、中島喬が四球、田中幸男、フランク山田伝が連打、森田定雄が四球、日比野武がヒットで阪急が2点を先制。2回から中尾輝三が登板して8回まで無失点に抑えた。阪急は浅野勝三郎が先発して完封、2A対0で阪急がジャイアンツを降した。


 帯同試合はスコアブックが残されていませんので満州日日新聞の記事に従ってお伝えしております






 

2013年2月23日土曜日

15年 ジャイアンツvsライオン 9回戦 満州リーグ


8月21日 (水) 大連 満倶球場

1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
5 0 0 0 0 0 0 0 1 6 ジャイアンツ 51勝20敗 0.718 澤村栄治
0 0 0 1 0 0 0 0 0 1 ライオン       17勝49敗4分 0.258 山本尚敏 井筒研一

勝利投手 澤村栄治 7勝0敗
敗戦投手 山本尚敏 0勝2敗

二塁打 (ジ)川上2、白石2、呉
三塁打 (ジ)呉、川上 (ラ)戸川

勝利打点 川上哲治 13


ミクロの決死圏

 今季バットマンレースでミクロの争いを演じていく鬼頭数雄と川上哲治による直接対決。

 ジャイアンツは初回、先頭の呉波がセンター左奥に三塁打、水原茂は三ゴロに倒れるが川上哲治がセンター右奥に二塁打を放って1点を先制、中島治康は中飛に倒れるが、千葉茂が左前にタイムリーを放ち2-0、白石敏男の左翼線二塁打で二死二三塁、平山菊二の三ゴロをサード松岡甲二が一塁に高投する間に千葉と白石が還って4-0、平山は二塁に進んで二死二塁、吉原正喜が左前にタイムリーを放って5-0、更に澤村栄治も中前打を放って二死一二塁、ライオンベンチはここで先発の山本尚敏に代えて井筒研一をマウンドに送り、トップに返り呉が遊ゴロに倒れてスリーアウトチェンジ。

 ライオンは4回、一死後玉腰年男が四球で出塁、鬼頭数雄は左邪飛に倒れるが戸川信夫が右中間に三塁打を放って1-5とする。

 ジャイアンツは9回、先頭の吉原が中前打、澤村も右前打で続いて無死一三塁、トップに返り呉は浅い右飛に倒れて一死一三塁、水原の右飛をライト村上重夫が落球して6-1とする。

 澤村栄治は3安打2四球2三振の完投で無傷の7連勝を飾る。翌日の満州日日新聞によるとこの日の澤村はストレートで押していたようである。それにしては三振は2個だけであった。左飛が6個、中飛が4個、右飛が4個でジャイアンツ外野陣は14個の刺殺を記録している。澤村の球質は「軽い」と言われているが、矢張りスピードが落ちており外野に運ばれているようである。


 川上哲治が5打数3安打二塁打2本、三塁打1本を記録して、夏季シリーズ147打数50安打、3割4分で首位打者の座をキープ。満州リーグで調子を落としている鬼頭数雄は4打数1安打で夏季シリーズ147打数45安打、3割6厘で二位となっている。今季通算では鬼頭が270打数89安打、3割2分9厘6毛で首位打者の座をキープ、川上は264打数86安打、3割2分5厘8毛と迫ってきた。いよいよミクロの決死圏に突入しました。


 「ミクロの決死圏」はSF・サスペンス映画ですが原題「Fantastic Voyage」がこの作品の本質を表しています。襲撃された東側科学者の生命を助けるため、1時間の縮小技術しか開発できていない西側陣営が東側科学者の体内に縮小した潜水艇を潜り込ませるサスペンスですが、幻想的な映像でアカデミー美術賞と視覚効果賞を受賞しています。ラクウェル・ウェルチの豊満な体に心ときめかせた方も多かったのではないでしょうか。主役のスティーブン・ボイドは「ベン・ハー」ではチャールトン・ヘストン演じるベン・ハーのライバルでした。スパイ役のドナルド・プレザンスは「大脱走」では書類偽造技術で活躍しています。細かな作業の連続で視力を失いますが、相棒のジェームス・ガーナー演じる資材調達係と大脱走することとなります。「刑事コロンボ」で最高傑作と言われている「別れのワイン」の犯人役もドナルド・プレザンスでした。






                 *澤村栄治は3安打完投で7勝目をあげる。













     *川上哲治が4打数3安打を記録したジャイアンツ打線。














     *鬼頭数雄は4打数安打に終わったライオン打線。











 

15年 イーグルスvsライオン 9回戦 満州リーグ


8月21日 (水) 大連 満倶球場

1 2 3 4 5 6 7 8 9  計
0 1 0 0 0 0 0 0 0  1 イーグルス 34勝32敗4分 0.515 中河美芳 亀田忠
0 0 0 0 0 0 0 0 0  0 ライオン     17勝48敗4分 0.262 菊矢吉男

勝利投手 亀田忠  19勝14敗
敗戦投手 菊矢吉男 7勝19敗

勝利打点 山田潔 2


太田健一3打数3安打

 イーグルスは初回、一死後岩垣二郎が中前打、岩垣が二盗を決めて太田健一が四球を選んで一死一二塁、しかし中河美芳の二ゴロで太田は二封、菅利雄の遊ゴロで中河も二封されてスリーアウトチェンジ。

 ライオンは初回、二死後玉腰年男が四球で出塁、鬼頭数雄が左前打、戸川信夫がショート内野安打で二死満塁、しかし鬼頭政一は遊邪飛に倒れてスリーアウトチェンジ。初回は両チームとも先制のチャンスを逃す。

 イーグルスは2回、先頭の谷義夫が四球で出塁、竹内功がセンター右にヒットを放って無死一三塁、清家忠太郎は浅い中飛に倒れ、竹内が二盗を決めて一死二三塁、山田潔の中犠飛で1点を先制する。

 イーグルスは3回以降も5回を除いて毎回安打を放つが追加得点はならず。4回と6回は併殺を喫し、7回は二死二三塁で岡田福吉が三振、8回も二死一三塁で谷は中飛に倒れる。

 イーグルスは先発の中河美芳を1回でファーストに回して2回から亀田忠が登板する。亀田は8イニングを投げて3安打2四球2三振無失点。イーグルスは中河-亀田の完封リレーで辛勝する。


 イーグルス打線は10安打を放つ活況であったが、中でも太田健一が3打数3安打の活躍を見せた。太田は前日の金鯱戦でも9回に逆転サヨナラにつなげる三塁打を放っており、2試合連続の殊勲であった。

 この試合で両チームが放った15安打は全てシングルヒット、8月12日の阪急vs名古屋戦以来25試合ぶりの長打ゼロ試合となった。









     *太田健一が3打数3安打を記録したイーグルス打線。











 

満州リーグ エトセトラ ⑧



 満州日日新聞に記事を掲載している“満州リーグ審判員”吉田要は満州日日新聞の記者でもあります。1月1日付けブログ「賀正」に「商売人と言われた職業野球」様から「満州日日新聞社にいた吉田要記者(元法大投手・戦後大洋ホエールズ助監督)」とのコメントを頂戴するまで、筆者は「吉田要」の存在を知りませんでした。


 昭和15年8月21日付け満州日日新聞に、満州リーグにおける長距離移動について吉田要記者による記事が掲載されています。「これでは選手が可哀相である。主催者側の一人であり、同時に満州では聯盟側の立場にもある自分としては言いにくいことながら来年からはスケジュールは余程慎重に考慮しなければなるまい。」


 「主催者側の一人」というのは主催の満州日日新聞の記者としての立場であり、「聯盟側の立場」というのは審判員としての立場のことを言っています。満州リーグでは3都市に分かれて試合を行っているので聯盟所属の審判員である二出川延明、島秀之助、金政卯一、杉村正一郎、横沢三郎、川久保喜一、倉信雄だけでは人員が足りず、満州側から吉田要と片岡氏が審判団に加わっています。因みに池田豊は渡満していないようで満州リーグの審判に名前は見られません。


 法政大学野球部のホームページに掲載されている「野球部史」の年表を見ると昭和5年に「鈴木茂・吉田要両投手復学出場」と書かれています。8月21日付け満州日日新聞に掲載されている吉田要記者による「印象深き投手と打者」に若林忠志について「何年かの学生生活を共にした若林のことを語り過ぎることは我田引水に似ていささか面映ゆい気持であるが」と書かれています。若林が法政大学野球部に入部したのは昭和4年のことなので、吉田要記者が法政大学の投手であったことは間違いないようです。


 吉田要は、8月21日付け満州日日新聞の記事に「かつて自分が渡米した当時、ボストンのブッシュウィック・ホテルでセントルイス・ブラウンの監督だったバッキー・ハリス二塁手(後のワシントン・セネタースの名監督)と打撃に就いて語り合ったことがあった。」とも書いています。この「バッキー・ハリス」は日本にやってきたバッキー・ハリスではありせん。名古屋とイーグルスに在籍したバッキー・ハリスは本名はアンドルー・ハリスで、名古屋時代の新聞記事には「アンドルー・ハリス」と書かれています。本人がワシントン・セネタースの名二塁手にして名監督だった「バッキー・ハリス」を名乗ることを希望したため、イーグルス時代から「バッキー・ハリス」となりました。


 吉田要は昭和26年の大洋ホエールズ助監督の時は資料によると44歳となっていますので、昭和15年は33歳、昭和5年は23歳となります。若くして渡米してバッキー・ハリスと打撃論を語り合い、法政大学の投手から満州に渡って満州日日新聞の記者となり、満州リーグでは審判も務め、戦後は大洋の助監督の他、いくつかの野球関連書も著している国際派の野球人です。








*昭和15年7月31日、第一試合の三塁塁審は片岡審判員、第二試合の三塁塁審は吉田要審判員が助っ人として初登場した。この後も数試合塁審を務めている。
















*1953年、3回目のワシントン・セネタース監督時代のバッキー・ハリスのサイン。寄せ書きの左上です。














 

15年 金鯱vsライオン 9回戦 満州リーグ


8月20日 (火) 大連 満倶球場

1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 1 0 0 0 0 0 0 0 1 金鯱       18勝46敗7分 0.281 古谷倉之助
0 0 1 1 0 0 0 0 X 2 ライオン 17勝47敗4分 0.266 近藤久 福士勇

勝利投手 福士勇        7勝14敗
敗戦投手 古谷倉之助 4勝15敗

二塁打 (金)竹林
三塁打 (金)佐々木 (ラ)坪内、玉腰

勝利打点 なし


福士勇、好リリーフ

 金鯱はダブルヘッダーの第二試合に古谷倉之助が先発、ライオンは近藤久で応戦する。

 金鯱は2回、一死後室脇正信が左前打で出塁しワイルドピッチで二進、竹林実が左翼線に先制二塁打を放って1-0とする。ライオンは早くも先発の近藤をあきらめて福士勇をリリーフに送る。柴田多摩男は三ゴロ、佐々木常助は遊直に倒れてスリーアウトチェンジ。

 ライオンは3回、一死後福士の遊ゴロをショート濃人渉が一塁に悪送球、前田諭治の遊ゴロでランナーが入れ替わり二死一塁、トップに返り坪内道則が左翼線に三塁打を放って1-1の同点とする。

 ライオンは4回、先頭の玉腰年男が左中間に三塁打、鬼頭数雄の投ゴロに三走玉腰が飛び出してしまい三本間に挟まれる。ところが玉腰が「1-2-5-1」と粘って時間を稼ぎ打者走者の鬼頭(兄)は三塁に進んで一死三塁、戸川信夫は投ゴロに倒れて二死三塁、鬼頭政一の三ゴロをサード漆原進が一塁に悪送球する間に鬼頭(兄)が還って2-1と逆転、これが決勝点となった。鬼頭(弟)には打点は記録されていないので勝利打点は記録されないが、鬼頭兄弟により決勝点をあげたこととなるが、挟殺プレーで粘って鬼頭(兄)の進塁を助けた玉腰年男が影の殊勲者となります。


 ライオン二番手の福士勇が素晴らしいピッチングを見せた。2回途中で急遽リリーフのマウンドに上がった福士は7回3分の2を2安打2四球1三振無失点に抑えて7勝目をあげる。福士は12日のジャイアンツ戦でも3回途中から登板して5回3分の2を投げて9三振を奪っており、キラリと光るものを見せている。

 この点を見逃さなかったのが満州日日新聞の吉田要記者であった。吉田要は“満州リーグ審判員”として満州日日新聞に記事を掲載している。8月28日~30日にかけて「印象深き投手と打者」が掲載されており、29日付け記事に「将来性のある投手としてライオンの福士を挙げたい。彼のフォームも大体に於て無理がなくドロップも大きいが、いたずらに早く投げる癖を脱してもう少し慎重に投球し球の配合を研究すれば好投手になる素質は十分有ると見た。」と書いている。実際、福士は昭和16年には今季の7勝から17勝と大いに飛躍することとなり、吉田要の慧眼ぶりが証明されている。福士は翌17年にも9勝をマークするが応召し、戦死することとなる。福士が使用していたグラブは野球体育博物館(2013年4月1日より「野球殿堂博物館」に改称)に保存されており、時々展示されている。








*福士勇は7回3分の2を投げて2安打2四球1三振無失点で7勝目をあげる。古谷倉之助も8回を完投して3安打1四球5三振であったが味方の守備に足を引っ張られて2失点、自責点は0であった。












 

2013年2月22日金曜日

15年 金鯱vsイーグルス 9回戦 満州リーグ


8月20日 (火) 大連 満倶球場

1 2 3 4 5 6 7 8  9   計
0 0 0 2 0 0 0 0  0   2 金鯱           18勝45敗7分 0.286 中山正嘉
0 0 0 0 0 0 0 0 3X  3 イーグルス 33勝32敗4分 0.508 長谷川重一

勝利投手 長谷川重一 9勝5敗
敗戦投手 中山正嘉  11勝22敗

二塁打 (金)竹林
三塁打 (イ)太田、中河

勝利打点 杉田屋守 1


逆転サヨナラ

 3回まで無安打の金鯱は4回、先頭の五味芳夫の三前セーフティバントが内野安打、サード木下政文の一塁悪送球が加わって無死二塁、漆原進の投前送りバントを一塁ベースカバーのセカンド岡田福吉が落球して無死一三塁、絶好調・濃人渉が中前にタイムリーを放って1点を先制、パスボールと森田実の四球で無死満塁、室脇正信の二ゴロをセカンド岡田がバックホームするがセーフ、野選が記録されて2-0とする。続く佐々木常助の三ゴロで三走濃人は本封、松元三彦の中飛で三走室脇正信脇はタッチアップからホームを狙うがセンター岩垣二郎からのバックホームにタッチアウト、ダブルプレーとなってスリーアウトチェンジ。

 金鯱先発の中山正嘉は8回まで長谷川重一の右翼線ヒットと岩垣の左前打2本に抑えて無失点。イーグルス先発の長谷川も5回以降9回まで金鯱打線を3安打無失点に抑える。

 イーグルスは9回裏、先頭の岡田は二飛に倒れるが岩垣が四球で出塁、太田健一が左中間に三塁打を放って1-2、中河美芳も右翼線に三塁打を放って2-2の同点、杉田屋守がピッチャー頭上を抜くヒットを放ってイーグルスが劇的な逆転サヨナラ勝ち。


 イーグルスのスタメンライトは玉腰忠義であったが7回の第三打席で太田が代打に起用されてそのままライトに入る。スタメンレフトの谷義夫にも7回の第三打席で杉田屋が代打に起用されてそのままレフトに入る。途中出場の二人がイーグルスのサヨナラ勝ちに貢献した。


 翌日の満州日日新聞によると杉田屋守のサヨナラ打は「杉田屋のバントは飛球となりながらも幸運にも投手の頭上を越えて落ち」とのことで、スクイズが小飛球になったがピッチャー後方に落ちたようである。







*長谷川重一は5安打完投で9勝目をあげる。中山正嘉も8回3分の1を完投して5安打に抑える好投を見せた。











      *逆転サヨナラ勝ちのイーグルス打線。








 

2013年2月21日木曜日

15年 阪急vsセネタース 9回戦 満州リーグ


8月19日 (月) 新京 児玉公園球場

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11  計
1 1 0 1 0 2 1 0 2  0   0   8 阪急          40勝25敗5分 0.615 森弘太郎
0 0 1 0 2 0 0 1 4  0   0   8 セネタース 37勝24敗9分 0.607 村松長太郎 金子裕

二塁打 (阪)山下好、山田 (セ)金子2、柳
三塁打 (阪)中島

勝利打点 なし


俺に代打

 阪急は初回、先頭の中島喬が左翼線に三塁打、これはレフト山下好一がクッションボールを誤ったものでしょう。上田藤夫の左犠飛で1点を先制する。

 阪急は2回、先頭の井野川利春が四球で出塁すると黒田健吾が送って一死二塁、新富卯三郎は左飛に倒れるが、下村豊が中前打を放って二死一三塁、森弘太郎の中前タイムリーで2-0とする。セネタースはここで先発の村松長太郎から金子裕にスイッチ、トップに返り中島は遊飛に倒れてスリーアウトチェンジ。

 セネタースは3回、先頭の柳鶴震がセンター右にヒット、織辺由三が送って一死二塁、金子がセンター左奥に二塁打を放って1-2とする。

 阪急は4回、二死後新富が四球で出塁、下村が中前打、森が右前に2打席連続のタイムリーを放って3-1とする。

 セネタースは5回、先頭の柳が2打席連続の中前打、織辺の遊ゴロをショート下村がエラーする間に一走柳は三塁、打者走者の織辺は二塁に進んで無死二三塁、金子が右前に2点タイムリーを放って3-3の同点に追い付く。

 阪急は6回、先頭の黒田が四球を選んで出塁、新富は一邪飛に倒れるが、黒田が二盗に成功して一死二塁、更に黒田がディレードスチール、ピッチャー金子からの送球をサード横沢七郎が後逸する間に黒田が還って4-3、翌日の満州日日新聞には「黒田二盗、オーバーランして二三塁に挟まれたが三塁の後逸に一挙生還」と書かれているが、スコアカードには「((1))5’」と書かれているので盗塁の際のオーバーランではなく、盗塁成功後のディレードスチールでピッチャーの送球をサードがエラーしたものです。満州日日新聞の記事は貴重な資料ですがこのような単純な誤記載が数多く見られるのは以前にもお伝えしたとおりですのでご注意ください。下村は中飛に倒れるが森が四球で出塁、トップに返り中島が中前打を放って二死一二塁、上田の右前タイムリーで5-3とする。

 阪急は7回、先頭の山下好一が左翼線に二塁打、井野川利春の三ゴロの間に山下は三進、黒田の中犠飛で6-3とする。

 セネタースは8回、二死後柳が三塁に内野安打、ここで柳が二盗に成功、キャッチャー井野川の送球がセンターに抜けると柳は三塁からホームに突進、バックアップのセンターフランク山田伝からのバックホームを井野川が後逸する間に柳がホームイン、井野川の珍しいダブルエラーで4-6とする。

 阪急は9回、先頭の上田が中前に本日3本目となるヒットを放って出塁、山田が右中間に二塁打を放って無死二三塁、山下好一の右前タイムリーで三走上田に続いて二走山田も三塁ベースを蹴ってホームを狙い、ライト山崎文一からのバックホームが悪送球となる間に山田が還って8-4と突き放し勝負は決したかに見えた。

 ところがセネタースは9回裏、先頭の苅田久徳に何と西岡義晴が代打に起用される。西岡の三ゴロをサード黒田がエラー、黒田は「黒田の蟻地獄」と呼ばれる守備の名手であるが流石に苅田に代打が起用されて面喰ったか。筆者の記憶でも苅田に代打が起用されたのは初めてだと思います。更に横沢七郎の代打に高橋輝彦が登場、高橋は昭和11年限りで兵役に就いていましたが先日復帰したばかりです。高橋の中前打で無死一二塁、野口二郎が四球を選んで無死満塁、小林茂太にも代打小島二男が起用されて小島の二ゴロをセカンド上田がショート下村に送球するがこれを下村が後逸する間に二者還って6-8としてなお無死二三塁、山崎の遊ゴロの間に三走野口が還って7-8としてなお一死三塁、佐藤武夫の左犠飛で小島二男が同点のホームを踏み8-8とする。


 9回まで、毎回どちらかが得点する大混戦も10回、11回は両軍無得点、試合開始は午後5時46分、試合終了は午後7時43分、1時間57分の熱戦は8対8の同点に終わった。


 セネタースが最終回に見せた代打攻勢が引き分けた最大要因であった。果たして苅田に代打を起用したのは苅田監督自身の決断だったのでしょうか。「代打俺」の元祖は藤村富美男とも言われていますが、ヤクルトの古田が有名です。これはベンチにいるプレイングマネージャーが代打に登場する時のフレーズですが、試合に出ているプレイングマネージャーにプレイングマネージャー自信が代打を起用するとなれば、「俺に代打」ということとなります。









     *9回に代打攻勢で8対8の同点に追いついたセネタース打線。











 

2013年2月20日水曜日

15年 名古屋vs南海 9回戦 満州リーグ


8月19日 (月) 新京 児玉公園球場

1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 0 6 0 0 1 1 0 0 8 名古屋 40勝27敗5分 0.597 村松幸雄
2 0 0 2 0 0 0 0 0 4 南海   18勝47敗5分 0.277 清水秀雄

勝利投手 村松幸雄 16勝8敗
敗戦投手 清水秀雄   8勝15敗

二塁打 (南)岡村、清水、伊藤
三塁打 (名)中村

勝利打点 なし


やってられないわ

 新京の第一試合は午後3時59分、倉信雄主審の右手が上がりプレイボール。試合開始時刻は通常に戻った。 

南海は初回、先頭の岩本義行が左翼線にヒット、木村勉の遊ゴロでランナーが入れ替わり、岡村俊昭が右中間に先制のタイムリー二塁打を放って1-0、国久松一は中飛に倒れるが、吉川義次が中前タイムリーを放って2-0とする。

 名古屋は3回、先頭の芳賀直一が四球で出塁、村松幸雄は三振に倒れるが、トップに返り石田政良が左前打、村瀬一三が四球を選んで一死満塁、大沢清は遊飛に倒れるが、吉田猪佐喜が中前に同点の2点タイムリーを放って2-2、一走村瀬は三塁に進んで二死一三塁、桝嘉一の打席で吉田がディレードスチール、キャッチャー吉川からショート上田良夫に送球されて吉田は一二塁間に挟まれ挟殺プレー、上田からファースト伊藤経盛に転送されるが伊藤がこれを落球、この間に三走村瀬が還って3-2と勝ち越し、桝は例によって四球を選んで二死一二塁、中村三郎が右中間に三塁打を放って5-2、三浦敏一の投ゴロをピッチャー村松が一塁に悪送球する間に三走中村が還って6-2とする。この後芳賀と村松の遊ゴロをショート上田が連続エラーして二死満塁とするが、石田は左飛に倒れてスリーアウトチェンジ。

 南海は4回、二死後清水秀雄が左中間に二塁打、上田が左前にタイムリーを放って3-6、このところ打撃好調の伊藤が右中間にタイムリー二塁打を放って4-6と追い上げる。

 名古屋は6回、先頭の村松の三ゴロをサード藤戸逸郎がエラー、二死後大沢は四球、吉田が右前にタイムリーを放って7-4と突き放す。

 名古屋は7回、先頭の中村が左翼線にヒット、三浦の二ゴロをセカンド国久松一がエラーする間に一走中村が一気にホームを駆け抜け8-4として試合を決める。

 村松幸雄は7安打1四球3三振の完投で16勝目をあげる。失点は4で自責点も4であった。


 清水秀雄も9回を完投して6安打5四球13三振の力投、8失点であったが自責点は2であった。中村三郎から3三振を奪い、しぶとい桝嘉一からも2三振を奪った。


 南海はショート上田良夫の3失策を筆頭にピッチャー清水も含めて内野陣全員失策で7失策を記録した。これが清水の失点8、自責点2の理由である。鶴岡一人が兵役で抜けた今季の南海守備陣はボロボロで、大和球士は「真説 日本野球史」に「不運の大投手・清水秀雄」の項を設けている。清水としては山口百恵に先駆けること38年、「やってられないわ」(「絶対絶命」歌唱・山口百恵、作詞・阿木燿子、1978年8月21日発売の歌詞より)というところでしょう。








*村松幸雄は7安打完投で16勝目をあげる。一方、清水秀雄は名古屋打線を6安打5四球13三振に抑えるが力投報われず。
















 

2013年2月19日火曜日

満州リーグ エトセトラ ⑦



 満州リーグも最終週に入りました。16日から皮制ボールが導入されて活発な打撃戦が展開されています。ここで8月18日現在のバットマンレースを見てみましょう。


 現在のところ満州リーグの首位打者は50打数19安打3割8分の濃人渉です。濃人は二塁打を8本、三塁打を1本放っており、8得点13打点と内容も素晴らしく、満州リーグ打撃部門でのMVP候補No1でもあります。打率二位は吉田猪佐喜で42打数15安打3割5分7厘。吉田は飛ばない再生ボールを使用していた前半戦での活躍が目立っており、15安打で17塁打とやや寂しい。濃人は満州リーグの第一週である15節で殊勲賞、16節で敢闘賞、17節で週間MVPを獲得、吉田は16節の週間MVPです。


 三位は34打数12安打3割5分3厘の千葉茂ですが千葉は4試合欠場しています。四位は46打数16安打3割4分8厘の岡村俊昭です。金鯱は下位に低迷していてもジャイアンツを破ったり打線が好調ですが、南海は同じく下位に低迷しているだけで目立つところがなく、岡村の活躍も目立ってはいないが安定した打撃を見せています。五位は金鯱のエース中山正嘉で30打数10安打3割3分3厘。打率上位五傑の中に金鯱から濃人渉、中山正嘉が名を連ねているところが満州リーグの特徴ともなっています。


 六位は17節の週間MVPを獲得したジミー堀尾文人で55打数18安打3割2分7厘、七位は17節敢闘賞の伊賀上良平で37打数12安打3割2分4厘のタイガース勢が占めています。八位は吉林丸船中で発病して出遅れたが持ち直してきたフランク山田伝で48打数15安打3割1分3厘、九位は“戦前最強のクラッチヒッター”小林茂太で49打数15安打3割6厘、10位は強肩No1の国久松一で43打数13安打3割2厘と続いています。


 因みに鬼頭数雄は43打数11安打2割5分6厘、川上哲治は51打数15安打2割9分4厘となっています。






 

15年 タイガースvsイーグルス 9回戦 満州リーグ


8月19日 (月) 大連 満倶球場

1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
1 0 3 1 0 0 0 0 0 5 タイガース  41勝26敗3分 0.612 藤村隆男 木下勇
0 0 1 0 0 0 0 0 0 1 イーグルス 32勝32敗4分 0.500 亀田忠

勝利投手 木下勇 12勝9敗
敗戦投手 亀田忠 18勝14敗

二塁打 (タ)田中
本塁打 (タ)本堂 2号

勝利打点 本堂保次 5


本堂保次、先制タイムリーと追撃本塁打

 昨日雨のため中止となったカードが行われた。

 タイガースは初回、先頭のジミー堀尾文人の三ゴロをサード木下政文が一塁に悪送球して堀尾は二塁に進む。皆川定之が投前に送りバントを決めて一死三塁、本堂保次が左前に先制タイムリーを放って1-0とする。

 タイガースは3回、一死後本堂が四球を選んで出塁、カイザー田中義雄の右翼線二塁打で一死二三塁、伊賀上良平が中前に2点タイムリーを放って3-0、松木謙治郎がセンター左にヒット、一走伊賀上は三塁に進んで一死一三塁、宮崎剛が右前にタイムリーを放って4-0とする。

 イーグルスは3回裏、先頭の清家忠太郎が右前打で出塁、山田潔は右飛、トップに返り岡田福吉は中飛に倒れるが清家が二盗を決めて岩垣二郎は四球、玉腰忠義が右翼線にタイムリーを放って1-4、一走岩垣は三塁に進んで二死一三塁、タイガースベンチは先発の藤村隆男から木下勇にスイッチ、イーグルスはここでダブルスチールを敢行するが「2-6-2」と転送されて岩垣はタッチアウト。タイガースのショート皆川は17日のライオン戦でもダブルスチールで一走をタッチアウトにして三走を送球で刺すというプレーを見せているが、守備振りが光っている。翌日の満州日日新聞も「イ軍が重盗を企て失敗したのはイ軍にとって惜しかったが、それよりタ軍の守備の巧妙を評すべきであろう。」と書いている。

 タイガースは4回、一死後本堂がレフトスタンドにホームランを叩き込んで5-1とする。

 3回途中からリリーフした木下勇は6回3分の1を2安打1四球1三振無死点の好投、12勝目をあげる。


 本堂保次は先制タイムリーと追撃の第2号ホームランを放つ活躍を見せた。満州リーグではこれが5本目のホームランとなった。16日から皮制ボールを使うようになってようやくホームランが出始めた。それまでは8日の井野川利春1本だけであったが17日からは連日のホームラン攻勢となっている。








     *本堂保次が先制打とホームランを放ったタイガース打線。











 

2013年2月18日月曜日

15年 阪急vsライオン 8回戦 満州リーグ


8月18日 (日) 鞍山 昭和製鋼球場

1 2 3 4 5 6 7 8 9 計
0 1 0 0 0 0 2 0 1 4 阪急      40勝25敗4分 0.615 石田光彦
1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 ライオン 16勝47敗4分 0.254 山本尚敏 井筒研一

勝利投手 石田光彦 10勝8敗
敗戦投手 山本尚敏  0勝1敗

二塁打 (ラ)鬼頭、戸川
本塁打 (阪)新富 2号

勝利打点 なし


石田光彦、4試合連続完投勝利

 ライオンは初回、一死後鬼頭政一(弟)が左翼線に二塁打、玉腰年男の右前打で一死一三塁、鬼頭数雄(兄)の二ゴロ併殺崩れの間に鬼頭(弟)が還って1点を先制する。鬼頭(兄)の打点で鬼頭(弟)が得点を記録したのはこれが初めてである。鬼頭(弟)が二番に起用されたのはこの試合が初めてであった。

 阪急は2回、一死後新富卯三郎がレフトスタンドにホームランを放って1-1の同点に追い付く。

 阪急は7回、先頭の石田光彦が左前打で出塁、トップに返り中島喬が捕前に送りバントを決めて一死二塁、上田藤夫の遊ゴロをショート加地健三郎が一塁に悪送球する間に石田が還って2-1と勝ち越し、打者走者の上田も二塁に進み、フランク山田伝は遊ゴロに倒れるが、山下好一の三ゴロをサード鬼頭(弟)がエラーする間に上田が還って3-1とする。

 ライオン先発の山本尚敏はよく投げたが8回裏の打席で菊矢吉男を代打に送られて降板、9回からは井筒研一が登板する。

 阪急は9回、先頭の上田が左前打、山田の三ゴロでランナーが入れ替わり、山田が二盗に成功、キャッチャー広田修三からの二塁送球が悪送球となって山田は三塁に進み、山下好一の右前タイムリーで4-1とする。

 石田光彦は4安打3四球3三振の完投で10勝目をあげる。絶好調の石田はこれで4試合連続完投勝利となった。










             *絶好調石田光彦はライオン打線を4安打に抑えて4試合連続完投勝利。